最判昭和44年7月25日 | ||
今回の事案も例によって簡略化しちゃうわね。 この事案では、ちょっと訴訟で問題となっている話についても、まだ勉強していないからワカリにくいと思うからなんだけど。 あ、でも争点はワカルように説明するつもりだから心配しないでね。 はい。それじゃ、判例検討の配役から伝えるわ。 問題となった建物に関係して・・・ 土地所有者を、サル。 その土地を借りて建物を建てた人を、私。 その私から、さらに建物の一部を賃借した人をナカちゃん。 私の相続人らをつかさちゃん。 ナカちゃんの相続人らをチイちゃん に、それぞれ御願いするわね。 簡略化しても、まだ複雑な事案になるけれど頑張って再現しましょ。 |
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土地所有者 |
あたしの土地を、貧乏人の光ちゃんに貸してやんよ! まぁ、自前の土地も持てないんだから、貸してやっから感謝すんだお! |
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(小声で) ちょっとナニ勝手な脚色加えてんのよっ! 誰が貧乏人よ! 誰がっ!! それじゃ、あなたの土地を借りることにしますね。 土地だけ借りても仕方ないので、この土地に家を建てることにしますから。 |
土地賃借人 |
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土地所有者 |
うむ。貧乏人よ。 よきにはからえ。 |
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土地賃借人=建物所有者 |
なんだか感じの悪い人から土地を借りちゃったわね・・・。 まぁ、でも土地は借地だけれど、建物は私の所有だからね。 (※ 土地と建物は別個の不動産なので、別個に所有権が成立) この所有建物に住むことにしましょっと。 |
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随分と大きな建物です! これなら間借りすることも出来そうです! もしもし、すみませんが、おたくの建物の一部を賃貸させて欲しいです! |
建物賃借人 |
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土地賃借人=建物所有者 |
ええ、構いませんよ。 どうぞ借りて下さい。 (※ 借地上の建物の譲渡は、借地権の譲渡又は転貸にあたりますが、賃貸はこれにはあたらないので、この賃借には法的問題はありません) |
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あの・・・住んでから言うのも難なのですが、こちらの建物は平屋ですけれど、2階部分があると借りている私も嬉しいです! この建物の上に、2階部分を築造してもいいでしょうか? です! |
建物賃借人 |
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土地賃借人=建物所有者 |
ええ、構いませんよ。 あなたが、それを望まれるのでしたらば2階を増築して頂いて結構です。 (※ 所有者の了解=『権限』) |
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ありがとうです! それじゃ、早速、2階部分を築造するです! |
建物賃借人 |
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完成したです! 4畳半の御部屋と押入れのある2階部分が完成したです! この2階への出入り口は、大家さん(=光ちゃん)の建物の6畳間の部屋にある梯子段を使用することで出来るです! (※ 広さは3坪程度。 出入りは光所有の建物からしか出来ない。) |
建物賃借人 |
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土地賃借人=建物所有者 |
よかったですね。 あ・・・でも、私は、もうどうやら寿命みたいですね。 |
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土地賃借人の相続人ら |
光ちゃんが亡くなられたので、私達(相続人は複数)が相続しますね。 藤さんからの土地の賃借権。そして、建物の所有権等についても、私達が相続しましたから御心配なく。 |
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あうあうあうです! ・・・私もどうやら寿命のようです! |
建物賃借人 |
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ナカちゃんはチイ達(相続人は複数人)が相続するよ! ナカちゃんが作ってくれた2階部分は、相続するんだから、ちゃんと保存登記をしておくよ! でも2階部分をチイ達が持っていても、仕方ないのかなぁ。 よし、この2階部分は大家さん(相続人の1人)に売ることにするよ。 |
建物賃借人の相続人ら |
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土地賃借人の相続人の一人 |
