今日の勉強会では、先取特権の効力について学ぶわ。 先取特権も、担保物権であることから、先に学んだ担保物権に共通する性質である不可分性(305条)、物上代位性(304条)、そして、付従性、随伴性を備えているわ。 そして、ここまでの勉強会を通じて見てきたように、先取特権とは、そもそも債権者平等の原則を破って、ある特定の債権について、優先的な弁済を受けさせることを認めたものよね。 もちろん、その理由としては政策的配慮や、公平の観念や、当事者の意思の推測など、理由は、その債権ごとに様々なものがあるわけだけど、その点については、もう大丈夫よね。 |
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こくこく(相槌) |
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・・・ナニ「大丈夫」なのを大前提にしてくれちゃってんだお。そんなわけねぇーだろ、とマヂレス。 | ||
あんたは理解が不十分なの自覚してんのなら、復習するようにしなさいよ! 何度も言っていることじゃないの! 基本は、反復することだからね! えーっと、それじゃ、今日の勉強会の内容に入るわね。 先取特権の効力の一つである優先弁済的効力(303条)については、個々の内容と共に確認済みということで、ここでは、積み残しになっていた物上代位性について学ぶことにするわ。 六法で、304条を見てくれる? |
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民法第304条。 『(物上代位) 第304条 1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 2項 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。』 |
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304条1項を、まずはしっかり読んでみてくれる? この条文がナニを言っているかについて、まず話すわね。 例えば、私がサルの持っている時計を、先取特権の目的物にしていたという仮定の上で聞いてね。 |
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ふむふむ。 あたしの時計が、先取特権の目的物だったわけね。 |
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この債務者であるサルの時計が、火災で焼失してしまったの。 この場合、どうなると思う? |
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・・・先取特権の目的物が、火事で燃えて無くなっちゃったわけでしょ? 目的物が滅失したんだから、その上にあった先取特権も、消えてまうんじゃないの? |
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そうよね。 目的物が滅失した以上、その上にあった担保物権も消滅せざるを得ない、と考えるられるわよね。 ただ、この事案のサルが、火災保険に入っていたとしたら、どうかしら? |
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あ、その場合は、あたしは火災保険がおりそうな気がする! いや、ちょっと火災保険はよく知らないけれど、火事みたいな事故を想定して保険に入っているんだし、火事で時計が燃えてなくなったのなら、それは保険がおりるんじゃない? |
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そうね。 少し細かい事情は、はしょって、時計の所有者であったサルに火災保険金が入ったという前提で話を進めましょうか。 でも、そうなるとよ? 先取特権を有していた私は、時計が火事で無くなったがために、先取特権を失ったのに、他方、サルの方は、先取特権という制限のついていない金銭が入る・・・ということになるわけよね。 |
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不公平だと思うです! | ||
え? いんじゃね? 火事は、必ずしもあたしが悪いとは限らないじゃん。 この火事は、ひょっとしたら、チビッ子が、あたしの家に火ぃつけたのかも知れないしさ。 |
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してないです! してないです! 私は、藤先輩と違うから、そんなことは絶対しないです! |
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『藤先輩と違うから』という理由は、どうなんだろうか・・・。 問い詰めたい、小一時間問い詰めたい。 |
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まぁ、火事の理由はさておき。 このような不慮の事故があったからと言って、サルが、一方的に先取特権を免れることになるという結論が不公平だということは、そうよね。 304条の規定は、このような事態に際して、先取特権者が、その目的物が滅失した代わりに得た代償物の上に、先取特権の行使を認めるものなのね。 事案に則して言うと、先取特権者の私は、サルの有する火災保険金請求権に対して、先取特権を行使することができるわ。 これが物上代位ということなの。 |
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物上代位という言葉ですが、これは、なんらかの理由(事案の場合であれば火事)によって、目的物の交換価値が現実化した場合(事案の場合であれば、時計が火災保険による金銭に現実化)に、その価値代表物に対して、担保物権の効力を認める制度をいいますね。 交換価値の現実化とは、事案でいうならば、時計という目的物の有する交換価値が、金銭などに姿を変えることをいいます。 そして、その価値代表物とは、その目的物の価値が、価値を維持しつつ、その姿を変えた物に対して使われる言葉になりますね。 |
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5万円相当の価値のある時計が、火災保険がおりて、5万円のお金に変わったとしたら、それは、時計が5万円のお金に変わったってことだね。 でも、それって、実際に、あたしがもらっちゃったら、ソレが元は、なんのお金だったかなんてワカラナイよね? |
