最判昭和35年2月19日 | ||
ねぇ、まだ? 判例検討するって言うから、わざわざみんな立ち上がったのに、ナニしてんのよ? |
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あ・・・もうちょっと待ってね。 今、誰が、どの役をするのが一番適任か、配役検討してんだよね。 (黙れ! 金満豚めっ! あたしは、事案も知らないんだよ! 今、登場人物把握してんだから、黙って待ってろ!!) |
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わかります、わかります。 藤さんは、何と言っても黒澤流のリアリズムを追求されるくらいの人ですから、配役にだって拘りがあるんですよね。 私、待ってますよ! |
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(よし・・・事案はさっぱりワカラナイけど、登場人物の把握はできたかな。 後は、配役した人に、事案説明任せることにしよっと。) えーっと、それじゃ配役を伝えるね。 今回は、あたしはナレーターで。 金融会社の投資勧誘外交員を、つかさちゃん。 その投資勧誘外交員の長男を、ナカたん。 ナカたんと取引をした相手方を、光ちゃん。 ってことで、お願いするね。 少し事案が複雑だから、簡略化してくれちゃっていいからね。 (っていうか、ぶっちゃけしろ! この事案、読んでて、全然わからないよ!!) |
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ナレーター | ・・・投資勧誘外交員のつかさちゃんが居ました。 つかさちゃんには、その長男に、ナカたんがいました。 ん? あぁ、もうやっちゃっていいよ。 |
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金融会社への投資を勧誘する外交員をしてるけれど、最近、病気がちで外交員としての勧誘も、ままならないなぁ。 そうだ、ここは私の長男に、一切任せることにしよう。 |
投資勧誘外交員 |
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外交員の長男 |
お父さん、呼びましたですか? | |
お前も知っていると思うが、私は、ある金融会社の外交員をしているが、最近病気のせいで勧誘活動ができない。 お前に一切任せるんで、やってくれないかい? |
投資勧誘外交員 |
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外交員の長男 |
わかったです! やるです! |
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それじゃ、金融会社への投資をお願いに行く勧誘活動をするです! ごめんくださいです! |
外交員の長男 |
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取引の相手方 |
はいはい。 なんでしょうか? |
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いい投資話をもってきたです! 私の紹介する金融会社に投資すると、一般の金融機関の利息よりも高利で、美味しいです! 是非、その金融会社に投資してもらいたいです! |
外交員の長男 |
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取引の相手方 |
うーん。 なかなか魅力的だけど、その金融会社の経営は大丈夫なのかい? |
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大丈夫です! でも、高利とは言え、所詮利息ですから、やっぱり元本は大きいに越したことないです! 元本は大きく入れるです! |
外交員の長男 |
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取引の相手方 |
大きいお金を預けるとなるなら、正直、保証人が欲しいなぁ。 じゃあ、こうしてくれないかい? わしが、その金融会社にお金を預けるんで、その金融会社の債務の保証人に、あんたんとこの親父さんが、なっとくれよ。 それなら、わしも安心だからね。 |
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まぁ、たしかに父は、地元でも指折りのお金持ちですから、その父が保証人なら、あなたも安心でしょうです! わかったです! 父を保証人にするです! |
外交員の長男 |
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それじゃ、この保証契約書に、父の名前で契約するです! 印鑑も父のものを押しておくです! はいです! 保証契約書です! |
外交員の長男 |
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取引の相手方 |
あぁ。 これなら、わしも安心だよ。 仮に、わしがお金を預けた金融会社が潰れても、わしは、保証人のあんたの親父さんにお金を返すように言えばいいんだからねぇ。 |
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ナレーター | しかし、その後、取引の相手方が、お金を預けた金融会社は倒産しました。 | |
取引の相手方 |
ナニがいい投資話だよ。 結局、あの会社倒産してるじゃないか。 まぁ、保証契約を結んでおいて正解だったな。 ちょっと、ちょっと、保証債務の履行を請求しに来たんで、わしの金を返してくれませんかね? |
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保証契約? なんの話ですかな? 私には、なんのことかサッパリですが・・・。 |
投資勧誘外交員 |
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取引の相手方 |
ほれ、この保証契約書を見とくれ。 あんたの氏名も、印鑑も押してあるだろ? あんたんとこの息子さんが、あんたの代わりに作ってくれたんだよ。 |
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それなら、それは息子が勝手にやったことでしょうよ。 私は一切関知していないんですから、そんなお金を返せなどと言われても困ります。 払えません。帰ってください。 |
投資勧誘外交員 |
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取引の相手方 |
なんだい。 いいさ、いいさ、こっちには保証契約書もあるんだ。 訴えてやるからな! |
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えーっと、そこまでかな? | ||
私、こんな悪い息子さんの役はイヤです。 私が、この中では、一番身体が弱いんですから、病気のお父さんの役が適役だと思うです! |
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(だって、事案読んでないから病気の下りは把握してないもん、仕方ないじゃない!) いやぁ、でもナカたん年下だから、つかさちゃんの子供って方がシックリくるかなぁ、って思ってさぁ。 |
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あんたのナレーターが、えらい説明省略してくれたせいで、みんな説明口調になっちゃったじゃないの。 | ||
