緊急避難 法的性格 成立要件@ | |||||||
正当防衛が終わって、今日の勉強会からは緊急避難を見ていくことになるわ。 復習を兼ねて、もう一度おさらいをすると・・・。 緊急避難と正当防衛の両者を含む概念として、緊急行為と呼ばれるものがあることは言ったわよね。
共に緊急行為である正当防衛と、緊急避難。 両者はドコが違うのかだけど、 正当防衛は 逃げずに反撃も可(補充性不要) 犠牲にした利益が、保全された利益を上回ることも可(害の均衡不要)。 これに対して 緊急避難は 他にとりうる手段がないこと(補充性要件) 犠牲にした利益が、保全された利益と同等か、それ以下であること(害の均衡必要) という成立のためのハードルの高さに違いがあったわよね。 |
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え? なんだって? いやぁ、この前食べに行った焼肉の味を反芻しちゃってたお。 マヂ美味かったよなぁ・・・。 あたし、あんないいお肉食べたの初めてだったお。 ねぇ、ねぇ、また行こう! って言うか、今日行こうっ!! |
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・・・そんな態度の方に御馳走するお肉はありませんことよ? のっけから聞き流してくれるとは、やってくれるじゃないのよ。 ナカちゃん? 六法で、緊急避難を定めた刑法37条1項をみてくれる? |
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刑法第37条。 『(緊急避難) 第37条 1項 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。』 |
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この条文にいう緊急避難の例えとして、よく口にされるのが「カルネアデスの板」の話よね。 あまりにも有名な寓話だと思うから、敢えて私が言うまでもない気はするところだけど、簡単に紹介しちゃうと・・・。 船が難破して、乗組員全員が海に投げ出されちゃったの。 ある船員は、波間に漂う板切れを発見し、この板にすがりついたわ。 ところが、そこに彼同様、溺れかかった船員が来て、その板切れにしがみつこうとしてきたわけ。 しかし、その板切れは2人の体重を支えることは出来ず、このまま2人が板切れにしがみついていると、板そのものが沈んでしまって、2人は助からないことに・・・。 そのことに気付いた男は、後から来た船員を突き飛ばして溺れさせて、自分だけ助かったの。 救助後、男は、殺人の罪に問われるんだけど、結局、殺人罪には問われることはなかった・・・という話ね。 |
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(ウフフフ。 焼肉ぅ〜。焼肉ぅ〜。) |
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うう・・・。 なんだか、どうしたらいいのか悩んでしまうような寓話です。 |
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緊急避難の説明によく用いられる寓話だからね。 「カルネアデスの板」自体は寓話だからフィクションだけれど、この寓話に似たような実話は、それなりにあるのよね・・・。 まぁ、それはさておき。 それじゃあ、ナカちゃんが悩まないような緊急避難の法的性格を考えるための事案を質問で出してみるから、ちょっと考えてくれる? 質問! 私が、暴漢のサルに襲われそうになったので、ナカちゃんの家の塀を壊して、ナカちゃん家の庭を通って逃げた。 という事案があったとして、私に緊急避難が成立するのは、どうしてだと思う? |
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(あぁ〜。お肉マヂで美味かったよなぁ。幸せだったなぁ〜。) | |||||||
あ、明智先輩は、暴漢の藤先輩から逃げ出さなかったら、生命や身体に侵害があったかも知れないです。 だとするならば、私の家の塀を壊したり(器物損壊罪に該当する行為)、私の家の庭を勝手に通って逃げること(住居侵入罪に該当する行為)については許されると思うです。 |
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いい回答・・・と言いたいところですけれど、光ちゃんが聞いているのは、その「許される」のは何故か? ってことなんですよね。 少し説明が長くなりますけれど、緊急避難には、2パターンがあるんですね。 1パターン目は、無関係な第三者に損害を転嫁する場合。 コレは、以前の勉強会で、暴漢から逃げる為に光ちゃんが、通路後方を歩いている私を突き飛ばして逃げる場合や、今の質問の事案のような場合ですよね。 このような場合を攻撃的緊急避難というんです。 そして2パターン目は、危難の原因に対して避難行為を行う場合。 このような場合を防衛的緊急避難というんです。 そして、この緊急避難の法的性質ですが・・・。 |
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あ、待って、つかさちゃん。 学説の紹介をするつもりだったら、今回の勉強会では、通説の紹介だけに留めようと思うんだけど、どうかしら。 |
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えーっと、責任阻却事由説、違法性阻却事由説、そして二分説(=二元説)とあるところですが、通説と言われると、違法性阻却事由説だけ紹介されるということでしょうか? | |||||||
