最高裁平成14年1月31日判決 〜児童扶養手当法施行令事件〜 |
||
じゃあ、早速判例検討をするわね。 まずは、配役からね。 原告の未婚の母親を、サル。 その未婚の母親の子供を、ナカちゃん。 つかさちゃんは、奈良県知事を。 私は、ナカちゃんの父親役 & ナレーター役で。 それじゃ、急かす人がいるから、早速始めましょうか。 |
||
結婚はしなかったけれど、やっぱりお腹の子は、あたしの子だからね。 産んで育てることにするわ! ほーら、お母さんですよぉ〜。 |
未婚の母親 |
|
だぁ〜。 だぁ〜。 |
未婚の母親の子供 |
|
そうだ。 あたし1人の稼ぎでは、この子にも、何かと不自由させちゃうからね。 児童扶養手当法があるそうだから、早速、手当てを受けられるように申請しないと。 |
未婚の母親 |
|
ナレーター |
児童扶養手当法は、都道府県知事は、各号に定める児童の母に対して、児童扶養手当を支給することを定めていました。 児童扶養手当法4条(※事件当時) 『1項 都道府県知事は次に該当する児童の母が、その児童を監護するときなどには、その母らに対し、児童扶養手当を支給する。 1号 父母の婚姻解消 2号 父の死亡 3号 父が一定の障害にある場合 4号 父の生死不明 5号 その他これらに準ずる状態で政令で定めるもの』 そして、この児童扶養手当法4条1項5号を受けて、同法施行令(※事件当時)は、その1条の2において 『母が婚姻によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)』と定めていたのです。 |
|
奈良県桜井市の市役所に、児童扶養手当認定の請求書を出してっと。 うん。 これで、手当てが受けられるわね。 |
未婚の母親 |
|
奈良県知事 |
認定請求ですか? はい。 受理しました。 これで、児童扶養手当が、あなたにも交付されますよ。 |
|
よかったでちゅねぇー。 これで、ミルク代も安心でちゅよぉ。 |
未婚の母親 |
|
だぁ〜。 だぁ〜。 |
未婚の母親の子供 |
|
そうそう。 もう一つ、片付けておかないといけないことがあったわね。 |
未婚の母親 |
|
子供の父親 |
ん? なんか用か? |
|
あたしは、あんたみたいな男との結婚なんて御免だけど、産まれて来た、この子の父親の欄が空白じゃ可哀想だからね! あんたも父親なら、この子の認知くらいはしなさいよ! |
未婚の母親 |
|
子供の父親 |
言っとくけど、俺、金はないからな! 認知だけならしてもいいけど、扶養義務果たして欲しいなんてことは期待すんなよ? |
|
そんなこと期待してないわよ! この子は、あたしが育てるんだから。 あんたは、認知だけしてくれればいいの! |
未婚の母親 |
|
子供の父親 |
じゃあ、認知してやるよ。 | |
よかったねぇ〜。 あなたの父親が、認知してくれたからねぇ。 |
未婚の母親 |
|
だぁ〜。 だぁ〜。 |
未婚の母親の子供 |
|
アラ? 何かしら? ナニか通知が届いたわ? |
未婚の母親 |
|
ナレーター |
母親が受給申請した平成3年1月には、まだ子供の父親の認知はされておらず、受給資格を満たしていました。 しかし、その後、平成5年5月に、父親の認知を受けたことで、 児童扶養手当法4条1項5号を受けて制定された同法施行令1条の2にいう 『母が婚姻によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)』 の定めに抵触することになってしまったのです。 そのため、奈良県知事は、母親の受給資格が消滅したとして、児童扶養手当資格喪失の通知書を、母親に送付したのでした。 |
|
そんなのおかしいわ・・・。 だって、児童扶養手当は、あたしのような母親の経済を助けるためにあるんでしょ? 認知してもらったからと言って、あの男からのお金が当てにできるわけでもないのに、手当てを打ち切られちゃったら、生活に困るわ・・・。 大体、なんで、こんな括弧書きがあるわけ? 憲法14条は、『すべて国民は法の下に平等』ってうたっているのよ? なのに、認知された児童の母親は、児童扶養手当を受けられないなんて認められるはずがないじゃないの! そうよ! この括弧書きは、憲法14条違反よ!! |
未婚の母親 |
|
そこまで・・・かな。 うんうん。 サル、お疲れ様、頑張ってくれたわね。 |
||
あのぉ。 私の配役は、必要だったのでしょうか? 私、ずっと「だぁ〜、だぁ〜」しか言っていなかったんですけど。 |
||
私も言いにくいんですけれど、ナレーターでも振って頂けた方が、良かったんじゃないかと。 | ||
あ・・・そうよね。 あまり考えずに、登場人物を配役しちゃったけれど、私が二役するのなら、もっと配役を考えた方が良かったよね。 |
||
その皺寄せが、あたしに来たってわけか・・・。 いやぁ、しんどかったなぁ。 この疲労は、今からの判例検討にも響きそうだなぁ。 これは糖分摂取の必要性が極めて高いと言えるなぁ。 |
||
わかりました! まぁ、私も反省するところだから、言うとおりにするわよ! ハイ。 シュークリームね。 その代わり、ちゃんと判例検討もするのよ? |
||
