最高裁昭和33年7月9日大法廷判決
じゃあ、まずは配役からね。

岡山県内で、酒類製造業を営む原告の1人を、サル。
そのサルの息子を、ナカちゃん。
つかさちゃんは、国側。
私は、ナレーター役
で。

それじゃ、いくわね。
息子や。
わしも、そろそろ年じゃから、お酒の製造業務は、お前に一切任せようと思っとる。
やってくれるな?

酒類製造業者の父
  はいです!
業務は私が引き受けたです!

酒類製造業者の息子
頼もしい息子がいて、わしも安心じゃわい。
じゃあ、今日から酒の製造業務は、わしに代わって、お前に一任するからな。しっかり務めてくれよ?

酒類製造業者の父
  はいです!
お父さんは、ゆっくりしていて下さいです!

酒類製造業者の息子
ちょっと・・・
待っててね・・・っと。 
 
  あ、ナカたん、ナカたん。
コレ、小道具に使ってよ。
ね。
  わかりました。
ちょっとっ!
判例事案の再現中に、余計なことしちゃダメじゃないの! 
 
ゴメン、ゴメン。
判例再現するのに、臨場感出したくってさ。
小道具用意してただけだから。
続きやろうか、ゴメンね。
お父さんの分も、しっかり私が働くです!
えーっと、酒桶に入れてある葡萄酒を、こっちの桶に入れ替えるです!
(小道具の箱を、桶に見立てて使用)

酒類製造業者の息子
この酒桶のお酒も、違う桶に入れ替えるです!
酒類の容器移動は大変です!
でも、頑張るです!
(小道具の箱を桶代わりに使用)

酒類製造業者の息子

ナレーター
しかし、この酒類製造業者の息子の行為は、実はあるミスを犯すものだったのです。

酒税法54条
酒類、酒母、醪若は麹の製造者又は酒類若は麹の販売業者は命令の定むる所に依り製造、 貯蔵又は販売に関する事実を帳簿に記載すべし。
 仮名遣い改め)
と定めていたのですが、息子は、酒類の容器移動について、所定の帳簿への記載を怠っていたからです。

行政
酒税法及び酒税法施行規則違反の罪で、逮捕します。  
  な、な、なんです!?
ナニを言っているです!?

酒類製造業者の息子

行政
酒類の容器移動をなした場合には、その旨を帳簿に記載することが義務付けられているはずですよ?
このことについては、酒税法委任された酒税法施行規則、また、酒税法施行規則委任された税務署長の指定があったはずです。
あなたの帳簿記載漏れは、これらに違反しています。
したがって、逮捕・起訴します。
委任の委任です?
酒税法が、酒税法施行規則委任しているのに、さらに、その委任された酒税法施行規則が、税務署長の指定に委任ってことです?
そんなことおかしいです!
私は罪刑法定主義を勉強したです!
処罰規定は、法律によるべきです!
なんで、税務署長が、指定で処罰法規を作っているです!!
おかしいです!
納得いかないです! 裁判で争うです!

酒類製造業者の息子
 






はい、お疲れ様ぁ。  
いくらなんでも、お酒の容器を移し変えたのを、帳簿に記載しなかっただけで起訴されるなんて、あんまりだと思います。
まぁ、その気持ちはワカルわね。
実際、原告側(酒類製造業者側)の主張には、この規則の規定に対して、憲法11条にいう基本的人権違反だ、って内容があったからね。

 憲法11条
 『国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。』 
  私も、原告側の主張に納得します。
ただ、ここでの論点は、再委任なのよね。

つまり、本件の争点
酒税法が、酒税法施行規則委任しているのに、さらに、その委任された酒税法施行規則が、税務署長の指定に委任しているという再委任が、憲法に反するのではないか
とすることが問題になっているわけ。
  こくこく(相槌)
じゃあ、最高裁の判断を見ましょうか。

酒税法(昭和二三年法律一〇七号による改正前のもの)五四条は、「酒類、酒母、醪若ハ麹ノ製造者又ハ酒類若ハ麹ノ販売業者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ製造、 貯蔵又ハ販売ニ関スル事実ヲ帳簿ニ記載スヘシ」と規定し、同法六五条一号は、「左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三万円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス。一、第五四条 ノ規定ニ依ル帳簿ノ記載ヲ怠リ若ハ詐リ又ハ帳簿ヲ隠匿シタル者」と規定し、また、酒税法施行規則(昭和二三年政令第一四八号による改正前のもの)六一条九 号は、「酒類、酒母、醪又ハ麹ノ製造者ハ左ノ事項ヲ帳簿ニ記載スヘシ、九、前各号ノ外製造、貯蔵又ハ販売ニ関シ税務署長ノ指定スル事項」と規定している。