2階部分ですか? そうですね。譲って頂けるのでしたらば買いますよ。 あ、もちろん、登記についても移転して頂けるんでしょうね? |
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うんうん。 移転登記もちゃんとするよ! (2階部分の譲渡、移転登記終了) |
建物賃借人の相続人ら |
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土地所有者 |
おいおいおい。 お前らは、土地所有者様のあたしを差し置いて、ナニを好き勝手してくれとるんだお。 あたしが土地を貸したのは、光ちゃんだよ? なのに、ナニ勝手に、2階部分なんか作っちゃってるわけよ? しかも、その築造部分を登記までしちゃってっ! 図々しいっ! そんなあたしの貸した土地を、無断で他の人に貸すような人は信用できないお。 もう、あんたらとの賃貸借は解除だお、解除っ! |
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そ、そ、そんな・・・。 | 土地賃借人の相続人ら |
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土地所有者 |
というわけで、その建物をぶち壊して、土地を返してよね! あ、ソッチのチビッ子2号! お前の2階部分も、もちろん取り壊して、土地を返すんだお!! |
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・・・チイ達が余計なことをしちゃったのかなぁ。 どうしたら、よかったんだろ・・・。 |
建物賃借人の相続人ら |
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お疲れ様ぁ。 簡略化したつもりだったけれど、それでも複雑な事案だったわよね。 |
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相続が絡んだりしていて面倒な事案ですものね。 でも、これくらい簡略化されていればワカリやすいのではないかと。 |
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役とはワカッていても、お金持ちの役っていいねぇ。 なんか気持ち偉そうになっちゃうね。えへへへへ。 |
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オネーちゃんの中のお金持ちの人のイメージって、あんな感じ悪いの? | ||
まぁ、あたしは身近に居る金満の醜い人間を見てきているからね。 お金持ちについては、チイよりは知っているつもりだお? |
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・・・ちょっと、誰の方を見て、その言葉を口にしているのよっ!! | ||
おっとっと・・・ヤバス。ヤバス。 あ・・えーっと、でもアレだよね? なんか付合の話なのに、別の話になっているような気がしちゃうんだけど、この事案再現だと、ちょっとワカリにくいのではないかと思う気持ちが微レ存・・・。 |
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少し事案が複雑なせいで争点の捉え方が難しくなっているのよね。 事案のサル(土地所有者)の主張は、私がナカちゃんに2階部分の築造を許したことは、土地の賃借権をナカちゃんに無断で譲渡したもの、あるいは、転貸(いわゆる「また貸し」)したもので、その譲渡(あるいは転貸)には、土地所有者であるサルの承諾がないのだから、賃借権の無断譲渡または転貸にあたる(民法612条参照)という理由に基づき、土地の賃借権を解除したとして、私の相続人である、つかさちゃんらに対して、建物の収去と、土地の明渡しを求めているのよね。 このあたりの法律関係については、賃貸借や解除について勉強していないせいで見えづらくなっているとは思うわ。 次に、この主張を受けての本件の争点なんだけど、ここでも少し説明を加えるわね。 ナカちゃんの増改築した2階部分については、建物所有者である私の承諾があったわ。 つまり、242条但書にいう『権原によってその物を附属させた』場合にあたるわけよね。 でも、勉強して学んだように、所有権者の承諾の下、物を附属させれば、なんでもかんでも、その付合物に、その物を附属させた動産所有者の所有権が成立するってわけではなかったわよね。 あくまでも、その増改築部分が、従物ではなく、かつ、建物の構成部分でもない、という場合であることが必要だったわけよね? この理解を前提として、本件の争点は ナカちゃんが、借りている建物に増改築した2階部分については付合が認められるのか? それとも認められないのか? ということになるわ。 換言するなら、ナカちゃんの増改築した2階部分は、独立の建物といえるのか、いえないのか? という問題になるわね。 (=「弱い付合」なのか、「強い付合」なのか、という問題) |
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この問題なんだけど、チビッ子達にしてみれば、ドッチのほーがいいの? 独立した建物って認めてもらえた方がいいわけ? そうじゃない方がいいわけ? |
