最決昭和42年5月25日 〜弥彦神社事件〜 |
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それじゃ、いつものように配役からね。 私がナレーター。 ナカちゃんが、弥彦神社の職員さん。 サルが、弥彦神社にお参りに来た参拝者の方々ね。 |
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ナレーター |
昭和30年12月31日。 新潟県西蒲原郡所在の彌彦神社では、毎年恒例の元旦の二年詣り行事の一環として福餅撤散が行われようとしていました。 境内には、大勢の行き交う参拝客の方々がごった返していました。 |
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弥彦神社職員(被告人) |
今年は例年になく盛況です! こんなに沢山の参拝客に恵まれて、ありがたいです! そろそろ元旦です! 斎庭で餅まきを行うです! |
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お餅、お餅ぃ〜っ!! 御餅、御餅ぃ〜っ! |
参拝客の方々 |
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弥彦神社職員(被告人) |
皆さん、喜んでくれているです! 福餅です! 福餅です! |
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餅拾えたっ! お参りも出来たっ! 帰ろ、帰ろっ! |
参拝客の方々 |
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新しく来られた参拝客の方々 |
福餅撒いてるんだって! お餅っ! お餅っ! 2年詣りしたい! 2年詣りしたいっ! 早く行こっ! 早く行こっ!! |
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ナレーター |
弥彦神社の二年詣り行事は、例年にない活気の中、行われていました。 しかし、例年以上の参拝客の参拝が、大きな事故の一因となってしまうのです。 餅まきの餅を拾ったり、二年詣りを済ませて帰ろうとした参拝客と、餅まきに遅れまいとして斎庭内に入ろうとした参拝客とが、神社随神門外の石段付近で接触して、滞留現象が起きてしまったのです。 |
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滞留現象を起こす参拝客の方々 |
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ナレーター |
そして、1月1日午前0時10分頃、悲劇は起きたのです。 参拝客の方々の滞留現象による重さに耐え切れなくなった石段が崩壊し、参拝客同士が、次々に後ろから押し出されるように石段下へと落下し、折り重なって転倒する方々が続出してしまったのです。 当時の弥彦神社の不十分な照明設備、雑踏の整理や参拝客の方の誘導に警察官等が割り振られていなかったことなども背景となり、事態は収拾しないままに、石垣崩壊から30分以上経ったときには、窒息死等により124名の死者を出す結果となってしまったのでした。 |
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弥彦神社職員(被告人) |
あうあうあうです! とんでもないことが起きてしまったです! |
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・・・あんた、一体何人いるのよ? | ||||
木の葉の里に伝わる影分身の術だお! | ||||
あうあうあう。 泣きそうです。 この事故の過失の罪責が私には、やっぱりあるのでしょうか? |
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泣きそうです・・・って、もう既に泣いちゃっているじゃない。 判例検討で、そこまで感情移入しちゃってると、勉強出来ないよ? |
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早く最高裁の判断が聞きたいです。 私には過失が認められてしまうんでしょうか? |
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ねぇねぇ。 あたしの影分身の術には、誰も触れてくんないの? マヂでスゴくね? |
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じゃあ、すぐに判例検討しちゃおっか。 まずは本件のポイントからね。 本件では、事故に関する過失の罪責を問えるか、どうか、つまり、過失の有無が問題となったのよね。 新過失論では、過失犯の成立要件として、実行行為を、注意義務に違反した不適切な行為と捉えているわよね。 その注意義務とは、第一次的には結果回避義務。 そして、その前提として、一般に、結果予見可能性が必要って言ったわよね。 つまり、注意義務の内容としては、 @予見可能性 A予見義務 B結果回避可能性 C結果回避義務 (厳密には、さらにCから義務内容特定も求められる) と言えるわ。 色分けを細かくしたのは、判例の中で、それぞれの内容についての認定がどのような事実を評価したものなのかを把握する意味で、わかりやすいかと思ってなんだけど。 それじゃ、最高裁の判断を見てみることにしましょ。 |
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あうあうあう。 | ||||
ねぇねぇ、あたしの影分身どうだった? ねぇ、どうだった? |
