今日の勉強会からは、選択債権について学ぶことにするわね。 | ||
ほう。 マネーロンダリング的なヤツかな? |
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な、な、なんの話でしょうか? |
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洗濯債権。 | ||
アハハハハハハハ! 藤さん、今日も絶好調ですねっ! |
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・・・選択債権ね。 サルの下らない冗談はさておき、選択債権の定義から先ず伝えることにするわね。 選択債権とは、2個以上の異なる給付を、選択的に目的としている債権であって、選択によって、そのうちの1つが債権の目的となるものをいうわ。 選択債権については、民法406条から411条に規定されているから、今回と次回の勉強会の2回に分けて、その内容を見ていくことにするつもりよ。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
選択債権は、選択によって1つの給付に特定するまでは、履行することも、強制執行することも出来ないわ。 (※ 選択債権は、選択による「特定」の結果、単純債権へと変更する) |
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ふむふむ。 | ||
一つ具体的な事例を出して、選択債権とはどのようなものかを理解してもらうことにするわね。 私は、サルに対して、今私が所有している、このボールペンか、もしくは、このボールペンのうちのいずれかを1000円で、サルの選択に従い売却する・・・という売買契約を結んだとするわね。 この契約によって生じたサルの債権が、選択債権なの。 |
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ボールペンに1000円も払う気はねぇお。 そんな債権はいらねぇお。 |
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事例だから、あんたの気持ちなんて聞いてないわよ。 ここで、条文を見ておきましょうか。 民法406条以下の規定になるんだけれど、先ず民法406条を確認してくれるかしら? |
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民法第406条 (選択債権における選択権の帰属) 『債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。』 |
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この選択することのできる地位は「形成権」なのね。 ただ、この選択権を誰が有するか(選択権者)、どのように選択するか(選択方法)については、406条以下の条文の規定があり、さらに例外的な場合として、履行不能による特定って話もあるわ。 |
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ですが、契約によって選択債権は生ずる場合の多くは、合意または慣習によって選択方法が決定されるみたいで、406条以下の規定が適用される場合というのは、むしろ稀だそうですね。 | ||
あら、そうなの? 成る程ねぇ。 まぁ、だからと言って勉強しなくていいってわけにも、いかないわよね。 |
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ですよね。 | ||
ソレじゃ、ここまでの勉強会で学んだ特定物債権や、種類債権と絡めて、選択債権を考えることにしましょうか。 今から2つ事案を見てもらうわ。 事案それぞれに、先に検討すべき点について伝えるから、いずれの債権かを考えてみて欲しいわ。 |
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えへへへ。 ワクワクするよぉ。 |
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ソレじゃ、第一問! 次の債権は、特定物債権か、選択債権かを考えてみてくれる? 明智財閥不動産部門では、駅前に所有する土地に、高層マンションを建築し、分譲販売することにしたのね。 もちろん、各戸には、特定の部屋番号がついているわ(例 8階のエレベーター前の部屋には「802」、南側の角部屋には「806」等)。 分譲マンションの購入を検討していた、つかさちゃんは、この売りに出されている部屋のうち「906」号室を3000万円で購入する契約を、明智財閥不動産部との間で締結したわけ。 さて、この場合の、つかさちゃんの債権は、特定物債権でしょうか、選択債権でしょうか? |
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簡単だよぉ。 つかさおねーちゃんは「906」号室っていう、特定の部屋番の付いた部屋を対象(目的)として売買契約を締結したんだから、特定物売買になるよぉ。 だから、この契約によって生じる、つかさおねーちゃんの債権は、特定物債権といえるよぉ。 |
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正解。 ちょっと簡単過ぎたかしらね。 ソレじゃ、次の問題ね。 明智財閥不動産部門は、駅前のメインストリート沿いに500uの土地を所有しているわ。 料理人のサルは、駅前の人の往来のある場所で、ラーメン店の開店を考えていたわけ。 そこで、サルは、この明智財閥不動産部門の土地500uのうち、ラーメン店の営業に適した部分50uを売って欲しいと申し込み、同社との間で売買契約を締結したわけ。 さて、この場合の、サルの債権は、(制限)種類債権でしょうか、選択債権でしょうか? |
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むむむ・・・。 制限種類債権ってことであれば、制限内の、その種類に属するものであればいいってことになるですから、指定された個別の物の個性が重視されないことになるです。 つまり、明智先輩の会社の持っている500uの土地のうちの50uの土地であれば、何処でもイイってことになるです。 でも、選択債権ってことだと、指定された個別の物の個性に重点が置かれることになるです。 そうなると、誰が指定(決定)するのかが重要になるです。 |
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成る程、成る程・・・。 そうなると、あたしクラスの料理人の出すラーメン屋には、店の場所からして、もうこだわりがあるだろうね。 駅前のメインストリート沿いなら、どこでもいい、なんつーヤッツケ仕事やないだろうかんね。 ラーメン職人としてのプライドは、店の立地にもあると思って間違いないね! |
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・・・。 (ノロウイルスをトッピングだなんて言うようなラーメンを出すお店なのに、なんて無駄なとこにこだわっているですか!) |
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でも、この事案を考えるに、物の個性が重視されるのかどうか、っていうことが(制限)種類債権か、選択債権かを分ける基準ってことだよね。 つまり、「どこの部分でもいいよ」というのが当事者の意思であれば(制限)種類債権。 「どこの部分かが重要」というのが当事者の意思であれば、選択債権ってことになるよぉ。 オネ−ちゃんは、店の立地にもこだわりがあるって言っているんだから、駅前メインストリート沿いの土地のどの部分でもよいわけではなく、その土地の中のある部分を購入の要素としている(=物の個性に着目している)といえるよぉ。 従って、この事案のオネ−ちゃんの債権は「選択債権」とみるべきだよぉ。 |