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付合が否定されて、2階部分が独立の建物であると認められますと、土地所有者である藤さんの主張にも理由があることになります。 つまり、土地の賃借権の無断譲渡あるいは無断転貸にあたるということになるわけですからね。 逆に、付合が認められて、2階部分が独立の建物ではないということになりますと、2階部分は建物は付合した物となるわけですから、独立の所有権も認められないこととなり、土地の賃借権の無断譲渡、無断転貸があったということは出来なくなりますので、藤さんの主張は認められず、私やチイちゃんが土地を明渡す必要はない、ということになりますね。 |
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成程、成程・・・。 そういうことかぁ・・・。 いやぁ、正直、なんで2階部分がどうこうっていう話と、あたしの出て行けの話がリンクしているのか、まったく見えなくなっていたよ・・・。 |
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つかさちゃん、丁寧に補足してくれて、ありがとうね。。 それじゃ、最高裁の判断を見てみましょうか。 (※ 事案再現の中での言葉に置換してあります。) 『2階部分建物は、既存の建物の上に増築された二階部分であり、その構造の一部を成すもので、それ自体では取引上の独立性を有せず、建物の区分所有権の対象たる部分にはあたらないといわなければならず、たとえナカちゃんが2階部分建物を構築するについて右建物の一部の賃貸人である光ちゃんの承諾を受けたとしても、民法242条但書の適用はないものと解するのが相当であり、その所有権は構築当初から建物の所有者である光ちゃんに属したものといわなければならない。 そして、2階部分建物についてナカちゃんの相続人らであるチイちゃんら名義の所有権保存登記がされていても、このことは右判断を左右するものではな い。 したがつて、2階部分建物がナカちゃんによつて構築されたことをもつて、他に特段の事情の存しないかぎり、その敷地にあたる部分の賃借権が同人に譲渡または転貸されたことを認めることができないものといわなければならず、右譲渡転貸の事実を認めることができないとした原判決の判断は相当である。』 と、しているわね。 |
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はいはい、そういうことね。 うんうん、まぁ、そうだよね。 2階建物って聞くと、どんな建物なの? って思うけど、チビッ子1号(=ナカちゃん)の身体のサイズに合わせた小さいものだったもんね。 4畳半と押入れだけなんでしょ? そりゃ、チビッ子はちっこいからいいだろうけど、流石に狭いよね。 |
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その事実だけで、付合が認められたわけではないですっ! もちろん、その部屋の構造もあったわけですが、外部と出入りする手段が、既存建物の6畳間の梯子段を使用する以外になかったことが大きいです! だからこそ、 『2階部分建物は、既存の建物の上に増築された二階部分であり、その構造の一部を成すもので、それ自体では取引上の独立性を有せず、建物の区分所有権の対象たる部分にはあたらない』 とする判断をされたんです!! |
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せっかくいい検討してくれているのに、ナカちゃんの嫌がるような言い方するのは、やめなさいよっ! 前回紹介した最判昭和38年10月29日では、付合が認められたって話だったわよね。 あの建物(店舗)は、既存建物の柱と梁を利用しているものではあったけれど、なお、それ自体で取引上の独立性を有することが認められたため、224条但書の適用が認められたわけよね。 ここでのキーワードは『独立性』よね。 この『独立性』の有無が問題となっているわけね。 |
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よくワカッタよっ! やっぱり判例検討楽しいよねっ! 特に、今回はみんなで一緒に出来たから、もっと楽しかったよっ! |
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あ、そう言えば、いつもナレーターに逃げる人も、一緒にやっていたもんね。 | ||
ナレーターがいないと、今日みたいに亡くなる際にも、自己申告することになるじゃないのよ。 事実の経過や、その行為が、どのような法的意味をもつのか、といった説明は出来れば都度入れたいって思っているし、それをそういう風に言われるのは心外だわ。 |
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いや・・・心外って言葉を使うのなら、なんかイヤな役回りを廻されることの多い、あたしこそ心外なんですけど・・・。 | ||
・・・。 (藤先輩は、今日も活き活きされていたです・・・。 勝手に盛って、自らイヤな人を演出されていたです・・・。) |