裁判所の組織と権能@ 
いやぁ、しかし今日まで結構沢山、判例見てきたよね。
コレは司法も、もうすぐ終わりが見えてきたってことかな?
え?
オネーちゃん、ナニ言っているの?
今日まで学んできたのは、裁判になるのか、ならないのか棄却か、却下かっていう大前提の話だよ?
まだ司法の内容には、ほとんど入っていないよ? 
はっ!? ナニそれ?
おいおいおい、とんでもない詐欺じゃないの!
あんだけ判例読ませておいて、まだ司法ほとんどやっていませんじゃ、何の為の勉強会だったの? って話だよ?
どうしたのよ?
ナニをサルは、また騒いでいるの? 
いや、司法の進度の悪さに思わず絶句していたとこ。
確かに、ここまでの司法の勉強会の内容は、入り口も入り口の議論だからね。
でも、百選掲載判例も多く、大事なところだから丁寧に話したつもりだったんだけれど。 
  チイは、すっごい楽しかったよ!
私も、しっかり判例が見れて良かったです!
ふ、藤さんには、今更って話も多かったと思いますし、有名判例ばかりでしたからね。
少し退屈されたって思われても致し方ないかと思いますよ。
・・・絶対、違うと思うんですけどぉ。
 
  え? ナニが違うんですか?
ま、ま、まぁ、何事にも認識のズレっていうのは、あるもんだよね!
あ、じゃ、じゃあ、今日の勉強会を始めよっか。うんうん。
ナニを取り繕っているのかしら・・・。
えーっと、それじゃ、今日の勉強会を始めるわね。

大前提となる入り口の議論は終わったわけなので、今日の勉強会からは、条文の理解に努めることになるわ。

裁判所という組織について、そして、裁判所の権能について、条文を確認しながら見ていくことにするわね。
  こくこく(相づち)。
それじゃ、まずは裁判所の組織についてね。
まずは、特別裁判所の禁止からね。

六法で、憲法76条2項を見てくれる? 
日本国憲法第76条2項

第76条 【特別裁判所の禁止】 
2項 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
ここにいう『特別裁判所』とは、特定の地域・身分・事件に関して、通常の裁判所の系列から独立した権限をもつ裁判所のことを意味するわ。

そして、このような裁判所は、平等原則、司法権の民主化の観点、法の解釈の統一という実務上の観点から禁止されているわけね。 
この特別裁判所の禁止を定める憲法76条2項との関係で、家庭裁判所が、同条同項に違反する憲法違反だと訴えられた事件がありますね。
最大判昭和31年5月30日 百選U A8事件
ん?
なんで、家庭裁判所憲法違反になるわけ? 
家庭裁判所は、普通の下級裁判所とは異なって、審理対象が法律によって限られているんです。
また、裁判は原則公開裁判とされていますが、家庭裁判所では、一部の事件を除き、当事者のプライバシー保護の見地から原則非公開裁判とされているんですよね。
ほほぉ。
そう言われてみると、確かにソレは憲法が禁止する特別裁判所なんじゃないのか、って気持ちもするねぇ。
判例検討しようよ、しようよっ!
・・・うーん、個人的に、あまり判例の事案再現に好ましくない事案だから、判例検討は避けて、事案紹介にしておくわね。

この事案で、争点となったのは、今、つかさちゃんが言ってくれたように、家庭裁判所は、憲法76条2項にいう特別裁判所にあたるのか否か、という点だったんだけれど、これを訴えた被告人は、家出中の14歳と15歳の女の子を家に住み込ませて、児童に淫行をさせる行為で起訴された人なのよね。
あららら。
また、なかなかのクレーマーっぷりだね、ソレは。
ソレをあんたが言うの? とは思うけれどね。

相手が14歳、15歳ということから当事者のプライバシー保護の見地から、少年法37条は、このような事件については『公訴は、家庭裁判所に起訴しなければならない』と定めていたわけなんだけど、被告人は、そのような特定の事件だけを扱う家庭裁判所憲法76条2項違反だって訴えたという事案なわけ。 
なんだろ・・・この判決文聞く前から漂う棄却されるムード満々な空気は・・・。
まぁ、現実問題、今なお家庭裁判所がある時点で、ここで違憲判決が下っていないということはワカってしまうところですよね。
そうね。
ただ裁判所が、どのような判断の下に、合憲だと述べているのか、という点については確認しておくべきよね。

判決文では、

すべて司法権は最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属するところであり、家庭裁判所はこの一般的に司法権を行う通常裁判所の系列に属する下級裁判所として裁判所法により設置されたものに外ならない

 尤
(もっと)裁判所法三一条の三によれば、家庭裁判所は、家庭に関する事件の審判及び調停並びに保護事件の審判の外、少年法三七条一項に掲げる罪に係る訴訟の第一審の裁判を所管する旨明記するに止まり、そしてその少年法三七条一項では同条項所定の成人の刑事々件についての公訴は家庭裁判所にこれを提起しなければならない旨規定されているけれど、それはたゞ単に第一審の通常裁判所相互間においてその事物管轄として所管事務の分配を定めたに過ぎないものであることは、裁判所法における下級裁判所に関する規定、殊にその種類を定めた二条、及びその事物管轄を定めた一六条、一七条、二四条、二五条、三一条の三、三三条、三四条等の規定に徴して明らかである。