わぁーいっ! シュークリームだぁっ!! |
||
・・・。 (なんだか出来の悪い子供と、そのお母さんのやり取りみたいです。) |
||
うまぁーーーいっ!! うまぁーーーいっ!! |
||
じゃあ、この事案の争点ね。 本件の母親は、 児童扶養手当法4条1項5号に定める 『5号 その他これらに準ずる状態で政令で定めるもの』 とする児童扶養手当法4条1項5号を受けて、制定された同法施行令1条の2の 『母が婚姻によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)』という文言の、括弧書き部分によって、児童扶養手当の受給資格を失っているわけよね。 だから、本件の母親は、この児童扶養手当法の委任を受けて、支給対象児童を定めた児童扶養手当法施行令が、法の委任の範囲を逸脱するものだとして争っているわけ。 |
||
うまうま・・・ えーっとね。あのね・・・ あたしは、シンママは子育ても大変だと思うから、やっぱり国の保護は必要だと思うわけ。 |
||
シンママ? | ||
シングルマザーの略語だね。 ペロペロ・・・。 |
||
相変わらず、どうでもいいことだけは、よく知っているわね。 まぁ、でもサルの言うとおりよね。 そもそも、児童扶養手当法の法の趣旨は? って考えることが大事だからね。 |
||
特に、あの旦那は金満なのに、シュークリームさえケチるようなダメ男だからね。 認知したって、どうせシュークリームくれないよ、きっと。 |
||
・・・なんか、色々言っていることが錯綜しちゃっているです。 | ||
ちょっとナニ言っているのかワカラナくなってきたから、最高裁の判断を見ることにしましょうか。 『施行令1条の2第3号の規定は,婚姻外懐胎児童を児童扶養手当の支給対象児童として取り上げた上,認知された児童をそこから除外するとの明確な立法的判断を示していると解することができる。 そして,このうち認知された児童を児童扶養手当の支給対象から除外するという判断が違憲,違法なものと評価される場合に,同号の規定全体を不可分一体のものとして無効とすることなく,その除外部分のみを無効とすることとしても,いまだ何らの立法的判断がされていない部分につき裁判所が新たに立法を行うことと同視されるものとはいえない。 したがって,本件括弧書を無効として本件処分を取り消すことが,裁判所が立法作用を行うものとして許されないということはできない。 そこで,政令制定者が施行令1条の2第3号において本件括弧書を設けたことが,法の委任の範囲を超えたものということができるか否かについて検討する。 法は,父と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため,当該児童について児童扶養手当を支給し,もって児童の福祉の増進を図ることを目的としている(法1条)が,父と生計を同じくしていない児童すべてを児童扶養手当の支給対象児童とする旨を規定することなく,その4条1項1号ないし4号において一定の類型の児童を掲げて支給対象児童とし,同項5号で「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」を支給対象児童としている。 同号による委任の範囲については,その文言はもとより,法の趣旨や目的,さらには,同項が一定の類型の児童を支給対象児童として掲げた趣旨や支給対象児童とされた者との均衡等をも考慮して解釈すべきである。 法は,いわゆる死別母子世帯を対象として国民年金法による母子福祉年金が支給されていたこととの均衡上,いわゆる生別母子世帯に対しても同様の施策を講ずべきであるとの議論を契機として制定されたものであるが,法が4条1項各号で規定する類型の児童は,生別母子世帯の児童に限定されておらず,1条の目的規定等に照らして,世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童,すなわち,児童の母と婚姻関係にあるような父が存在しない状態,あるいは児童の扶養の観点からこれと同視することができる状態にある児童を支給対象児童として類型化しているものと解することができる。 母が婚姻によらずに懐胎,出産した婚姻外懐胎児童は,世帯の生計維持者としての父がいない児童であり,父による現実の扶養を期待することができない類型の児童に当たり,施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において婚姻外懐胎児童を法4条1項1号ないし4号に準ずる児童としていることは,法の委任の趣旨に合致するところである。 一方で,施行令1条の2第3号は,本件括弧書を設けて,父から認知された婚姻外懐胎児童を支給対象児童から除外することとしている。 確かに,婚姻外懐胎児童が父から認知されることによって,法律上の父が存在する状態になるのであるが,法4条1項1号ないし4号が法律上の父の存否のみによって支給対象児童の類型化をする趣旨でないことは明らかであるし,認知によって当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもない。 