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そういうことにだけは目ざとく気がつくのね。 確かに、そうね。 304条1項但書を読んで欲しいんだけど・・・。 『(物上代位) 第304条 1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。』 と規定しているわよね。 今、サルが指摘してくれたように、時計の火災保険金がサルに支払われてしまうと、金銭が、所有者の有していた金銭に混入してしまうこととなり、そうなっては、所有者の財産中のどの部分が、火災保険金かを見分けることは出来なくなってしまうわけよね。 だから、304条1項但書は 『先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。』 と定めているわ。 つまり、事案の私が先取特権を、サルの火災保険金に対して行使しようとするならば、その保険金が、火災保険会社から、サルに支払われる前に、差押えをしなければならない、という結論になるわけね。 |
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光おねーちゃんっ! この問題について考える判例があるよね! やろう、やろうっ! 判例検討をやろうよっ! |
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そうね。 せっかくだし判例検討をしちゃいましょうか。 検討判例は、最判昭和60年7月19日ね。 (百選Ⅰ 6版82事件 7版79事件) |
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なんか消化不良な感じがしてまったね。 | ||
あんた、自分で終わっておこうって言っておいて、よくもまぁ、そんなことが言えたものね。 | ||
そう言えば、さっきの検討判例は、動産売買の先取特権を扱っていましたが、動産売買の先取特権と言えば、物上代位権の行使との関係で、もう一つ百選掲載判例がありましたよね。 | ||
あ、あったわね。 最決平成10年12月18日よね。 (百選Ⅰ 6版81事件 7版78事件) |
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ソレはナニが問題になったの? | ||
事案の紹介は省略しますが、動産売買の先取特権の物上代位が、その動産の買主の当該動産を用いた設置工事をすることを、第三者との間で交わした請負契約の請負代金債権にまで及ぶのかが問題となったのです。 | ||
えーっと、あまりに説明が簡単すぎて、逆に、どういうことかよくワカラナイんだけど・・・。 | ||
あ、竹中さんがワカラナイ・・・という御指摘ですね。 す、すみません。 少し配慮が足りませんでした。 それじゃ、少し配役をして、事案をザックリお伝えしますと・・・。 藤さんは所有している動産(事案ではターボコンプレッサーという機械)を、竹中さんに売ったんです。 ただし、動産の売買代金については、竹中さんは藤さんに支払っていませんでした。 その動産を、竹中さんは、チイちゃんに頼まれて、設置する工事を請け負いました。 請負については債権各論で学ぶことになりますが、当事者の一方である請負人が相手方に対し仕事の完成を約し、注文者がこの仕事の完成に対する報酬を支払うことを約する契約をいいますね(民法632条)。 請負工事は完成したのですが、チイちゃんから竹中さんへの請負代金が支払われる前に、竹中さんは破産してしまいました。 当然、竹中さんから藤さんへの動産の売買代金は、まだ支払われていないままで、です。 |
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うわっ! チビッ子が、えらいことになりよった! ・・・でも、あたしには動産売買の先取特権があるから、チビッ子がチイに対して有している請負代金債権が、まだ支払われていないっていうのなら、その債権に物上代位していけば大丈夫ってことだよね。 |
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そこが、この事件の争点となったんです。 というのも、民法304条ですが・・・あ、竹中さん、今一度、条文を確認してもらっていいでしょうか? |
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民法第304条。 『(物上代位) 第304条 1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 2項 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。』 |
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ですよね。 この条文の規定には『目的物の売却』とあります。 単純な転売であれば、その売却代金債権は、藤さんの動産という目的物の交換価値が現実化したものと言えるわけですが、この事案では、その動産を用いた請負工事をしているわけです。 請負工事においては、この藤さんの動産の他に、その他の役務や労務や、場合によっては他の材料費等も、全て請負代金債権には含まれてしまっているわけです。 そうなると、直ちに、その請負代金債権が、藤さんの動産の交換価値の実現であるとは言えないということになってしまうわけですよね。 にもかかわらず、藤さんからの動産売買の先取特権を認めてしまっていいのか、ということが問題(争点)になっているんです。 |
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・・・な、なるほど・・・。 因みに、この事案では、あたしの売却代金と、請負代金は、どれくらいの差額があったの? |
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藤さんから竹中さんへの売買代金は、1575万円。 竹中さんからチイちゃんへの請負代金は、2080万円でしたね。 |
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じゃあ、2080万円のうち、1575万円が、あたしの動産売買分ってことで、いいんじゃない? | ||
うーん、どうでしょうか・・・。 転売と異なって、請負の場合は、目的物の価値が単純に形を変えただけ、とは言えないところに問題があるわけです。 ですから、債権額が、目的物の売買額を上回るものであるから、先取特権が成立するという単純な問題ではないんですよね。 |
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そうなんだ・・・。 この問題を判例は、どう判断したわけ? |
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判例は、次のように述べているわね。 『動産の買主がこれを他に転売することによって取得した売買代金債権は、当該動産に代わるものとして動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となる(民法304条)。 これに対し、動産の買主がこれを用いて請負工事を行ったことによって取得する請負代金債権は、仕事の完成のために用いられた材料や労力等に対する対価をすべて包含するものであるから、当然にはその一部が右動産の転売による代金債権に相当するものということはできない。 したがって、請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができない』 として、まず、請負代金債権には、当然には動産売買の先取特権の効力は及ぶものではない、としているわね。 ここまでが原則論になるわ。 そして、次のように続けているのね。 『が、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができると解するのが相当である。』 そして、例外的に 『請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合』 には、請負代金債権を、動産売買の先取特権の物上代位の対象とすることを認めているわけ。 |
