裁判所の組織と権能C | ||
はい。 それじゃ前回に続いて、最高裁判所についての勉強会に入るわね。 まずは六法で、憲法77条を確認してくれるかしら。 |
||
日本国憲法第77条。 『第77条 【最高裁判所の規則制定権】 1項 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。 2項 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。 3項 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。』 |
||
この規則制定権は 『司法に関する事項について国会や内閣の干渉を排除し、裁判所の自主独立性を確保するという見地、ならびに技術的側面からみても、裁判の実務に精通している裁判所が、その手続に関して最も適切な定めをなしうるという見地から最高裁判所に与えられたもの』 と解されているわ。 (野中俊彦・他『憲法T・U 第5版』 有斐閣 253頁) この憲法77条1項に規定する規則制定権によって定めることの出来る所管事項を、法律によって定めることもできるのか、それとも、最高裁判所規則という専属的所管事項である以上、法律によっては定めることはできないのか、という問題があるわ。 学説の対立があるところなんだけれど。 憲法77条に列挙された事項については必ず最高裁判所規則で定めなければならない、とする専属事項説。 内部規律と司法事務処理に関する事項については規則の専属事項とする、とする一部専属事項説。 ・・・などがあるわけだけど、通説・判例の立場としては、規則だけでなく、法律で定めることもできる、とする競合事項説の考え方になるわね。 |
||
・・・コレ、毎回思うんだけど、この学説とかも憶えとかないといけないわけ? | ||
学説名自体には、こだわる必要はないわ。 実際、論者によって名前も違ったりすることもあるくらいだしね。 ただ、その学説の考え方については知っておくべきだと思うわ。 択一でも問われることもあるわけだからね。 |
||
この問題が争われた判例がありますよね。 最判昭和30年4月22日(百選U 214事件)が、そうですよね。 |
||
そうね。 事実の概要自体は問題ではないから、事案再現の必要もないと思うし、ここでの紹介にさせてもらうけれど、この事件では、法律によって刑事訴訟手続を規定していることが、憲法77条に反するから違憲である、と被告人が訴えたのよね。 |
||
ん? なんでそんな話になるの? |
||
え? 逆にソレは、チイが聴きたいよ。 だって、憲法77条1項は、 『第77条 【最高裁判所の規則制定権】 1項 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。』 と規定しているでしょ? なのに『訴訟に関する手続』であるにもかかわらず『規則を定める権限を有する』『最高裁判所』の規則ではなくって、法律によって、刑事訴訟手続を定めてしまっていいのか? ってことじゃないの、オネーちゃん。 |
||
だってさ。 ナカたん。 |
||
あ、ナカちゃんがワカラナイから訊いたんだ。 ゴメンね、ナカちゃん。 チイ、オネーちゃんが訊いているんだと思って、答えちゃったんだよ。 今度は、こんな言い方はしないから許してね。 |
||
ぐぬぬぬぬぬぬ。 わ、わ、私は、ワカラナクなか・・・ |
||
はいはい。 それじゃ、この問題に対する最高裁判所の判決文を見ることにしようか。 はい、急いで、急いで!! |
||
あんた、ナカちゃんを、そうやって都合よく利用するの止めなさいよ! えーっと、それじゃ、この問題に対する判決文を確認するわね。 『論旨は要するに、訴訟に関する手続は、憲法第77条によりすべて最高裁判所規則で定めるべきものであつて、法律で定めるべきものではないのであるから、法律をもつて規定した刑事訴訟法は憲法に適合しないものであり、原判決がこの法律を適用したことを以て違憲であると主張するに帰する。 然し、法律が一定の訴訟手続に関する規則の制定を最高裁判所規則に委任しても何等憲法の禁ずるものではないことは当裁判所の判例の示すところである(昭和二四年(れ)第二一二七号、同二五年一〇月二五日大法廷判決、昭和二五年(れ)第七一八号、同二六年二月二三日第二小法廷判決参照)。 そして右判例が、法律により刑事手続を定めることができるものであることを前提としていることはいうまでもないところである。 従つて、刑事訴訟法が適憲であることも亦(また)おのづから明らかであるといわなければならない。』 と、しているわ。 この判例の考え方は、先に説明した競合事項説と親和的なものといえるわ。 ただ惜しむらくは、この判例からは、何故、競合事項説の立場なのか、という点については言及されていないのよね。 学説の競合事項説の立場からは、憲法77条1項には、法律による規定を排除することまで求めるとするような趣旨を認めるだけの十分な根拠はない、などと説かれるところだから、その理由付けで抑えておくべきね。 |
