今日は代理から、代理行為について学ぶわね。 まずは、代理に特有の顕名(ケンメイ)主義からね。 |
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あたしの地元は広島って県名だね。 |
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知ってるわよ? 幼馴染じゃないの。 それより、あんたこそ知ってる? あんたの地元の広島カープのチームカラーが赤なのは、赤貧の赤に由来するのよ。 |
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ちょっ! よくも、そんなデタラメを平気な顔して言えるねぇ! 燃える闘志の赤に決まってんだろが、常考っ!! そんなの言うなら、光ちゃんの好きな巨人なんか、黒とオレンジの2色って選手だけじゃなくって、チームカラーまで欲張りだよね!! |
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何者にも染まらない黒。 まさに孤高にして唯一無二の存在である私の愛する巨人にこそ相応しい色よね。 |
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唯一無二なんかじゃないです。 ロッテもチームカラーは黒ですよ? |
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ロッテだけに・・・ 黙って「ろって」。 なんてね、なんてね。 |
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・・・っ!!! (げ、げ、激サムですっ! 真夏に大寒波襲来ですっ!) |
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なにか前回から、野球ネタが多くって、野球に疎い私としては、ちょっと話についていけないとこあって厳しいんですけど・・・。 | ||
じゃあ、ウチには巨人観戦の年間シートあるから今度一緒に巨人の試合応援しに行きましょうよ! つかさちゃんも、きっと巨人の魅力にハマること請け合いだから! |
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巨人観戦専用シートなんて、針のムシロじゃねぇかお。 ただ飯ゴチがあっても行かな・・・ん? んん? んんん? ・・・・・・ただ飯ゴチがあるなら行くね・・・うん。 |
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藤さん・・・ 食欲で、赤ヘル魂を売ってはダメですよ・・・。 |
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・・・ところで顕名主義は、どこにいったのですか? | ||
あ・・・ゴ、ゴメンね。 顕名主義だったわね。 顕名っていうのは、代理人が、代理行為をするには、代理人としての意思表示だと明らかにすることが必要なのね(99条1項)。 つまり、代理人が行う代理行為は、あくまでも代理人としての行為であることを示すことが必要なわけ。 この代理意思の表示を、顕名っていうのね。 そして、この顕名を要求する考え方を、顕名主義っていうの。 |
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話が、急転直下に勉強会に戻ったね・・・ まぁ、それはいいんだけど、顕名って、具体的にはどういうの? |
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そうね。 例えば、代理人が私。私に代理権を与えた本人がサルっていう場合、顕名は、次のような表示になるわ。 『木下藤 代理人 明智光 (明智光印)』 契約書への記名捺印は、代理人の私がするわけ。 サル(=本人)の捺印はないことになるわね。 また、代理人が相手方の意思表示を受ける場合(受動代理)には、代理人の側で顕名する必要はないわ。 その場合には、相手方の方で、本人のためにすることを示して行うことになるからね。 |
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こくこく(相槌) | ||
じゃあ、ここで質問! 顕名をしなかったときはどうなると思う? そうね・・・例えば、サルが私の代理人として、私の所有する不動産の売却の代理権を与えられていたわけ。 そこで、代理人のサルは、不動産の売却をするんだけど、その契約書を書く際に、うっかり、私の代理人であることを表示せず、サル自身が当事者として署名しちゃったわけね(=顕名をしなかった)。 この場合の法律行為は、どうなると思う? |
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どうなるんだろ・・・ でも、ウッカリ屋さんのあたしには、間違えた場合は、錯誤無効の主張って最終手段があるから、まぁ困らないとは思うけどね。 |
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その場合は、条文に定めがあります。 民法第100条です。 『(本人のためにすることを示さない意思表示)第100条 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。』 つまり、藤先輩が顕名をせずに契約書を交わしてしまった場合には、それは代理行為ではなくって、代理人の藤先輩が、藤先輩自身のためにしたものとみなされる、ということになります。 |
