最高裁平成17年9月14日大法廷判決
〜在外邦人選挙権事件〜
  判例の引用が長くなると思うから、事案はアッサリと説明だけで済まさせてもらうわね。

選挙権を行使するには、選挙人名簿に登録されていなければならないよね。
そして、この登録は市町村の住民基本台帳の記録を基礎に行われるから、外国に長期滞在する者は登録されず、選挙権を行使しえなかったの。

このことが問題となり、1998年に公職選挙法の改正が行われ、新たに在外選挙人名簿を調整し、これに登録された者には選挙権の行使を認めることとしたのね。
でも、その選挙権の行使については対象となる選挙を、当分の間は衆議院および参議院の比例代表選挙に限ることとしたため、小選挙区等においては選挙権を行使できない状態が続くこととなってしまったの。

そこで、在外日本国民が、これらの選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認、及び、先に行われた衆議院議員選挙において投票し得なかったことにつき、立法不作為による国家賠償を請求したというのが事案の概要になるわね。
  全然アッサリじゃないじゃん!
ナニ、そのコッテリ説明は!
ナニ文句言ってるのよ!
この事案は、いつもみたいな判例再現するにしても、説明が不可欠だから、あんまり変わらないわよ! 
しかも、何気に判例引用長いわよ・・・って前置きしてるし・・・
きちゃうの?
きちゃうの?
あのグリーンマイルが・・・
ナニよ、この前から、そのチョイチョイ出てくるグリーンマイルってのは・・・
あ、やっぱいい。
聞かない、聞きたくない。
 
  藤先輩・・・
私聞きたいので、後で良かったら教えてください。
オッケぇ、オッケぇ。
ナカたんは知的好奇心も旺盛なんだね。
ナカちゃんに下らないこと教えないでよ?
  ナニ?
聞きたいの?
聞きたいんでしょ?
いい。
どうせ下らない話に決まってるもん!
 
おやおや。
決めつけと偏見に満ち溢れておいででいらっしゃる。
狭量な御人だねぇ。
判例検討に入っても、よろしいですか?
事案の説明アッサリにしたのに、無駄に長話しちゃってるんですけどぉ〜。 
  あ・・・
うん、やろか・・・
知的好奇心旺盛な木下さんなら、きっと判例検討も興味深く聞いて下さるものと疑っていませんけどね。 
  言葉とは裏腹な、その目が全てを物語っていると思うんだけどなぁ・・・
今回は、いきなり最高裁の判断を見ながら、順次検討することにしちゃうわね。
(※ 段落ちは、管理人編集)
(※ 赤太文字算数字は、管理人挿入。引用中略部分あり)

〜中略〜1.憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。』
〜中略〜
『憲法の以上の趣旨にかんがみれば〜中略〜国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。
 そして、そのような制限することなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、
憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。また、このことは、国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置をとらないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても、同様である。』


1.では、まず憲法がいう選挙権の保障は、選挙権行使の機会の積極的な保障までもを含むものであるとまず述べているわね。そうなると、本件在外邦人らは、選挙権を有しながら、選挙人名簿の不備のために、憲法上保障されている投票ができなかったことから、この機会の平等の保障に反するといえるわよね。
そして、
選挙権又は選挙権行使を制限することが認められる要件を述べているわ。その要件は『
制限することなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合』としているわね。また、この判断は、立法不作為においても同様に考えるべきであるとしているわ。
そうなると、本件において、その要件が満たされていたかが問題となるわけよね。



〜中略〜2.既に昭和59年の時点で、選挙の執行について責任を負う内閣がその解決が可能であることを前提に上記の法律案を国会に提出していることを考慮すると、同法律案が廃案となった後、国会が10年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し、本件選挙において在外国民が投票することを認めなかったことについては、やむを得ない事由があったとは到底いうことができない
 そうすると、本件改正前の
公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったというべきである。』


国会審議があったにも関わらず、その後10年以上放置しているわけなんだから、それでやむを得ないは通用しないよね、ってことを述べているわね。ここで、立法不作為を認定しているわね。
ただ、先の判例検討(在宅投票制度廃止事件)でもみたように、
憲法上の違憲が、国賠法上の違法となるかは区別して考えるというのが、最高裁の立場だったよね。


〜中略〜
3.国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない

 
しかしながら@立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、A国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。』


3.の前半部分は、在宅投票制度廃止事件で最高裁が示した規範よね。本判決の注目部分は、赤太文字で示した『しかしながら』以降で述べられている部分ね。
 
例外的に、と付言した上で、本判決は、国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の違法の評価を受ける場合を@とAの要件で明示しているわ。
 これは
従来のあまりに厳しい制約を拡張するものといえ判例が実質的に変更されたとみることもできるといえるわよね(ただし、本判決は在宅投票制度廃止事件と異なる趣旨をいうものではない、と判決文において述べている)。


〜中略〜4.『このような著しい不作為は、上記の例外的な場合に当り、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。
 このような立法不作為の結果、上告人らは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。
 したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。』



4.は本判決の結論部分ね。
本判決は、1審、2審では共に原告らの請求を法律上の争訟」(裁判所法3条1項)にあたらない等として不適法で却下すべきとして、国家賠償請求も棄却しているんだから、大逆転判決よね。
ぱちぱちぱちぱち!
(拍手)
本判決は、従来のあまりに厳しい制約を拡張したものであることから実質的な判例変更といわれる程の判決ではあるんだけど、かてて加えて、在宅投票制度廃止事件が、法令それ自体の合憲性の判断を回避したことと比較すると、本判決は積極的な違憲判断を先行させたといえるわね。
そういう点でも意味深い判決であると思うわ。

いずれにせよ、本判決は立法不作為を違憲と判断した初の最高裁判決であることから、非常に重要な判例なのは間違いないわね。
  立法不作為の問題にあたったら、この規範を書けるようにしたいです!
そうね。
立法不作為を認定するにしても、否定するにしても、挙げるべき規範は、この平成17年判決の規範がいいと思うわ。 
  在宅投票制度廃止事件判例検討の際には、立法不作為が違憲とされることはないようにも思えたので、良かったです。
・・・やっぱグリーンマイルだったじゃねぇかお。
ナニさっきから意味不明なことばっかり言ってるのよ!
あんたもナカちゃんみたいに判例検討の感想くらい言ったらどうなのよ! 
  だから言ったじゃないの。
グリーンマイルだったね・・・って。
あぁーっ!
もう聞いてあげるわよ!
ナニよ、そのグリーンマイルってのは!  
「グリーンマイル」って映画あったじゃないの。
WikiPedia参照)
あの作品のタイトルのグリーンマイルって、死刑台に続くまでの道が緑だから、それをグリーンマイルって表現してるんだよね。

光ちゃんが、長ぇ判例検討すると、判例説明の背景色の緑色が延々続くんだよね。
あぁ・・・コレ、あたし軽く死ねるなぁ、って気が遠くなるの。
その時に、ふとこの映画のタイトルがあたしの頭の中を過ったんだよね。うまいこと言ってない? ウキっ!
・・・・。   
  ・・・・。
あまりの上手い例えに声も出ないってところ?
私の一生懸命してる判例検討が死刑台への道を連想させるなんて言われるとは思いもしなかったわよ! 
今度一緒に、グリーンマイル見ようよ!
3時間超える長ぇ映画だけど、あたし大好きなんだよね。
ってか、ぶっちゃけ、ダラボンの映画は全部好きなんだけどね。
私が、あの名作を見ていないとでも?
あうあうあう。
(私、見ていないから一緒に見たいです・・・
 でも、このタイミングでは言い出せないです・・・)

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