今日の勉強会は、前回の勉強会の積み残しの論点を片付けることにするわね。 前回積み残しの論点っていうのは、建物再築後の法定地上権の成否って問題よね。 それじゃ先ずは、条文の確認からね。 法定地上権について定めた民法388条を見てくれる? |
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民法第388条。 『民法第388条 (法定地上権) 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。』 |
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そして、この条文から導き出される、法定地上権の成立要件は、次の4要件だったわよね。 ①『抵当権』『設定』当時、『建物が』『存する』こと。 ②『抵当権』『設定』当時、『土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する』こと。 ③『その土地又は建物』の一方又は双方に『抵当権が設定され』たこと。 ④『土地又は建物』の『所有者』が『抵当権』の『実行により』異なるものとなったこと。 前回の勉強会では、この4要件のうちの①について見たわけよね。 そして、土地への抵当権設定当時、存在した建物が滅失又は取り壊されて新しい建物に変わった場合の、その新たな建物についての法定地上権の成否については、法定地上権の成立自体は認められるものの、それは旧建物を基準とした法定地上権になる、というのが大審院以来の判例・通説的理解になるってことまでは勉強したわけよね。 |
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いつ? |
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前回よっ! 前回っ!! ハァハァ。 で・・・ちょっとまだ前提となる共同抵当自体を勉強していないんだけれど、少し先取りでココで抑えておきたい論点があるのね。 その論点というのが、土地と建物とが一括して共同抵当の目的とされた場合において、その建物が滅失、あるいは取り壊されて新建物が築造された場合に、この新建物について法定地上権が成立するか、という問題なの。 |
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共同抵当って? | ||
また改めて、後で学ぶことになるんだけれど、同一の債権の担保として、複数の不動産に抵当権が設定される場合を、共同抵当というのよね。 考えてもらえばワカルと思うんだけれど、債権の額が大きくって、一つの不動産を担保にしたくらいじゃ、債権額に足りないことっていうのはあるわけよね。 そういう場合に、複数の不動産を担保にして、債権を担保するために用いられるのが共同抵当ってことなの。 詳しくは、また改めて学ぶってことにして、今日は法定地上権との関係に絞って考えて欲しいわ。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
前回の勉強会で学んだ判例・通説の理解・・・。 すなわち、土地への抵当権設定当時、存在した建物が滅失又は取り壊されて新しい建物に変わった場合の、その新たな建物についての法定地上権の成否については、法定地上権の成立自体は認められるものの、それは旧建物を基準とした法定地上権になる、という考え方は、この共同抵当の場合にも適用されてきたわ。 (大判昭和13年5月25日・個別価値考慮説) |
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え? 同じなの? ソレやったら、わざわざ今日の勉強会に廻す必要はなかったんじゃね? |
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同じだったら、そういう話になるわよね。 ただ、近時の判例は、この考え方を変更したのよ。 ソコでは、どのような判断がなされたのか、そして、この変更によって、どのような取扱いになるのか、という点を、今日は学びたいと思うわ。 先ず考えて欲しいんだけれど、土地と建物とを共同抵当の目的とした場合、抵当権者としては、どのように、これを評価したのか、ってことよね。 そもそも、同一の債権を担保するのに不足するからこそ、複数の不動産を担保にとったわけよね。 |
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うんうん。 そうだよね。 |
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ということは、抵当権者としては、土地建物の価値の全部を価値評価していると考えるべきよね。 つまり、土地評価分については、法定地上権が発生することを予期した評価額で、建物については法定地上権付の評価額で評価しているのかってことになると、そんな風に分けて考えてはいないってことよね。 |
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ふむふむ。 確かに、そう考えていそうだよね。 |
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そうよね。 旧建物(抵当権を付した建物)が滅失した場合、建物の滅失によって、その建物に設定されていた抵当権も当然消滅することとなるわ。 その場合、抵当権者は残る土地の抵当権から債権を回収するしかないってことになるわけだけど、その場合、抵当権者が期待している土地の評価額は、地上権による制限を受けない更地の評価額といえるわ。 |
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ん? なんで? だって、土地の上には、そもそも建物は存在したのに、その建物が滅失したら、なんで土地を更地で評価して欲しいってことになっちゃうわけ? |
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だって、旧建物の抵当権は、その建物の滅失によって消滅しちゃうわけでしょ? そうなると、その抵当権者は、再築された建物については、同一順位の抵当権の設定を改めて受けない限り、地上権による制限を受けた土地の価値だけってことになっちゃうわけよ? |
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あ・・・ホントだお。 | ||
事実、これを逆手にとって、共同抵当の目的となっている建物を取り壊して、抵当権を消滅させて、その後、適当な建物を築造して法定地上権の成立を主張して、抵当権者の強制執行を妨害するなんてことも横行したのよね。 | ||
そっか・・・。 そもそも制限付の土地だけじゃ担保不足だったから、建物にも共同抵当をしたってのに、その土地だけにされちゃったんじゃ、抵当権者もたまったもんじゃないよね・・・。 |
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色々悪いことを考え付く人がいるものです・・・。 藤先輩みたいな人が、世の中にはいるんだなって怖くなるです。 |
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・・・。 (こ、このチビッ子、抜け抜けと、とんでもないこと言うとるで?) |
