最判昭和52年3月15日判決 ~富山大学事件~ |
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富山大学を舞台にした事件であったことから、この事件名になっているのよね。 それじゃ、問題となった講義に関係して・・・ 単位認定を求めた生徒らを、チイちゃん。 修了認定を求めた生徒を、ナカちゃん。 単位認定を与えるか否かが問題となった講義の担当教授を、つかさちゃん。 富山大学を、サル。 ナレーターは、私が務めるわね。 |
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ナレーター |
富山大学経済学部の学生らであるチイちゃん、ナカちゃんらは、同大学のある教授の講義に履修届を出し、当該講義を受講していました。 | |
担当教授 |
えー、皆様のような熱心な学生諸君には心から申し訳ないと思うのですが、私には、ある疑いがかけられまして、この講義は、学部長から停止することが決定されました。 諸君らにおいては、この講義がなくなる以上、代替科目の履修をするように、との大学側からの指示が出ています。 |
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イヤだよ! チイは、先生の講義で単位認定して欲しいんだよ! |
単位認定を求めた生徒ら |
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そうです! そうです! 私も、もう卒業の身です! 最後は、先生の講義を受けて卒業したいです! |
修了認定を求めた生徒 |
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担当教授 |
あなたたち・・・。 | |
チイは、代替科目なんか取らないよ! 先生の講義に、これからも出るよ! |
単位認定を求めた生徒ら |
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私もです! 卒業まで、先生と一緒です! |
修了認定を求めた生徒 |
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ナレーター |
こうして、大学側からの措置・指示があったにもかかわらず、経済学部6名の学生、同学部専攻科の学生1名の7人は、その教授の講義に出席し続け、さらには定期試験まで受け、その結果、その教授から合格判定の評価を得るに至りました。 | |
富山大学 |
は? 単位認定をしろ? 専攻科の修了認定をしろ? なんで? なんで? |
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講義には真面目に出たよ! ちゃんと勉強もしたよ! 試験も、先生は合格って評価をしてくれたよ! |
単位認定を求めた生徒ら |
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私も最後まで悔いなく勉強できたです! 胸をはって、修了を迎えられるです! |
修了認定を求めた生徒 |
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富山大学 |
いやいやいや。 ちゃんと言うたやないの! その講義は停止された講義なんだから、そんな講義出ても単位なんか認定しないよ? |
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そんなの、おかしいよ! 講義に出席して、試験で合格判定を得たんだから、単位認定はしてもらいたいよぉ。 |
単位認定を求めた生徒ら |
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私も修了認定してもらうです! | 修了認定を求めた生徒 |
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富山大学 |
だから、しないって言うとるやないの! いやしくも、本学の学生である以上、大学が単位認定については判断するんだよ! |
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もう、いいよ! それなら、チイは大学と、経済学部長を相手に、チイ達の単位認定をしないことの不作為の違法確認(または、単位認定義務の確認)を求めて訴えるよ! |
単位認定を求めた生徒ら |
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私も訴えるです! (専攻科修了に関する不作為の違法確認または専攻科修了認定義務の確認) |
修了認定を求めた生徒 |
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そこまでね。 | ||
私が教授役なんですね。 てっきり、藤さんが配役されるものとばっかり。 |
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サルが先生役なんて、土台設定に無理があるじゃない。 やっぱり教える立場ってことなら、つかさちゃんが適任じゃないかしら。 |
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そうかも知れないですね。 | ||
あら。 珍しく、つかさちゃんが私に同意してくれるんだ。 |
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藤さんのハイレベルな議論には、正直ついていけないことが必至でしょうし、そもそも、藤さんが講義停止になるような嫌疑をかけられるなんて想像だに出来ないことですからね。 | ||
・・・。 (黒田先輩の盲信っぷりは、最早マインドコントロールのレベルです・・・。 まさか、怪しい改造手術でも既に受けてみえるのではないかと、私は心配になってきたです・・・。) |
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・・・あ、あ、相変わらずね、つかさちゃん。 あ、アレみたいよ? ブルーベリーとか、目にいいみたいよ? 今度、私からプレゼントさせて頂いてもいいかしら? |
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・・・。 (明智先輩・・・。 黒田先輩の問題は、目ではないからブルーベリーでは効果はないです。 ・・・たぶん。 ) |
