財政処理の基本原則・租税法律主義・予算 | ||
それじゃ、今日の勉強会からは新しい章に入るわね。 日本国憲法第7章の財政について学ぶことにするわね。 ここに 『財政とは、国家がその任務を行うために必要な財力を調達し、管理し、使用する作用をいう。 そのうち収入や支出のような形式的経理の手続に関するものが『会計』で、租税の賦課、徴収、専売権の行使のような国家および国民の経済の実体にふれる部分が狭義の『財政』である』 (中村睦男・他『憲法U【第5版】』有斐閣 2012年 333頁) と、説かれるわね。 先ず、六法で憲法83条を見てみましょうか。 ナカちゃん、御願いできる? |
||
ハイです! 日本国憲法第83条。 『日本国憲法第83条 【財政処理の基本原則】 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。』 |
||
財政民主主義の核心原則を、この憲法83条は規定しているわ。 憲法83条は 『国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない』 とする財政国会中心主義・財政議会主義・財政立憲主義を規定しているわけね。 ここにいう 『財政民主主義は、『国民の、国民による、国民のための財政』の実現を期するもので、憲法83条の財政議会主義をその最も重要な核心部分とするが、より深化・拡大されたものと解されている』 『具体的には、財政の統制を国会に委ねるだけでは不十分で、主権者たる国民が直接に財政運営の監視や個々政策形成に関与しなければならないことになるのである』 (中村睦男・他『憲法U【第5版】』有斐閣 2012年 334頁) と説かれるわね。 |
||
『国民の、国民による、国民のための財政』って、どっかで聞いたスローガンだね。 ナニナニ、パクリ? |
||
リンカーンの演説で述べられた 『人民の人民による人民のための政治』 というのも民主主義の原則を述べたものだからね。 財政民主主義においても、同じ考え方が妥当するわけだから、いいんじゃないの? |
||
藤先輩だって、いつも私の大好きな『JOJO』の台詞を、勝手にパクっているじゃないですか! | ||
ちょっと、ちょっと!! アレは、オマージュであって、リスペクトであって、パロディであって・・・つまり、パクリとは全く本質的に異なるものなんだお! |
||
はいはい。 そんな話は、どうでもいいから。 じゃあ、次は六法で憲法84条を見てくれる? |
||
日本国憲法第84条。 『日本国憲法第84条 【課税】 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。』 |
||
この憲法84条は、いわゆる租税法律主義を規定しているわ。 租税は、いわば国家財政における収入面よね。 憲法84条は 『租税の新設および税制の変更は、法律の形式によって、国会の議決を必要とする、いわゆる租税法律主義の原則を定めている』 (中村睦男・他『憲法U【第5版】』有斐閣 2012年 335頁) ものと解されているわ。 ここには『代表なければ課税なし』の思想がみられるわね。 また、ここにいう租税法律主義の内容は、主に課税要件法定主義、課税要件明確主義が挙げられるわ。 これらの原則が、どのようなものであるのか、という点について判例を見ることで理解に努めることにしましょうか。 |
||
あ・・・やらないかと思っていたら、判例検討やんのね。 | ||
先ずは、課税要件法定主義との関係で見るべき判例としては、 パチンコ球遊器通達変更事件 (最判昭和33年3月28日 百選U 202事件) ね。 |
||
パチンコっ! パチンコっ!! 面白そうな遊びだね! チイは、遊んだことないから一度行ってみたいよぉ! |
||
・・・。 (そうか・・・この小動物なら案外いい仕事してくれるかも知れないお。 よし! 試しに今度、チイを連れて、木下家の命運を託してみんお! うぇっへっへっへっへっへ。) |
||
・・・。 (あうあうあうあうあう。 コレは、絶対よからぬことを考えているです・・・。) |
||
そうそう。 ここでは、国民健康保険と租税法律主義とが問題になった検討判例として、 旭川市国民健康保険条例事件 (最大判平成18年3月14日 百選U203事件) が、あるわね。 ただ、この判例については各自の学習に委ねることにするわ。 (※ 事案が複雑かつ判決文引用が長くなるので割愛しました。 需要が『多ければ』検討致することにします。 財政絡みの判例は、事案が複雑なものが多いですよね(汗)) |
||
はいはい、アレね。アレ。 うんうん、あるある。 |
||
また知ったかしてぇ。 そうそう。 財政法3条と、憲法83条ないし84条との関係が問題になるわね。 財政法3条は 『租税を除く外、国が国権に基いて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に属する事業における専売価格若しくは事業料金については、すべて法律又は国会の議決に基いて定めなければならない。』 と規定しているのね。 この規定をどう理解するかについて、学説は次の3説があるわ。 @立法政策説 A憲法83条説 B憲法84条説 の3説ね。 先に通説的理解が、どの学説かというとB憲法84条説とされているわ。 ただA憲法83条説も有力なところだから、両者の考え方を抑えておくべきといえるわね。 @立法政策説は、財政法3条は、憲法の要求するところではなく、立法政策上の判断によって設けられたとする考え方をいうわ。 これに対して、 A憲法83条説は、財政法3条は、憲法84条の租税法律主義ではなく、憲法83条の財政民主主義の原則に基づいて制定されたものと考えるわけ。 B憲法84条説は、Aのように考えるのではなく、財政法3条は、憲法84条の租税法律主義の要求するところである、と考えるわけね。 A憲法83条説の根拠は、租税以外の負担金は、83条による国会のコントロールで足りる、とするもので、B憲法84条説の根拠は、およそ国が国民に対して一方的・強制的に賦課する金銭負担である以上、国会の議決に基づかなければならない、という原則論に基づくものなのね。 |
