選択債権A

ソレじゃ、今日の勉強会で選択債権についての勉強会を終えることにするわね。

先ずは、選択の効果から説明するわ。
選択の効果を、一口でいうのなら「給付の特定」ってことになるわ。

選択権の行使(=選択)によって、債権は、選択された給付を目的とする単純債権となるわ。
そして、この効果は、選択権発生の時点に遡ることとなるわ(選択の効果の遡及効)。

民法411条を見てくれる?
民法第411条 (選択の効力

『選択は、債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。』
問題となるのは、「選択」以外の原因による「給付の特定」が生じた場合ね。

少し難しい問題になるから、ここは具体的なイメージを持てるよう事案を通じて、理解することにしてもらうわね。

選択債権の目的とされた給付のうちの、ある物が「不能」となることによって、残存する給付に特定する場合があるわ。
 選択による特定と異なり、この場合には、特定の効果は遡及しない

この場合には、次のつがあるわ。
1)原始的不能
2)後発的不能
場合を分けてみていくことにするわね。
  こくこく(相づち)。
先ず
1)原始的不能
の場合ね。

数個の給付の中に、債権成立の時から原始的に不能な物があるときは、債権は、その残存する物について存在するわ。

条文も確認しておきましょうか。
民法410条1項を見てくれる?
民法第410条 (不能による選択債権の特定

『1項 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

2項 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない。』
全ての給付が原始的不能ってことになれば、契約は無効となり、契約締結上の過失が問題になる・・・ってことになるわけだけど、給付可能な物が残存しているのであれば、次のような処理がとられることとなるわ。

@残存する給付が一つのとき
この場合は、初めから単純債権ということになるわ。

A残存する給付が複数のとき
この場合は、残存する給付についての選択債権ということになるわね。
  ふむふむ。
この1)原始的不能の場合は、条文通りの処理で済むわけなんだけど、今から見る後発的不能の場合は、少し難しいわ。
ソレじゃ見ていくわね。

2)後発的不能
数個の給付の中に、後発的に不能な物を生じたときは、2つの場合に分けて考えることになるわ。

@選択権を有しない当事者の過失による不能
A選択権を有する者の過失による不能、および、両当事者の過失によらない不能


つの場合ね。

先ず@選択権を有しない当事者の過失による不能
の場合からね。
この場合は、410条2項の定めに従うこととなるわ。
条文を再度見ておきましょうか。
民法第410条 (不能による選択債権の特定

『1項 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

2項 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない。』
少し条文の言い回しがワカリにくいかも知れないけれど
@選択権を有しない当事者の過失による不能は、選択債権に影響を与えないってことね(410条2項)。
  ん?
つまり、どういうこと?
つまり、選択権者は、不能となった給付を、なおも選択でき、そこから自らに有利な効果を導くことができるってことなのよね。
不能となった物を選択する?
意味なくね?
なんで、そんな物を、わざわざ選択するわけ?
不能となった給付を選択する・・・つまり、その場合の選択権者は、履行不能による損害賠償請求権を取得するってことなのよ。
おぉぉ、成る程、成る程ぉ〜。
具体的な事案を例に理解することにしてもらうわね。

私が所有しているワンピースか、ジャケットを、サルが1万円で購入するという売買契約を、私とサルとの間で締結したのね。
その際、購入するサルに、選択権があるってことにしたわけ。
ところが、売主である私は、その契約を結んだ後に、うっかりワンピースにアイロンで穴を空けてしまった(=@選択権を有しない当事者の過失による不能)の。
焦げ跡や穴は修理不能なものだったってことにしておいてね。

さぁ、この事案における選択権者であるサルは、どういう対応をとることができるか考えてみてくれる?
はいはいはいはい。
そういうことね。

ってことは、この事案のあたしは、残存している物(ジャケット)があるんだから、ジャケットを洗濯・・・
じゃない、じゃない。

ジャケットを選択して、代金を支払うことも出来るし、給付不能となったワンピ−スを選択して、売主である光ちゃんの過失による履行不能を理由に、損害賠償を請求することも出来るってことね!
そういうこと。
理解が早いじゃない。
 