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大丈夫、大丈夫。 あたしは、ホントは光ちゃんの代理人として顕名するつもりだったところ、ウッカリその顕名を書き忘れただけなんだからさ。 コレはいわゆる書き間違えってことで、表示上の錯誤だからね。 表示上の錯誤なら、錯誤無効を主張すればOKOK。 |
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・・・藤さん。その主張は通らないです。 錯誤無効の主張の要件がありましたよね? @法律行為の要素に錯誤があること、そして A表意者に重大な過失がないこと 代理人という立場でありながら、顕名を忘れるなんてことは、十分重過失ですよ。ちょっと、錯誤無効の主張は無理筋じゃないでしょうか。 |
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そうよね。 代理人が顕名をしなかったのであれば、取引の相手方としては、その法律行為は、代理人自らの取引だって思うわけだからね。 そのような相手方の信頼は保護すべきと言えるわね。 つまり、100条の制度趣旨は、取引の相手方の信頼の保護なの。 あと、この100条のみなし規定は、今、サルが主張しようとした内容の錯誤無効の主張を禁止する規定だから、そのことに鑑みても、あんたの言い分はちょっと通らないわね。 |
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あぁぁぁぁぁっ! あたしの心の砦、錯誤無効がぁぁぁぁっ! |
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錯誤無効があるから平気っていう発想が既に、おかしいです。 藤先輩は、普段から、もう少し落ち着いてください。 |
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ぐぬぬぬ・・・ このチビっ子、年上のあたしに向かって、落ち着いてくださいとは、なんたる不届きな言葉! |
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藤さん、藤さん。 でも、まだ道は残されていますよ! 今、竹中さんがひいてくれた100条の但書きがありますから! 原則は、顕名しなかったときは、その行為は代理人が自分のためにしたものとみなされるんですけれど(100条本文)。 例外的に、顕名がなくっても、法律効果が本人に帰属する場合があるんです。これが同条但書きにある、相手方が悪意または有過失の場合です。 相手方が、特別の事情(偶然でもいい)から、代理人が本人のためにするものであることを知っていたか(悪意)、または、容易に知ることが出来た場合(有過失)には、顕名したのと同様に扱われ、有効な代理行為として、法律効果が本人に帰属するんです。 |
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マヂで? そうだよね、やっぱ、そうこなくっちゃダメだよね! |
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言っとくけど、相手方の悪意または有過失の証明責任は、代理人が負担するんだからね! それは、そんなに容易なことではないわよ? どうも考え方が甘いのよね、サルは。 それじゃ、次の論点にいくわね。 次は、代理行為の瑕疵についてね。 六法で、民法101条をみてくれる? |
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民法第101条。 『(代理行為の瑕疵) 第101条 1項 意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。 2項 特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。』 |
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代理行為が、意思の不存在や、詐欺、強迫等によって影響を受ける場合、それらの事情は、代理人について判断することとなるわ。 これは、代理行為の主体は、代理人である以上、代理人について判断すべきであるいえるからなのね(代理人行為説)。 そして、意思の不存在の場合に、代理行為が有効となるか、無効となるかは、それぞれ異なるから、整理して抑えておいてね。 まず、心裡留保の場合は、代理行為は原則として有効ね(93条)。 通謀虚偽表示(94条)の場合の代理行為は少し複雑ね。 ちょっと、しっかりと説明することにするわね。 例えば、代理人と相手方が、本人を騙すつもりで通謀虚偽表示をした場合が考えられるわよね。 このような事案に対して、判例(大判昭和14年12月6日)は、『如何なる代理人も、相手方と通謀して本人を欺罔するが如き権限を有することなく』、このような事案における本件において、代理人は、最早本人の代理人ではなく、『相手方より本人に対する意思表示の伝達機関に過ぎざるものであり、相手方の意思表示は、それが真意でないことを知ってなしたものであるから、93条の規定により、本人が相手方の真意を知り又は知ることを得べかりしものに非ざる限り』相手方の意思表示は有効なものとする、としているわ。 (※ 若干、管理人による書き下し文となっていますので、正確な理解を求められるのであれば、判決の原文にあたってください。) これはどういう処理をしているのかと言うと・・・。 代理人は、いわば相手方に取り込まれてしまったものとして、相手方と代理人とを一体のものとして見ているわけ。 そのように捉えると、全体として相手方から本人に対する心裡留保を構成していると言えるでしょ? ここで、判例は、代理人は、最早意思表示の伝達機関に過ぎない、としているけれど、この伝達機関というのは「使者」のことを意味しているわ。 今の時期だと、丁度高校野球でTVが盛り上がっている頃だと思うけれど、よく監督がマウンドに伝令を飛ばしているじゃない。 あの伝令は、民法上にいう「使者」にあたるのよね。 「使者」というのは、「代理人」と違って、効果帰属者たる本人が、効果意思を決定し、使者は、それを表示又は伝達するに過ぎない役割を担うものであって、効果意思を決定する代理人とは違うわけ。 この判例では、通謀により相手方に取り込まれて、相手方の意思表示を本人に伝えるだけのような代理人は、最早代理人ではなくって、それは使者でしょ? って言ってるわけよ。 このような事案においての処理は、心裡留保構成をとることから、あとは、本人が相手方の真意を知っていたか(=悪意)、または過失により知らなかった(=有過失)かどうかによって、この代理行為が有効か無効かが決するということになるわね(93条但書類推適用説)。 |
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ほむほむ。 心裡留保、通謀虚偽表示・・・と、きたってことは、次は、あたしの心の砦・・・錯誤が来るわけだね? |
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なんで、そんなに錯誤を気に入っているのよ。 じゃあ、せっかくだから質問の形で聞いてあげるわね。 質問! 私は、ナカちゃんの代理人として、ナカちゃん所有のマンションを、つかさちゃんに賃貸する契約を結んだの。 ところが、勘違いがあって、実際に入居してきたのは、暴力団サル山組の組員のサルっていう乱暴者だったわけ。 さぁ、この場合、代理行為はどうなると思う? |
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・・・あたしが暴力団員って。 しかも、ナニ、サル山組って、めっちゃ頭悪そうな金看板ぶら下げてんじゃないの。 |
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ひぃぃぃぃ。 暴力団員の人には、私のマンションは貸せないです! えーっと、えーっと。 ココは考えるです、考えるです! 代理人行為説に立てば、代理行為が意思の不存在等によって影響を受ける場合には、その代理行為の行為主体である代理人について判断することとなります(民法101条1項)。 私の代理人の明智先輩は、黒田先輩だと思って、賃貸借契約を結んだところ、実際の入居者は、藤先輩でした。 この人間違えについて、錯誤無効の主張の成立(民法95条)を検討するに、賃貸借契約は、信頼関係を基礎とするものである以上、誰に貸すのか、ということは重要といえます。 したがって、黒田先輩と、藤先輩の人間違えは、要素の錯誤になります。 そうなりますと、錯誤無効の主張をするには、@要素の錯誤であるという要件は既に充足していますので、あとは、代理人である明智先輩に重過失がなければ、その他の要件も満たすといえ、錯誤無効の主張が認められると言えます(民法95条)。 錯誤無効であれば、代理行為も無効である以上、契約は無効なので、私のマンションを藤先輩に貸すなんて法律効果が私に帰属することもありません! |
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うわぁ。 なんか必死じゃないの。 ヒくわぁ。 |
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ナカちゃん! いい検討できているわ! そうね。この場合は、重過失の有無についての場合分けも必要よね。 うん、よく考えてくれていると思うわ。 錯誤が好きだって言うサルが答えてくれると思って聞いたんだけど、ナカちゃんが、そこまでしっかり答えてくれるなんて、望外の喜びってところかな。 そうね。 錯誤のある代理行為は無効になるわ(95条)。 そして、その際の要素の錯誤や、重過失の有無は、代理人について判断することになるわね(101条1項)。 ナカちゃんの検討でいいわ。 |
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嬉しいです。 嬉しいです。 |
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それじゃ、次は瑕疵ある意思表示。 代理人が、詐欺又は強迫の被害者になった場合の、その代理行為は、取り消すことができるわね(96条)。 但し、その場合の取消権は、本人に帰属することになるわ。 代理人が取り消せるか否かは、代理権の範囲の問題となるの。 逆に・・・ 代理人が、相手方に対して詐欺を働いた場合。 この場合は、この代理人の詐欺を本人が知っていようが、知っていまいがに関わらず、相手方は、その代理行為を取り消すことができるわ。 さらに、ちょっと特殊な場合と言えるけれど、本人が相手方に対して詐欺を働いて、そのことを代理人が知らなかったというような場合。 この場合も、やはり相手方は、その代理行為を取り消すことができるわね。その場合の法律構成としては、96条2項の適用外または101条2項の拡張解釈とされるわね。 |
