そろそろ気になりつつあると思うんだけど、どうかしら? え? なんの話かって? それじゃ、六法で177条を見てくれる? |
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民法第177条。 『(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。』 |
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今回の勉強会から、回を跨いで、この民法177条にいう『登記をしなければ』『対抗することができない』『第三者』とは、どのような者をいうのか、という点について学ぶことにするわ。 そろそろ気になっていたでしょ? |
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回を跨いで・・・か。 コレは、なかなかハードな論点っぽいなぁ。 |
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物権法の勉強会では、サルも頑張っているみたいだし、そんな顔しなくっていいわよ。 まずは、おさらいがてら。 サルは、ナカちゃんに、サルの所有するA土地を売却したの。 でも、その旨の移転登記はしなかったわ。 その後、サルは、このA土地を今度は、つかさちゃんに売却したの。 この、いわゆる二重譲渡の場合、A土地の所有権を最終的に取得するのは、ナカちゃんと、つかさちゃんのうち、どちらか先にサルからA土地の登記名義を移転登記した方だって話はしたわよね。 下の図は、もう何度も見ているはずよね? |
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177条が想定する場面の1つには、上の図のような二重譲渡の場面があるわ。 この場合において、登記をしなかった方は、先に登記を備えてしまった第三者には対抗できない。すなわち、自己に所有権のあることを主張できない、ってことだったわよね。 で。 今日からの勉強会では、この『第三者』とは、誰のことをいうのか、という問題について学ぼうってことなの。 |
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え? そんなこと、今更必要なくね? だって『第三者』って言うたら、契約当事者以外の者でしょ? もう答え、わかっとるやないの。 |
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そうね。 サルがいうように、一般に『第三者』というときは、確かに、契約当事者以外の者をさすわよね。 じゃあ、例えば相続人は、どうかしら? こんな場合を考えてみてくれる? 質問! サルのお父さんが、ナカちゃんにA土地を売却したものの、移転登記は済ませないうちに死亡してしまい、サルが相続人として相続したわけ。 この場合、サルはナカちゃんに対して、177条の『第三者』の立場に立つと思う? 少し言葉を足しておくと、契約をしたのはサルのお父さんよね。 今のサルの指摘だと、サルは契約当事者ではないから、A土地について『第三者』だと言えるかって質問になるんだけど。どうかしら? |
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・・・どうだったっけ? |
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相続人は『第三者』じゃないよ! だって、相続人は包括承継人なんだよ。 包括承継っていうのは、その被承継人の地位を、そのまま引き継ぐものなんだから、この場合のオネーちゃんは、お父さんと同視されるんだよ。 だから、契約当事者であるお父さんの地位を、そのまま引き継ぐ以上、オネーちゃんは『第三者』の立場には立てないよ! |
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包括承継人? 難しい言葉を、チイは知ってんだねぇ。 |
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やったよぉ〜。 1度じゃなく、2度もやったよぉ〜。 うん、でもチイちゃんの言ってくれた通りね。 ということは・・・177条にいう『第三者』とは、当事者と、その包括承継人を除く全ての者をいう、ってことになるわよね。 それでいいと思う? |
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いんじゃね? | ||
その理由は? | ||
あ、また理由もなしに「なんとなく」あたしが言ってると思ってるんでしょ? 残念でしたぁ。 だって今、チビっ子が読んでくれた177条の条文だけどさ。 『登記をしなければ、第三者に対抗することができない。』 って書いてあるわけでしょ? でも、例えば散々出てきた94条2項とかだと 『(虚偽表示) 第94条 2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。』 ってなってるよね。 詐欺とか強迫で勉強した96条3項とかも 『(詐欺又は強迫) 第96条 3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。』 ってしてるよね。 ってことは『善意の』って形容詞のついていない177条の『第三者』は、善意悪意は問われないってことでしょ? |
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なかなか理論的な返しをしてくれるわね。 そうね。 サルが言ってくれたように177条の『第三者』には『善意の』という限定がついていないわ。 つまり、悪意の『第三者』も含む、という理解になるわよね。 最初の、サルとナカちゃん、つかさちゃんへの二重譲渡の事案を例にして説明するなら、ナカちゃんから見て、つかさちゃんは契約当事者以外の者であることから『第三者』ということになるわけよね。 これがどういうことかって言うと、つかさちゃんが、自分の取引に先行するサルとナカちゃんの間の売買契約の存在を知っていて、A土地の所有権が既に、ナカちゃんに移転していることを知っていた(=悪意であった)場合でも、ナカちゃんは登記なくしては『第三者』である、つかさちゃんには対抗できない、ということになるわけ。 |
