抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲 補講

この勉強会は位置づけとしては、補講的なものと思ってくれていいわ。

前回の勉強会でも話したように、抵当権の効力が及ぶかが問題となる目的物としての「従物」については、民法370条にいう『付加して一体となっている物』(いわゆる付加一体物)の解釈を、経済的・価値的に一体となったといえるもの、と捉えることで、抵当権の設定の前後を問わず、「従物」を「付加一体物」として捉えることが出来、その結果、370条から抵当権の効力が及ぶ、という結論を導くことが出来るってことだったわね。

前回は、あまり触れなかったけれど、チイちゃんは、この問題をどう考えているのか説明してくれるかしら?
あのね。あのね。
構成物であれば、付加一体物って言っていいから、370条で抵当権の効力が及ぶと思うんだよぉ。

でも、チイは、畳とかは、やっぱり構成物として捉えることは出来ないって思うんだよね。
ソレは、やっぱり「従物」だと思うんだよね。

だから、370条「付加一体物」としてではなく87条「従物」として考えるべきだと思うんだよね。

そこで、87条2項にいう『従物は、主物の処分に従う』ってことから、この87条2項にいう『処分を「抵当権の実行」と解釈するんだよね。

そうすると、抵当権設定後に抵当目的物に付けられた「従物」にも、抵当権の効力が及ぶってことになるもんね!
・・・なんかゴチャゴチャ言っとるけど、結局、ドッチの考え方とっても、「従物」に抵当権の効力が及ぶってオチじゃないの。
まぁ、そうなるわね。

チイちゃんのような考え方をとった場合に、87条2項にいう『処分』を「抵当権の設定と解釈すると、抵当権設定時に存在した「従物」にしか抵当権の効力は及ばないとする帰結になる考え方もあるんだけれど、チイちゃんは、そうは捉えていないみたいだから、結論的には、私もチイちゃんも、同じことになるからね。
結論が同じなら、あたしは、光ちゃんみたいに、370条にいう「付加一体物」とは「経済的・価値的一体性を有するもの」をいうって理由で、「従物」を「付加一体物」として捉えて、抵当権の前後を問題にせずに、抵当権の効力は「従物」にも及ぶってことで、いいかな。
そうね。
87条についても触れることは必要だとは思うけれど、その理解が通説的地位にあるわけだし、その考え方でいいと思うわ。
・・・でも、これって前回の復習だよね?
一緒に考えたいって言ったのは、コレなの?
違うわよ。
今の話は一応、確認のために整理をしただけよ。
それじゃ、今日の検討会に入るわね。

抵当権設定後の「従物」に抵当権の効力が及ぶのか
という問題についてのLC(リーディングケース)としては、連合部判決まで遡ることが出来るわ。

連判大正8年3月15日が、そうね。
この事件では、湯屋営業用建物に抵当権が設定され、その建物の畳、建具、湯屋営業器具および煙突などの付属する一式の物に、抵当権の効力が及ぶのかが争われたのよね。
この判決は、抵当権設定時の「従物」に抵当権の効力が及ぶとする根拠を、民法87条2項に求めているわね。
あ、チイと一緒だぁ!
ただ、この連合部判決は、抵当権設定「」の「従物」に抵当権の効力が及ぶことを正面からは論じてはいないのよね。
いや、ソレだったら、抵当権設定後の「従物」に抵当権の効力が及ぶのか? って問題のLCに、なってないんじゃない?
でも、この後の大正10年に、抵当権設定後に増築された「茶の間」を「従物」として、この「茶の間」にも抵当権の効力が及ぶ、とする決定が出ているのよね。

その決定文において、抵当権の効力が及ぶとすること
当院の判例とするところ
大決大正10年7月8日
としているから、そういう理解になるのかなぁってね。
うーん、っていうか、そもそも「茶の間」は「従物」じゃないような気がすんだけどなぁ。
あら、珍しくいいこと言ってくれるじゃないの。
そうよね。
私も「茶の間」は「従物」ではなくって、むしろ構成部分と見るべきだと思うのよね。