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本決定は、次のものね。 最高裁の判断は、次のとおりよ。 『この事故において、被告人らにより餅まき等の催しが行われたことおよび右死者の生ずる結果の発生したことについては、疑いを容れる余地がない。 行為と結果、そしてその間の因果関係については、本決定はアッサリと認定しているわよね。 本決定の一番の争点である過失の有無については、この後になるわ。 そこで、右神社の職員である被告人らにこの事故に関する過失の罪責があるかどうかを、右結果の発生を予見することの可能性(@)とその義務(A)および右結果の発生を未然に防止することの可能性(B)とその義務(C)の諸点から順次考察してみると、本件発生当時においては、群衆の参集自体から生じた人身災害の事例は少なく、一般的にこの点の知識の普及が十分でなかったとはいえるにしても、原判決の認定するごとく、右二年詣りの行事は、当地域における著名な行事とされていて、年ごとに参拝者の数が増加し、現に前年実施した餅まきのさいには、多数の参拝者がひしめき合って混乱を生じた事実も存するのであるから、原判決認定にかかる時間的かつ地形的状況のもとで餅まき等の催しを計画実施する者として、参拝のための多数の群衆の参集と、これを放置した場合の災害の発生とを予測することは、一般の常識として可能(@)なことであり、また当然これらのことを予測すべき(A)であったといわなければならない。 したがって、本件の場合、国鉄弥彦線の列車が延着したことや、往きと帰りの群衆の接触地点が地形的に危険な右随神門外の石段付近であったこと等の悪条件が重なり、このため、災害が異常に大きなものとなった点は否定できないとしても、かかる災害の発生に関する予見の可能性(@)とこれを予見すべき義務(A)とを、被告人らについて肯定した原判決の判断は正当なものというべきである。 この表現は、判例がよく使う言い回しよね。 反対の事情を汲んでからの「しかし・・・」(本決定では、『にしても』『としても』としているところ)と述べる言い回しなんだけど。説得力が増すと思うところだから、論文の論証においても参考にできるといいわよね。 そして、右予見の可能性(@)と予見の義務(A)とが認められる以上、被告人らとしては、あらかじめ、相当数の警備員を配置し、参拝者の一方通行を行う等雑踏整理の手段を講ずるとともに、右餅まきの催しを実施するにあたっては、その時刻、場所、方法等について配慮し、その終了後参拝者を安全に分散退出させるべく誘導する等事故の発生を未然に防止するための措置(Cから求められる義務の内容)をとるべき注意義務(C)を有し、かつこれらの措置をとることが被告人らとして可能(B)であったことも、また明らかといわなければならない。 それにもかかわらず、被告人らが、参集する参拝者の安全確保について深い関心を寄せることなく、漫然餅まきの催しを行ない、雑踏の整理、参拝者の誘導等について適切な具体的手段を講ずることを怠り、そのために本件のごとく多数の死者を生ずる結果を招来したものであることは、原判決の認定するとおり』 であるとして被告人である弥彦神社職員らに対して、本件事故について過失の罪責を肯定しているのよね。 |
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あうあうあう。 やっぱり過失ありと認定されてしまったです。 |
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ねぇねぇ! あたしの影分身はどうだった? ねぇねぇ、ねぇってば! |
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そうね。 流石に、これだけの被害者を出した大事件で、誰もなんの責任もないという結論は、ちょっと厳しいわよね。 注意義務の内容となる @予見可能性 A予見義務 B結果回避可能性 C結果回避義務 (厳密には、さらにCから義務内容特定も求められる) については、分かったかな? 注意義務の内容としては、結果回避義務が一番大きいものなんだけど、『法は不可能を強いない』という法格言から、その義務の前提として予見可能性が求められることになるわけ。 結果もわからないのに、その結果を回避するなんてことは不可能と言えるからね。 大勢の参拝客が来るなら混雑は予見できたでしょ? ソレがわかっているなら、その混雑を放置したら事故も起こり得ることはわかっていたでしょ? として、まず@予見可能性と、A予見義務を認定して、 そうであれば、その事故を回避することもできたわけよね? なのに、なんでしなかったの? として、B結果回避可能性、C結果回避義務を認定しているのよね。 これら@〜Cの注意義務が認められる以上、その義務に違反した不適切な被告人らの対応、措置に過失ありとしているわけね。 |
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判例の事実認定を読むと、過失ありというのも納得いくです。 私が悪かったです。 |
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ナカちゃんは悪くないけどね。 | ||||
ねぇねぇねぇってばぁ! あたしの影分身はどうだった? ねぇねぇ? |
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被告人の立場での判例検討は初めてでしたが、私にとって印象深い判例検討になりました。 ありがとうございます。 |
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ナカちゃんの勉強に役立ったのなら、私も嬉しいわ。 でも、あんまり感情移入しない方がいいわよ? |
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はい! 気を付けるです! |
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・・・やべ。 判例検討なんも聞いとらんかったお。 |