最判平成10年5月26日 〜大牟田生活保護廃止事件〜 |
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それじゃ、配役を発表しますね! え? なんで私が仕切っているの? ですか? まぁまぁ、たまには、いいじゃないですか。 今回は私がナレーターを。 藤さんが、生活保護の受給を受けていた女性(原告)役。 光ちゃんは、訴えられた大牟田市福祉事務署長役 でお願いしますね。 |
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あら・・・。 いつの間に・・・。 まぁ、いいけれど。 |
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ナレーター |
事件の原告となる女性は、前夫と離婚後、自らを世帯主として、未成年子4人を含む世帯で、生活保護の受給をしていました。 | |
子供が4人もいるから、生活も楽じゃないわ。 仕事しても、ちっとも家計は楽にならないし、忙しいばっかりの毎日ねぇ。 |
原告・女性 |
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お腹、空いた! お腹、空いた! |
未成年子4人 |
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はいはい。 それじゃ、お母さんは、仕事行って来るからね。 大人しく待っているのよ? |
原告・女性 |
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ナレーター |
女性の生活保護受給にあたっては、自動車の所有、借用、および仕事以外の運転の一切を禁止する旨の指示書が交付されていました。 | |
車を、つかっちゃいけないって指示書はあるけれど、現実問題、通勤だって車抜きじゃ土台無理があるわよ! ホント、御役所仕事って言うけれど、ナニ言ってるのよ、車抜きで働けるわけないじゃないのよ! というわけで、通勤には、車は利用させてもらうけどね! |
原告・女性 |
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大牟田市 |
ちょっと、ちょっと! ナニ、車を堂々と使用しているんですか! 指示書の内容を見てもらっていいですか? 今回は、指導って形にさせてもらいますけれど、今後同じようなことがあったら、あなたへの生活保護の受給についても考えさせてもらいますよ? 以後、このようなことがないように誓約書を書いてもらっていいですか? |
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誓約書・・・ですか? どんな? |
原告・女性 |
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大牟田市 |
今後、自動車の所有及び借用をしないこと。 そして、この誓約に違反した場合には、生活保護の受給を辞退するという内容で書いてください。 |
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人の弱みにつけこむようなことしか言わないんだから。 わかりましたよ、誓約書を書けばいいんでしょ? |
原告・女性 |
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セイヤクショぉ。 セイヤクショぉ。 |
未成年子4人 |
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大牟田市 |
はい、確かに。 今後は、気をつけて下さいよ! |
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ったく! コッチの生活も考えて欲しいわよ! ナニが車を使うなよ! そんなことじゃ、仕事だってロクに出来やしないわよ! |
原告・女性 |
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というわけで、今日も、あたしは車を使うのであった、マル。 | 原告・女性 |
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大牟田市 |
・・・成程ねぇ。 指導しても、誓約書書いても、効果なしってことですか。 そうですか。 |
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まぁ、ぶっちゃけ車なしじゃ生活も、ままならないわよねぇ。 というわけで、今日も車を使うのであった、マル。 |
原告・女性 |
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大牟田市 |
あ・・・また使ってる。 これは、言っても無駄ね。 |
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あ、お母さん。 誰か、来たよ? |
未成年子4人 |
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大牟田市 |
あ。 車、使ってみえますね。 |
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あ・・・見付かっちゃった。 | 原告・女性 |
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大牟田市 |
提出していただいた誓約書には、今後自動車の所有及び借用をした場合は、生活保護受給を辞退するって書きましたよね? あなたの違反に対して、生活保護の受給廃止処分を取らさせていただきます。 |
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ちょ、ちょ、ちょっ!! 確かに、あたしが違反行為をしたことは悪かったけれど、未成年の子供4人も抱えて、生活保護の受給を廃止されたら、どうやって生活していけばいいのよ! そんな処分は、あたし達に死ねって言ってるようなものよ? 処分の取消しを求めて、あたしは訴えるからねっ!! |
原告・女性 |
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お母さん、ガンバレぇ! | 未成年子4人 |
