最判平成19年7月6日 | ||
少し時系列の整理が必要な事案だから、順序立てて事案を再現していくことになるからね。 それじゃ、配役を伝えるわね。 つかさちゃんと、サルとが夫婦っていう設定で・・・。 夫を、つかさちゃん。 つかさちゃんの妻を、サル。 その2人の間の子供たちを、チイちゃん。 抵当権の実行によって建物を買い受けた人(原告)を、ナカちゃん。 ナレーターを、私が務めるわね。 |
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ナレーター |
つかさちゃんとサルの夫婦。 この夫婦は、土地と建物を所有していました。 この土地・建物の所有については、土地をサル(妻)が所有し、地上建物をつかさちゃん(夫)が所有していました。 (土地・建物が、別個の所有者に帰属) |
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夫 |
私達は夫婦なんだし、地上建物のために、いちいち利用権の設定なんか不要だよな。 | |
だおだお。 | 妻 |
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夫 |
ところで、私の債務を担保するために抵当権を設定することにしたよ。 お前の土地と、私の建物の両方に、抵当権を設定するんで、よろしく頼むよ。 |
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だおだお。 (夫の債務のために土地・建物の共同根抵当権(一番抵当権)設定。 昭和44年5月29日。 同登記同月30日) |
妻 |
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夫 |
すまない。 まだ債務の返済は済んでいないのだが、どうも私は寿命のようだよ。 お前や子供たちを残して先立つのは心苦しいが、後は任せるよ。 (昭和53年9月26日、夫死去。) |
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あんたぁーーっ! | 妻 |
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お父さぁーーんっ! | 子供たち |
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あの人(夫)の財産は、私(妻)と子供たちとで相続することになるわね。 (土地・建物は、両方とも、妻の所有となる。 建物については、妻と子供たちの共有。) (土地・建物が、同一の所有者に帰属) |
妻 |
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お父さんの分まで一生懸命生きようね! | 子供たち |
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そうね。 ところで、お母さんは、ちょっと他人に頼まれて、ある人の債務を担保することになったわ(物上保証人)。 というわけで、お母さんの所有している土地に、抵当権を設定することにしたからね。 (平成4年10月30日、物上保証人として妻は、自身の所有する土地に根抵当権(二番抵当権)を設定。) |
妻 |
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そうなんだ。 うんうん、ワカッタよぉ。 |
子供たち |
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そうそう。 そう言えば、あの人(夫)の設定した一番抵当権の設定契約が解除されることになったわ。 コレで、一番抵当権は、綺麗さっぱりなくなるわね。 (一番根抵当権設定契約解除。 根抵当権設定登記が抹消登記。平成4年11月4日) |
妻 |
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ナレーター |
ところが、その後、二番抵当権は実行されることとなってしまいました。 | |
建物競落人 |
いい土地が競売で競落できたです! この土地は、今日から私の物です! (平成16年7月2日) ・・・っと、思ったら、私の競落した土地の上には建物があるです! もしもし、いいですか? です! |
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なんだお? | 妻 |
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建物競落人 |
あなたの住んでいる建物の土地を、競落によって買い受けた者です! 私は、この土地の所有権を持つ者として、あなたの住んでいる建物の取り壊しと、土地の明け渡しを求めるです! |
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ほげげげげっ!! | 妻 |
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だ、大丈夫だよ! お母さんっ! だって、チイ達の住んでいる、この建物には法定地上権が成立するはずだもん! だから、建物競落人であるナカちゃんの主張は認められないんだよぉ。 |
子供たち |
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建物競落人 |
そんなことは、おかしいです! 一番抵当権が設定された時は、この土地と建物との所有者は、奥さんと今は亡くなられた旦那さんが、それぞれ有していたって聞いてるです! 民法388条は 『土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。』 と規定しているんですから、土地と建物の所有者が異なるというのなら、法定地上権の成立要件を充足していないです! |
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・・・た、たしかに一番抵当権設定時には、法定地上権の成立要件を満たしていなかったけれど、二番抵当権設定時には、土地も建物も、お母さんの所有だったんだから、法定地上権の成立要件を満たしているよぉ。 それで、法定地上権の成立要件を充足していなかった一番抵当権は、二番抵当権の実行前には、もう解除されていたんだよぉ。 だから、法定地上権は成立するんだよぉ! |
子供たち |
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うんうん。 なんかよくワカラナイけど、その通りだよ。 |
妻 |
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ちょっと! 最後の言葉は、いらないからっ! うん、でもソコまでで、いいかな。 |
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あ、でも何となくはワカルんだよ? 一番抵当権の設定時には、法定地上権の成立要件を満たしていなかったんだけど、二番抵当権の設定時には、法定地上権の成立要件は充足していたわけでしょ? そんで、その二番抵当権の実行時には、一番抵当権はなくなっていたんだから、そりゃ法定地上権は成立するんじゃないの? |
