前回の最後の質問覚えてる? 18歳のサルとPSVitaの売買契約をしたお店の話。 あのとき、サルは未成年者を保護し過ぎじゃないの? って疑問をナカちゃんにぶつけていたわよね。 今日勉強するのは、制限能力者と取引する相手方の保護という論点よ。民法は、制限能力者と取引する相手方の不安定な立場を、なるべく安定させるために、2つの制度を設けているの。 それが、 @相手方の催告権 A制限能力者が詐術(人を騙す行為)を用いた場合の取消権の制限 の2つよ。 |
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サイコク権? なに、それ? |
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催告権は、民法20条に定められるものなの。同条はかなり長いので、ここでの引用は割愛するけれど、後から確認しておいてね。 この制度は、制限能力者と取引をした相手方は、制限能力者側に対し、1ヶ月以上の期間を定めて、その行為を追認するかどうかを催告することができ、その期間内に確答がなかった場合には、追認または取消がなされたものとみなされる、というものなのよ。 この期間内に確答がなかった場合に、追認または取消がなされたものとみなされることを、追認擬制または取消擬制っていうの。 ただ、確答がないのに、いずれがあったとみなされるのか、っていうのは勝手に催告した側が決めていいわけじゃないのよ。 この、いずれがなされたとみなされるのか、については基準があるの。 単独で追認できる者が確答しない場合は、追認したとみなされるわ。 他方、 単独では追認できない者が確答しない場合は、取り消したとみなされるの。 |
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単独では追認できない者って、未成年者の場合なら、未成年者のこと? | ||
だけじゃないわよ。 例えば、通常、法定代理人は追認権を有しているわ。 ただし、親権者のいない場合は、未成年後見人がつくって言ったよね? この場合、後見人だけでは判断が難しいような場合は、さらに、その後見人に後見監督人がつくことがあるの。 でも、この場合は、後見人の同意(追認)だけではなくって、後見監督人の同意(追認)も必要になるの。 この場合も、単独では追認できない場合ってことになるわね。 |
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こくこく(相槌) |
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さぁ、それじゃ今日のメイン論点いくわよ! A制限能力者が詐術(人を騙す行為)を用いた場合の取消権の制限ね。 制限行為能力者が、自己が制限行為能力者であることを信じさせるために、詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができないのよ(民法21条)。 まずは、制度趣旨・要件・効果と3本柱をしっかり理解してもらうわよ。 その後で、判例を検討ってことにしましょうか。 |
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こくこく(相槌) | ||
ナカたん、いっつもマイペースな癖に、ワカッてるからスゴイよなぁ。 あの相槌に、なんか秘密でもあんのかなぁ? |
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ないよ? 相槌には秘密なんてないよ? そんな下らないこと考えてる暇あったら、まず制度趣旨を理解してよね。 制度趣旨は、大きく2つかな。 詐術を使えるくらいの判断能力があるなら、制限能力者として保護する必要がないっていうことと。 クリーン・ハンズの原則の見地から、そのような不正なことをする者まで、法が保護すべきではないっていうことよね。 |
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こくこく(相槌) | ||
制度趣旨は、ワカリやすいところだからね。 それじゃ、次に要件。 この要件は3つよ。 @「行為能力者であることを信じさせるため」であること A「詐術を用いた」こと B詐術により相手方が「誤信」したこと の3つね。 そして、この要件に該当し、制限行為能力者が詐術を用いたと判断された場合は、制度趣旨から、そのような行為は、制限行為能力者本人はもちろん、その保護者も取り消すことはできなくなるという効果が生じるわ。 一応、コレで制度趣旨・要件・効果と抑えたことになるんだけど・・・この中で特に問題となるのは、要件のAね。 ナニが「詐術」であるのかが問題となるところだからね。 |
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「人を騙す行為」を「詐術」って言うんでしょ? そんなの簡単じゃないの? |
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うーん、どうかなぁ? サルに、簡単に判断できるのかなぁ? じゃあ、質問したげるね。 果たして、この質問の未成年者の行為は、「詐術」となるか考えてみて。 未成年者のサルが、取引に際して相手方から「いくつですか?」って聞かれて、「21歳です」って答えたの。 コレは「詐術」にあたる? あたらない? |
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「詐術」と認定しますた! だって、思いっきり嘘ついてるもんね。 ソレは「詐術」っしょ! |
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残念でしたぁ。 単に黙秘していた場合、 単に「能力者である」(質問の場合は、21歳と答えること)と述べること、 は「詐術」には該当しないのよね。 この点については判例もあるわ。 『単二自己ノ能力者タルコトヲ述へ、若クハ他人ノ誤信ヲ知リナカラ自己ノ無能力者タルコトヲ黙秘シタル二過キ』ない場合は「詐術」に該当しないの(大判大正6年9月26日)。 |
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マヂで!? だって、嘘ついてんじゃん! 騙すつもりないなら、年齢聞かれたのに黙ってたり、違う年齢言うなんて有り得なくない? |
