その他の一般原則 信頼保護・信義則 |
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行政法の一般原則としての、法治主義を、この勉強会の4回と5回で、学んできました。 法治主義(「法律による行政の原理」)という考え方は、行政法において最も重要な原理・原則と言えますが、これ以外の一般原則を、この6回では、学びたいと思います。 前回のように判例を素材として、検討した方が理解が深まるかなぁ、と思ったので、今回も前回同様、判例を素材に勉強しますね。 |
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判例再現するなら、私もまた頑張りますね! | ||
ロボ・ナカたん発進だね! | ||
ロボ・ナカたん? |
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なんで、そう人のやる気に水を差すようなこと言うのかなぁ、あんたは。 | ||
格好ええと思うんだけどなぁ。ロボ・ナカたん・・・ | ||
・・・。 (前回は、みんなから怖い、怖いって言われちゃったからなぁ・・・ 気を付けないと。) |
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ここで、大事な考え方のベースとしては、行政を信頼して行動した市民を、どのように保護するのか? っていう視点からのアプローチですね。 信頼を保護するための一般原則としては、民法にすっごく有名な大原則があったけど、流石にソレは言ってもらえるよね? サル? |
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うん。 信義則っ! |
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そうよね! 民法(総則)でやったばかりだもんね。 『信義則とは、権利の行使や義務の履行においては、お互いに、一般に期待される信頼を裏切ることのないように、誠意をもって行動すべきこと』という大原則よね。 この法の一般原則、そして、この一般原則から派生する原理が、行政法の分野において適用されるのか、そして、適用されるとするならば、どのような要件の下に認められるのか、法律による行政の原理(法治主義)との抵触がある場合においても、優先され得るのか、それが、今回学ぶべきことよ。 |
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こくこく(相槌) | ||
まずは、ちょっと古い判例なんで、説明だけに留めますが、一つ見て欲しい事案があるんですけど。 文化学院非課税通知事件という事案なんだけど。 とある財団法人に対して、東京都千代田区税務事務所長が、財団法人所有の学校用土地・建物が、地方税法348条2項9号にいう非課税物件にあたると判断して、非課税扱いにすることを決定した旨を通知したのね。 ところが、その通知から8年後。 これらの物件が非課税物件に当らない、と言ってきて、地方税法の時効期間内の過去5年分の税金を遡及して賦課するという処分をしてきた上に、差押え処分までやってきちゃったのよ! 当然、財団法人としてはたまったもんじゃないわよね。 そこで、財団法人は、この遡及的課税処分は禁反言の法理に反し無効であり、これに基づく差押え処分は違法だ! と主張して、処分の取り消し訴訟を提起した・・・っていう事案なの。 (東京地判昭和40年5月26日判決) 禁反言は、民法総論でも勉強したよね。 「自己の行為に矛盾した態度をとることは許されない」とする考え方だったわよね。 因みに、この財団法人の主張に対して、税務署側はこのように主張しているわ。 そもそもこれまで課税をしてこなかったことが違法なのであって、課税は、租税法律主義の下、粛々とすべきなのであるから、法律に則って課税するまでである、というものよ。 確かに、税金については租税法律主義がとられているわ。 この租税法律主義の意義としては、恣意的な課税を禁ずるためという側面もあるから、一律に法に則って課税をなすべきであって、御目こぼしを認めてしまっては、他の納税者に対して不公平であるとも言えるわよね。 この事案に対して、どう考える? |
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いきなり税金を過去にまで遡って支払えというのは、あんまりです。 財団法人だって、勝手に非課税だって思い込んだわけではなく、税務署側からの通知があったから、そう信じたんですから、それを後になって支払え、なんて禁反言に反するとする財団法人の言い分は、至極もっともだと思います。 |
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私はそうは思いません。 納税は国民の義務である以上、非課税でないのであれば納めるべきかと思います。行政側の過失については認めるところですが、だからと言って、その過失による非課税までもを認めてしまっては、過失なく税金を正規に納めている納税者との間の公平が図れないと思います。 |
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ふーん。 で、裁判所はなんて言ってるの? |
