『サル探偵の事件簿』〜File4〜 「悪寒」 |
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ガクガクブルブル・・・。 |
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サルの助手・黒田 |
探偵、まだ寒いんですか? やっぱり、あの日、池に逆さ吊りにされて漬込まれたせいで、風邪をひかれてしまわれたんですね・・・。 お可哀想に。 |
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いや、あたしが震えているのは風邪のせいやないお・・・。 あの夜の出来事を、こう思い出すだけで・・・ぎゃぁあぁぁ、ヤバス、ヤバスっ!! また背筋に寒気がぁぁぁぁっ!!! |
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ああ・・・探偵っ・・・。 | ||
もうあんな、あたしのせっかくの善意を足蹴にする無能共とは、付き合ってられないお。 これからは、本業の探偵業に精を出して御仕事することにすんお! |
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え? 探偵が、本業をされるのですか? |
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ソレは、どういうこと? ・・・ってか、言われてみれば、あたしの事務所の収入はどっから来てんの? |
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事務所の収入・・・ですか? | ||
うんうん。 思えば、あたしはいつも、街の人の為、社会正義の貫徹の為と、身を粉にして様々な殺人事件の解決の為にと尽力してきたわけだけど・・・。 ソレはあくまでもボランティアだから、お金は入って来てないわけだよね? ・・・でも、事務所の金庫には、いつもそれなりのお金があったわけで・・・そうなると、そのお金は、どっから入っていたの? って疑問が、今フッと湧いてきたんだけど。 |
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ええ、まあ、そうですよね。 | ||
いや、クロちゃん。 考えたら、コレはミステリーだお! うんうん。 まさか、こんな身近に極上の謎が転がっていたとはねぇ。 しかし、見付けてしまった以上は、もう解かずにはいられないなぁ。 くっくっく・・・。 『この謎は我が輩の舌の上だ』って感じだね! |
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いえ、探偵。 一応、新聞や雑誌にも当社は広告を掲載していますから、それなりに御依頼は来ていますよ? |
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な、な、なんとっ!! いや、ソレは知らなかった・・・。 となると、この天才探偵の力を見込んで 世紀の大怪盗に狙われたお宝が盗まれるのを阻止して欲しいとか 攫われた深窓の御令嬢を助け出して欲しいとか 一つなぎの財宝を見付けて来て欲しい ってな依頼が殺到してるわけだね!? ヤバス!! 早速、名探偵のあたしの本領発揮の舞台に行こうじゃないの!! |
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あの・・・ちょっとそんなスケールの大きな御依頼はないですね。 主には家出人の捜索とか、いなくなったペット探しの御依頼です。 あとは、素行調査や浮気調査とかでしょうか・・・。 |
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あぁぁぁ〜。 アレか、そかそか、あったあった、確かにあった。 ・・・でも、あたし、肝心の家出人とかペットとかを見付けた記憶はないんだけど。 |
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そうですね・・・。 言いにくいんですが、探偵は家出人の捜索の為という名目で、温泉旅行や観光地巡りに行かれては、見付からなかったぁって言われるのが常套句ですから。 大体、猫を探しに居酒屋をハシゴされたり、犬を見付けにとフランス料理を食べに行かれていては、ちょっと見付からないのも無理からぬことではないのかな・・・なんて思ってしまうわけですが。 |
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いやいやいや、ソレは違うでしょ? 家出人や失踪人だって、どっかで働いているんじゃまいか? って推理から住み込みで働ける旅館や温泉宿を探すのは必要でしょ。 猫や犬だって、野良しててもお腹は空くわけなんだから、美味しい残飯を狙って飲食店に出没する可能性は大いに考慮にいれるべきだおね。 |
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す、すみませんっ!! 仰るとおりです! 助手の立場も弁えず、探偵の類稀なる推理に余計なことを言って、申し訳ありませんでした!! |
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いやいや、まぁクロちゃんはまだ探偵「助手」なんだからさ。 そうやって、疑問があったら聞いてくれちゃっていいって思うわけよ。 何事も勉強だお、勉強。 |
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は、はいっ! これからも探偵の下で勉強させて頂きますっ! |
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うんうん。 でもまぁ、あたしが発見に至っていないってことは、家出人やペットの依頼については、主に助手のクロちゃんが解決しとる・・・と、そういうことか。 まぁ、その程度の案件なら、確かに、あたしが出張るまでもない気はするね。 |
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ええ、ソレはもう探偵の仰るとおりだと思っています。 ・・・ですが、探偵の調査費用が多額に上ってしまうことが多い為、正直、捜索依頼は持ち出し過多の赤字・・・という結果に終わってしまうというのが実情なんですよね。 |
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ふむ・・・。 市民の皆様の為にと、格安の料金で請け負っているのが裏目に出てしまっている・・・ってことね。 |
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いえ、けしてそういうわけではないとは思いますが。 | ||
そなのかな? うんうん、でもそうなると、収入は主に素行調査や、浮気調査から得ているってことだね。 んんんっ!? ・・・でも、あたし浮気調査とかした記憶がないんだけど。 |
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え・・・えーっと、探偵は、どうも性格的に張り込みや尾行というのが苦手らしくって・・・。 夏場は暑いから、冬場は寒いから、春先、秋口は天気がいいから・・・という理由で、対象者から目を離してしまわれることが多いみたいで・・・。 |
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ふむふむ。 ソレはまた至極ごもっともな理由だね。 そりゃ聞けば、そんな状況下で対象者だけ相手にしてろってのは、土台無理な話だって思うね。 |
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ええ、ですからソチラも、私が助手として務めさせて頂いております。 | ||
成程、成程。 いわゆる適材適所ってことだね。 流石、あたしだお。 探偵としてだけでなく、経営者としても卓越した手腕を発揮しちゃってるみたいだお。 あ、そだ! 卓越した手腕と言えば、あたしにはもう一つの才能・・・。 錬金術があったよね!? |
