共同抵当③

これまでの勉強会を通じて、共同抵当の配当における同時配当、異時配当については理解できたわよね。

ただ、これまでの共同抵当は、その目的不動産が、全て債務者(事例でいう、つかさちゃん)所有の不動産であることを前提としていたわよね。
  だおだお。
この共同抵当の目的不動産が、1つは債務者所有だけれど、もう1つは物上保証人の所有である、という場合について、今日の勉強会では学びたいと思うわ。

前回まで素材にしてきた事例を、少しだけイジって、B土地は、物上保証人である私(光ちゃん)の所有であるってことにしましょうか。
債務者の私の多重債務に陥っている窮状を見るに見かねて、光ちゃんが自分の土地を担保に供してくれたってことですね。

ありがとうございます!!
やっぱり持つべきものは友達って気がしちゃいますね!
そ、そうね。
まぁ、あくまでも事例だから経緯・背景については、あまり気にしなくっていいと思うけどね。

図を見て欲しいわ。
この場合、本来債務を負っている債務者である、つかさちゃん所有の不動産(A土地)から弁済が行われるべきであって、物上保証人である私の不動産(B土地)から抵当権者への配当が行われるのは、債務者であるつかさちゃん所有の不動産(A土地)からでは、抵当権者が満足を受けられない場合に限定すべきよね。
まぁ、お金を借りたのは、つかさちゃんなんだしね。
御迷惑をお掛けして申し訳ございません。
事例だからね!
ナニも謝ることなんてないんだからね!!

さて。
そうすると、同時配当が行われた場合、つまり、サル(一番抵当権者がA土地、B土地の両方の不動産を同時に競売にかけた場合にも、先ず、A土地の代価600万円から、サルに600万円が配当され、その結果、B土地の上のサルの抵当権が消滅するわけよね。

これによって、物上保証人である私は抵当権の負担を免れる、ということになるわ。

この場合においては、392条1項按分配当は、なされないわ。

そのため、A土地の二番抵当権者であるナカちゃんは、配当を受けられないということになるわね。

他方、B土地の二番抵当権者であるチイちゃん、サルの一番抵当権が消滅した結果、一番抵当の順位に繰り上がるのよね。
同時配当だっていうのに、392条1項配分配当はなされないんですか!
そうなのよね。

そもそも物上保証人は、自ら弁済したり、物上保証に提供した不動産が競売されて、その所有権を失うようなことになった場合には、その負担した額を、債務者に求償できるのよね。

ちょっと、六法で351条、そして準用条文である372条を見てくれる?
民法第351条
『民法第351条 (物上保証人の求償権)
 他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。



民法第372条
『民法第372条 (留置権等の規定の準用)
 第296条(留置権の不可分性)、第304条(物上代位)及び第351条(物上保証人の求償権)の規定は、抵当権について準用する。
この求償権が物上保証人には認められているわ。

そして、物上保証人の、この債務者に対する求償権を確保するために、債権者が債務者に対して有していた抵当権等の担保について、物上保証人は、債権者に代位できるのよね(民法500条、501条)。

ちょっと、債権総論で学ぶ条文になってしまうんだけれど、ここで条文だけ確認しておきましょうか。

六法で、民法500条を見てくれる?
 501条は割愛します。お手元の六法で御確認して下さい。)
民法第500条

『民法第500条 (法定代位)
 弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。
ここにいう『代位』は、392条にいう『代位と同じで、債権者が債務者に対して有していた抵当権等の担保も、物上保証人が債務者に対して有する求償権の範囲で物上保証人に移転するということになるわ。

