最判昭和33年3月28日 〜パチンコ球遊器通達変更事件〜 |
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この判例は、実は行政法の勉強会で検討済みなのよね。 というわけで、今回は以前の検討判例を叩き台に、憲法の論点を学ぶことにするわね。 じゃあ、事案の再現は、行政法の勉強会のままってことで。 私は、ナレーター。 パチンコ球遊器の製造業者をサル。 東京国税局の税務局長を、黒田さんって配役でいくわね。 |
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ナレーター |
パチンコ球遊器については、戦時中を除いて流布していたものの、ほとんど課税されていませんでした。 | |
ムフフフ。 パチンコ球遊器は、物品税の対象じゃないから、ありがたいのぉ。 |
パチンコ球遊器の製造業者 |
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東京国税局の税務局長 |
えー、このたび、私は管下の税務官庁に次のような趣旨の通達を出そうと思います。 まぁ、平たく言えば、パチンコは「遊戯具」であるから、物品税の課税対象に「遊戯具」が課税物品とされている以上、パチンコ球遊器に対しても、物品税を課税しなさい、というものですね。 えー、管下の税務官庁は、そのように課税するように。以上。 |
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んん? 今まで、物品税なんかとらんかったやないかい! それが、なんだ? 東京国税局の税務局長の通達があったからって言って課税するって言うんか? |
パチンコ球遊器の製造業者 |
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東京国税局の税務局長 |
物品税が、遊戯具に対して課税されている以上、パチンコ球遊器に対して課税されるのは当然じゃないですか? | |
いやいやいや。 税金については、租税法律主義って言葉があるだろうが! なんで、法律じゃのぉて、お前らの行政内部の通達によって課税しとるんだって話よ! |
パチンコ球遊器の製造業者 |
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東京国税局の税務局長 |
別に通達を根拠に課税しているわけではないです。 遊戯具であるパチンコ球遊器に、これまで課税してこなかったことは、課税漏れだったってだけの話ですよ。 |
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そんな言い分が通るとでも思っとるんか! こんなもん通達課税以外の何物でもないわ! 違憲じゃ、違憲っ! わしは、訴えるからな! |
パチンコ球遊器の製造業者 |
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はい。お疲れぇ。 | ||
判決文を見る前に、租税法律主義の内容であり、この場面において問題となっている課税要件法定主義について確認しておくべきですよね。 課税要件法定主義とは、納税義務者、課税物件、課税標準、税率などの課税要件、および租税の賦課・徴収の手続は、法律で定められていなければならない、という原則をいいますよね。 この課税要件法定主義は、租税法律主義において核心をなすものといえ、刑法における罪刑法定主義同様、法的安定性、予測可能性の確保の要請に応えるものといえます。 |
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そうね。 ただ、とは言え、実際問題、租税に関する事項の全てを法律で定めることは現実問題として不可能よね。 このような現実的問題から、命令への委任も認められているわ。 ただ、その場合も、課税要件法定主義から、命令への委任は、明示的・具体的・個別的なものであり、かつ、法律から、委任の目的・内容・程度が明らかにされていることが求められるわけね。 この点、本件課税処分は、通達を契機とするものよね。 通達については、行政法の勉強会でも学んだように、通達は、上級の行政機関が、下級機関の権限行使を指図するために、組織法上の監督権に基づいて発する命令をいうものだったわよね。 つまり、行政組織内部の規律にとどまり、個人の権利・義務に影響を与える法規たる性質は備えていない、というのが前提よね。 それなのに、通達によって、本件課税処分のような個人の義務に影響を与えることは、課税要件法定主義に反するのではないのか? ということが憲法30条(納税の義務)との関係で問題となるわけね。 それじゃ、この争点に対する最高裁の立場を見るわね。 |
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・・・。 (おかしいなぁ・・・この判例、検討したはずなのに、あんま記憶に残ってねぇお。なんでかなぁ?) |
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最高裁の判断は、次のものよ。 『物品税は物品税法が施行された当初(昭和4年4月1日)においては消費税として出発したものであるが、その後次第に生活必需品その他いわゆる資本的消費財も課税品目中に加えられ、現在の物品法(昭和15年法律第40号)が制定された当時、すでに一部生活必需品(たとえば燐寸)(第1条第3種一)や『撞球台』(第1条第2種甲類一一)『乗用自動車』(第1条第2種甲類一四)等の資本財もしくは資本財たり得べきものも課税品目として掲げられ、その後の改正においてさらにこの種の品目が数多く追加されたこと、いわゆる消費的消費財としての性格をまったく持っていないとはいい得ないこと、その他第一、二審判決の掲げるような理由にかんがみれば、社会観念上普通に遊戯具とされているパチンコ球遊器が物品法上の「遊戯具」のうちに含まれないと解することは困難であり、原判決も、もとより、所論のように、単に立法論としてパチンコ球遊器を課税品目に加えることの妥当性を論じたのではなく、現行法の解釈として「遊戯具」中にパチンコ球遊器が含まれるとしたものであって、右判断は、正当である。 なお、論旨は、通達課税による憲法違反を云為(うんな)しているが、本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであって、採用し得ない。 従って、本件賦課処分を当然無効であると断ずることはできないとした第一審判決を支持した原判決は正当であって論旨は理由がない。』 |
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本件では、通達の解釈が 『法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであって、採用し得ない』 と結論づけているわけですが、実質的には、通達を根拠に課税処分がなされていることから、憲法84条の租税法律主義に反するものである、とする批判はあるところですよね。 |
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そうね。 確かに、パチンコ台が『遊戯具』ではない、という解釈自体には無理があるとは言えるところだけれど、とは言え、通達によって、従来課税されていなかった物を、新たに課税対象にする以上は、課税要件の変更になるわけなんだから、租税法律主義からは問題があったといえるかもね。 せっかくの機会だし、並行して行政法での検討判例も見ておくと、いいと思うわ。 |
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・・・。 (そう言えば、せっかくの金の生る樹になると思ったナカたんは、この判例検討のせいで、お釈迦になってもぉたんだよなぁ。 年中、金欠病のあたしとしては、号泣もんの話だったよなぁ、アレは。) |
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・・・。 (また藤先輩が、よからぬことを考えている顔をしているです・・・。) |