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私が「詐術」の定義をしているわけじゃないからね。 そんなに責められても困るんだけどなぁ。 でも、サルが言う程簡単じゃなかったでしょ? だからこそ勉強して理解する必要があるってワカッテくれればいいと思うよ? じゃあ、ついでにもう一つ質問しちゃおっかな? この場合は、「詐術」にあたるかどうか考えてみて? 街頭のキャッチセールスってあるじゃない。 ある未成年者が、そのキャッチセールスに捕まって、そのセールスマンの指示に従って、自分の生年月日を偽って記入して契約した場合。 これは「詐術」にあたると思う? |
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うーん、そのキャッチが年齢偽るように指示しているからなぁ。 自分から、年齢詐称をするように言っておいて、後から、それを「詐術」だって言って、未成年者の取消権行使を排除するなんてことは認められない気がするけど・・・ でもまぁともかく「詐術」にはあたらないって、あたしは思うよ。 |
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私も藤先輩の意見と同じです。 その場合は「詐術」ではないと思います。 |
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そうね。今の質問の場合は、「詐術」にはあたらないと判例もしているわ(茨城簡裁昭和60年12月20日)。 キャッチセールスマンの指示も、サルがいうようにあった事案だからね。 |
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ウキっ! あたしイケてる! |
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じゃあ、少し今の質問をイジってみて・・・ 街頭のキャッチセールスってあるじゃない。 ある未成年者が、そのキャッチセールスに捕まって、そのセールスマンの指示もないのに、未成年者自身がどうしても、そのセールス商品が欲しくって、勝手に、自分の生年月日を偽って記入して契約した場合。 これは「詐術」にあたると思う? 赤になった部分が、さっきの質問との違いなんだけど、今度はどう考える? |
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うーん・・・ 流石にソレなら「詐術」かなぁ・・・ 自分で勝手にやってんだし、「詐術」でいいんじゃない? |
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でも街頭のキャッチセールスの勧誘って、結構強引だし、私は怖いです・・・。 でもでも、質問の未成年者の方は、実際、自分が商品欲しくて、年齢を偽っているんだから、やっぱり「詐術」なのでしょうか? でもでもでも、キャッチセールスの人だって、私たちみたいな若い人ばかり狙ってやってるし、そういうリスクだってあるって知っている気もするし・・・ う・・・難しいです・・・。 |
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言葉の概念からすれば「詐術」にあたると考えるのが普通かもね。 ただ、今、ナカちゃんが言ったようにキャッチセールスという販売方法自体が、高校生や20歳前後の若者をターゲットにして、その法律的無知につけ込んで強引に契約を締結させてしまうというものよね。 そういう販売方法であるならば、未成年者の行為が「詐術」と判断されたとしても、街頭で若者を誘い込むような勧誘方法をとっているセールスマン側に、相手に対して身分証明書の提示などで年齢を確認する必要があり、これをしなかったのであれば「誤信」する上で過失があったとして民法21条による保護を受けられない、と考えるべき、とされているわ。 私は、すごく納得できる考え方だけどね。 「詐術」にあたるかどうか、って質問だったから、その先まで考えることは、ちょっと難しかったよね。 でも、ナカちゃんナイストライだったね! |
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わーい! 連続正解!! |
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ちょっと「詐術」に該当しない行為の話に終始しちゃったね。 じゃあ、ここで、そのものズバリ! つまり、ナニが詐術にあたるか? って定義を言うわね。 積極的術策を用いた場合は、勿論「詐術」に該当するんだけど・・・「詐術」とは、単に黙秘するだけでなく、『ふつうに人を欺くに足りる言動を用いて相手方の誤信を誘起(「誘発」の意味)し、または誤信を強めた場合』をいうとされているわ。 (最判昭和44年2月13日 百選T 6事件) あ、説明が前後しちゃったけど、「積極的術策」とは、戸籍謄本の偽造や、他人に自分を能力者であると偽証させる等の行為のことをいうのね。 まぁ、これは流石に「詐術」と判断できるかな、って思って説明飛ばしちゃったんだけど・・・ゴメンね。 じゃあ、この理解ができたかどうか確認の意味で質問しちゃうわね。 |
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連勝街道驀進中だからね! ドンドン来いって感じだからね! |
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それじゃ、いくわよ? 質問。 18歳の未成年者が、20歳の友人と一緒にノートパソコンを売却しようとお店に行ったの。 お店の人が、18歳の未成年者に「幾つですか?」ってきいたところ、20歳の友人が、自分の免許証を見せて「彼と僕は同じ年で20歳ですよ」って言ったの。 それでお店の人は、それを信じてノートパソコンを買い取ってくれたのね。この間、18歳の未成年者は、ずっと黙っていた・・・ って事案を考えてみて? 未成年者18歳の行為は、「詐術」にあたるでしょうか? |
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「詐術」と認定しますた! | ||