||
うわぁ。 なんで学説は、こう色々言うんだろ・・・。 もう一本化してくれればいいのになぁ。 |
||
また文句ばっかり言って。 えーっと、判例検討を省略したせいで、少し短くなっちゃったわね。 じゃあ、この流れで予算についても勉強しちゃいましょうか。 予算というのは、一会計年度における国の歳入歳出の予定的見積もりを内容とする国の財政行為の準則をいうものになるわ。 条文を確認しておきましょうか。 六法で、憲法86条を見てくれる? |
||
日本国憲法第86条。 『日本国憲法第86条 【予算】 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない。』 |
||
この憲法86条にいう『予算』の法的性格が問題となるわ。 @予算行政説 A予算法形式説(予算法規範説) B予算法律説 と、学説の対立のあるところなんだけど、さっきと同様に、先ず通説的理解となる学説を言ってしまうと、A予算法形式説(予算法規範説)と解されているわね。 それぞれの学説の考え方を、述べておくと・・・。 @予算行政説は、予算の法的性格を否定するわ。 そして 『予算は法律と等しく国会の議決に依って成立するものであるが、法律とは全く其の性質を異にし、法律は国家と人民との間に効力を有し両者の関係に於いて双方の行為を規律するものであるのに反して、予算は人民の権利義務には直接の関係なく、専ら国の財政の運営に関して国費の支出及び国の債務の負担に付き政府の権限を拘束するものである。 法律は国家の人民に対する意思表示であるが、予算は国会が政府に対し一年間の財政計画を承認する意思表示であって、専ら国会と政府との間に其の効力を有する』 (美濃部達吉『日本國憲法原論』有斐閣 1952年 344頁) と説かれる考え方なのね。 |
||
おおお・・・美濃部達吉だお!! なんか、歴史の教科書レベルのすっごい名前きちゃったよ!! コレ!! |
||
そうね。 憲法学界における巨人の一人だものね。 |
||
『進撃の巨人』なら、50m級巨人だお!! マヂヤバス!!! |
||
ちょ、超大型巨人です!! ウォールマリアが陥落してしまうです!! |
||
・・・ナニに興奮されてみえるのか全くワカラナイのですが、今、私達が教科書として学んでいる芦部先生は、美濃部先生、宮沢先生、芦部先生・・・という系譜ですからね。 | ||
そうね。 そして、芦部先生から高橋先生ということになるのかしらね。 今、私達の使っている芦部先生の教科書は、高橋先生が補訂して下さっているわけだからね。 あ、脱線しちゃったわね。 ただ、この美濃部先生が説かれた@予算行政説の考え方は、予算の法規範性を否定している点、また、財政民主主義の下では妥当な考え方とはいえないと思うわ。 そこで『予算』の法的性格は、通説的理解であるA予算法形式説(予算法規範説)の考え方で抑えておくべき、と思うのね。 このA予算法形式説(予算法規範説)は『予算』に法的性格、つまり法規範性を認めるわ。 そして、それは法律とは異なった国法の一形式であると捉えるのよね。 『ただ、予算は、いわば、国家内部的に、国家機関の行為のみを規律し、しかも、一会計年度内の具体的の行為を規律するという点で、一般国民の行為を一般的に規律する法令と区別される』 (清宮四郎『憲法T【第3版】』有斐閣 1979年 270頁) と説かれる考え方をいうわ。 あとは、B予算法律説という考え方があるわね。 この考え方は『予算』は法律それ自体である、とする考え方になるわね。 ただ、一般的には『予算』は法律と異なる特殊な法形式であると理解されていることから、A予算法形式説(予算法規範説)で理解しておくのが、いいと思うわね。 |
||
むぅぅぅぅっ。 久々に学説一杯出てきちゃったね。 いやぁ、判例検討と違って抽象的な話なせいか整理するのも一苦労だよね。 |
||
勉強会では、あまり回を割く気はないけれど、財政は、択一試験では問われることが多いからね。 しっかり基本書を読んでおくべきね。 そうね、それじゃ増額修正・暫定予算・予備費、そして決算については各自基本書で、しっかり勉強するってことにしちゃおうかな。 芦部先生の基本書でいうと、362頁から365頁と、頁数も多くないところだしね。 |
||
うわっ!! 丸投げしよったおっ!! 判例検討はサボるわ、論点は丸投げするわ、やりたい放題か!! |
||
判例検討については、需要があれば・・・って形にはしているじゃないのよ! | ||
・・・コイツめ。 『多ければ』なんて、不明確な基準設けておいて、よぉ言うお。 |
||
・・・。 (判例検討したらしたで、長いだの、面倒だのと文句を言われるのに、どうして、ここまで攻撃的な発言なんでしょうか。 藤先輩は、ホント厄介な性格をしているです。 ) |