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あ、そこまでで結構です。 お疲れ様でした。 |
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黒田先輩が、判例の配役を仕切られるなんてビックリしたです。 | ||
いつも行政側の配役ばかりなのを光ちゃんに言っても、一向に善処して下さらないものだから、強行手段に出ちゃいました。 | ||
そうなんだ。 つかさちゃん、行政側の配役に、そんなに不満があったのね。 |
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そこまで・・・じゃないですけどね。 ただ、いつも判例検討を、光ちゃんに任せてばかりっていうのも申し訳ないなって思ったというのは、ありますよ? |
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OKOK! それじゃ、今日の判例検討は、黒ちゃんが仕切っちゃってよ! |
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はい! 頑張りますね! 判決文を見る前に、今回の事件で問題になった処分を検討することにしましょう。 まずは、処分の根拠となった法律の条文の確認からですね。 生活保護法 『第27条 (指導及び指示) 1項 保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。 2項 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。 3項 第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。 』 『第62条 (指示等に従う義務) 1項 被保護者は、保護の実施機関が、第30条第1項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養護を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。 3項 保護の実施機関は、被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。 』 そして、この生活保護法を受けての生活保護法施行規則がありますね。 生活保護法施行規則 『第19条 (保護の変更等の権限) (※当時は18条) 法第62条第3項に規定する保護の実施機関の権限は、法第27条第1項の規定により保護の実施機関が書面によつて行つた指導又は指示に、被保護者が従わなかつた場合でなければ行使してはならない。 』 この条文から、まず行政に裁量があるのか? そして、裁量があるとして、その裁量は、要件裁量なのか、効果裁量なのか、という見極めをしないといけないですよね。 |
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ちゃんと復習してきました! 今度は、しっかり見極めれると思うです! 生活保護法27条1項は、 『保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。』 としているです。 まずは、処分の性質ですが、生活保護の受給の廃止は、相手方にとっては不利益的処分といえます。 次に裁量があるか、ですが。 『できる』という法律の文言、そして、複数の処分(『指導又は指示』)から選択的に処分を決めることができるとしていますから、裁量はあるといえます。 そして、その裁量は効果裁量だといえます。 |
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竹中さん、惜しいっ! 挙げた条文には、62条もありましたよね。 本件で問題となっているのは、生活保護の受給の廃止という処分なのですから、効果裁量が問題となるのは、27条ではなく、この62条3項でしたよね。 生活保護法62条3項は、 『3項 保護の実施機関は、被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。 』 としています。 今、竹中さんが言われたのと同様の理由(『できる』という法律の文言、『保護の変更、停止又は廃止』という選択的に処分を決めることができること)から、この62条3項について効果裁量が認められる、と答えて欲しかったですね。 |
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あうあうあうあう。 | ||
いえいえ、まだ勉強始めて間もないんですから、間違えて当たり前くらいの気持ちでいいと思いますよ。 ただ実際の試験の問題でも、見たことのないような個別法が、問題資料として与えられて、その個別法の目的や趣旨、裁量の有無についての検討をすることになるわけですから、普段から条文を見て、検討をするようにしておくことは大事ですからね。 ちなみに、この生活保護法62条3項の目的は、義務違反に対する制裁が目的ということになるでしょうね。 |
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はい! 頑張るです! |
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あたしのチビっ子分身には、誰も触れてくれないけど、アレ、何気に凄くね? 毎回、あたしの分身はスルーだよね、それでいいわけ? |
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ちょっと! つかさちゃんが、いいこと言ってくれているってのに、余計なチャチャを入れないでよ! |
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さて。 この判例を題材にして学びたいのは、比例原則でしたよね。 比例原則というのは、達成される目的と、そのためにとられる手段(措置)との間に合理的な比例関係が存在することを要請する原則なんですね。 |
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『トリアーエズを撃ち落すのにコロニーレーザーを使ってはならない』ってヤツだよね! (行政法16回参照) |