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どうして、あんた1人だけ蚊帳の外なのよ! 一緒に検討しなさいよ! うーん、実は私が紹介するのは、地裁の判決なのよね・・・。 この事案は、地裁では原告側の財団法人の勝訴となったんだけど、その後の控訴審(東京高判昭和41年6月6日)では、引っくり返ってしまって、この判決は取り消されてしまっているの・・・。 ただ、信義則(禁反言の法理)を適用する規範を示している意義のある判決だと思うから、見て欲しいと思ったのよね。 地裁の裁判所の示した、信義則を適用する規範は次のものよ。 『かような法分野について禁反言の原則がいかなる要件の下に、いかなる範囲において適用されるかについては慎重な判断を要することはもちろんである。 すなわち、この原則の適用の要件の問題としては、とくに、行政庁の誤つた言動をするに至つたことにつき相手方国民の側に責めらるべき事情があつたかどうか、行政庁のその行動がいかなる手続、方式で相手方に表明されたか(一般的のものか特定の個人に対する具体的なものか、口頭によるものか書面によるものか、その行動を決定するに至つた手続等)相手方がそれを信頼することが無理でないと認められるような事情にあつたかどうか、その信頼を裏切られることによつて相手方の被る不利益の程度等の諸点が、右原則の適用の範囲の問題としては、とくに、相手方の信頼利益が将来に向つても保護さるべきかどうかの点が吟味されなければならない。』 そして、その後、本件事案に即して、上記規範を当て嵌めて、検討をして、次のような判断を示しているわ。 『以上の検討によれば、東京都千代田税務事務所長が本件土地及び建物について固定資産税を非課税と判断したことは違法であるが、その過誤は同税務事務所長の法解釈の誤りに起因するものであり、しかも、その非課税の取扱いは、正規の決裁手続を経て、公文書により原告に通知されたもので、原告がこれを信頼して本件土地及び建物につき固定資産税が非課税と考えたことに無理はなく、原告の側に誠実、善良な市民として非難に値する事情はなんら存在せず、しかも、右通知に反し過年度に遡つて固定資産税が賦課されることにより原告が被る不利益は無視できないものがある』 どうかな? この判決文の信義則の適用の規範は、認める側の主張としては有用なものだと思うわ。 但し、地裁においても示された違法の範囲についても確認しておいて欲しいわね。 財団法人の請求を認容した地裁でも、過年度分(時効にかかっていない5年分)については、それをとることは違法であると認めたんだけど、将来分についてはとっていいとしているからね。 |
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私の考えは、高裁では認められなかったんですね・・・ | ||
ナカちゃんの考えが間違っているってわけじゃないから、そんな顔しなくっていいわよ? 少なくとも、地裁では禁反言の法理に反するとして、税務署側の主張は認められなかったんだから。 それじゃ、次は、信義則が時効制度との関係において適用されるのか? という問題を扱った判例を見てみましょうか。 |
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その論点の有名な判例というと・・・ 被爆者健康管理手当等請求事件ですね。 (最判平成19年2月6日 百選T 31事件) |
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いやぁ、難しい判例だったねぇ。 | ||
そうですね。 (藤さんが珍しく弱音をはくなんて。 でも、多分私の理解と藤さんの理解ではレベルが違うから、疑問に答える自信はないわ・・・) |
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ちょっと多いかもだけど、もう一つ抑えておきたい判例あるから、今日頑張ってやっちゃおうね! 宜野座工場誘致事件って判例なの。 (最判昭和56年1月27日判決 百選T 29事件) あ、これ宜野座(ギノザ)って読むんだけどね。 百選にも掲載されている判例だから一緒に検討しましょうか。 |
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非常に有意義な判例検討が出来て、私も嬉しいです。 | ||
私こそ。 幾つか判例を見て、少し見えてきたと思うんだけど、信義則の適用については、カチッとこういう規範、要件というものは、確立していないと言えそうよね。 実際、今日検討した判例でも・・・ 文化学院非課税通知事件は、1審原告勝訴。2審敗訴。 被爆者健康管理手当等請求事件では 1審原告敗訴、2審で原告勝訴。最高裁で勝訴確定。 宜野座工場誘致事件に至っては 1審原告敗訴、続く2審も敗訴。最高裁で逆転勝訴! と、信義則の適用事案は、最後までやってみないとワカラナイって感じしちゃうわよね。 でも、だからこそ、事案ごとに学ぶことが大事だと思うの。 最後に信義則適用事案についての、まとめを述べさせてもらうと、まず大事なことは、信義則の適用事案においては、行政への市民の信頼の対象がナニか、ってことを確定することなの。 つまり、信頼の対象が、契約や処分ではないところにポイントがあるのよね。 文化学院非課税通知事件では、通知。 被爆者健康管理手当等請求事件では、通達。 宜野座工場誘致事件では、誘致政策。 が、それぞれ信頼の対象となっているわよね。これらは、いずれも契約や処分ではないわよね。 そして、その信頼を保護すべき規範として、最低限あげるべきは、「行政側がいかなる手段(特定個人に対する具体的なものであることが求められる)を用いたか」、「相手側の市民がこれを信頼したことが合理的といえるか」、「信頼を裏切られることで被る不利益の程度」の3点は忘れずに抑えて欲しいわね。 でも、今日一緒に検討した3つの判例は、いずれも重要な判例だから、今難しくって、ちょっと理解できないところがあっても、また色々勉強を進めて読み直すと、理解が違うと思うから、一回やったからいいや、なんて姿勢じゃなくって、再度検討してみるといいと思うわ。 私も今日、一緒に検討して私なりに理解が深まったと思えたもの。 そういう意味では、私も黒田さんや、ナカちゃん・・・まぁ、あとサルにも御礼言いたい気持ちよ。 ありがとうね。 |
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いいって。 いいって。 これからも精進すればいいからさぁ。 頑張れよ! あと、お前、話長ぇよ! |
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明智さんに御礼言われると、なんか恐縮しちゃいます・・・ | ||
私は一緒に勉強させてもらってるだけなんで、ありがとうは、私にも言わせて欲しいです。 | ||
なんか1人、妙に腹立たしい人がいるんだけど、まぁ、この際見なかったことにしてあげるわ。 |