最大判平成20年6月4日 〜国籍法違憲判決〜 |
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それじゃ配役からね。 日本国籍を有する男性を、サル。 フィリピン共和国国籍を有する女性を、つかさちゃん。 この2人の間に産まれた子を、チイちゃん。 国(法務大臣)を、ナカちゃん。 ナレーターを私、というフルキャストで頑張りましょうか。 |
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日本人男性 |
おお、子どもが産まれたんだ。 | |||||||||||
はい! | フィリピン人女性 |
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あぁーーあぁーーー。 | 子 |
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ナレーター |
日本国内で、付き合っていた日本人男性と、フィリピン女性との間に子が産まれました。 しかし、2人は法律上の婚姻関係にはなく、しかも、日本人男性には既に法律上の妻がおり、その妻との間には子までいました。 |
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あの・・・結婚してくれ、とは言いませんが、この子は認知してもらっていいですか? | フィリピン人女性 |
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日本人男性 |
あ、そうだよな。 うんうん。 それじゃ、この子については認知するわ。 |
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ナレーター |
2人の間の子は出生の2年後、日本人男性から認知を受けました。 (生後認知) |
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さて。 それじゃ、認知もしてもらえたことだし、認知を受けたことを理由に、法務大臣あてに日本国籍取得届を提出することにしましょ。 日本国籍があると何かと便利だもんね。 (生後6年目) |
フィリピン人女性 |
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国(法務大臣) |
日本国籍取得届についてですが。 国籍法(当時)は2条1号に 『出生の時に父又は母が日本国民である』 としていますが、この子は、出生の時点では、日本国民の父がいなかった(日本人男性は法律上の親子関係ではなかったため)ので、この要件を満たしていないことになるです! もちろん、この子は出生後に認知を受けているわけですから、認知の遡及効(民法784条)が働くとも考えられるです! しかし、我が国の最高裁は、生後認知の遡及効があっても、国籍の生来的な取得の効果まで遡って認められるわけではない、としているです! (最判平成9年10月17日、最判平成14年11月22日) そして、国籍法3条1項は 『父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のもの』 (いわゆる準正子) については、届出による国籍の取得を認めていますが、この子の両親は、いまだ法律上の婚姻関係にないわけですから、この要件も満たしていないことになるです! ですから、この子の日本国籍取得届は認められないです! |
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ええぇぇぇーーーーっ! どうして、どうしてっ! |
子 |
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国(法務大臣) |
通知の理由は今、述べたとおりです! | |||||||||||
納得いかないよぉ! 同じ子供なのに、お父さんとお母さんが結婚していないからって、日本国籍を取得できないなんてヒドいよぉ! そんなの差別だよぉ! 憲法14条違反だよぉ! チイは、国籍取得届を提出したんだから、日本国籍を取得させてもらいたいよぉ! |
子 |
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ナレーター |
因みにですが、この日本人男性は、この訴訟提起後、再び妊娠したフィリピン女性の子については、胎児認知をしています。 非嫡出子であっても、日本人父による胎児認知の場合は、出生による国籍取得が認められているため、この子は日本国籍を取得しています。 |
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という事案になるわね。 | ||||||||||||
なんか色々複雑だね。 | ||||||||||||
国籍法(当時)の国籍取得を、わかりやすく表にすると次のような表になるわね。 | ||||||||||||
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この表のうちDの子についてだけは、日本国籍取得が認められていなかったんだけど、本件のチイちゃんは、この表のDの子にあたるわけね。 本件では、憲法14条違反が問題となっているわけよね。 ちょっと六法で、憲法14条1項を確認してくれる? |
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日本国憲法第14条第1項。 『日本国憲法14条 【法の下の平等】 1項 すべて国民は、法の下に平等であって、人権、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。』 |
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そうね。 まだ平等権について勉強をしていないから、少し憲法にいう平等とは、いかなるものか、という点についての理解がないとは思うんだけれど、本判決を見る前に、前提知識として、憲法14条にいう『平等』の定義について述べられた判決を見ることにするわね。 憲法14条違反が問題となって違憲判決となった重要判例である 尊属殺重罰規定違憲事件ね。 (最大判昭和48年4月4日) |
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この事件は、非常に忌まわしい事件でしたね。 判決文の事実認定によれば、父親を殺害した女性(=被告人)は 『少女のころに実父から破倫の行為を受け、以後本件にいたるまで10余年間これと夫婦同様の生活を強いられ、その間数人の子までできるという悲惨な境遇にあつたにもかかわらず、本件以外になんらの非行も見られないこと、本件発生の直前、たまたま正常な結婚の機会にめぐりあつたのに、実父がこれを嫌い、あくまでも被告人を自己の支配下に置き醜行を継続しようとしたのが本件の縁由であること、このため実父から旬日余にわたつて脅迫虐待を受け、懊悩煩悶の極にあつたところ、いわれのない実父の暴言に触発され、忌まわしい境遇から逃れようとしてついに本件にいたつた』 というものなんですよね。 ただ、当時の刑法には、尊属殺規定(刑法200条・削除済み)があったんです。 尊属殺を定めた刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみとしており、普通殺人罪について規定した刑法199条の法定刑が、死刑、無期懲役刑のほか三年以上の有期懲役刑としていることと比較すると、非常に重たい重罰規定になっていたんです。 |