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だから、実務家からも、個別価値考慮説の立場をとる大判昭和13年5月25日の考え方には、批判も強かったのよね。 そこで最高裁は、次のような考え方を新たに示したの。 最判平成9年2月14日 (百Ⅰ 6版91事件 7版89事件) が、そうね。 判旨は、次のように述べているわ。 『土地と地上建物を別個の不動産とし、かつ、原則として土地の所有者が自己のために借地権を設定することを認めない我が国の法制上、同一所有者に属する土地又は地上建物に設定された抵当権が実行されて土地と地上建物の所有者を異にするに至った場合、建物所有者が当該土地の占有権限を有しないことになるとすれば、これは、土地が競売によって売却されても、土地の買受人に対して土地の使用権を有しているものとする建物の所有者や土地の使用権があるものとして建物について担保価値を把握しているものとする抵当権者の合理的意思に反する結果となる。 そこで、民法388条は、右合理的意思の推定に立って、このような場合には、抵当権設定者は競売の場合につき地上権(以下、「法定地上権」という。)を設定したものとみなしているのである。 その結果、建物を保護するという公益的要請にも合致することになる。 それゆえ、土地及び地上建物の所有者が土地のみに抵当権を設定した場合、建物のために地上権を留保するのが抵当権設定当事者の意思であると推定することができるから、建物が建て替えられたときにも、旧建物の範囲内で法定地上権の成立が認められている。 また、所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した場合、抵当権者はこれにより土地及び建物全体の担保価値を把握することになるが、右建物が存在する限りにおいては、右建物のために法定地上権の成立を認めることは、抵当権設定当事者の意思に反するものではない。 これに対し、所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である。 けだし、土地及び地上建物に共同抵当権が設定された場合、抵当権者は土地及び建物の全体の担保価値を把握しているから、抵当権の設定された建物が存続する限りは当該建物のために法定地上権が成立することを許容するが、建物が取り壊されたときは土地について法定地上権の制約のない更地としての担保価値を把握しようとするのが、抵当権設定当事者の合理的意思であり、抵当権が設定されない新建物のために法定地上権の成立を認めるとすれば、抵当権者は、当初は土地全体の価値を把握していたのに、その担保価値が法定地上権の価額相当の価値だけ減少した土地の価値に限定されることになって、不測の損害を被る結果になり、抵当権設定当事者の合理的な意思に反するからである。 なお、このように解すると、建物を保護するという公益的要請に反する結果となることをもあり得るが、抵当権設定当事者の合理的意思に反してまでも右公益的要請を重視すべきであるとはいえない。 大判昭和13年5月25日は、右と抵触する限度で変更すべきものである。』 とね。 |
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この判決文に現れている考え方は、全体価値考慮説と呼ばれる考え方ですね。 判決文においても 『所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した場合、抵当権者はこれにより土地及び建物全体の担保価値を把握することになる』 と述べられていますよね。 つまり、抵当権者は土地と建物の担保価値を別々に把握する(個別価値考慮説)のではなく、土地と建物の担保価値を一体的に把握する(全体価値考慮説)ものと考えているわけですね。 また、そのように考えることが、 『抵当権設定当事者の合理的意思』 であると、してるわけです。 |
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そりゃ、そうだろう。 常識的に考えて。 |
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うんうん。 納得、納得だよぉ。 |
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但し、特段事情についても、しっかり抑えておいてね。 判決文において述べられている 『所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない』 と、される部分ね。 もともと、土地と建物の双方を共同抵当の目的物としていたわけなんだから、新たに建築された建物についても、また新たに抵当権を同順位で設定してもらえるのであれば、抵当権設定当時に把握した価値を損なうものではない以上、法定地上権の成立を認めても、抵当権者に不測の損害を与えることはないってことになるわけだものね。 |
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まぁ、そうだよね。 抵当権者の合理的意思解釈ってやつだよね。 |
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ワカッタようなこと言って・・・大丈夫かしら。 この判決に現れた全体価値考慮説という考え方は、続く 最判平成9年6月5日 最判平成10年7月3日 と、3つの小法廷全てが、同様の考え方をとることを明らかにした現在においては、確固たる判例となったといえるわ。 (本判決が第三小法廷、最判平成9年6月5日が第一小法廷、最判平成10年7月3日が第二小法廷) |
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そうなんだぁ。 チイは、この判例は知っていたけど、光おねーちゃんみたいな説明は、まだまだ出来ないよぉ。 よぉーし、頑張るぞぉっ!! チイも、光おねーちゃんみたいな説明ができるようになりたいからね! |
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よしよぉーし、チイ! その調子だお! チイの説明が悪いと、あたしの課題の評価もエラいことになってまうんだから、そのつもりで、しっかり頑張るんだお!! |
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・・・木下さん、今、なんて? | ||
おっとっと。 違うね、違うよね。 チイも、光ちゃんみたいになれるように頑張るんだよね。 うんうん。 あたしも応援する。 |
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・・・藤先輩も、同じロー生なんですから、自分も頑張るって言って下さいです。 | ||
竹中さん? 藤さんは、もう既に誰よりも頑張ってみえるんですから、その言い方は失礼ですよ? |
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だおだお。 流石、クロちゃん! もう、あたしのことは何でもお見通しだよね! |
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もちろんです!! | ||
・・・。 (・・・ダメだ、こいつ「ら」 ・・・早くなんとかしないと・・・です。) |