「詐術」とは、単に黙秘するだけでなく、『ふつうに人を欺くに足りる言動を用いて相手方の誤信を誘起し、または誤信を強めた場合』をいうとされている・・・という判例の「詐術」の定義に当てはめると、18歳の未成年者は、黙秘しているだけではなく、20歳の友人の免許証提示や、彼も自分と同い年であるという言動についても黙すことで利用しています。 したがって、18歳の未成年者の行為は「詐術」であると思います。 |
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そうね。 ナカちゃん大正解! サルは・・・ナニ、その理由もない答えは・・・ 連続正解もナニも、そういう答え方は求めてないから! 今の質問の事案は、未成年者の場合だったけれど、未成年者以外の制限行為能力者には、成年被後見人、被保佐人、被補助人という定型もあるって言ったよね。 被保佐人、被補助人の場合に、「詐術」に該当するとされた判例としては、被保佐人が、「あなたは被保佐人ですか?」という問いに対して、これを否定し、さらに「市役所・裁判所に問い合わせてみよ」と答えた行為を、「詐術」にあたるとしているわ。 (大判昭和2年11月26日) 他にも、被保佐人が、自分が制限能力者であることを隠蔽する目的で、「相当の資産を有するので安心して取引されたい」と述べた行為を「詐術」にあたると判断した判例もあるわね。 (大判昭和8年1月31日) |
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こくこく(相槌) | ||
最後に。 要件のBでは、詐術により誤信したこと、が挙げられていたわよね。 つまり、「詐術」と判断される行為があったとしても、その行為によって、相手方が「誤信」しなければ、この場合は民法21条適用による保護はないことになるわ。 例えば、小学校低学年の小さい子が、お店にやってきて「ボクは21歳だ。」と言っただけではなく、お兄さんの免許証でも持ってきて、「これがボクの年齢が本当だっていう証拠だ!」と言ったところで、相手は小学生、それも低学年なのよね・・・ この子を相手方が、未成年者と見破れないことには無理があるわ。 なのに、この子の言動があったことをいいことに、取引しておいて、後から、この小学生の子の親の取消権を排除することは出来ないってことね。 だって、そもそも騙されていなかったんだもん。 |
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こくこく(相槌) | ||
今日は、サル真面目に最後まで聞いていたじゃないの。 良かったよ! |
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このナカたんの真似が良かったのかな? とりあえず、コクコクって相槌打ってると、なんかワカッタ気がしてくるよ! |
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ソレでワカルなら苦労はないと思うんだけど、サルがそう思えるのなら、プラシーボ効果はあるかもね。 | ||
真似されるのは恥ずかしいです。 | ||
こくこく(相槌) | ||
ちょっと、ナカちゃん嫌がっているじゃないの。 大体、ナカちゃん、そんなアホ面して頷かないわよ? もっと、締まった顔して聞いているわよ? |
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いや、顔の造りは言わないで欲しいなぁ。 大体、光ちゃんなんて顔完全に造り物だからね。あたしなんて、ほぼスッピンだけど、光ちゃん、それどんだけ時間かけてんだ、って話だよね。 |
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私、そんなに盛ってないじゃないの。 ファンデに、眉とアイライン、リップくらいよ? |
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あたしは朝、顔洗ってくるだけだお? | ||
そんなの、あんたくらいよ。 別に私、シャドウもチークもシェーディングもしてないもん。 造り物呼ばわりされる覚えなんてないから。 |
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藤先輩、スッピンなのに綺麗です。 | ||
流石、ナカたんっ! 本物の美しさがワカッテル! あのイミテーション女とは違う本物のもつ輝きが、あたしにはあるからね! |
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ちょっと・・・ あんまり言うと、私も怒るわよ? |
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・・・あ、あ、明智先輩もお綺麗です・・・ | ||
え? え? そ、そう? ナカちゃんだって可愛いよ? |
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うわぁ〜。 ナカたん、言わされてる感、半端ねぇ〜! |
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違います、違います! 本心です! 本当に明智先輩、御綺麗です! |
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また、その必死さが痛々しい〜。 ワカル、ワカル。 光ちゃん怖いもんね。 |
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や、や、やめて下さい。 私、本当にそう思っているのに、そんな言い方されちゃうと・・・ |
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光ちゃんがキレるから言わされてるってことバレちゃうもんね? | ||
も、もう、ホントに許して下さい・・・ | ||
ナニよ・・・ あんた、私とやろうっての? |
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ちょっと、ちょっと。 怒るなら、あたしじゃなくってナカたんじゃないの? |
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も、も、もう帰りたいです・・・ |