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同じ人殺しなのに、親殺しには、めっちゃ厳しかったわけだね。 | ||||||||||||
そうですね。 しかし、そうなると本件では次のような問題が生じてしまったんです。 同事件の判決文を引用しますと 『現行刑法(当時)にはいくつかの減軽規定が存し、これによつて法定刑を修正しうるのであるが、現行法上許される2回の減軽を加えても、尊属殺につき有罪とされた卑属に対して刑を言い渡すべきときには、処断刑の下限は懲役3年6月を下ることがなく、その結果として、いかに酌量すべき情状があろうとも法律上刑の執行を猶予することはできない』 という問題だったんです。 本件の被告人女性には、実父を殺害するしかない、という事情があり、その事情は十分に酌量すべき事情であったといえますよね。ですから、裁判所としても、このような被告人に対して、執行猶予という結論を下すべきだと考えたわけです。 しかし、この結論を下せないことが問題となったわけです。 少し刑法の話になってしまいますが、まず、刑法200条は、法定刑を死刑または無期懲役としていますから、ここで先ず無期懲役を選択しますよね。 次に判決文にいう2回の減軽のうちの1回目として、心神耗弱(刑法39条2号)を適用し、無期懲役を7年の有期懲役に減軽します(刑法68条2号)。 そして、さらに2回目の減軽として酌量減軽(68条3号)を適用し、7年の有期懲役を、半分の3年6月にまで落とします。 しかし、執行猶予は刑法25条1項から懲役が3年以下の者にしかつけられないことから、2回の減軽を経ても猶、3年6月の有期懲役となってしまう被告人女性には、執行猶予をつけることができない、という結論になってしまうわけです。 |
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・・・これは厳しいねぇ。 正直、これで実刑かよ・・・って思ってまうもんね。 あたしだって、こんなマヂキチ親父にずっと虐待され続けてきたら、もうおかしくなってまいそうだお・・・。 ソレなのに、実刑ですか、そうですか・・・って思ってまうなぁ。 |
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ですよね。 だからこそ、最高裁は、尊属殺を定めた刑法200条は、その法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限っている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものであることを理由に、憲法14条1項に違反して無効であるとする違憲判決を出すことで、原判決を破棄し、懲役2年6月、執行猶予3年という判決を下したんです。 |
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良かったです! | ||||||||||||
つかさちゃん、丁寧な説明をしてくれて、ありがとうね。 でも見て欲しかったのは、事案じゃなくって、この判決文で示された憲法14条1項にいう『平等』の定義なのよね。 判決文では、次のように定義しているわ。 『憲法14条1項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段列挙の事項は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきことは、当裁判所大法廷判決の示すとおりである。』 とね。 ここでのキーワードは『事柄の性質に即応した合理的な根拠』といえるわね。 |
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うわ・・・すっごい冷静・・・。 ナニ、この冷血漢。 今日の検討判例、もうこの尊属殺重罰規定違憲事件で、いいんじゃないかと思うくらいなのに、あたし。 |
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そうはいかないわよ。 それじゃ、本判決を見ていくことにするわね。 あ、そうそう。 本件では、14条にいう平等違反が問題となっているんだけれど、14条違反、すなわち差別だと主張する際には、ナニとナニの区別が差別といえるのか? ということを、先ずしっかり認定する必要があるわ。 今一度、さっきの一覧表を確認して、ドコとドコの区別が問題なのかを考えてみてくれる? |
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CとDだよ! | ||||||||||||
そうね。 同じ外国人の母から産まれた子なのに、準正によって嫡出子の身分を受けた子には日本国籍の取得が認められるのに、認知を受けただけの子には日本国籍の取得が認められない、とする当時の国籍法3条1項が、憲法14条との関係で問題になっているわけよね。 つまり、本判決の争点は、まさにここにあるわけね。 さぁ、それじゃ、今からジックリ判決文を見ていくことにしましょうか。 |
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・・・。 (帰りたひ・・・激しく帰りたひ。) |
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いくわね。 『憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。』 として、先ずさっき見た尊属殺重罰規定違憲判決を引用しているわけよね。 そして 『憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,これを受けて,国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。 憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。 しかしながら,このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が,合理的理由のない差別的取扱いとなるときは,憲法14条1項違反の問題を生ずることはいうまでもない。 すなわち,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反するものと解されることになる。』 として、国籍法が立法府に広い裁量を与えていることを認めているわ。 ただし、だからと言って、その裁量が無制限なものではなく、憲法との関係において制限を受けるものである、としているわけよね。 つまり、いくら裁量があるからと言って、憲法14条に反するものであってはならない、という縛りがあるとしているわ。 