 現に家庭裁判所は同裁判所で成立した調停等に対する請求異議の訴訟についても、家事審判法二一条、一五条、民訴五六〇条、五四五条に基ずき第一審の受訴裁判所として専属の管轄権あるものと解されているのであつて、この事は家庭裁判所がもともと司法裁判権を行うべき第一審の通常裁判所として設置されたものであることに由来するのである。

と、しているわね。
うーん、なんかやたら条文を引用しまくっとるけど、要は、家庭裁判所だって、最高裁判所の系列に属するもんなんだから憲法76条2項にいう特別裁判所にはあたらないってことだよね。
まぁ、ザックリ言ってしまうとね。

民事訴訟法で勉強していないから、少しワカリ辛いかも知れないけれど、判決文では、

少年法三七条一項では同条項所定の成人の刑事々件についての公訴は家庭裁判所にこれを提起しなければならない旨規定されているけれど、それはたゞ単に第一審の通常裁判所相互間においてその事物管轄として所管事務の分配を定めたに過ぎないものである

として、違憲の問題があるとされた少年法37条については、これは単に事物管轄について定めただけって述べているわね。 
成程ね。
事物管轄ときたか・・・そういうことね。
  ・・・。
(ジトォ〜)
こら!
よそ見してるんじゃないよ!!
ナニが、そういうことなんだか・・・。 
ちなみに、少年法37条については、2008年の法律改正によって削除されていますね。
あ、そうなんだ。
ソレは知らなかったわ。

じゃあ、ここでもう一度、憲法76条2項を見てもらえるかしら。 
日本国憲法第76条2項

第76条 【特別裁判所の禁止】 
2項 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
この憲法76条2項の定めは、裏を返せば、終審としてではなく、前審としてならば行政審判も認められるという解釈ができるわ。

事実、行政事件訴訟法は、一定の場合には、不服審査を経なければ裁判所への出訴ができない、という審査請求前置主義をとっているわけだし、出訴期間の制限も設けているわ。

ただ、行政法の勉強会でも学んだように、今の複雑に入り組み発達した現代社会においては、行政の範囲が拡大し、また、専門的な知識等が求められる審判においては行政審判の必要性も認められるところになるわけよね。 
  つまり違憲ではない、と。
そういう理解がなされているわね。
この問題については、内閣Aの独立行政委員会76条2項の関係という論点で、一度触れているのよね。

あのとき積み残した話が、実質的証拠法則の問題だったわよね。 
実質的証拠法則って?
実質的証拠法則と言いますと、かつては独占禁止法80条1項が有名でしたね。

複雑な経済事案に対して公正取引委員会の持つ高い専門性とそれに基づく判断を尊重するという趣旨から、
公正取引委員会の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときには、裁判所を拘束する
実質的証拠法則または実質的証拠ルール
と規定されるものだったのですが、コチラは審判制度の廃止に伴い廃止されました。

ただ、電波法99条1項に、この実質的証拠法則は、今もありますね。
ちょっと条文を見てもらってもいいでしょうか?
電波法第99条1項

(事実認定の拘束力) 第99条
1項 第97条の訴については、電波監理審議会が適法に認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときは、裁判所を拘束する。
行政機関である電波監理審議会の事実認定に、裁判所を拘束する力を認める、このような実質的証拠法則を認めてもいいのか
ということが、憲法76条1項との関係で問題になるわけです。
ナカたん、ちょっと憲法76条1項を引きなさい。
日本国憲法第76条1項

第76条 【特別裁判所の禁止】 
1項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
ふむふむ・・・成程、成程。

司法権は、すべて最高裁判所と下級裁判所に属するっていっているのに、行政機関の事実認定が、その裁判所を拘束してもいいのか、ってことになるわけか・・・。

ってことが問題なわけだよね?
藤さんの方が、私よりも断然お詳しいのに、そんな聞き方されたら緊張しちゃうじゃないですか〜。

この点について、電波法99条1項にいう実質的証拠法則は、無条件に、裁判所を拘束するものではなく実質的な証拠があるときは』(電波法99条1項という制約があるものであること、そして、その実質的な証拠の有無について電波法99条2項
前項に規定する実質的な証拠の有無は、裁判所が判断するものとする。
としていることから違憲とはならないとされていますね。 
ふむふむ。成程、成程っと。
よし、じゃあ今日はここまでにしとこうか。
ちょっとっ!
ナニ、勝手に仕切ってんのよ!
いやぁ、ここ最近ハードな勉強会が続いたって言うのに、ほとんど進んでいませんじゃ、そりゃ徒労感も感じるってもんだお。
まぁ、そんなわけで、たまにはアッサリ終わる日があってもいいだろう。
常識的に考えて。
藤さんは、日々、人一倍勉学に打ち込んでみえますからね。
たまには、少しお休みになられた方がいいのではないかと、私も常々感じていました。
いやぁ、クロちゃんは、いつも私のことをよく見てくれているなぁ。
ほんと、そうなんだよね!!
・・・チイ、いつもオネーちゃんと一緒にいるけれど、あんまりそういう風には見えないよ?
チイっ!!
見るんじゃない、感じるんだ!
・・・。
ブルース・リーに、あの世で土下座して来て欲しいです!)

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