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そうね。 判別の基準についてまで述べてくれたけれど、その理解になるわよね。 判例も、物の個性に重点が置かれているのか、という基準から、選択債権か否かを判別しているわ。 例えば、米屋を開くために土地所有者の所有する300坪の中から、表通りに面した50坪を、借主が賃借するという債権について、民法408条による借主への選択権の移転を肯定したもの(最判昭和42年2月23日)や、一筆の土地100坪のうち、西側50坪を売買する契約から生じる債権について、民法408条による買主への選択権の移転を肯定したもの(最判昭和55年9月30日)等があるわね。 |
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ふむふむ。 でも、オネ−ちゃんは料理が上手だから、きっとオネ−ちゃんの出すラーメン屋も美味しいはずだよぉ。 オネ−ちゃんのラーメン屋が出来たら、チイは早速食べに行くよぉ。 |
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チイが来たら、その時点で店じまいだお。 仕込みの食材を根こそぎ食われてまいそうじゃまいか。 |
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大丈夫よ。 あんたの店なんて、どうせすぐに営業停止処分受けるんだから。 わざわざ自分から暖簾下ろすこともないわよ。 ソレじゃ、選択権の行使について紹介するわね。 先ず、選択権者についてだけれど、選択債権の発生原因が、法律行為である場合には、選択権者が誰であるかは、その法律行為によって定まるわ。 つまり、選択権者は、債権者、債務者、第三者のいずれでもいいわけなんだけど、法律行為(および慣習)によっては、選択権者が明らかでないときは、さっき言ったように民法406条により、債務者が選択権者となるわけね。 条文を、一応再確認しておく? |
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民法第406条 (選択債権における選択権の帰属) 『債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。』 |
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この選択権の行使方法は、次の2つの場合に分かれるわ。 @選択権者が、当事者の一方であるとき と A選択権者が、第三者であるとき ね。 @の場合については、民法407条1項を見て欲しいわ。 |
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民法第407条 (選択権の行使) 『1項 前条の選択権は、相手方に対する意思表示によって行使する。 2項 前項の意思表示は、相手方の承諾を得なければ、撤回することができない。』 |
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Aの場合。 つまり、選択権者が第三者であるときについては、民法409条1項ね。 条文を確認してくれるかしら。 |
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民法第409条 (第三者の選択権) 『1項 第三者が選択をすべき場合には、その選択は、債権者又は債務者に対する意思表示によってする。 2項 前項に規定する場合において、第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転する。』 |
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ナカちゃん、ありがとうね。 次に、選択権の効力発生時期についてだけれど、選択は、その意思表示が相手方に「到達」した時に、効力が生じるわ(民法97条)。 そして、いったん効力が生じた場合には、相手方の承諾がなければ、選択を撤回できないわ(407条2項)。 また、第三者が選択権者であるときは、債権者・債務者双方の承諾がなければ、選択を撤回できないわね。 |
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ふむふむ。 | ||
選択権の移転について紹介するわね。 選択権者が、選択権を行使しない場合には、一定の要件の下で、選択権が移転することとなるわ。 |
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選択権は、権利であって、義務ではないですよね。 ですから、行使を強制することはできません。 もっとも、特約等によって、行使義務を定めるということは考えられますが・・・あ、ちょっと話が脱線しちゃいましたね。 ですが、選択権者が、選択権を行使しないままでいると、相手方はいつまで経っても給付すべき物が定まらないわけですから迷惑を被ることになりますよね。 そこで、一定の要件の下で、選択権が移転することにしたわけですね。 |
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補足してくれて、ありがとうね。 ソレじゃ、内容を見る前に、先に条文をナカちゃんに見てもらおうかしら。 民法408条と409条を見てくれる? |
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民法第408条 (選択権の移転) 『債権が弁済期にある場合において、相手方から相当の期間を定めて催告をしても、選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは、その選択権は、相手方に移転する。』 民法第409条 (第三者の選択権) 『1項 第三者が選択をすべき場合には、その選択は、債権者又は債務者に対する意思表示によってする。 2項 前項に規定する場合において、第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転する。』 |
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この選択権の移転についても、次の2つの場合に分けて考える必要があるわ。 1)選択権者が、当事者の一方であるとき 2)選択権者が、第三者であるとき の2つね。 1)選択権者が、当事者の一方であるときは、次の場合に、選択権は「相手方」に移転するわ(408条)。 @債権が、履行期にあること A相手方が、相当の期間を定めて、催告をしたこと B選択権者が、その期間内に選択しないこと 2)選択権者が、第三者であるときは、次の場合に、選択権は「債務者」に移転するわ(409条2項)。 (※ 選択権者が明らかでないときは「債務者」が選択権者になるため。民法406条) @第三者が、選択できないこと A第三者が、選択を欲しないこと ね。 ちょっと、このあたりは条文確認が多いとこだから、ナカちゃんはお疲れだったわよね。 |
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いえ、いつも明智先輩に勉強会の進行をお願いしているですから、私も出来ることはしたいです! | ||
まぁ、条文読むことも勉強だかんね。 その気持ちで頑張るだぞ? チビッ子! |
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・・・よく見たら、あんた今日も手ぶらで来てんじゃないのよ。 六法全書も持たずに勉強しようなんて、どういうつもりよ!? |
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藤さんは全ての条文を、もう頭の中に入れてみえるから六法なんて御不要なんですものね。 | ||
フッ。 『やれやれだぜ。』 |
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・・・。 (ソレは、明智先輩や私の台詞です・・・。) |