そういうことになるわね。 あまり学説を紹介しても、ちょっと混乱しちゃうかな、って思って。 というわけで、通説的立場である違法性阻却事由説なんだけど、この考えからは、緊急避難は社会的相当性を有すること、あるいは、法益の権衡が緊急避難の要件とされていることから、違法性を阻却する、と考えるわけ。 私が自分の命や身体を守る為には、ナカちゃんの家の塀を壊して、庭を通って逃げる以外の手段がなかったのであれば、その行為は社会的相当性を有するといえるわ。 そして、暴漢から逃げおおせたことで私が保全された利益は、生命ないし身体。 コレに対して、犠牲になった利益は、ナカちゃん家の塀という財産権、そして庭への私の侵入による住居権(ないしは平穏権)の侵害ということで、害の均衡というバランスもとれているわよね。 そうであれば、私の行為には、違法性はないといえるわ。 したがって、ナカちゃんは私に家の塀を壊されたことを甘受するしかない、ということになるわね。 |
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(ホワワァ〜ん・・・。あぁ・・・お肉の味・・・。) | |||||||
サルっ!! さっきから、あんた聞いているの? 絶対、聞いてないでしょ!? えーっと、まだ時間に余裕があるから、次の話にいくわね。 緊急避難の成立要件ね。 刑法第37条。 『(緊急避難) 第37条 1項 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。』 の条文から導かれる要件としては、 @『現在の危難』 A『避けるため』(避難の意思) B『やむを得ずにした行為』(補充性の原則) C『これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えな』い (法益権衡の原則) の4要件ね。 これらの要件を、正当防衛の勉強会のときのように、ひとつずつ見ていくことにするからね。 今日の勉強会で全部見るってわけには、いかないけれど、2つくらいは終わらせちゃいましょうか。 |
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(あぁ〜。炭火ならではの、この風味が。た、た、タマラン・・・。) | |||||||
明智先輩・・・。 さっきから、藤先輩が蛍光ペンをトングにみたてて、1人焼肉ゴッコしているです・・・。 |
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・・・うん、私の目にも写っているから。 サルっ!! あんた、いつまで、この前の焼肉の思い出に浸っているつもりなのよ! 緊急避難の勉強会の続きやっちゃうわよ!? はぁはぁ・・・。 えー、緊急避難の成立要件の1つ目。 @『現在の危難』についてね。 ここにいう『現在』とは、法益の侵害が現に存在していること、または、その危険が切迫していることをいうわ。 まぁ、基本的には正当防衛の36条にいう『急迫』と同じと思ってくれていいわ。 ここにいう『危難』とは、法益に対する侵害または危険が存在する状態をいうわ。因みに、危難の発生原因は、人の行為のみならず、動物の侵害や自然現象でもいいとされているわ。 異常な豪雨により水田の稲が冠水した場合に『現在の危難』が認められた判例もあるわね。 (大判昭和8年11月30日) |
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ん? センマイのソチャン? イヤだなぁ、光ちゃんはぁ。 マニアックな部位を食べたがるんだからぁ。 ソレはないから、注文してよねぇ〜。 |
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おぉぉぉぉぉぉぉぉっいっ!! 『現在の危難』と「センマイのソチャン」って無理矢理にも程があるじゃないのよぉぉっ!! 空耳ってレベルじゃないからっ!!! しかも私、センマイもソチャンも食べなかったじゃないの! @『現在の危難』の要件を検討する上では百選掲載判例もあるんだけれど、これは出来ればB『やむを得ずにした行為』(補充性の原則)を勉強する際に、一緒に見ようと思うから、また後でってことにするわね。 A『避けるため』(避難の意思)の要否については、正当防衛の「防衛の意思」と同じような議論があるわ。 自信がなければ、戻って再復習しておくといいと思うわ。 通説的理解としては、避難の意思については必要説とされているわね。 うーん・・・ちょっとサルが、あまりにもあまりな状況だから、今日の勉強会は、ここまでってことにさせてもらうわね。 |
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あれ? 勉強会おしまい? じゃあ、今から焼肉行こうよ! ね! ね!! |
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・・・こ、こ、このサルだけは。 |
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藤先輩。 いくらなんでもヒド過ぎです。 |
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きっと焼肉に飢えてみえたんですね。 正直、私もビックリするくらい美味しいお肉でしたので、人一倍お肉の大好きな藤さんが、余韻に浸られているのも、なんとなく分かります。 |
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なんかねぇ。 もう寝ても覚めても、あの焼肉の味が口いっぱいに広がるような錯覚覚えちゃうんだよねぇ。 食べたいなぁ、あの美味しい焼肉が、また食べたいなぁ。 |
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・・・藤さん。 あなたにチャンスを上げましょう。 次回の勉強会で「コレは焼肉を御馳走してあげたい」って思わせるくらい真摯な姿勢を見せてくれたら、御希望の美味しいお肉を御馳走させて頂きますわ。 |
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うひょひょひょひょひょひょっ!! マヂでか、マヂでか、マヂかいやぁっ!! 光ちゃんっ!! あたし、焼肉ちゃんのためなら、マヂでガンバっちゃうよ? |
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っ!!! いつも前向きな言葉は口だけの藤先輩から、本気オーラが出ているです! こ、こ、コレは次回の勉強会は刮目モンですっ!! |