あ、言わずもがななことかも知れないけれど、逆の場合はダメだからね。
  逆の場合?
つまり、債務者である、つかさちゃん自身が弁済したり、つかさちゃん所有の抵当不動産が競売されたりしたからっていっても、それは元々、つかさちゃん自身の負担に属する債務なんだから、債務者であるつかさちゃんが、物上保証人である私(光ちゃん)に求償することはできないからね。
も、もちろんです。
私の不始末なんですから当然です。
このことは、債務者である、つかさちゃん所有の不動産の上に後順位抵当権を有する者(ナカちゃん)にとっても、同じことが言えるわけね。

だから、債務者所有不動産上の後順位抵当権者であるナカちゃん392条1項による割付を主張することもできないってことになるわけ。

もちろん、異時配当の場合であっても同じことね。
例えば、サル(一番抵当権者がA土地のみを競売にかけた場合であっても、392条2項に従って、ナカちゃん(後順位抵当権者私(物上保証人の所有するB土地上のサルの抵当権に代位すると考えるべきではないわ。
な、なんで、そうなってしまうですか?
私(物上保証人の所有するB土地にサルの一番抵当権を設定した物上保証人の私からすれば、つかさちゃん所有のA土地に、ナカちゃんの二番抵当権が設定されていなければ、なんの負担も被ることはなかったわけよね。

それなのに、たまたまA土地に、ナカちゃんの二番抵当権が設定されたがために余計な負担ナカちゃんの代位を被ることになるというのは、おかしいといえるからね。
まぁ、そうですよね。

そもそも、私の竹中さんから借りた債務は、私の債務なのであって、光ちゃんの債務ではないわけですからね。
だからこそ、物上保証人が弁済した場合や、物上保証に提供した不動産が競売されて所有権を失った場合は、債務者に対する求償権が認められているわけですからね。
  成程です・・・。
因みに逆の場合についても、ここで説明しておくわね。
  逆の場合?
パァーートツゥーーっ!!
  ソレ言いたいだけじゃないですか。
そうよね。

えーっと、さっきの図を、もう一度見てもらってから説明するわね。 
逆の場合っていうのは、サル(一番抵当権者が、物上保証人である私(光ちゃん)のB土地を競売した場合ってことね。

サルは、つかさちゃんのA土地と、私のB土地の両方を共同抵当にとっているわけだから、この2つの不動産のいずれを競売するのも自由といえるわよね。

サルがB土地を競売したとすると、B土地の代価400万円が、サルに配当されるわけよね。
もちろん、物上保証人の私は、このサルの抵当権の実行によって、私の所有するB土地の所有権を失うことになったわけだから、この400万円について、債務者である、つかさちゃんに対して求償権を取得することになるわよね。
  うんうん。
そして、さっきも言ったように、この求償権担保のために、物上保証人である私は、サルがA土地上に有していた抵当権に代位することができるわ(民法500条)。

すなわち、A土地上のサルの抵当権は、400万円の範囲で、物上保証人の私に移転するってことになるわ。
ちょ、ちょっと待ってよ!

一番抵当権者のあたしは、B土地から、あたしの債権600万円のうち、まだ400万円しか回収していないんだよ?
なのに、あたしに代位するって、おかしくない?
おかしくないわよ。

確かに、サルのA土地上の抵当権は、まだ200万円分残っているわけよね。
だから、一番抵当権者のサルと、物上保証人の私とは、それぞれ200万円と400万円の範囲で、一番抵当を共有(準共有)するってことになるわけ。
ちょ、ちょっと待ってくださいです!

一番抵当に、藤先輩の200万円が残っているというのはワカルんですが、ソコに、さらに明智先輩の400万円が追加されてしまうと、二番抵当権者の私は、A土地の評価額が600万円しかないので、配当なしってことになっちゃわないですか?
そうなるわね。

A土地の評価額は600万円なんだから、A土地が競売されると、その代価600万円は、一番抵当権者であるサルに200万円、そして、求償権を有する物上保証人である私に400万円配当されることになるから、二番抵当権者であるナカちゃんは配当を受けられない、という結論になるわね。
くっくっくっく・・・。
まぁ、チビッ子共は、二番抵当権という後順位抵当権者なんだから、この結論も致し方あるまいて。
がーーはっはっはっはっは!!
  違うよ、オネーちゃん。
まだ終わりじゃないよ!
ナニっ!?
き、貴様・・・まだ秘めた技を残しているとでもいうのか!?
油断したね・・・。