 右
酒税法六五条によれば、同法五四条の規定による帳簿の記載を怠つた者等は、所定の罰金、科料に処される旨規定しているから、同六五条の規定は、罪となる べき事実とこれに対する刑罰とを規定したいわゆる罰則規定であり、同五四条の規定は、その罪となるべき事実の前提要件たる帳簿の記載義務を規定したものと いうことができる。

 しかるに、
同五四条は、その帳簿の記載等の義務の主体およびその義務の内容たる製造、貯蔵又は販売に関する事実を帳簿に記載すべきこと 等を規定し、ただ、その義務の内容の一部たる記載事項の詳細を命令の定めるところに一任しているに過ぎないのであつて、立法権がかような権限を行政機関に 賦与するがごときは憲法上差支ないことは、憲法七三条六号本文および但書の規定に徴し明白である。

 そして、前記
酒税法施行規則六一条は、その一号ないし八 号において、帳簿に記載すべき事項を具体的且つ詳細に規定しており、同条九号は、これらの規定に洩れた事項で、各地方の実状に即し記載事項とするを必要と するものを税務署長の指定に委せたものであつて、前記酒税法施行規則においてこのような規定を置いたとしても、前記酒税法五四条の委任の趣旨に反しないも のであり、違憲であるということはできない
 それ故、原判決は、結局正当であつて、論旨は、採るを得ない

としているわね。
あうあうあう。
私とお父さんは、負けてしまったんですね。
委任については、現実問題として、その必要性があることはわかるわよね。
行政法法律の留保の際にも勉強したように、現代国家の活動は、あまりに広範にわたるものであることから、その全てにおいて議会が決定することは困難といえるわ。
また、柔軟な対処や、高度の専門性を必要とされる分野もあるため、立法委任は、そうした需要に対応するためには、必要不可欠とも考えられるわけよね。

ただ、そうであっても、白紙委任包括的・一般的な委任は認められないわ。
委任は、あくまでも具体的なものでなければならないのよね。
その理由は、憲法41条があることから、国会という国家機関の権能に、立法権は委ねられているからなの。

本判決でも、その点について言及しているわよね。
義務の内容の一部たる記載事項の詳細を命令の定めるところに一任しているに過ぎないのであつて、立法権がかような権限を行政機関に 賦与するがごときは憲法上差支ないことは、憲法七三条六号本文および但書の規定に徴し明白
としている部分よね。

つまり、酒税法から酒税法施行規則、そして、同規則から税務署長・・・という委任の委任、すなわち再委任は、これが酒税法上に限定されたものにとどまることから、憲法上の問題はないと判断しているってことなの。
う・・・
でも、なんだか納得いかないです。
お父さんに代わって頑張っていたのに、会わせる顔がないです。
  まぁまぁ、竹中さん。
役に、そこまで感情移入しなくってもいいですから。
あれ?
そう言えば、お父さん・・・じゃない、サルは?
なんか全然検討に参加していないみたいだけど、そんなことじゃシュークリーム上げないわよ?  
  そう言えば、藤先輩が異様に静かです・・・。
  もぐもぐ・・・。
あれ?
判例検討終わり? 
・・・あんた、ソレ、ナニ食べているのよ。   
  もう食べていないよ。
今、丁度食べ終わったもん。
じゃあ、聞きなおしてあげるわ。
あんた、ナニ食べたのよ? 
 
  うんとね。
なんか机の上に、シュークリームが転がっていたから、今、急いで処分していたの。
あ!!
明智先輩っ!
さっき、判例再現中に、藤先輩が小道具だって持って来たのは、ネージュ・ブロンシュのシュークリームを入れていた箱です!
成程ねぇ〜。
ソレで小道具だって言って持ち出してきたわけね。
中身だけ抜いて・・・。 
 
  えへへへへ。
あたしも、色々検討しているでしょ?
  ・・・誰も求めていない検討です。

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