構成部分とは、独立の物ではなく、その本体たる不動産の一部と観念される物(例として、建物であれば屋根、壁、柱等)なんだから、「茶の間」は、構成部分と評価すべきよね。

 あくまでも光ちゃんの私見です)
  だおだお。
あ、この流れで紹介しておくと、大判昭和9年7月2日では、抵当権設定当事者間に、畳、建具に抵当権の効力が及ばない旨の特約があった事案において、抵当権設定「」に付加した畳、建具について、この特約を根拠に、これらの物について抵当権の効力が及ぶことを否定しているわね。

これは、特約がなければ、抵当権設定「」の「従物」にも抵当権の効力が及ぶことを認めたとも読めるわよね。
そっかそか。
抵当権の効力が及んで欲しくない物があれば、特約ってことで当事者間で合意をとっとくってことも出来るわけか。
ちょっと抵当権者の方が、そうそう、そんな特約に合意するとは思えないですけどね。
抵当権者の方には、あまり得がないように思えますから。
それもそうか。
でも、どうしても抵当権の効力を及ぼしたくないって思う物があるんなら、特約って形をとっとけば、抵当権設定「」の「従物」については、別に出来るってことだよね。
そうなるわね。

じゃあ、特約は考えないことにして、抵当権設定「」の「従物」についての裁判例を見てみましょうか。

下級審裁判例ではあるんだけれど、劇場兼キャバレーの建物に、抵当権設定後に、抵当権設定の目的となった建物に、その建物価格を超える価値をもつ舞台照明装置・音響器具その他の劇場施設用動産が設置された、という事案があるのよね。

これらの「従物」についても、抵当権の効力は及んだと思う?
東京高判昭和53年12月26日
むむむむむ・・・。
抵当権の目的となった建物よりも高い価値のある「従物」にまで、抵当権の効力が及ぶってこと?
なんか逆に、ソレだと抵当権の効力が強すぎない?
でも、この裁判例では、抵当権設定「」の「従物」についても抵当権の効力を認めているのよね。
  あらま。
こんな判例もあるわ。
ガソリンスタンドの、地下タンク、計量器、洗車機などが存在している状態で、ガソリンスタンドの店舗建物に抵当権が設定されたわけ。

さて、この抵当権の効力は、地下タンク、計量器、洗車機等に及ぶと思う

因みにだけど、この事案での地下タンクは、抵当権の目的となった店舗建物の4倍以上の価値があるものだったんだけどね。
最判平成2年4月19日
めっちゃゴッツい差があるように思うなぁ。
でも、なんか聞き方から察するに、抵当権の効力は及ぶって結論っぽいね、ソレ。
オネーちゃんの考え方は、おかしいよぉ。
なんでそうなるのか、って考えないと駄目だと思うよぉ。
上告理由では、価値の面においても、地下タンクが抵当権目的不動産の4倍以上の価値を有すること、機能の面においても、地下タンクなくしてガソリンスタンドの経営は出来ないことから、地下タンクは、店舗建物の「従物」とはいえない、むしろ、主物と従物が逆といえる、とする主張がなされたけれど、退けられているわね。

ここでは、地下タンクを、ガソリンスタンドの店舗建物と、経済的・価値的に一体性を有するものであるとする価値判断が働いたためだと捉えているわ。
成程ね。
そう言われると、劇場兼キャバレーの舞台照明装置・音響器具その他の劇場施設用動産も、建物価値を上回る物ではあるけれど、建物と、まさに、経済的・価値的一体性がある物だって言えるよね。
その判断基準で、抵当権の効力の及ぶことを認めているってことだね!
そうなるかな。

実際問題として、学説の大勢は、抵当権設定「」の「従物」にも抵当権の効力が及ぶ、としているのよね。

その理由については、

①抵当権の目的不動産と、それに付加する「従物」とが一体となって、社会的・経済的にも効用を発揮しているのに、抵当権実行に際して、抵当権設定後に備え付けられた物だけを分離して競売しなければならないとすると、抵当権によって把握しようとする担保価値が十分なものでなくなるから

②備品が抵当権設定後に取り替えられたような場合に、取替え後の「従物」には抵当権の効力が及ばないとすることは、甚だ非常識な結果を招きかねないから

っと、いったものが挙げられるわね。
ってか、ぶっちゃけ、地下タンクとか、劇場用舞台照明装置なんて、競売で単品で買っても仕方なくない?