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そうですね・・・。 ちょっと、最近目を細めてしまうこと多いから、視力がまた少し低下しているのかも知れないですね。 あ、すみません。なんか脱線してしまって。 本件の争点を、簡単にまとめてしまいますね。 本件で学ぶべきは、部分社会の法理と呼ばれる考え方の判断枠組みです。 この考え方が判決文で述べられていますので、これはもう、しっかりと抑えて下さい。 その上で、本件事実においては、どのような、あてはめがなされているのか、単位認定を求めたチイちゃんと、修了認定を求めたナカちゃんとでは、違いはあったのか、それらについて、判例の判断枠組みが、どのように影響を及ぼしているのか、という点を注視するようにして貰えれば、と思います。 |
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つかさちゃん、ありがとうね。 それじゃ、判決文を見ていくわね。 『裁判所は、憲法に特別の定めがある場合を除いて、一切の法律上の争訟を裁判する権限を有するのであるが(裁判所法3条1項)、ここにいう一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争を意味するものではない。 すなわち、ひと口に法律上の係争といつても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上裁判所の司法審査の対象外におくのを適当とするものもあるのであつて、例えば、一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である(さっき検討した地方議会判決文参照)。 そして、大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究とを目的とする教育研究施設であつて、その設置目的を達成するために必要な諸事項については、法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し、実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、このような特殊な部分社会である大学における法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除かれるべきものであることは、叙上説示の点に照らし、明らかというべきである。』 『単位の授与(認定)という行為は、学生が当該授業科目を履修し試験に合格したことを確認する教育上の措置であり、卒業の要件をなすものではあるが、当然に一般市民法秩序と直接の関係を有するものでないことは明らかである。 それゆえ、単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであつて、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である。 所論は、現行法上又は社会生活上単位の取得それ自体が一種の資格要件とされる場合があるから、単位授与(認定)行為は司法審査の対象になるものと解すべきであるという。 しかしながら、特定の授業科目の単位の取得それ自体が一般市民法上一種の資格要件とされる場合のあることは所論のとおりであり、その限りにおいて単位授与(認定)行為が一般市民法秩序と直接の関係を有することは否定できないが、そのような場合はいまだ極めて限られており、一部に右のような場合があるからといつて、一般的にすべての授業科目の単位の取得が一般市民法上の資格地位に関係するものであり、単位授与(認定)行為が常に一般市民法秩序と直接の関係を有するものであるということはできない。 そして、本件単位授与(認定)行為が一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることについては、上告人らはなんらの主張立証もしていない。 してみれば、本件単位授与(認定)行為は、裁判所の司法審査の対象にはならないものというべく、これと結論を同じくする原審の判断は、結局、正当である。』 としているわね。 |
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へぇ~。 あたし、これ、てっきり富山大学が国立の大学だから、憲法の問題になっているのかと思っていたけれど、 『大学は、国公立であると私立であるとを問わず』 って、わざわざ言ってくれているんだね。 そっか・・・部分社会の法理という判断枠組みは、国立だろうが、私立だろうが問わないってことなんだ。 |
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そうね。 実際、昭和女子大事件(最判昭和49年7月19日)という事件もあるわね。 この事件では、私立大学の退学処分を受けた学生が、処分が憲法違反であることを理由に身分の確認を求めて争ったんだけど、この事件においても、部分社会の法理の判断枠組みが用いられているからね。 |
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私人間効力(シジンカン効力)のところで、検討される判例ですよね。 | ||
そうね。 富山大学事件については踏み込むと、どこまで議論を展開したものか、私も少し迷うところがあるから、ここでは、部分社会の法理の判断枠組みを抑えるために紹介した、という位置づけで終わっておこうと思うわ。 あまり深く立ち入るつもりはないけれど、この判決文から抑えて欲しいのは、判例法理である部分社会の法理が、どのような判断枠組みなのか、という点ね。 判決文で述べられている 『一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解する』 としている部分ね。 そして、この規範で述べられている 『一般市民法秩序と直線の関係を有しない内部的な問題』 か否かという観点から、単位認定行為と、修了認定行為とを区別しているってことよね。 |
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大学では、色々認定されるんだねー。 チイは、大学には行ってないから、単位って言葉を聞くだけで、なんか特別なモノって印象もっちゃうよ! |
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ナニも特別なもんじゃないよ。 単位なんて、ヘタしたら講義出てなくても貰えるよ。 |
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ソレは、きっと藤さんが優秀で、単位取得に必要な知識を既にお持ちだから出来る話ですよ。 私では、とても真似できません! |
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・・・違うわね。 単位取得に必要な知識をハナから放棄しているからこそ出来る話だと私は思うわ・・・。 まぁ、後段部分のとても真似できないって点については私も同意だけれどね。 |