最高裁昭和25年12月19日第三小法廷判決 | ||
例によって事実関係は簡略化することにするわね。 それじゃ、判例検討の配役から。 紛争の起きた建物に関係して・・・ 建物の賃借人を、サル。 建物の元所有者を、チイちゃん。 その建物をチイちゃんから買い受けた人を、ナカちゃん。 私は、ナレーターってことで行くわね。 |
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建物賃借人 |
むふふふ~。 チイから借りている、この建物は快適だよねぇ。 居心地いいし、文句ないねぇ。 |
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チイは、チイの持っている建物を売ることにするよ! ナカちゃん! チイの建物を買わない? |
建物元所有者 |
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建物買受人 |
買うです! 買うです! | |
それじゃ、売買成立だね! じゃあ、チイの建物は、今日からナカちゃんの物ってことで、宜しくね! あ、そうそう! 建物には、今、賃借人の人が住んでいるんだけど、賃貸借契約を建物と一緒に、ナカちゃんに引き継いで貰えるかな? |
建物元所有者 |
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建物買受人 |
わかったです! チイちゃんの建物の賃借人の方(=サル)とも上手くやっていくです! |
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ナレーター |
チイちゃんから、ナカちゃんへと建物の所有権は移転しました。 その際、ナカちゃんは、チイちゃんと建物賃借人であるサルとの間の賃貸借契約についても承継しました。 しかし、建物の所有権移転の旨の登記はなされませんでした。 |
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ごめんくださいです! ちょっとお話があって来たです! |
建物新所有者 |
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建物賃借人 |
ん? なんだお? あ、新しい大家さんだね。 ナニか用? |
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実は、建物を借りてみえる、あなたとの間の賃貸借契約を解除したいです! もちろん、相応の立ち退き料は準備したので払うです! これだけ御支払するので、賃貸借を解除してもらえないですか?です! |
建物新所有者 |
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建物登記名義人 |
あぁ。まぁ、これだけ頂けるのなら文句はないねぇ。 うんうん。 ソレじゃ、賃貸借は解除ってことで。了解、了解。 |
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ナレーター |
ところが、この賃借人。 合意解除に応じて、立ち退き料を貰い、一旦は建物から立ち退いたものの、気付けば、また建物に居座っていました。 |
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どうして、まだ建物に住んでいるです! あなたとの賃貸借契約は、解除したです! あなたは、解除に合意したし、立ち退き料も受け取ったはずです! 早く建物から出て行くです! |
建物新所有者 |
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建物賃借人 |
なになに? 随分と鼻息荒いようだけど。 あんたには、この建物の登記がないじゃないの。 民法177条を知らないの? 民法第177条 『(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。』 ってあるでしょ? あんたには登記がないんだから『第三者』である、あたしには、この建物の所有権を主張することはできないってことになるよね! だったら偉そうに出て行けなんて言えないんじゃないの? |
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と、と、とんでもない人もいたものです! 解除に応じて、立ち退き料まで受け取って、一旦は出て行ったのに、ナニを言い出すです! あなたが、その建物に居座り続ける理由こそないはずです! 早く私の建物から出て行くです! |
建物新所有者 |
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はい、ソコまでねー。 | ||
また随分と事実経過を簡略化されましたね。 まぁ、大筋としてはそうですし、論点自体も変わりはないわけですが。 |
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極力ワカリやすく伝えられたらいいなって思ってね。 あ、それじゃ、本件の争点ね。 本件の争点は。 不動産の不法占有者は、177条の『第三者』に該当するか? っていうことね。 実は、事案説明を省略しちゃったけれど、前回、今回と説明で話した大審院判例(大判明治41年12月15日)も、不法行為者の事案だったのよね。 |
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え? ソレもう判決文見なくても、結論わかっちゃってるじゃない。 コレ、あたし負けるってことじゃない? |
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今日の勉強会は、177条の『第三者』にあたらない場合を見ていこうってことなんだから、ソレは今更じゃない? 最高裁は、次のように述べているわ。 『原審の認定した事実によると、建物占有者(=事案のサル)らは結局、何等の権原なくして建物所有者(=事案のナカちゃん)所有の本件家屋を占有する不法占有者だということになる。 不法占有者は民法第177条にいう『第三者』に該当せず、これに対しては登記なくして所有権の取得を対抗し得るものであること大審院の不変の判例で、当裁判所も是認する処である。 されば、原審が登記の転について判断する処なくして建物所有者の請求を是認したのは結局正当で、論旨は上告の理由とならない。』 と、しているわね。 |
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うわ・・・アッサリ・・・しかも残当っ!! | ||
そんなに難しい判例ではないと思うわ。 前回の勉強会では177条にいう『第三者』とは『不動産に関する物権の得喪及び変更の登記欠缺を主張する正当な利益を有する者』をいう、という制限説の考え方を学んだわよね。 確かに、この基準はサルが言ってくれたように基準としては、少し抽象的でワカリ辛いものとも言えるわ。 ただ、今回の事案のような不法占拠者、他には、不法行為者については、177条にいう『第三者』にあたらない、ということについては概ね異論のないところなのね。 その理由としては『正当な利益を有する者』ではないから、よね。 本判決では『建物占有者(=事案のサル)らは結局、何等の権原なくして建物所有者(=事案のナカちゃん)所有の本件家屋を占有』していると認定しているわけなんだけど、このような占有は『正当な利益』とは言えないってことよね。 |
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まぁ、確かに確かに。 正直、解除に合意して立ち退き料まで受け取っておきながら、まだ出て行かないなんて無茶苦茶だし、それがさらに、法律を楯にして居座り続けようとしてるわけだもんね。 至極ごもっともな判決だよね、コレは。 |
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・・・。 (でも藤先輩が、法律を勉強したら、この事案のような事件を引き起こしそうでホントに心配です・・・。) |
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やっぱり判例検討楽しいよね! もっと、判例検討の回数増やそうよ! ね! ね! |
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・・・あ、そう言えば民法総則では殆どなかった判例検討が、物権では増えているなぁ。 ま、ま、まさか、この小動物のせいなのか? |
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あんた、自分の妹を小動物呼ばわりって、どんなオネーちゃんなのよ! | ||
人が動物であることには違いないわけだし。 チイは、体格的には小さいしね。 まぁ、姉としては愛でるべき存在である妹を、そう呼んでいるわけ。 ナニか問題でも? |
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また憎たらしい顔してから・・・。 | ||
そういう光ちゃんは、また犯罪者顔してるよね。 ナニナニ、その顔、実はお気に入りなの? |
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チイも、光おねーちゃんの真似で、その顔できるんだよ! こうね・・・思いっきり目を見開いて、ソコで止めるんだよね・・・ えいっ! ホラ、できたっ!! 似てるよね? 似てるよね? ソックリだよね? |
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コラっ! チイっ!! そんな顔、真似しなくっていいからっ! やめなよっ! |
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そ、そ、そんな顔呼ばわり・・・。 |