特に、地下タンクなんて、営業用店舗が別の人が競売で買ったなんてことになったら、何のために買ったのか、マヂわからん! ってことになってまうお。
そりゃ、一緒に競売してもらった方が、買う方も助かるよね。
そうよね。
そのような価値判断が働くからこその考え方かも知れないわよね。
理論構成はどうあれ、結論的には私も肯定的だからね。

それじゃ、今日の検討会の締めに、私の理解する考え方と、チイちゃんの考え方とを、再度整理しておくわね。

抵当権設定「」の「従物」にも抵当権の効力が及ぶとする解釈論は、大きくつになるわ。
私の理解している考え方と、チイちゃんの考え方の2つね。

それぞれ、まとめておくことにしましょうか。
それじゃ、私からね。

民法370条の「付加一体物」には「従物」も含まれると解する。
抵当権は、目的物を、その時その状態での価値において把握しているものであり、不動産に付属して、その効用を助ける「従物」も、抵当権の価値を維持することに貢献している

そこで民法370条付加して一体となっている物とは、不動産の利用価値を維持し、又、これを高める結合関係を広く含むものと解し、抵当権設定の前後にかかわらず「従物」も含まれると考える

っていうのが私の理解している考え方になるわ。

次は、チイちゃん、御願いね。
そ、それじゃ真面目に答えるよ!

民法370条の「付加一体物」は、その文言からみて民法342条の「付合物」(構成部分)と同じとみるべきであり、付加一体物に「従物」を含めることには文理上無理があるといえることから、民法87条2項によって「従物」が抵当権の目的になると解する。
そして、87条2項にいう処分とは、抵当権設定という一時点における行為のみを意味するにとどまらず、その後の抵当権実行までの一体としての態様を意味するものといえる。
そうであれば、抵当権の実行までに付属せしめられた全ての「従物」が、主物と共に競売されて買受人の手に帰する、といえる。

っていうのが、チイの理解している考え方になるよ!
むぅぅぅ。
チイの考え方は面倒だなぁ。
あたしは、やっぱり光ちゃんの370条一本でいける方のが、シックリ来るかなぁ。
サルは、その「面倒」だからって発想を捨てなさいよ!

でも、珍しく意欲的な態度で臨んでくれたなって思ったわ。
藤さんは、いつも意欲的だと思いますよ。
だおだお。

(まぁ、ぶっちゃけ今日は、この後の御馳走があっからね!
 やる気見せとけば、気持ちよく美味しいモンを喰わせてくれるでしょって算段があっての話だけどね。
 うぇっへっへっへっへっへっへ。 )
そうね。
それじゃ、約束通り御馳走させてもらうわね。
お店の方は予約してあるから行きましょうか。
うひゃっ!!
既にお店が予約済みとは・・・。
いやが上にも高まる期待っ!!
静まれ、静まれ、あたしの胸の高鳴りっ!!
  チイも一緒に行ってもいいの?
もちろんじゃないの。
6人で予約してあるんだから、来てくれないと逆に困っちゃうわ。
わーいわーいわぁーーいっ!!
  ワーイ!
ワーーイ!!
ワーーーイ!!!
・・・。

(・・・予約の人数が5じゃなくって6になっているです。
 コレはおそらく、柴田さんが入っていると思うです。
 明智先輩には、藤先輩が柴田さんを苦手なのが、まだ今ひとつ伝わってないみたいです・・・。)

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