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れ、錬金術? あっ! 探偵の御趣味のパチンコや麻雀のお話をされてみえるんですか? |
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うんうん。 あたしも事務所の経営の為にと、あの金庫からよく軍資金持ち出しているからさぁ。 でも、その収入も事務所の経営的には貢献度高いんじゃない? |
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・・・えーっと。 確かに、探偵が軍資金という名目で、事務所の金庫のお金を御利用になられていることは、会計処理も務めていますので把握しておりますが・・・。 |
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ん? ん? ナニナニ? なんか口を濁した言い方してっけど、まさかアレ? 本業の収入よりも、ソッチのほーが多いとか、そういうこと? いやぁまあ確かに、あたしの腕前からしたら、そういうこともなくはないのかな、やっぱり。 |
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いえ・・・探偵の勝率自体はけして低くはないと私も思うのですが・・・。 ただ、探偵は負ければ、憂さ晴らしだと言って、金庫のお金をさらに持ち出して、自棄(ヤケ)食い、自棄酒をされて、さらに散財されてますし・・・。 勝ったら勝ったで、上機嫌になって気前よく、そのお金を使ってしまわれるので、勝ったお金も事務所には入っていません・・・つまり、結局は持ち出された軍資金は、勝っても負けても、いずれにせよ確実に減るお金ということになります・・・。 |
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・・・なんか聞いとると、よく、この事務所が倒産しないな・・・って気がしてきたんだけど、ソレ、マヂ? | ||
ええ、概ね事実を答えさせて頂いたつもりですが・・・。 | ||
でも、ソレやと、結局収入は、浮気調査と素行調査の分しかないってことになるよね。 しかも、そのさして多くもない収入は、捜索依頼の赤字や、あたしの錬金術のせいで持ち出されてまっとるってことでしょ? |
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ええ、まぁ、まとめますと、そういうことになるかと。 | ||
しかし、その理解が正しいとなると、やっぱり謎が残るわけだよね。 だって、事務所の金庫には、いつもそれなりのお金が常備されとるんだお? |
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・・・。 (あ・・・よくない話の流れになってしまっているような・・・。 探偵には、その素晴らしい御力を、市民の皆様の為にこそ役立てて欲しいと思って、私が給料も貰わずに、ここに務めていることがバレてしまいそうです・・・。) |
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ふむふむ・・・ふむふむふむふむ。 成程、成程ねぇ。 大体、謎は解けた・・・かな・・・。 |
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あ・・・。 (流石、探偵です・・・。 もうバレてしまいましたね・・・。 出過ぎた真似をしたことを、探偵に御指摘される前に謝るべきかしら・・・でも・・・) |
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クロちゃん。 どうやら、この事務所には人に幸福を運んでくれる存在がいるみたいだね。 |
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え!? た、探偵っ!! (わ、私のことを、そんな風に仰って下さるんですか!? う、嬉しいです。) |
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人知れず、その家の住人を幸せにする・・・。 そっかぁ。 居たんだねぇ、あたしのとこにも・・・。 |
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いえ・・・そんな・・・。 嬉しいです・・・。 (幸せ・・・。 こんな私が探偵を幸せにしているって言ってくれるんですね! 心から嬉しいです!!) |
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うんうん、あたしも嬉しいお。 (そっかぁ。 家に住み込み、その家に幸せを運んでくる・・・『座敷童子』。 リアルに居たんだぁ。 てっきり柳田國男の民間伝承の中だけの存在だとばっかり思っていたよぉ。 あたしも随分と狭い世間で生きていたんだなぁ・・・反省、反省っと。 これからは、も少し視野を広げて物事を見る目を養わないとだなぁ。) |
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私も、探偵の為に、これまで以上に頑張ります! だから、探偵にはこれからも街の皆様の為にこそ、その推理を活かして欲しいって思います! |
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クロちゃんっ!! あんまと、あんまとっ!! いやぁ、あたしには良き理解者までいるんだね! うんうん、あんな無能共に、ちょっと足を引っ張られたくらいで正義を守ることから逃げようとした自分が恥ずかしくなったお! |
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流石、探偵です! 私の憧れの探偵には、そうであって欲しいです!! |
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よーしっ! そうと決まったら、あたしは自分の見識をもっと深めないとダメだよね! 早速、水木しげるの妖怪大全集とか、オカルト本を入手して、様々な事象や現象を解決する知見を持つようにするお!! そだっ! 前からやりたいと思っていた「妖怪ウォッチ」も今こそやる時だお! というわけで、諸々必要なんでお金を頂戴っ!! |
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え? え? ナニがどうして、そういう話になったのか、ちょっとワカラナイんですけれど・・・お、お金が入用・・・なんですよね? |
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うんうん。 あと、アレだね。 探偵業は身体が資本だから。 今日は、リフレッシュの意味も兼ねて、なんか美味しいもんを2人で食べに行こう!! |
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あ、探偵! ソレでしたら私、食べログで3.8のお店をチェックしてましたので、ここが。 |
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よっしゃぁーーっ! ソレじゃ、本買って、ゲームも買って、美味しいもんも食べて・・・んでもって帰りには、ちょっとお酒ちゃんも頂いちゃおう!! |
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はいっ!! (・・・お金・・・足りるかしら・・・。) |
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その頃、所轄の警察署内にて・・・。 | ||
な、な、なんですっ!? 変な悪寒がするです・・・。 またぞろ、あの探偵を名乗る迷惑な人が、変な知識を仕入れて、事件現場を荒らしにくるような・・・そんな胸騒ぎが止まらないです・・・。 |
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〜File4〜「悪寒」 完 |