因みに、無論あたしは穴の空いたワンピースを選択すんお!
1万円もする無駄に高いジャケットなんて要らないかんね!
んでもって、しっかり損害賠償してもらうのは当然のこと、さらに
「なぁーに、あたしの欲しかったワンピースに穴あけてくれちゃってんのぉ?
 着たかったのになぁ、このワンピースぅぅぅぅっ!」
って、ネチネチと厭味を言ってやんだお!!
・・・。

(あまりに予想通り過ぎて言葉が出ないです・・・。)
昔っから、オネーちゃんは、他人の失敗や弱みを見付けると、もう鬼の首をとったみたいに責めるんだよぉ。
ホントそうよね。
鬼の首を、延々と見せびらかしてきて、鬼の首がもう干物になっちゃっても、まぁだ「鬼の首!」「鬼の首!」って言って、騒いでそうだもんね。
  ウキッ!
この事案ですが、もしだったら、どうなるですか?
ん? 
逆って、どういうこと?
 
つまり・・・。

明智先輩が所有しているワンピースか、ジャケットを、藤先輩が1万円で購入するという売買契約の締結までは同じなんですけど。

その際の選択権を、藤先輩じゃなくって明智先輩(売主)にするって合意だったとして(=売主の光に選択権)。
さらに、ワンピースに穴を開けてしまったのが、明智先輩じゃなくって藤先輩(=@選択権を有しない当事者の過失による不能)だった・・・っていう逆の場合です。
うーん、その場合は、人は誰しも過ちを侵すものだから・・・。
ってことで、不問に付すべきじゃないのかな?
そんなわけないじゃないのよ!
あんた、私の過失の際には、しっかり損害賠償請求してきておいて、自分のときはナニなかったことにしようとしてんのよ!
まあまあ、光ちゃん、落ち着いて下さいよ。
そうですね。

その場合ですが、売主の光ちゃんが選択債権者なんですから、残存給付であるジャケットを選択して、支払代金の請求を求める、と共に、ワンピースについては所有権侵害の不法行為を理由として損害賠償を求めることも出来るということになるでしょうね。

またワンピースの引渡しを選択して、自己に過失のない履行不能を理由に、引渡義務の消滅を主張する、と共に、買主である藤さんに対して、危険負担により、代金の支払いを求めることも出来ますね(民法536条2項)。
  成程、成程です。
因みに、この事案では、まだ他にも考えないといけない場合もありますよね。

さっき光ちゃんが言ってくれていたA選択権を有する者の過失による不能、および、両当事者の過失によらない不能の場合ですよね。

ここでもう一度、民法410条を確認して頂けますか?
民法第410条 (不能による選択債権の特定

『1項 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

2項 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない。』
この場合の債権は、残存給付について存在することになります(410条1項)。

だから、この場合の選択権者は、不能となった給付を選択して責任を免れたり、あるいは、損害賠償をして残存給付を免れる、といったことは出来ないということになりますね。
そういうことね。
選択債権は、あまり問われない問題だけれど、処理のパターンが分かれるから整理しておくといいわね。
あらら・・・なんか最後はアッサリまとめて終わっちゃったね。
また事案で聞いてくれるのかと思ってたのに。
サルが下らないことで盛り上がっていたせいじゃないのよ!
ウワっ!!
みんなの勉強の為に、より印象の強いものにしてあげよう、という、あたしの老婆心からの行為を「下らないこと」呼ばわりっ!!
ヒドイ、ヒドイ、ヒドすぐるおっ!!
嘘おっしゃいっ!
自分の過失のときには法律論投げ出して、不問にしようとしたくせに!
なんでもかんでも法律で解決することばかりが正解やないんだお。
流石、藤さん。
深い御言葉です・・・。

そうですよね。
人と人との営みの中に、絶えず法律を持ち込むことで、かえって争いになってしまうことも多いですものね。
誰よりも法律を熟知されてみえる藤さんだからこその言葉だと思います。
だおだお。

久し振りに、アレ言っとく?
知に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ、とかく人の世は住みにくい
ってことだよね。
深いです・・・。
藤さんの口から、その言葉を聞くと、より言葉の意味を重たく感じられる気が致します!
・・・。

(・・・誰の言葉だっけ?)
 

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