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そ、そ、そうですね。 まぁ、一般には「雀を撃つのに大砲を使ってはならない」という言葉で説明されるものですけれど。 サクハシの教科書では 『比例原則は、もっぱら規制の相手方との関係での過剰な規制を防止する(過剰の禁止)のための法理であったが、多くの場面で行政による積極的な介入が要請される現代の行政法においては、第三者に対する規制により利益を受ける者との関係で過少な規制(行政介入の積極性の不十分さ)を禁止するための法理としても活用される必要がある』 と、さらに発展的な捉え方をしていますが、本件事案においては、まずは、従来の捉え方での比例原則を理解するようにしますね。 |
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こくこく(相槌) | ||
では、事案のポイントをまとめますね。 ここで学ぶ比例原則は、次の2つの内容をもっています。 @必要性の原則 違反の状態を排除するために必要な場合でなければならない。 A過剰規制の禁止 必要なものであっても、目的と手段とが比例していなければならない。 端的にまとめるなら、@必要性、A相当性、ということですね。 この考え方を、判決文から読み取って欲しいですね。 |
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ほむほむ。 必要性と相当性ねぇ。 |
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最高裁の判断は、次のものです。 『本件指示違反行為について検討するに、前記のとおり、被告が違反行為として認識していたもののうち、少なくとも仕事場への通勤については自動車の使用が許容される余地があるものと考えられ、そうだとすると、主要な違反行為は、平成五年六月からの鳳来軒勤務時以降の使用行為にとどまることになる。 そして、この間、被告から原告に対する指導は、平成四年一二月二日になされたのみであり、その際原告は今後自動車の所有及び借用をしないことと違反した場合は保護を辞退する旨記載した誓約書を作成、提出しているけれども、その前提となる主要な違反行為が右許容される余地のある仕事場への通勤のための使用であったことからすると、これが適切な指導方法であったかどうか問題が残るし、その後本件処分時まで、何度も原告の自動車使用を現認等しながら何らの指導等を行っていないという点についても疑問を提起しないわけにはいかない。 原告世帯に対する保護の必要性があることは疑問の余地がないのであるから、保護の実施機関としては、できる限り原告世帯に不利益処分が及ぶようなことのないように最後まで十分な指導を尽くすべきであるのに、むしろこれとは反対の姿勢とも映りかねないからである。 指示違反を理由に被保護者に不利益処分を課す場合には、被保護者の保護の必要性にも十分配慮する必要があり、特に保護の廃止処分は、被保護者の最低限度の生活の保障を奪う重大な処分であるから、違反行為に至る経緯や違反行為の内容等を総合的に考慮し、違反の程度が右処分に相当するような重大なものであることが必要であって、それに至らない程度の違反行為については、何らかの処分が必要な場合でも、保護の変更や停止などのより軽い処分を選択すべきである。 原告の場合、本件指示違反の行為が繰り返されており、しかも従前の経緯からしても、原告の規範意識の希薄さは否定できず、とりわけ、自動車購入を理由に第二次保護が廃止された経験まで有する割には、原告の自動車使用に対する姿勢は余りに安易ではないかとの感が強く、原告側の問題性も決して小さくはない。 しかしながら、原告世帯の要保護性は高い上、本件処分の前提となる本件指示の態様及びその内容等に前記のとおりの問題があること、直接の違反行為自体の内容が自動車の借用による使用であって、しかもそのうちの一部については許容される余地もあること、近時自動車の普及率が著しく高まり、以前に比べると比較的身近な生活用品になってきていることなどの事情も考え併せると、原告の違反行為は直ちに廃止処分を行うべき程悪質なものとまでいうことはできず、保護の実施機関としては、処分に至るまでになお自動車使用に関する適切な指導を試み、又はこの際何らかの処分が必要であるとしても、保護の変更や停止といったより軽い処分を行うなどして、原告の規範意識の涵養に努める必要があったと考えられる。 これらの事情を総合して判断すると、被告が原告に対し、平成五年一〇月の時点で、直ちに最も重大な保護廃止処分を行ったことは重きに失し、処分の相当性において、保護実施機関に与えられた裁量の範囲を逸脱したものというべきであって、本件処分は違法な処分といわざるを得ない。』 としていますね。 |
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つまり、トリアーエズを撃ち落す必要性は認められるが、なんもコロニーレーザーを使わんでもええやないの、ってことだね? | ||
ナニが「つまり」よ! つまり、本件処分は、@必要性は認められるものの、A相当性を欠く処分であると裁判所は判断したってことなのよね。 だから、比例原則に反する違法な処分であるしているわけよね。 |
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たしかに、原告も悪いですけれど、処分には、『保護の変更、停止又は廃止』と選択肢があったわけですから、その中から一番重たい『廃止』というのは、4人の未成年子を抱える家庭の経済事情を考えると、重た過ぎると思うです。 | ||
シンママは、生活大変だからね! そのあたりも、しっかり考えて欲しいわけだよね! |
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いい判例でした。 スッキリした気持ちです。 |
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で・・・。 コレは、スルーのまま? |
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つかさちゃんの判例検討は、個別法から丁寧に検討してて、良かったわ。 私も見習わないとダメよね。 |
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いえ、いつも教えてもらってばかりですから、たまには、って思っただけなんです。 | ||
・・・完全にスルーだお。 |