そして 『日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。 一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。 したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。』 そして、日本国籍という地位は、様々な給付行政を受け得る地位でもあることから『重要な法的地位』であると認定しているわ。 そして、先に述べた引用判決の規範から、区別が問題となっている『事柄』が、どのような『事柄』であるか(『父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄』)を認定し、そのような『事柄』についての区別の合理的理由の有無については『慎重に検討することが必要』である、とする規範を定立しているわけね。 ここからの判決文は、すべからく、この定立された規範に基づいて検討が加えられているわ。 規範についての理解は得たことと思うから、じっくり判決文を読みこんでいくことにしましょうか。 |
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・・・。 (くる・・・絶対くる・・・。 コレは完全なるグリーンマイル宣言・・・。) |
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『国籍法3条1項は,日本国民である父が日本国民でない母との間の子を出生後に認知しただけでは日本国籍の取得を認めず,準正のあった場合に限り日本国籍を取得させることとしており,これによって本件区別が生じている。 このような規定が設けられた主な理由は,日本国民である父が出生後に認知した子については,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得することによって,日本国民である父との生活の一体化が生じ,家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずることから,日本国籍の取得を認めることが相当であるという点にあるものと解される。 また,上記国籍法改正の当時には,父母両系血統主義を採用する国には,自国民である父の子について認知だけでなく準正のあった場合に限り自国籍の取得を認める国が多かったことも,本件区別が合理的なものとして設けられた理由であると解される。 イ 日本国民を血統上の親として出生した子であっても,日本国籍を生来的に取得しなかった場合には,その後の生活を通じて国籍国である外国との密接な結び付きを生じさせている可能性があるから,国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解される。 このような目的を達成するため準正その他の要件が設けられ,これにより本件区別が生じたのであるが,本件区別を生じさせた上記の立法目的自体には,合理的な根拠があるというべきである。 また,国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下においては,日本国民である父と日本国民でない母との間の子について,父母が法律上の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が国との密接な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったものとみられ,当時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんがみても,同項の規定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目的との間に一定の合理的関連性があったものということができる。』 として、先ず、国籍法制定当時においては問題はないものであったと認定しているわ。 『ウ しかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴って,夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており,今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。 このような社会通念及び社会的状況の変化に加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ,両親の一方のみが日本国民である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり,その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。 これらのことを考慮すれば,日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは,今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。 また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。 さらに,国籍法3条1項の規定が設けられた後,自国民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において,今日までに,認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。 以上のような我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているというべきである。』 として、かつては問題のないものであったものの、今や事情が異なるものとなっているよね、と、しているわけよね。 いわゆる「時の経過論」の考え方が見られるものだわ。 |
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そかそか。そうだよね。 今なんて、深夜のコンビ二の店員さんも外国人の人ばっかりだもんね。国際交流っていうのは、ホントそうだよね。 あたしも、この前 「除光剤って、なんですか?」 って、外国人の店員の人に逆に尋ねられて 「除草剤は置いてないんじゃない?」 って返したことあるからね。 |
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・・・あんたソレ、ドッチが外国人なのよ、って話じゃないのよ! で・・・最終的にはチャンと教えてあげたわけ? |
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いや・・・除光剤ってのが、よぉワカランかったお。 光ちゃんを追い払うための薬剤ってことかな? |
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あんた、それでも女性なの? 爪のマニュキュアをとるための溶剤のことじゃないのよ。 |
