福岡地判昭和55年6月5日 ~大牟田市電気税訴訟第一審判決~ |
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この事案は、いわゆる機関訴訟(※ 機関訴訟については司法①勉強会参照)なのよね。 原告は、大牟田市(地方公共団体)。 被告は、国という、今まで見てこなかった裁判例になるわ。 まぁ、事案は配役を付して、再現することにしちゃいましょうか。 大牟田市を、チイちゃん。 国を、つかさちゃん。 ナレーターは私ってことで、いきましょうか。 |
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ナレーター |
事件当時の大牟田市は、三池炭鉱を中心に栄える重化学工業都市でした。 大牟田市は、大牟田市市税条例を制定し、電気ガス税(後に、電気税とガス税とに変更)を徴収していました。 |
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大牟田市は、大工場群のある重化学工業都市だからね。 電気ガス税の徴収で、市の財政はすっごく助かっているよぉ。 えへへへへ、えへへへへへ。 |
大牟田市 |
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ナレーター |
ところが、その後、国は地方税法を改正しました。 石炭やアルミニウムの製造等に必要な電気やガス消費についての課税は、国民経済に与える影響が大きいことを理由に、課税はしないようにとの非課税措置をとったのです。 |
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ええええぇっ!? なんで勝手に地方税を改正しちゃうの? そんなことされたら、今まで徴収できていた電気ガス税が徴収できなくなって、自治体(大牟田市)の税収に大打撃だよぉ! |
大牟田市 |
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国 |
そんなことを言われても、これは立法政策の問題ですから、個々の自治体の税収についてまで責任を求められても困りますね。 | |
そんなことダメだよぉ! 自治体の課税権を、憲法92条は認めているのに、この地方税法は、地方公共団体の課税権を侵害するものだよ!! そんな憲法92条に反する地方税法の非課税措置のせいで、大牟田市の税収は大きな損害を受けているんだよ! チイ(=大牟田市)は、国を相手に、この損害について国家賠償法1条1項に基づいて損害賠償を請求するからね! |
大牟田市 |
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えーっと、そこまでかな・・・。 ちょっと、つかさちゃんの配役は不要だったかしらね。 ゴメンね。 |
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いえ、そんなことないです。 役を頂けただけで、私いつも嬉しいのでお気遣いなく。 |
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でも、この事件は面白いね。 市(地方公共団体)が国を相手に訴訟提起してんだもんね。 |
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そうね。 本件の争点を、ここで整理しておくわね。 本件の争点は、次の2点になるわ。 ①地方公共団体は、憲法上、課税権を有するのか? ②上記①が認められるとして、その課税権は、どのような性格をもつものなのか? という2点ね。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
それじゃ、判決文を見てみましょうか。 『憲法92条は『地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。』と規定するが、これは憲法がその実現すべき理想の一つとして掲げる民主主義を徹底するために、地方公共団体に関する一般的な原則として、凡そ地方公共団体とされたものは、国から多少とも独立した地位を有し、その地域の公共事務はその住民の意思に基づいて自主的に行われるべきであるという政治理念を表明したものと解せられる。 すなわち、地方公共団体の組織及び運営に関する事項を定める法律は、右の意味で地方公共団体の自治権を保障するものでなければならない。 そして地方公共団体がその住民に対し、国から一応独立の統治権を有するものである以上、事務の遂行を実効あらしめるためには、その財政運営についてのいわゆる自主財政権ひいては財源確保の手段としての課税権もこれを憲法は認めているものというべきである。』 判決文では、先ず憲法92条の解釈を述べているわ。 そして、憲法92条にいう『地方自治の本旨』とは、どのようなものをいうのか、という点について言及しているのね。 判決文では 『憲法がその実現すべき理想の一つとして掲げる民主主義を徹底するために、地方公共団体に関する一般的な原則として、凡そ地方公共団体とされたものは、国から多少とも独立した地位を有し、その地域の公共事務はその住民の意思に基づいて自主的に行われるべきであるという政治理念を表明したもの』 と述べているわね。 |