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そう簡単に言える問題なのか、ってことですよね。 事実、この事案の問題を争った一・二審は共に、法定地上権の成立を否定していますからね。 |
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あれ? そうなの? |
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そうなんですよね。 事案を見てもワカルように、二番抵当権設定時には、法定地上権の成立しない一番抵当権が存在したわけですよね? ということは、二番抵当権者も、当然、法定地上権の負担のない土地として抵当権を設定しているということになりますから、その後に、一番抵当権の設定契約が解除されたからといって、二番抵当権者が、法定地上権の負担を負うべきではない、ということを、一審・二審は述べたわけです。 |
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ということは、法定地上権が成立しないってことですから、事案の私の主張が認められたってことですね? | ||
いやいやいや、待って待って! 今の結論は、一審・二審の話でしょ? コレは、最高裁で逆転する流れと見たよ? |
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逆転する流れもナニも、藤さんも御存知の有名判例じゃないですか。 そんな振りは、いらないんじゃないですか? |
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え? ま、まぁ、そうなんだけど・・・えーっと、ソレじゃ最高裁の判決文見ちゃおっか。 (ドッチなの? 今のメガネの言い方だと、ちょっと結論よくワカンナイんだけど。) |
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振りがいらないっていうより、その知ったかのフリが一番いらないって思うんですけどぉ。 それじゃ、本件の争点を再確認しておくわね。 チイちゃんが、事案再現の中で述べていてくれたんだけど、本件の争点は 一番抵当権設定時は、土地・建物が別個の所有者に属していたが、二番抵当権が設定された時には、その双方が同一人に属していた場合において、法定地上権は成立するのか否か ってことになるわ。 (※ より正確に争点を述べますと 一番抵当権設時には、法定地上権の成立要件を充足してなく、二番抵当権設定時には、法定地上権の成立要件を充足していたという場合に、その一番抵当権の設定契約が解除されて、二番抵当権が実行された場合、法定地上権は成立するのか否か という問題です。) |
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ふむふむ。 ワカッタ、ワカッタ。 はよ判決文いきんしゃい。 |
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あら、珍しい。 それじゃ、判決文ね。 (※ 一部、書き直しあり) 『土地を目的とする先順位の一番抵当権と後順位の二番抵当権が設定された後、一番抵当権が設定契約の解除により消滅し、その後、二番抵当権の実行により土地と地上建物の所有者を異にするに至った場合において、当該土地と建物が、一番抵当権の設定時には同一の所有者に属していなかったとしても、二番抵当権の設定時に同一の所有者に属していたときは、法定地上権が成立するというべきである。 その理由は、次のとおりである。 上記のような場合、二番抵当権者の抵当権設定時における認識としては、仮に、一番抵当権が存続したままの状態で目的土地が競売されたとすれば、法定地上権は成立しない結果となるものと予測していたということはできる(前掲平成2年1月22日第二小法廷判決参照・本勉強会本文掲載判例参照)。 しかし、抵当権は、被担保債権の担保という目的の存する限度でのみ存続が予定されているものであって、一番抵当権が被担保債権の弁済、設定契約の解除等により消滅することもあることは抵当権の性質上当然のことであるから、二番抵当権者としては、そのことを予測した上、その場合における順位上昇の利益と法定地上権成立の不利益とを考慮して担保余力を把握すべきものであったというべきである。 したがって、一番抵当権が消滅した後に行われる競売によって、法定地上権が成立することを認めても、二番抵当権者に不測の損害を与えるものとはいえない。 そして、一番抵当権は競売前に既に消滅しているのであるから、競売による法定地上権の成否を判断するに当たり、一番抵当権者の利益を考慮する必要がないことは明らかである。 そうすると、民法388条が規定する『土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する』旨の要件の充足性を、一番抵当権の設定時にさかのぼって判断すべき理由はない。』 とし、法定地上権の成立を認めているのよね。 |
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おお、ってことは、あたしとチイの勝ちってことだね!! ワーイ、ワーイっ!! |
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事案再現の配役で、たまたま、チイとオネーちゃんが被告側だっただけなんだから、勝ちも負けもないと思うよぉ。 | ||
いやいやいや、正直めっさ嬉しいっ! ぶっちゃけ負けるんだろうなぁって思ってたから、なおさら!! |
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ナニに喜んでいるのか、ちょっとワカラナイんだけど・・・。 本判決は、結論としては、後順位の抵当権者(二番抵当権者)は、抵当権設定の段階で、先順位の抵当権(一番抵当権)が、弁済や設定契約の解除等によって消滅することが起こりえることをも考慮して担保価値を評価すべきであるとして、二番抵当権の実行においては、法定地上権が成立する、としているわけね。 最高裁が、このような考え方をしたのが何故か、そして、本判決の射程といった問題もあるところだけれど、少し踏み込むと難解なところだから、その説明については控えておくわね。 |
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え? なんで? なんで? |
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そうね。 少し今日の勉強会も長引いているし、ちょっと演習的な内容になっちゃうからね。 |
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ぶっちゃけ面倒なだけだよね? | ||
あんたじゃないんだから、そんな理由じゃないわよ! | ||
・・・。 (きっと、アホの管理人が面倒なだけだお。 あたしにはワカル。 アイツは、そういうクズだかんね! ) |
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・・・。 (メ、メタはダメですぅぅ。 と、心の中で突っ込んでおくです。) |