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え? そうなるわけ? でも、それなんかヒドくない? だって、クロちゃんは、ナカたんがあたしからA土地を買ったの知ってて、敢えて、その土地を買いに来てるわけでしょ? 微妙じゃね? |
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まぁ、この点についてはもう少し説明を加えないとならないところだけれど、ひとまず、177条が限定をおいていないのだから、177条の『第三者』は悪意者でもいいっていう理解で説明を先に進めるわね。 ここまでの理解を、まとめると・・・。 177条の『第三者』とは、当事者及びその包括承継人を除く全ての者をいう、という理解になるわよね。 でも実は、法律が177条の『第三者』に限定を加えている条文が存在するのよね。 民法ではないんだけれど、不動産登記法の5条を見てくれるかしら? |
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不動産登記法第5条。 『(登記がないことを主張することができない第三者) 第5条 1項 詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者は、その登記がないことを主張することができない。 2項 他人のために登記を申請する義務を負う第三者は、その登記がないことを主張することができない。ただし、その登記の登記原因(登記の原因となる事実又は法律行為をいう。以下同じ。)が自己の登記の登記原因の後に生じたときは、この限りでない。』 |
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なんか小難しいこと言ってんね・・・。 1項は、ともかくとして、2項については説明が要ると、あたしは思うんだけど、その点については、どう思う? |
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説明して欲しいなら、素直にそう言いなさいよ。 なんで、そんな上から目線なわけ? 1項の具体例としては、登記申請そのものを妨げた場合に限らず、詐欺行為によって、登記申請をなし得ない状態を惹起する場合をも包含するとされているわね。 その理由だけど、判例は、不動産登記法5条は、詐欺・脅迫等の不正行為によって、登記欠缺(=ケンケツ)の原因を与え、不正な利益を図る第三者は、登記欠缺を主張するについて正当の利益を有しない者として扱う旨の規定だからであるとしているわね。 (東京地判昭和28年5月16日) 2項の具体例としては、二重譲渡の場合において・・・うーんと、ちょっと、いつもの下の図を使うから見てくれる? |
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2項の具体例としては、上の図のような二重譲渡の場合において。 つかさちゃんが、ナカちゃんのために移転登記の申請をする義務を負う者であった場合を想定しているの。 例として挙げると、つかさちゃんが、株式会社の代表取締役や、遺言執行者、登記の申請の依頼を受けた司法書士等の場合になるわ。 このような場合のつかさちゃんは、ナカちゃんのために、移転登記の申請をする義務を負っているわけよね。 それなのに、その自己の義務を怠って、ナカちゃんのための移転登記をせずにおいて、自己名義を獲得して、ナカちゃんに対して、登記のないことを主張するなんてことは信義に反することよね。 したがって、この場合のつかさちゃんは、登記の欠缺を主張する『第三者』にはあたらないとされるわ。 でも、不動産登記法5条2項には但書きがあるから、その点には注意が必要になるわね。 つまり、上の図の@とAが逆の場合(=つかさちゃんのサルとの売買が、ナカちゃんとサルとの売買よりも先の場合)であれば、つかさちゃんはナカちゃんに対抗することができる、ということを但書きはいっているわけ。 少し細かい話だけれど、破産管財人が『他人のために登記を申請する義務を負う第三者』にあたるかどうかについて、判例は、破産管財人は、破産者の代理人ではなく、破産債権者のために公の執行機関たる職務を行う者であるとして、これを否定しているわね。 (大判昭和8年7月22日) |
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うーん、ということは、さっきの光ちゃんのまとめは要らんかったってことじゃね? だって、当事者及び包括承継人以外の者であっても、この不動産登記法5条に該当する者は、登記がないことを主張することができない(=登記をしなければ対抗できない『第三者』ではない)わけでしょ? |
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順を追って説明しているんだから、あの説明の時点までの理解を、まとめたまでじゃないのよ。 でも、サルの指摘の通りよね。 不動産登記法5条もあるわけなんだし、177条にいう『第三者』の範囲については、無限定でいいってわけではないってことが、ここからもワカルわけよね。 じゃあ、どのような制限が加わるのか? ということが、ここからの話になるわけ。 |
