最判昭和30年10月7日 〜芸娼妓契約〜 |
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民法での判例再現は、ホント久し振りよね。 検討判例自体は少なくないはずなのに、判例再現は、ほとんどしていないもんね。なんでかしらね? それじゃ、配役から伝えるわね。 今回は、私はナレーターで。 芸娼妓契約を結んだ貸主を、サル。 芸娼妓契約を結んだ借主を、つかさちゃん。 本件芸娼妓契約により酌婦業をすることとなった娘を、ナカちゃん。 ってことで、お願いするわ。 |
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ナレーター |
本件で問題となる芸娼妓契約とは、酌婦業(お酒を注ぐことを仕事とする女性)の名の下、現実にはほぼ全て売春強要を伴うものであり、しばしば同契約による不当な人身拘束も行われるものだったの。 昭和25年末。 16歳の娘(ナカちゃん)の親(つかさちゃん)の1人は、料理屋を経営する貸主(サル)から、4万円を借金すると共に、娘を、貸主の経営する料理屋に住み込ませ、報酬の半額を借金の返済に充てる契約(芸娼妓契約)を結び、娘の親のもう1人は、本件契約の連帯保証人となったわけ。 |
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おい! ナニ、ちんたらしとるんじゃ! とっとと、働かんと飯食わさんぞ! しけた面してんじゃねぇよ! 客とってこい! 客っ!! |
貸主 |
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16歳の娘 |
(ガクガク ブルブル) こんな所、イヤです・・・ 家に帰りたいです・・・ |
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働かへんと借金返せへんぞ? もっとも、お前の稼ぎなんて、少なすぎて、借金の返済に充てるどころか、日々の生活費への充当で消えてまっとるけどな! |
貸主 |
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16歳の娘 |
もう、こんな生活耐えられないです! 私は逃げ出すです!! |
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あのアマァ!! 逃げよったわ!! とっ捕まえて、シバキ倒したらぁ! |
貸主 |
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捕まえたで? このクソガキが! 逃げて、手間かけさせやがってからに! |
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貸主 |
おいおい! お前んとこの娘ときたら、ろくに働きもせんと、逃げ出す始末やで? こんなガキ、もういらんで返すわ! 代わりに、お前に貸した金の残りを返してんか? |
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娘の働く分の前借として借りたお金を返せ・・・と言われるのですか? 一応、私どもの娘は、おたくで半年とは言え、働いていたはずですので、その分は借金が減っていますよね? |
借主・娘の親 |
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貸主 |
そんな雀の涙程度の金、あいつの生活費やらなんやらで消えとるわ! ええから、とっとと貸した金返せや! |
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ナレーター |
しかし、借金を返済しない親に対して、貸主側は裁判に訴えました。 第一審は、貸主側の請求棄却。 第二審では、酌婦稼動契約と報酬からの返済特約については民法90条違反としましたが、借金についての消費貸借契約自体は有効だとして、娘の両親らに対して、返還することを命じました。 そこで、娘の両親らは、酌婦の稼動と、借金(前借)とは、一体として公序良俗に反するとして最高裁に上告したのでした。 |
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そこまで・・・で、いいんだけど、サル、あんた、ハマり過ぎじゃない? なんで、こんな悪人役に、そこまでハマれるのよ? |
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え・・・ あ、アレじゃない? コレもまた本から得たマメだよね、うんうん。 |
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嘘です! 嘘です! 本から得たマメ知識で、ここまで悪質な人間性を表現するなんて土台無理な話です! しかも、逃げた私を捕まえた際に、さり気にお尻をツネッて来てたです! |
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いやぁ、アレは見えていないところであってもリアリティーを追求する黒澤流って奴だよね? 逃げた娘を捕まえたら、それくらいはするでしょ? |
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す、す、すみません・・・ 私、そこまで役に入り込めていませんでした。 判例再現なんだから・・・っていう甘えが自分にあったことを、今の藤さんの言葉を聞いて恥ずかしく思います。 |
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違うからっ!! 判例再現するのに、迫真の演技、ましてや黒澤流のリアリティーなんて、誰も求めていないからっ! いいから、あんた、すぐにナカちゃんに謝りなさいよ! |
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ゴメンね? (このチビッ子っ! チクってんじゃねぇお! ツネリっ!!) |
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痛いですっ!!! 明智先輩! 藤先輩が、また今、私のお尻をツネッてきたです!! |