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ほえぇーー。 | ||||||||||||
・・・そんなもの知るかおっ!! | ||||||||||||
・・・。 (盛大な逆切れです・・・。) |
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まぁ、サルには不要だもんね。 あ、続きを見ていくわね。 『エ 一方,国籍法は,前記のとおり,父母両系血統主義を採用し,日本国民である父又は母との法律上の親子関係があることをもって我が国との密接な結び付きがあるものとして日本国籍を付与するという立場に立って,出生の時に父又は母のいずれかが日本国民であるときには子が日本国籍を取得するものとしている(2条1号)。 その結果,日本国民である父又は母の嫡出子として出生した子はもとより,日本国民である父から胎児認知された非嫡出子及び日本国民である母の非嫡出子も,生来的に日本国籍を取得することとなるところ,同じく日本国民を血統上の親として出生し,法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては,生来的に日本国籍を取得しないのみならず,同法3条1項所定の届出により日本国籍を取得することもできないことになる。 このような区別の結果,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが,日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。 日本国籍の取得が,前記のとおり,我が国において基本的人権の保障等を受ける上で重大な意味を持つものであることにかんがみれば,以上のような差別的取扱いによって子の被る不利益は看過し難いものというべきであり,このような差別的取扱いについては,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだし難いといわざるを得ない。 とりわけ,日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては,日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍の取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明することは困難である。 また,父母両系血統主義を採用する国籍法の下で,日本国民である母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがあるというべきである。 オ 上記ウ,エで説示した事情を併せ考慮するならば,国籍法が,同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,上記のような非嫡出子についてのみ,父母の婚姻という,子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は,今日においては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく,その結果,不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。』 と認定しているわ。 そして、ここからは予想される批判に対しての検討をしているんだけれど 『カ 確かに,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子についても,国籍法8条1号所定の簡易帰化により日本国籍を取得するみちが開かれている。 しかしながら,帰化は法務大臣の裁量行為であり,同号所定の条件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するわけではないから,これを届出による日本国籍の取得に代わるものとみることにより,本件区別が前記立法目的との間の合理的関連性を欠くものでないということはできない。 なお,日本国民である父の認知によって準正を待たずに日本国籍の取得を認めた場合に,国籍取得のための仮装認知がされるおそれがあるから,このような仮装行為による国籍取得を防止する必要があるということも,本件区別が設けられた理由の一つであると解される。 しかし,そのようなおそれがあるとしても,父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが,仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとはいい難く,上記オの結論を覆す理由とすることは困難である。』 と述べて『帰化』という制度があるからと言っても、そのことをもって差別が解消されるものではない、また仮装認知についてまで言及しているわね。 これらの考え得る批判を考慮し検討を加えることで、より本判決の違憲という結論を説得的なものにしているわけよね。 『(3)以上によれば,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。 しかも,本件区別については,前記(2)エで説示した他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。 そうすると,本件区別は,遅くとも上告人が法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。 したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。』 と、結論付けているわ。 |
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成程、成程。 いや、スバラっ! 納得いく判決だお!! |
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良かったです、良かったです!! | ||||||||||||
・・・でも、コレでいいのかなぁ? 国籍法3条1項が違憲無効ってことになっちゃうと、国籍法3条1項で国籍取得が認められていた表のCの人は逆に国籍取得が出来ないってことになっちゃわない? |
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流石、チイちゃん! よく、この判決文から生じる次の問題を言ってくれたわね。 そうなのよね。 この違憲という結論で終わってしまうと、次のような問題が生じることになるのよね。 |
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例えば国籍法3条1項のせいで、表のDの子が国籍取得できない、という問題を解決しようとすることから 『父母の婚姻及びその認知により嫡出したる身分を取得した子で20歳未満のもの』 という規定のうち『父母の婚姻』という文言の一部削除という救済手段が考えられるわよね。 これならば、表のCの子は、これまで通り国籍取得が認められるわけだし、表のDの子である本件のチイちゃんも、この文言の一部削除によって国籍取得が認められるってことになるわ。 |