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まぁ、ザックリ言うと、『地方自治の本旨』ってのは、住民自治と団体自治ですってことだよね。 | ||
出ましたね、藤さんの切れ味抜群のザックリまとめ! | ||
そうなんだけど、流石にザックリ過ぎない? でも、判決文の長い言い回しを、自分の言葉でまとめてみるって作業は大事なことよね。 つまり、ソレは、判決文がナニをいっているのかってことを、自分の中で要約して整理するってことだものね。 |
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うむうむ。 よくぞ申した。 褒めてつかわす。 |
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・・・。 (また、おかしなキャラになっているです。) |
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判決文に戻るわね。 『憲法はその94条で地方公共団体の自治権を具体化して定めているが、そこにいう「行政の執行」には租税の賦課、徴収をも含むものと解される。 そこで例えば、地方公共団体の課税権を全く否定し又はこれに準ずる内容の法律は違憲無効たるを免れない。』 として、憲法94条にいう『行政の執行』を解釈して、地方公共団体の憲法上の課税権を認めているわ。 そして、その課税権について検討を加えていくわけね。 『2 しかし、憲法94条、基本的には92条によつて認められる自治権がいかなる内容を有するかについては、憲法自体から窺い知ることはできない。 そもそも憲法は地方自治の制度を制度として保障しているのであつて、現に採られているあるいは採らるべき地方自治制を具体的に保障しているものではなく、現に地方公共団体とされた団体が有すべき自治権についても、憲法上は、その範囲は必ずしも分明とはいいがたく、その内容も一義的に定まつているといいがたいのであつて、その具体化は憲法全体の精神に照らしたうえでの立法者の決定に委ねられているものと解せざるをえない。 このことは、自治権の要素としての課税権の内容においても同断であり、憲法上地方公共団体に認められる課税権は、地方公共団体とされるもの一般に対し抽象的に認められた租税の賦課、徴収の権能であつて、憲法は特定の地方公共団体に具体的税目についての課税権を認めたものではない。 税源をどこに求めるか、ある税目を国税とするか地方税とするか、地方税とした場合に市町村税とするか都道府県税とするか、課税客体、課税標準、税率等の内容をいかに定めるか等については、憲法自体から結論を導き出すことはできず、その具体化は法律(ないしそれ以下の法令)の規定に待たざるをえない。』 ここでは、地方自治権の性質についても述べられているわ。 『そもそも憲法は地方自治の制度を制度として保障しているのであつて、現に採られているあるいは採らるべき地方自治制を具体的に保障しているものではなく』 としているところね。 この判決文の立場は、先に説明した制度的保障説の考え方と親和的なものよね。 |
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ふむふむ。 | ||
そして、本件事案の結論部分に連なるわけね。 『電気ガス税という具体的税目についての課税権は、地方税法5条2項によつて初めて原告大牟田市に認められるものであり、しかもそれは、同法に定められた内容のものとして与えられるものであつて、原告は地方税法の規定が許容する限度においてのみ、条例を定めその住民に対し電気ガス税を賦課徴収しうるにすぎないのである。』 『たしかに電気又はガスの消費に課税することは、税源が全国的に分布し、その税収入に安定性があるなどから、地方税として当を得たものと思われるが、しかしだからといつて具体的な税目としての電気ガス税が地方税しかも市町村税として憲法上保障され、かつこれを法律上制限することが許されないと解することはできない』。 但し、憲法94条の解釈によって、地方公共団体の課税権が憲法上認められるとしたとしても、その課税品目・・・すなわち具体的な課税権は 『憲法自体から結論を導き出すことはできず、その具体化は法律(ないしそれ以下の法令)の規定に待たざるをえない』 とし、そうである以上、地方税法改正による電気ガス税の非課税措置による地方公共団体の課税権の制限は憲法違反とはならない、という帰結になっているわけね。 |
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あらららら。 この判決には、大牟田だけに「おお、無体な」ってとこだね。 |
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流石、藤さんっ!! 洒落までザックリ切れ味ですねっ!! |
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面白ぉーいっ!! | ||
・・・。 (ホント、無体な洒落です・・・。 せっかくの裁判例検討のオチが、これでは台無しです。 毎度、皆さんの笑いのハードルが低過ぎて、ついていけないです。) |