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ナカちゃん・・・ アレ貸してくれる? 持ってきてんでしょ? |
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アレ? アレってなんですか? |
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例のアレよ。 ナカちゃんお手製のストロングライフよ。 |
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あ、そう言えば、携帯していたの忘れていました。 小型化に成功したせいで、重さがないので自分でも持っていること自体、忘れてしまっていたみたいですね。 |
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んみゅ? ナニ、さっきからソッチで、ブツブツ言ってんの? 判例検討せんくてええの? |
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悪霊退散っ!!! (ブシュゥゥゥゥッ!!) |
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ホゲゲゲゲゲゲっ!! こ、こ、コレは・・・ この目を激しく刺激する痛み・・・まさか、コレは・・・ あのナカたんお手製の!? |
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小型化に伴いタンク容量が減ったので、その分レモン汁の希釈率を下げ、一撃の威力を従来の三倍増にまで高めました。 どうやら効果は覿面のようです。 |
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ふ、ふ、藤さんっ!! 大丈夫ですか? |
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し、し、死んだ爺ちゃんが見える・・・ | ||
じゃあ、サルはほっといて、判例検討しましょうか。 事案のポイントは 自由を極度に制限する行為といえる芸娼妓契約が、公序良俗に反するものだとして無効とされたとしても、消費貸借契約自体は、尚、有効といえるかどうかってことよね。 それじゃ、ちょっとバタバタしてて時間くっちゃったから、早速判例の判断を見てみましょ。 |
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最高裁判断は、次のものね。 『娘の親は、その娘に酌婦稼業させる対価として、貸主の先代から消費貸借名義で前借金を受領したものであり、貸主の先代も、娘の酌婦としての稼動を目当てとして、これあるがゆえにこそ前記金員を貸与したものということができるのである。 しからば、娘の親の右金員受領と、娘の酌婦としての稼動とは、密接に関連して互いに不可分の関係にあるものと認められるから、本件において、契約の一部たる稼動契約の無効は、ひいて契約全部の無効を来たすものと解するを、相当とする。 大審院大正7年10月12日および大正10年9月29日の判例は、いずれも当裁判所の採用しないところである。 従って、本件のいわゆる消費貸借および娘の親のなした連帯保証契約は、共に無効であり、そして以上の契約において不法の原因が受益者すなわち娘の両親らについてのみ存したものということはできないから、貸主は、民法708条本文により、交付した金員の返還を求めることはできないものといわなければならない。』 あ、因みに、最高裁が採用しないとして引用している2つの大正時代の判例は、いずれも稼動と前借りとを分けて、後者を有効と判断しているものなのよね。 |
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やったです! やったです! 二審では、どうなることかと思いましたが、最高裁で大逆転です! |
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そうね。 この芸娼妓契約は、前借金を伴うために、結果として、契約の対象となる女性を不当に拘束するものであって、いわば、人身売買と同様の契約となっているものと言えるからね。 こんな契約は、前借金契約(消費貸借契約)も、契約の不可分性を認めて、契約全部が公序良俗違反で無効だっていう結論じゃないと駄目よね! |
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死んだ爺ちゃんが、綺麗なお花畑の向こうの川から、あたしに手招きしてくれてる・・・ | ||
ちょっと、あんた聞いてるの? 久し振りの民法の判例再現だって言うのに、ナニよ、その態度は! |
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うんうん。 爺ちゃん、フジは元気でやってるよ? 大丈夫、大丈夫。 コッコ(小=チイ)も元気だから心配しなくっていいって。 |
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・・・ナカちゃん、コレ大丈夫なの? | ||
あ、あ、明智先輩・・・。 今、気付いたんですが、私、小型化の際に、タンクにコレを使ってしまっていました・・・。 |
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ん? タンクにナニか書いてあるわね? え〜と・・・ 『舞妓はんひぃ〜ひぃ〜』? |
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「狂辛」とまで銘打つ激辛の七味です・・・。 思い返すに、私、タンクをしっかり洗わずに使用してしまってました・・・。 |
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ううん! 大丈夫っ!! 気にしなくっていいわよ! いつものサルを思えば、まだまだこれでも足りないくらいよ! |
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・・・流石に頷けないです。 |