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それで、ええやないの。 ナニか問題あるの? |
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うーんとね・・・今、光おねーちゃんのいうような救済手段は考えられるんだけどね・・・。 でも、ソレって、裁判所が法律を作ることになっちゃわないかな? |
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うんうんうんうん。 そう、まさに、そのことが問題になっているわけよね。 なんとか、この子の日本国籍取得という救済を図りたい・・・でも、そのために、3条1項を違憲としてしまうと、表のCの子が、今度は国籍取得が認められないことになってしまう、だからと言って、救済を図るために、今、私がいったような文言の一部削除をしてしまうと、今度は、司法の法創造という問題が生じてしまう、というジレンマがあるわけよね。 |
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え? ナニがあかんの? 司法が法創造してまえば、ええんやないの? |
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ちょっとっ!! 憲法41条の勉強会はしたじゃないのよっ!! ナカちゃん、サルのために、憲法41条を見てくれない? |
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日本国憲法第41条。 『日本国憲法41条 【国会の地位・立法権】 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。』 |
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あ、そか!! はいはいはい!! 三権分立っていってんのに、司法が法創造してまうと、国会が『唯一の立法機関』のはずなのに、その立法府への干渉ってことになるっていう問題があるってことだね!! |
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そういうことよ! なんて返しをしてくれんのよ! 一体っ!! 判決文では、この違憲という結論の後に、この問題について言及していくわけね。 『5 本件区別による違憲の状態を前提として上告人に日本国籍の取得を認めることの可否 (1)以上のとおり,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,遅くとも上記時点以降において憲法14条1項に違反するといわざるを得ないが,国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからといって,本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として,準正のあった子(以下「準正子」という。)の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。 そうすると,準正子について届出による日本国籍の取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。 (2)このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはない。 すなわち,このような子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。 そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。 この解釈は,日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。 したがって,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。 (3)原審の適法に確定した事実によれば,上告人は,上記の解釈の下で国籍法3条1項の規定する日本国籍取得の要件をいずれも満たしていることが認められる。 そうすると,上告人は,法務大臣あての国籍取得届を提出したことによって,同項の規定により日本国籍を取得したものと解するのが相当である。』 と述べられているわけね。 |
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つまり、 『本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈』 することで、本件の子の救済を図っているわけです。 そして、このような解釈は、立法者の意思(立法の趣旨・目的)に反するものではなく、相当なものである以上、この解釈を 『裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ない』 として、立法府への干渉には当たらない、という結論を導いているわけですね。 だから、本件では 『上告人は,法務大臣あての国籍取得届を提出したことによって,同項の規定により日本国籍を取得した』 ことが認められる、としているわけです。 |
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な、な、成程ね・・・。 い・・・いや・・・でも、なんかアレだね・・・。 終わったぁ〜と思ってからも、まだ展開きたぁーって感じだったよねぇ。 ホラー映画のモンスターが死んだと思ったら、まだ生きていた的なキツさがあったよね・・・。 |
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ちょっと、なんて例えをしてくれてんのよ!! まぁ、でも確かに、今までの判例検討の中でも特に長くなったことについては、そうよね。 うーん、法廷意見だけじゃなくって、ここでは、藤田意見と、甲斐中、堀籠反対意見も見ておきたかったんだけど・・・。 まぁ、ソレは別途掲載ページで各自確認しておくってことにするわね。 この意見や、反対意見では、違憲という結論を前提にして、その後の救済手段が異なるものとなっているのよね。 藤田意見は、合憲拡張解釈について述べているわ。 甲斐中、堀籠反対意見では、立法府への配慮から、違憲の確認のみで終わるべきであると述べられているわね。 もっとも、法廷意見は、今見てきたように、そのような違憲確認では終わらず、救済の途を選択したわけだけどね。 |
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チイも色々考えちゃったもんね。 反対意見があるんだね。 しっかり見ておくよぉ! |
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・・・ゾンビじゃないかお。 まぁーだ続きがあるってかお。 |
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食べられちゃえばいいのよ! あんたみたいな勉強嫌いな不真面目な人間なんて!! |