債務不履行C 履行不能A

債務不履行類型の一つである履行不能について前回から学んでいるわけよね。
今回は、その2回目になるわ。

今日の勉強会では、履行不能の要件と効果について整理しておくわね。
  こくこく(相づち)。
履行不能の要件は、次のつになるわ。

@履行期に履行が不可能なこと
A履行不能に違法性阻却事由がないこと

 (=履行しないことが違法であること

因みに、履行不能における債務者の帰責性の要否についてだけれど、履行不能が、債務者の責に帰すべき事由に基づくことは、履行不能の要件ではないわ。
ソレは、履行不能による損害賠償請求権の成立要件になるわね。
えーっと、つまり履行が不能になったかどうかということと、それが債務者の責の帰すべき事由によるものかどうかは関係がない、ということでしょうか?
そうね。

履行不能という事実(状態)があれば、それによって履行請求権の権利行使が阻害されるわけだからね。
履行不能が債務者の帰責事由によるかどうかは、この後の勉強会で学ぶ損害賠償請求権との関係免責事由という形で関係)において意味をもつ話になるわ。
  ふむふむ。
ソレじゃ、次は履行不能の効果についてね。
履行不能の効果は、大きくつ挙げられるわ。

1)損害賠償(=填補賠償
2)契約の解除
3)代償請求権

ね。
一つ一つ見ていくことにしましょうか。
おわぁーーれぇーーー、おわぁーーーれぇーーい。
早くおわぁーーーーれぇ〜〜〜〜
オゥレイッ!!
・・・。

(ドラマ『トリック』の『絶対死なない老人ホーム』の院長の真似?
 ・・・すっごくマイナーな物真似だと思うです・・・。)
はいっ!
ソコは、変な呪いをかけてこないっ!!

先ずは 1)損害賠償(=填補賠償)からね。
履行不能によって、本来的給付は「填補賠償」へと転化するわ。
  転化
また変わった言葉使っとるね。
なんか意味あるの?
転化」というのは、債務が同一性(「その債務であるという性格」)を保持しながら、その内容を変えることをいうのね。
コレは法律用語だから、言葉は正確に使えるようにしておいてね。

履行不能によって、本来的給付は「填補賠償」へと転化するってことなんだから、填補賠償は、履行利益の賠償ってことになるわね。
この履行不能の場合に、損害賠償を請求するには、債務者の帰責事由が必要となるわ(民法415条後段)。

後の勉強会で、しっかり見ることになるんだけれど、ここでも確認しておきましょうか。
民法415条を見てくれるかしら。
民法第415条 (債務不履行による損害賠償

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
少し細かい論点になりますが、給付の一部が不能の場合、填補賠償は、どうなるのか
という問題もありますね。

この点、給付の一部が不能の場合には、その不能部分について、填補賠償の請求が認められるといえます。
そして、残部の履行可能な部分については、履行請求と遅延賠償とがなされるということになりますね。

もっとも、その一部不能のために契約の目的が達せられないときは、契約の解除が可能といえますから、契約を解除して、給付の全部についての填補賠償が認められます
  成る程、成る程だよぉ。
次は、2)契約の解除ね。
履行が、全部または一部につき不能となった場合に、その不能が債務者の帰責事由によるときは、債権者は、契約を解除することができるわ(民法543条)。

民法543条を見てくれる?
民法第543条 (履行不能による解除権

履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
解除については民法各論で学ぶんだけれど、ここで軽く解除の要件と効果について述べておくわね。

解除の要件は、

@履行期に履行が不能なこと
A債務者の責に帰すべき事由によるものであること


要件ね。
あれ?
解除の要件には『催告』が必要じゃなかったっけ?
ソレは、履行遅滞による法定解除権民法541条の行使の場合に求められる要件ね。

履行不能の場合には、目的物の履行が不能になっているわけなんだから、履行を催告することは無意味よね。
だから、履行不能による解除は、無催告解除になるわ。
そうか、そうか。
ちょっとゴッチャになっちゃっていたよぉ。
履行不能の場合の解除権は、履行不能が生じたときに発生するわ。
整理しておくと・・・

履行期に、履行が不能であれば、履行期に、解除権が発生
履行期前に、履行が不能であれば、履行不能時に、解除権が発生
履行期後、履行遅滞中に、履行が不能となったときは、その履行不能時に、解除権が発生することになるわね。
馬鹿の一つ覚えみたいに「利口」「利口」って。
12回も連呼してんじゃないの!
どんだけ自分が賢いと思ってんだお。
・・・一体、ナニを数えているですか。
「利口」じゃなくって「履行」だから!