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色々なパターンが考えられるわけね・・・。 まぁ、悪い奴っていうのは、いろんな手を考えつくもんだもんね。 |
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ナニそれ? 自分のことを言っているの? 確かに、あんたは、毎回毎回ホント人の嫌がることを思いつくもんね。 |
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藤さんは、そんなことはされないです。 少し光ちゃんが過剰反応をされているんじゃないでしょうか? |
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藤先輩は、私が嫌がっているのに、変なアダナを次から次につけてくるです! 私のことを、ロボとか、座敷童子とか、コロッポックルとか、サトリの妖怪とか、チビっ子とか、もう散々です! |
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竹中さん・・・ | ||
藤先輩は、ヒドいですよね? | ||
わ、わ、私だって、「クロちゃん」ってアダナを藤さんから貰っていますからね! 沢山アダナを頂けたからって言って、竹中さんだけが、藤さんと仲いいアピールは通じませんよ? |
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・・・。 (か、か、会話が成立していないです!) |
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うーん・・・ 相変わらず、つかさちゃんのサル・フィルターは強烈よね・・・ 少し緩和されたようにも思わなくはないんだけど、根本的には変わらないわねぇ。 えーっと、それじゃ、今日、最後の論点ね。 代理人の行為能力について。 六法で、民法102条を見てくれる? |
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民法第102条。 『(代理人の行為能力) 第102条 代理人は、行為能力者であることを要しない。』 |
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うん。 そういうことね。 |
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ちょ、ちょ、ちょいっ! ソレ、条文読んだだけじゃない! なんで、なんで? 代理人には、例えば未成年者の親権者みたいな場合もあるじゃない。 なのに、その代理人が行為能力者じゃなくってもいいって、なんかおかしくない? |
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アラ、いい突っ込みをしてくれるわね。 そうね。 確かに、サルのような指摘はあるわよね。 この102条の理由は2つ。 1つは、代理人が契約を結んでも、その代理行為の法律効果は、代理人ではなくって、本人に帰属するわよね。 だから、例え不利益な効果であったとしても、その効果は本人に帰属する以上、代理人が被ることはないのだから、制限能力者保護の趣旨を及ぼす必要がないと言えるから、というのが1点。 もう1つは、行為能力者を代理人に選べばいいのに、敢えて制限能力者を代理人に選んでいるんだから、そのリスクは本人が負えばいいってことよね。 だから、制限能力者が代理人として行った代理行為は、能力の制限を理由に取り消すことは、102条の趣旨から許されないことになるわね。 ここは、大事なところだから、しっかり抑えておいてね。 但し。 これは任意代理の場合の話。 サルが突っ込んでくれた、未成年者の親権者っていうのは、法定代理の話よね。 そうね。 法定代理の場合は、本人が代理人を選任するわけではないのだから、任意代理と同じに扱うことはできないわ。 だから、法定代理の場合には、個別規定で、法定代理人に行為能力を要求している場合が実は多いのよね。 |
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・・・なるほど。 ということは、あたしが18歳(未成年者)の小(チイ)を、あたしの代理人にすることは可能ってことかぁ。 まぁ、ぶっちゃけ、チイはあたしよりも、しっかりしてっからなぁ。 |
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前回と今回とで、民法第5章第3節の代理の条文を、99条から108条までザッと確認しちゃいましたね。 ということは次回からは、いよいよ・・・ |
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そうね。 無権代理、表見代理という代理のメイン論点にいけるってことよね。 |
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ひぃぃぃぃぃっ!! たすけてぇ〜っ!! |
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なんかワクワクするです! |