違うよ。ソコは黒澤流の演技力があればカバーできたんだよ。 病気のお父さんは、自分で病気です、なんて言うんじゃなくって、咳払いや、元気のないか細い声で、病弱っぷりを伝えてくれないとダメなんだよねぇ。 |
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仰るとおりです。 本当に申し訳ありませんでした。 私、藤さんの求めるところの半分も出来ていないことが情けないです。 |
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だから、判例再現するのに、そこまでの演技力を求めないでよね! つかさちゃんも、真に受けなくっていいから!! |
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(おっとっと。 ヤバい、ヤバい。 雰囲気、雰囲気。 雰囲気を大事にしとかないと。) いやぁ、でも、みんなホント良かったよ? ケチつけられるのは、あたしのナレーションくらいっていうくらい、みんな良かったから。 これなら、判例の事案も争点も、バッチリなんじゃない? |
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はい。 質問した事案については、よくわかったです。 |
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うんうん。 よかった、よかった。 それじゃ、この判例の争点はナニか? ってことだね。 わかってるか聞いてみよっかな? (・・・因みに、あたしは、むぁ〜ったく分かってないけどね!) じゃあ、訴えられた被告役の、クロちゃん。 この事案の争点を、まとめて下さい。 |
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わ、私ですか? 今回の事案では、私の長男役の竹中さんの行為は、本人である私の知らぬものであった以上は、無権代理と言えます。 しかし、長男の取引の相手方である光ちゃんは、私に保証債務の履行を請求しているわけですから、この竹中さんのとった無権代理行為である保証契約に表見代理を成立させて、保証契約の効果を私に帰属させたいと思っています。 しかし、保証契約を有効なものとして、その契約締結の効果を、本人である被告・・・すなわち、事案における私に帰属させることを求めるのであれば、代理権限外行為の表見代理(民法110条)を成立させないといけません。 この点、民法110条は、その成立要件の1つに、代理人に何らかの代理権(=基本代理権)があることを求めています。 そこで、長男の竹中さんが本人である私を代理する権限のあったことを証明せねばなりません。 本件事実下においては、長男の竹中さんは、本人である私に代わって、金融会社への投資勧誘活動をしてくれています。 しかし、勧誘活動は、法律行為ではなく事実行為です。 本件の争点は、この勧誘活動の代行権限、すなわち、事実行為の代行権限が、民法110条の成立要件である「代理人に何らかの基本権限があること」にいう基本代理権といえるのか、ということです。 |
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(いやぁ、長いなぁ。 ナニ言ってるのか、長くて逆にワカラナくなったよ・・・ コレ、最後のとこが争点ってことだよね?) まぁ、つまり争点は、事実行為(=勧誘活動)についての代理権が、基本代理権といえるのか? ってことだね。 |
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流石、藤さん。 一行で、端的に争点をまとめて下さいましたね。 その通りです。 |
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最高裁の判断は、次の内容だね。 (コレは、判例百選に頼っちゃおっと。ウキっ!) 『本件において、民法110条を適用し、本人の保証契約上の責任を肯定するためには、先ず、本人の長男が本人を代理して少なくともなんらかの法律行為をなす権限を有していたことを判示しなければならない。 しかるに、原審がるる認定した事実のうち、長男の代理権に関する部分は、本人は、勧誘外交員を使用して一般人を勧誘し金員の借入をしていた金融会社の勧誘員となったが、その勧誘行為は健康上自らこれをなさず、事実上長男をして一切これに当らせて来たという点だけであるにかかわらず、原審は、長男の借入金勧誘行為は長男が本人から与えられた代理権限に基づきこれをなしたものであることは明らかである旨判示しているのである。 しかしながら、勧誘それ自体は、論旨の指摘するごとく、事実行為であって法律行為ではないのであるから、他に特段の事由の認められないかぎり、右事実をもって直ちに長男が本人を代理する権限を有していたものということはできない筋合であって、原判決は法令の解釈を誤ったか又は審理不尽理由不備の違法があり、論旨は理由があるものといわなければならない。』 つまり、事実行為の代理権限は、基本権限にならないってことだね。 |
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なるほどです! まとめも一行で、ワカリヤスイです。 |
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うーん、私は個人的には、事実行為の代理権限であっても、基本権限といえる、という学説の有力説が、シックリ来るんだけどね。 この有力説の立場からは、本人が対外的な関係を予定しつつ、ある行為をなすことを委託したという事実があれば、110条の基本権限といえる、といえるのよね。 だって、事実行為と言っても、その内容は千差万別よ? 対外的に見て、法律行為に劣らない社会的・経済的重要性を有するものだってあるわけだし、逆に、法律行為と言っても、その内容は些細な取引の場合もあるわ。 例えば、うまい棒1本買うことだって、立派な売買契約なんだから、法律行為よ? 善意の第三者の保護が、制度趣旨であるならば、110条の適用の間口を広げていいと思うのよね。 本人との利害調整は、110条の成立要件であるBの相手方が、代理権があると信じ、かつ、そう信じることにつき「正当な理由」があること、という「正当な理由」で図ればいいと言えるからね。 ただ、判例は、今、サルが説明してくれたように、事実行為の代理権限は、基本権限とはならないとしているから、まぁ、その理解でもいいとは思うわ。 |
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(あ、なんか個人的には、あたしも、ソッチがシックリ来るかも。 まぁ、でも理由うまく言えそうにないから、判例の立場で理解しとこっと。) うんうん。そういう考え方もあるよね。 とまぁ、こんなところでいいかな? 久し振りに、判例検討すると、やっぱり疲れるねぇ。 |
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藤さんは、争点も、判例のまとめ方も、すごく短くって驚きました。 いつもの藤さんの何気ない一言が、すっごく重たい言葉に感じました。 |
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サルのまとめはザックリしてるけど、的を得ているときは、すっごくいいと思うわよ? ・・・ただ雑なだけのときもあるんだけどね。 |
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まぁ、まぁ。 長所は裏返せば短所ってことで。 |