解除の要件つ目。
A債務者の責に帰すべき事由によるものであること
は重要よね。

債務者の責に帰すべき事由によらず履行不能となったときは、勉強会で少しだけ触れた危険負担の問題となるわけだからね。
このあたりは各論の論点だから、今はこのくらいにしておくわね。

というわけで
@履行期に履行が不能なこと
A債務者の責に帰すべき事由によるものであること

2要件が充足されているのであれば、履行不能による解除が認められるわ。
解除をすれば、債権関係は消滅するから、自己の反対債務も、履行を免れることとなるわね。
解除をしても、なお、債権者は、損害賠償請求をすることはできるわ。

このあたりの詳しい話は、また債権各論の勉強会で改めてってことにしておくわね。
  カイジョはタッカイジョ!!
(・・・あうあうあうあうあう。
 また、あの面白くもない駄洒落を言い出したです。
 しかも微妙なマイナーチェンジを加えてきてるです!)
  カイジョはタッカイジョっ!!
カイジョはタッカイジョっ!!
・・・。

(そしてチイちゃんは、またノリノリです・・・。)
はいはい。

ソレじゃ、履行不能の効果つ目。
3)代償請求権
についてね。

債務が履行不能となったときは、債権者は、もはや履行請求権を行使することはできないわ。
しかし、履行不能を生じさせたのと同一の原因によって、債務者が、履行の目的物に代わる利益・権利(=代償)を取得した場合には、債権者は、債務者が得たこの利益・権利の譲渡を、請求することができるのね。
これを、代償請求権というわ(判例通説)。

イメージを掴みやすいように具体的な事例を挙げておくわね。
もうお馴染みになった、サルとナカちゃんの家の売買契約の図を使いましょうか。
サルは、ナカちゃんにサルの家を売却したのね。

でも、その際に
家の売買代金の全額を支払われるまでは、家の所有権はサルに留保する
という合意が交わされていたの。

また、ソレとは別個に、サルの家は、火災保険に入っていたのね。

ところが、サルとナカちゃんとの売買契約締結に、サルの家は何者かの放火によって焼失してしまいました。

さて、この場合のサルとナカちゃんの法律関係は、どうなるでしょうか?
っ問題を考えてみて欲しいわ。
建物売買の際に、建物の所有権は、いまだ売主(債務者)のオネーちゃんに留保されているわけだよね。
ということは、売主のオネーちゃんは、建物が焼失してしまったけど、家には火災保険をかけていたんだから、火災保険金が下りると思うよぉ。
ほほう。
ってことは、あたしは家を火事で失ったけど、火災保険のお陰で助かるわけね。
ただ、この事案のオネーちゃんとナカちゃんとの売買契約の目的物は、オネーちゃんの家という特定物だよね。

ということは、家の焼失原因が、何者かの放火ってことだと、債務者のオネーちゃんもナカちゃんもドッチも悪くない(=帰責事由がない)ってことだから、特定物売買において売主(債務者)の責めに帰すべからざる事由による履行不能ってことで、危険負担の問題になるよね。

えーっと、民法534条1項になるのかな?
条文は、私がひくです!

民法第534条 (債権者の危険負担

1項 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

2項 不特定物に関する契約については、第401条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。


です、チイちゃん!
ふむふむ。

ってことは、あたしは家の所有権をもっとるんだから火災保険金は、あたしが取得する。

んでもって、売買契約の目的物が特定物(家)で、燃えたのは、あたしが悪いわけやないんだから、家の代金は消滅することなく、チビッ子1号に請求でける、と。

うわっ!
めっさお得やないのっ!!
・・・私は引き渡される家もないのに代金を支払うっていうのに、藤先輩は、家の売買代金も保険金も貰えるなんて、バランスが悪いと思うです。
そうよね。

534条1項が、そのまま適用されてしまうと、買主(債権者)であるナカちゃんは、目的物(家)の引渡しを受けることができないにもかかわらず、売買代金を売主(債務者)であるサルに支払わなければならないことになってしまうわけよね。
他方売主のサルには、保険金に売買代金まで・・・。
この結論は、ナカちゃんが言うようにバランスに欠けるわ。
  んなことない!
あたし大勝利っ!
なんも問題ないっ!!
バランスが悪いって思わないサルの感覚こそが問題だと思うんだけれど。

ただ、このような場面において、買主(債権者)であるナカちゃんは、代償請求権を行使することによって、自らの被る不利益を回避することができるのよね!