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ふむふむ・・・。 またお得意の原則、例外ってわけね。 そんで、そんで? この事案では、ドッチだったの? 原則どおりの処理になってまったの? それとも例外的に動産売買先取特権の物上代位が認められたわけ? |
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本決定では、先に述べた規範から、本件事案の事実を認定して、次のような判断を下しているわね。 『これを本件について見ると、記録によれば、破産者D株式会社は、申立外E部品株式会社からターボコンプレッサー(TX―二一〇キロワット型)の設置工事を代金2080万円で請け負い、右債務の履行のために代金1575万円で右機械を相手方に発注し、相手方は破産会社の指示に基づいて右機械を申立外会社に引き渡したものであり、また、右工事の見積書によれば、2080万円の請負代金のうち1740万円は右機械の代金に相当することが明らかである。 右の事実関係の下においては、右の請負代金債権を相手方が破産会社に売り渡した右機械の転売による代 金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、申立外会社が仮差押命令の第三債務者として右1740万円の一部に相当する1575万円を供託したことによって破産会社が取得した供託金還付請求権が相手方の動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となるとした原審の判断は、正当として是認することができる。』 としているわね。 |
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なるほど、なるほど。 『工事の見積書によれば、2080万円の請負代金のうち1740万円は右機械の代金に相当することが明らか』 ってことが大きいわけだね。 工事の内訳がわからないとダメだけど、工事の内訳明細の見積りに、あたしがチビッ子に売った動産の代金が明記されていたから、その代金が、動産の転売と同視できるってことだね。 |
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ちょっと理解が乱暴ね。 本決定は、ナニも見積書で代金が明記されていたから、直ちに動産の転売と同視しうる、と述べているわけではないわ。 本決定が規範として述べている部分には、次のようにあるわけよね。 『請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合』 とする規範よね。 この規範からは、価額の割合だけではなく、請負人の債務の内容等に照らして、動産の転売による代金債権と同視するに足りるだけの特段の事情が必要だということを抑えて欲しいわ。 |
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え? どういうこと? 見積書に、機械の代金が幾ら幾らって書いてあるなら、それでいいんじゃない? |
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本件では、問題となった動産が、ターボコンプレッサーという、特にその物自体への加工なく、設置工事をすればいい物だったから、そういう理解でもいいと思えるわ。 でも、例えば、今年の(2015年)新司法試験の論文問題のように、材木みたいな動産の場合もあるわけよね。 建築工事の請負のような場合に用いられた材木(動産)の場合には、その木材の価額が見積書等から明確であったとしても、大幅な加工が請負工事には求められる以上、その請負代金債権を、転売代金債権と同視することは難しい、ということを『債務の内容等に照らして』という文言で、本決定の規範は述べているといえるわ。 |
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むむむ・・・。 かなり難しいこと言っているね・・・。 『債務の内容等に照らして』・・・か。 うーん、まぁ、例外的に認めるっていう位置づけなんだから、色々ハードルは厳しいって感じなのかな、やっぱり。 |
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チイは、この決定については、原則認めない、例外的に認めるっていうくらいしか抑えていなかったから、どんな例外的な事情がある場合に認めるのかっていうことが、よくワカッタ気がするよ! | ||
あら、チイちゃんらしくない大雑把な捉え方をしていたのね。 そうね、それなら、もう少し事案もしっかり見ておくべきだったかもね。 ただ、個人的には、この決定よりは、先の検討判例の方が重要だと思っているから、読みこむなら向こうになるかな、やっぱり。 |
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でも、アホの管理人も久し振りにあの判例読みこんで 「アレ? よくわかんない・・・どこまで戻ればいいの?」 って、なっちゃったみたいだし、あんまり踏み込まない方がいいんじゃないのかな? |
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ナニその『臭い物には蓋をしろ』的な発想は。 | ||
『うるさい豚は無視しろ』的な感じ? | ||
ソレは知らないけど、あるの? そんな諺。 |
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ブーブー文句ばっか言う豚なんか無視してまえば、いいんだお。 と先人は教えてくれたんだお。 |
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へぇ~。 その諺は知らなかったから、一つ勉強になったわ。 ありがとうね。 |
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流石、藤さんは博識ですよね! | ||
・・・。 (あるわきゃねぇお。そんな諺。 あたしが今、即興で作った出任せに決まっとろーもん! いつも口喧しい金満豚の言うことなんて、右から左で聞き流しておけばいいっていう、あたしの持論だお! うぇっへっへっへっへっへ。 ) |
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・・・。 (・・・明智先輩に、土下座して謝るべき言語道断な諺です!) |