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大判明治41年12月15日を紹介されるわけですよね。 皆さんが間違えるといけないので、一言付け加えておきますが、実は、先日検討した大判明治41年12月15日と、全く同日に、同じ連合部判決で、異なる事件に対して、177条についての判例が出ているんですね。 一方は、先日勉強した177条の適用されるべき物権変動の範囲について「無制限説」をとった判例ですよね。コチラは、百選6版50事件 7版52事件として掲載されています。 そして、もう一方が、今から紹介するもので、177条にいう『第三者』の範囲について述べた判例なんですね。 コチラは、百選5版の50事件には掲載されていたのですが、6版以降では差し替えられていて、今は未掲載になっていますね。 共に、大判明治41年12月15日と表記されることや、ドチラも177条についての極めて重要な判断を下した判例であることから、間違えないように抑えておいて下さい。 |
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丁寧な説明ありがとうね、つかさちゃん。 そうね。 今から私が紹介する判例(大判明治41年12月15日)は、177条の『第三者』についての判断を示したものなの。 事案と判決文は割愛するけれど、同判決は 177条にいう『第三者』とは 『当事者若しくはその包括承継人にあらずして不動産に関する物権の得喪及び変更の登記欠缺を主張する正当な利益を有する者』 をいう として制限説(177条にいう『第三者』について制限的に解する考え方)をとるようになったことで重要な意味をもつ判例なの。 事実、これ以前の判例は無制限説の考え方をとっていたのよね。 |
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不動産登記法5条の場合は、具体的にワカリやすいんだけれど、この判決文にいう『不動産に関する物権の得喪及び変更の登記欠缺を主張する正当な利益を有する者』っていう定義は、どうなのかな? なんか漠然としてて、ワカリにくい気がするんだけれど・・・。 |
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そうよね。 だから次回以降は、もう少し具体的に、この判決があげる『第三者』にあたる場合、あたらない場合というのを考えていこうってことにしたいわ。 とりあえず、今日の勉強会では、177条にいう『第三者』については、条文上は『善意の』という文言がないわけなんだけど、判例準則として、『不動産に関する物権の得喪及び変更の登記欠缺を主張する正当な利益を有する者』をいう、という考え方(=制限説)がとられているってことを、しっかり抑えておいて欲しいわ。 その内容の理解については、次回以降に見ていくことにしましょ。 |
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えっ? もう御仕舞いなの? まだまだ、やりたいよ! |
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うんうん。 でも生憎、オネーちゃんは、もう一杯一杯なのであった、マル。 |
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「限界なんて自分で勝手に作るな!」 「なせばなる!」 って、オネーちゃん、いつもチイに言ってくれたよ! そのオネーちゃんが、一杯一杯なんて、おかしいよっ! |
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チイちゃんの言うとおりです! | ||
うん、チイの言いたいことはホントよくワカル。 でもね、考えて欲しいんだよね。 物事を一律に為すことは、必ずしも正しいことでも、平等なことでも無いんだよ? 例えば、電車の席にも優先席ってあるでしょ? 御年寄りや、身体の不自由な方には、配慮が必要だよね? そして、そういう配慮ができてこそ人間らしい生き方だと言えるよね? |
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え・・・。 ・・・オネーちゃんがナニを言いたいのか、チイはちょっとワカラナイんだけど・・・。 |
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あたしは、チイよりオネーちゃんだよね? つまり、チイより年寄りってことになるよね? ということは、チイは、御年寄りへの配慮が大事になるってことじゃないかな? |
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・・・。 (ナニ言ってるのかワカラナイです!) |
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そっかっ!! そうだよね! オネーちゃんの言うとおりだよっ! チイも、御年寄りの方は大事にしなさいって習ったよっ! オネーちゃんは、チイより御年寄りなのに、チイは、そのことを無視して、チイと同じように考えていたよ! 配慮が足りないって言われても当然だよ! チイが悪かったって思うよ・・・オネーちゃん、ゴメンなさいっ!! |
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っ!!! (・・・っと思ったら、めちゃくちゃ通じてしまっているですっ!! ドコにチイちゃんが納得したのか、端で聞いていても、ちっともワカラないですっ!! ) |
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うんうん。 チイは、これからも御年寄りの人を大事に出来る子でいるんだお? |
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うんっ! チイ、オネーちゃんと約束するよ! |
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お・・・御年寄り・・・って、私達も含まれてしまうのでしょうか? | ||
私は包含されていないと思っているけれどね。 木下さんは、大分ボケも入ってきてるみたいだし、何より、ご自分で言われてるんだから、御年寄りなんでしょうけど。 |
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・・・。 (黙れ。 ゴスロリBBAめ。) |