この代償請求権を行使することによって、事案における債務者のサル火災保険金を取得したときは、債権者であるナカちゃんは、債務者であるサルに対して、火災保険金請求権の譲渡を請求することができるわけね。
バランスがいいと思うです!

藤先輩は、保険金は受け取れませんが、売買代金は私から受け取れるです。
私は、家も受け取れないのに代金は支払わなければならないですが、火災保険金を受け取れるです。
そういうことになるわね。

さて、この代償請求権の成立要件だけれど

@履行不能の存在
A履行不能を生じさせたのと「同一の原因」によって、債務者が、代償(利益・権利)を取得したこと


つになるわ。

債務者の帰責事由を不要判例通説)としている点が、損害賠償との大きな違いになるわね。
あ、確かに。
何者かによる放火なんだから、債務者のあたしは、なんも悪くないもんね。
帰責性なんてないよね。
代償請求権の成立要件については、Aの「同一の原因」から生じた代償といえるかが一番の問題となるわ。
典型例としては、さっきの事案のような火災保険請求権が、そうね(判例通説)。
もっとも、火災保険金は、火災保険料の支払いの対価として生じたものであり、履行不能を原因として発生したものではないので、「同一の原因」から生じた代償ではない、とする一部の保険法学者からの反対説もありますけどね。
成る程ねぇ〜。
ソレも、言われてみれば、ごもっともな意見だよねぇ。

でも、そもそもあたしが、あたしん家を火災保険に入っていなかったら、代償請求のしようがないってことになるわけでしょ?
そうとは限らないわ。

今回の事案では、放火をしたのは「何者か」ってことで不明にしているけれど、建物を放火した犯人を特定できる場合には、その放火犯に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生するわけだから、その場合は、その損害賠償請求権に対して、代償請求をかけることも考えられるわけだからね。
ふむふむ。
火災保険契約が締結されていなかったとしても、その場合には代償請求が考えられるねぇ。
納得、納得だよぉ。
問題になるのは社会通念上の履行不能の一例として挙げた不動産の二重譲渡の場合ね。
この場合において、売主(債務者)が登記を経た第二買主から得た売買代金が、第一買主(債権者)にとっての代償となるかについては争いがあるわ。

代償性を肯定する考え方、否定する考え方とあるところだけれど、判例多数説は、代償性を肯定しているわね。

その理由についてだけど、第三者の債権侵害を理由とする不法行為責任(第三者たる第二買主に対して、第一買主(債権者)が債権侵害を理由として損害賠償請求権を取得する)との比較から、実損額を限度として、代償性を肯定すべきである、とする考え方に基づくものね。

難しいところだから、今の段階ではまだ理解できなくっても気にしなくっていいと思うわ。
  ・・・。

(だったら言わなきゃ、ええんだお。)
帰責事由を必要とする損害賠償請求との関係で補足しておきますと、もし債務者に帰責事由のある履行不能のときは、債権者は、損害賠償請求権と、代償請求権の2つを並行して、主張することが出来ますね。
  おおっ!
ソレは大事なことじゃないの!
2つも請求でけて、お得やないの!!
お得ってわけではないわよ?

だって、損害賠償請求権と、代償請求権の2つを並行して行使した場合において、例えば、債権者が代償請求権を行使したことによって利益を得たときは、その限度において、損害賠償請求権は縮減することになるだけだもの。

勿論、その逆も同じことよね(損害賠償請求権を行使したことによって利益を得たとき)。

だから、2つを並行して請求したからと言って、二重取りが出来るわけじゃないんだからね!
・・・あたし大勝利かと思ったのに。
マヂ、民法は使えない子だお。
使えない子は、あんたじゃないのよ!
あんたの使える民法っていうのは、不当利得を貪ることを認めるような法律を言うの?
あたしだけが幸せな世界を実現する民法
ソレが、使える民法だお!!
・・・よくも、そんな事を口に出して言えるわね、あんた。
そんな姿勢なら、もう勉強会やってあげないわよ?
うわっ!!
「やってあげない」なんて、「超」上から目線だお!!
思い上がりも甚だしいおっ!!
何様のつもりだおっ!!
そうですね。
光ちゃんの今の言い方は、あまり感じ良くないですよね。
・・・。

(いやいやいや、それ以前に「藤先輩だけが幸せな世界を実現する民法」という発言についてはスルーしちゃっていいですか!?
 黒田先輩には、藤先輩の問題発言だけをシャットアウトする耳でもついているですか!?)

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