また,父から認知されれば通常父による現実の扶養を期待することができるともいえない。 したがって,婚姻外懐胎児童が認知により法律上の父がいる状態になったとしても,依然として法4条1項1号ないし4号に準ずる状態が続いているものというべきである。 そうすると,施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において,法4条1項1号ないし4号に準ずる状態にある婚姻外懐胎児童を支給対象児童としながら,本件括弧書により父から認知された婚姻外懐胎児童を除外することは,法の趣旨,目的に照らし両者の間の均衡を欠き,法の委任の趣旨に反するものといわざるを得ない。 原判決は,法4条1項2号の「父が死亡した児童」及び4号の「父の生死が明らかでない児童」は,父が存在しないため父による扶養を受けることができない類型を定めたものであり,施行令1条の2第3号は,本件括弧書を含めてこれに準ずるものとして規定されたものであるとし,父の認知によって受給資格が失われるのは,法4条1項2号及び4号により支給対象とされた児童について養父の出現や父の生存の確認によって父の不存在という事実がなくなれば父が扶養義務を尽くすか否かにかかわらず児童扶養手当の支給が打ち切られるのと同様であるとする。 しかしながら,上記各号に定める父の死亡や父の生死不明も,単なる法律上の父の不存在ではなく,世帯の生計維持者としての父の不存在の場合を類型化したものということができるのであり,上記各号の場合に養父の出現や父の生存の確認によって世帯の生計維持者としての父の不存在の状態が解消されたとしてその受給資格を喪失させることと,認知により法律上の父が存在するに至ったとの一事をもって受給資格を喪失させることとを同一視することはできないというべきである。 そして,このように解することは,事実上の婚姻関係にある父母の間に出生した児童が,事実上の婚姻関係の解消によって法4条1項1号の支給対象児童となった場合において,その後に父の認知があったとしても,その受給資格に消長を来さないと解されていることとも整合する。 以上のとおりであるから,施行令1条の2第3号が父から認知された婚姻外懐胎児童を本件括弧書により児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲から除外したことは法の委任の趣旨に反し,本件括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件括弧書を根拠としてされた本件処分は違法といわざるを得ない。』 としているわね。 |
||
うんうん。 至極、真っ当な判決だお。 納得でけた。 |
||
行政法でも、重要判例として扱われる判決ですね。 行政立法に関する有名判例の一つなので、しっかり抑えておくと、憲法の勉強だけではなく、行政法の勉強においても有益ですよね。 |
||
そうよね。 私もそう思って、長めに判決文引用しちゃったんだけどね。 |
||
長め・・・ねぇ。 うんうん、そうだね、そうだね。 (コレは、長めではなく、 端的に、長ぇっ!!) |
||
でも、判決文にいう通りだと思います。 だって、父から認知を受けた児童は、確かに、法律上の父が存在することにはなるわけですけれど、そのことが、必ずしも未婚の母親の世帯の生計を維持するかどうかはわからないですよね。 |
||
まったくそうだよね。 あんな金満ケチ男が父親では、認知しても、どうせろくに家計を負担してくれやしないって。 だから、父から認知されたっていうだけで、未婚の母親の児童を、児童扶養手当の対象から一律に除外しちゃうことが、法の趣旨や目的に鑑みて、法の委任の範囲を超えて、違法だっていう結論になっているわけだよね。 |
||
なんで、扶養義務も果たせない父親が、金満になっているのよ! 何気に私の悪口言ってない? でも、なかなかいい検討が出来ているみたいね。 実際、本件括弧書きは、その委任の範囲や、憲法14条違反をめぐって、当時、全国各地で争われたっていう経緯があるのよね。 そのため、この事案で扱った施行令は、平成10年に改正されているからね。法の趣旨、目的に照らして、この本件括弧書きを考えれば、そういう考え方になると思うわね。 あ、あと一部無効か全部無効かって話が判決文の冒頭でなされているわよね。 この考え方については、可分か、不可分かってことで結論が分かれることになるんだけど、この論点については民法総則でも勉強したから大丈夫よね。 因みに、この事案では、最高裁は、本件括弧書きについては可分性があるという判断を下しているわね。 |
||
あぁ、あのカビの生えたお餅の話ね。 うんうん。 憶えてるよ、大丈夫、大丈夫。 |
||
カビの生えたお餅? なんの話ですか? |
||
あの時は、なんて例えしてるの・・・って思ったけれど、それで、あんたが憶えててくれるのなら何よりだったわね。 | ||
うんうん。 検討もしっかりしてたよね? シュークリーム頂戴っ! |
||
え? あ、そうね。 ちゃんと検討していたものね。 はい。 どうぞ、召し上がれ。 |
||
わぁーいっ! シュークリームだぁっ!! |
||
・・・。 (現金すぎます、藤先輩。) |