物上保証人の光おねーちゃん民法500条によって代位した結果、400万円を得たときに、チイの勝ちは確定していたんだよ・・・。
・・・さっきから、2人がやっているのはナニゴッコなんですか?
あ、ゴメンね、ナカちゃん。
でも、チイには、まだ主張できることがあるっていうのは、ホントなんだよぉ。

チイは、物上保証人である光おねーちゃんの所有する不動産B土地の二番抵当権者だったよね。
  ですです。
B土地が競売されたとき、その代価400万円は、全額、一番抵当権者のオネーちゃんに配当されちゃったから、二番抵当権者のチイには、配当はなかったわけだよね。

でも、だからこそ物上保証人の光おねーちゃんは、その400万円をA土地の上のオネーちゃんの抵当権に代位して得たことになるよね。

このような場合判例は、二番抵当権者(チイ)は、物上保証人(光)がA土地から得る400万円について、自己の債権額(200万円)の限度で
あたかも物上代位するのと同様に
自己の抵当権を主張できる、としているんだよね。
最判昭和53年7月4日
ス、ス、スゴいですっ!!
チイちゃんは、結局、債権を全額配当されているです!!
  えへへへへ。
私にも!!
私の債権にも、そんな必殺技はないんですか!?
うーん、チイは知らないよぉ。
あるのかなぁ?
光おねーちゃん、つかさおねーちゃん、なんかないのかなぁ?
わ、私は、ちょっと浮かばないですねぇ。
私も、ナカちゃんの債権については、ちょっと保護する手段を知らないわね・・・。

ただ、この結論は仕方ないことだと思うわ。

債務者と物上保証人との関係は、そもそも最終的には、その債務は、債務者自身が全額負担すべきものなのであって、物上保証人は、仮に債務者の債務の弁済等をした場合には、全て債務者に求償できる立場にあるわけよね。

そして、物上保証人には求償権が認められていて、その求償権による法定代位民法500条という規定が存在する以上、債務者所有の不動産に後順位抵当権を設定した後順位抵当権者としては、物上保証人からの求償についても覚悟しておかなければいけない、ってことになるわけだからね。
そ、そうですか・・・。

ということは結局、A土地、B土地の両方の不動産の代価の1000万円は、A土地とB土地の一番抵当権者の藤先輩に600万円、B土地の二番抵当権者であるチイちゃんに200万円、そして、物上保証人の明智先輩に200万円が配当されるから・・・。

やっぱり、債務者である黒田先輩のA土地の二番抵当権者である私には配当なしってことになるわけですね・・・。
ナカちゃん、大丈夫だよぉ。
チイは、200万円もあっても使い道ないから、ナカちゃんと半分こしたげるよぉ。
  チイちゃん!
ありがとうです!!
チイちゃんは優しいわね。
麗しき友情って感じしちゃうわねぇ。
私も、物上保証人になってくれた光ちゃんには感謝していますよ!
・・・いやいや「ありがとうです」や感謝は、ええけどさぁ。
肝心の物上保証やら、200万円やらはドコにあるんだお?
 共同抵当の問題は、さらに事案でいうところのA土地、B土地が共に物上保証人の所有であった場合もあります。

 この問題は、場合をさらに2つに分けて考える問題となります。

 A土地が物上保証人Xの所有、B土地が物上保証人Yの所有というように、A土地、B土地が別々の物上保証人の所有である場合と、A土地、B土地共に同じ物上保証人の所有である場合パターンです。
 猶、この問題の説明については割愛します。
 (単純にキャラの人数が足りないので説明の図に困ったためですw)

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