||
でも、通説、判例の立場である競合事項説だと、憲法77条1項の所管事項については、規則でも、法律でも、ドッチでも定めることができるってことになるわけでしょ? | ||
そうね。 | ||
となると、両者が同じことを定めているのに、その規定がお互いに矛盾するものだったら、どうすんの? って疑問があるって、アッチのチビッ子1号が知りたそうな顔してんだけど。 |
||
ぐぬぬぬぬぬ。 また、私の名前を使って質問するですか!! ・・・あ、でも、確かにソレは気になるです。 |
||
その論点はあるところだから、いい質問だと思うわ。 | ||
あ、そなの? じゃあじゃあ、今の質問は、あたしの疑問ってことで。 |
||
別に、理解を共有し合おうってことでの勉強会なんだから、誰の疑問でも、みんなで解決すればいいじゃないのよ。 今のサルの質問。 すなわち、憲法77条1項に規定される所定事項について、法律の規定と、最高裁判所規則の規定とが、お互いに矛盾するものだった場合において、いずれが優先されるのか? という問題に対して、次の3つの考え方があるわ。 @法律優位説 A同位説 B規則優位説 の3説ね。 それぞれの説の内容は、名前で察するとおりだから割愛するわね。 |
||
で、で、『あたし』の質問の答えは? | ||
通説は、たしか@法律優位説だよ。 裁判所規則と、法律とで、矛盾する限度で、裁判所規則の効力が否定され、その結果、法律が優先される、っていう考え方なんだよね。 |
||
そうね。 これは、国民の代表者によって構成される国会の制定する法律に対しては、憲法の下でも最も強い形式的効力を認めるものであること、また、裁判所規則が、この大原則を破ることを認めるものとする趣旨の規定が、憲法にはないこと、等が理由として挙げられるわね。 |
||
ふむふむ。 成程ね。言われてみれば、まぁ、そうだよね、って感じかな。 |
||
規則制定権については、ここまでになるんだけれど、なんか今日は質問が多かったから、最後は、私からも質問をして、今日の勉強会では伝え切れていない話を聴いちゃおうかしらね。 それじゃ、質問! 『最高裁判所規則は、実質的意味の立法にあたり、国民の権利義務に関するものもあるから、法律、政令等と同様に、内閣の助言と承認に基づく天皇による公布が憲法上必要とされている。』 ○か×か? (旧司法試験択一問題より) |
||
む、む、難しいです・・・。 | ||
答えは×だよ! | ||
正解ね。 六法で、憲法7条1号を見てくれる? |
||
日本国憲法第7条1号。 『憲法7条 【天皇の国事行為】 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。 1号 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。』 あ、成程です! この1号の規定には、最高裁判所規則が含まれていないです! |
||
そういうことね。 たしかに最高裁判所規則は、実質的意味の立法にあたるものではあるけれど、天皇による公布が必要とされているものは、憲法7条1項に掲げられている内容のみである以上、そこには裁判所規則は含まれないってことになるわけね。 つまり、答えは×ってことで正しいわ。 |
||
も、も、もう1問出して欲しいです! 次は、答えたいです! |
||
流石ナカちゃんっ! それじゃ、リクエストにお応えして、もう1問っ! 質問! 『憲法77条1項は、最高裁判所が『弁護士に関する事項』についても規則で定める権限を有すると規定しているが、これによると、弁護士の資格・職務・身分を法律ではなく、最高裁判所規則で定めることも許される。』 ○か×か。 (新司法試験択一問題より) |
||
なんだろ・・・×っぽい気がする・・・。 | ||
あ・・・私もそう思うです・・・。 | ||
うん・・・合ってると思う。 答えは×だよね? |
||
そうね。答えは×だわ。 『弁護士に関する事項』であっても、その資格・職務・身分を制限するものとなれば、憲法22条の職業の自由の保障との関係もある以上、法律によることが求められるといえるからね。 私達も使っている芦部先生の基本書(※2015年3月に新版となる6版が出ています)のカッコ書きにサラっと書いてあるところなんだけれど、択一では、こういう問題も意外に多いのよね。 |
||
芦部って誰だっけ? | ||
・・・あんた、どこの内閣総理大臣よ。 | ||
・・・アホの管理人め。 流石にリンクは自重したようだお・・・。 |