緊急避難 成立要件A | ||
今日の勉強会では、引き続き緊急避難の成立要件を見ていくわね。 それじゃ、まずは再確認! 緊急避難の成立要件は、 @『現在の危難』 A『避けるため』(避難の意思) B『やむを得ずにした行為』(補充性の原則) C『これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えな』い (法益権衡の原則) の4要件ね。 前回は、@とAは見たから、今日は残りをやるわね。 |
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うひょひょひょひょひょひょっ! あたしは昨日の晩御飯から抜いて焼肉ちゃんを胃袋に迎え入れる準備してんだお!! 今こそ見せてやんよっ! 焼肉ちゃんのために、あたしの「マヂ」ってヤツをっ!! さぁ、金満虚塵(=虚塵:巨人の蔑称)ファンよ、かかってこいやぁ! |
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・・・勢い余って、あんたナニとんでもない悪口言ってくれちゃってんのよ。まあまあ、そんなに慌てないで。 まずは、いつもの条文確認からね。 六法で、緊急避難を定めた刑法37条1項をみてくれる? |
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刑法第37・・・ |
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ええいっ! チビっ子っ! 条文を読むのは、あたしだおっ!! 刑法第37条。 『(緊急避難) 第37条 1項 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。』 緊急避難の成立要件は、全てこの条文から導けるんだお! |
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まぁ、元気のよろしいこと。 それじゃ、今から学ぶ緊急避難の成立要件の1つであるB『やむを得ずにした行為』(補充性の原則)を考えるために、質問をさせてもらうわね。 質問! 自動車の運転免許を持っていない私が、急病人のナカちゃんを病院に運ぶために、自動車を無免許で運転した。 さあ、この場合の私に緊急避難は成立するかしら? |
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しねぇーよ、バァーカっ!! するわけねぇーだろうが、常識的に考えて。 おま、補充性の原則ナメてんじゃねぇーぞ!? いいか? 補充性の原則っていうのはな、めっさ厳格に捉えられるもんなんだお! それしかない、ってなくらいのものじゃないとダメなんだお! 無免許運転するくらいなら、救急車呼ぶとか、タクシーで行くとか、他にいくらでも方法あんだろがっ! 脳味噌膿んでんじゃねぇーのかお? |
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え・・・えぇーっと。 藤さんの言い方はさておきまして。 考え方や、結論としては、そうですよね。 緊急避難は、無関係な第三者の法益を侵害するものですから、相当性の判断においては正当防衛の場合よりも厳格になります。 すなわち、B『やむを得ずにした行為』とは、法益保全のための唯一の方法であって、他にとるべき方法がないことが求められるということですからね(補充性の原則)。 |
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・・・つかさちゃん、今のサルの物言いを、さておいてしまっていいと思うの? でも、そうよね。 B『やむを得ずにした行為』とは、他にとりうる方法がないことを意味するわ。コレが、補充性の原則なのよね。 質問の事案では、サルが言うように、救急車を呼ぶとか、タクシーを呼ぶなどの手段が考えられる以上、補充性の要件を満たさないことから、緊急避難は成立しないこととなるわね。 因みに、今、サルが言ってくれたように、答案を書く際に、補充性要件を否定する場合には、その他にとりうる手段についても具体的に述べて否定するべきだから、ソコは注意してね。 |
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藤先輩のカットインが鬼のように早かったです・・・。 私の考える前に、もう答えを言ってしまいました・・・。 |
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サル、割り込み大好きだしね。 じゃあ、前回検討するのを、今回にまわした百選掲載判例を見てみることにしましょうか。 前回学んだ緊急避難の成立要件の1つである@『現在の危難』と、今、学んだB『やむを得ずにした行為』(補充性の原則)の両者から検討して欲しい事案なんだけど。 (最判昭和35年2月4日 百選T 29事件) 事案を話すから、緊急避難が成立するかを考えてくれる? 村が所有する吊橋が老朽化が深刻となっていて、車馬の通行にも危険が生じていたの。 そのため橋を利用していた村人らは、村に再三の吊橋の架け替えを要請していたんだけど、一向に聞き入れてもらえなかったのね。 このままでは事故が起きてしまう! と思い悩んだ村人らは、雪害による落橋を装って、災害補償金を得る目的で、吊橋をダイナマイトで爆破落下させてしまいました。 さて。 この村人らの行為に緊急避難は成立するでしょうか? |
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えーっと、まずは、吊橋の老朽化という状況が、緊急避難の成立要件である@『現在の危難』といえるかについて検討するに・・・ | ||
まどろっこしいこと言ってんじゃねぇーおっ! こんなもの仮に、吊橋の老朽化に@『現在の危難』が認められるとしても、ダイナマイト爆破なんつー行為が、B『やむを得ずにした行為』として、補充性の原則の要請を満たすわけがねぇーだろうがっ! 常識的に考えて!! 橋の架け替えするためには、ダイナマイト爆破しかないってこたぁねーお! 車馬の通行が危ないってことなら、車馬は別の橋を利用しろってことだお! よって、緊急避難は成立しないってぇーのっ! |
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成立要件のB『やむを得ずにした行為』で切るわけですね。 ええ、まぁ確かに緊急避難の成立要件は全て満たす必要があるわけですから、その回答も有り得るところだと思います。 |
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あうあうあうあうあう。 また藤先輩に持っていかれてしまったです・・・。 |
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う〜ん・・・サルの検討自体は悪くないんだけれど・・・。 なんだろう、釈然としない気持ちが・・・。 最高裁は、次のような判断を下しているわね。 『記録によれば、右吊橋は200貫ないし300貫の荷馬車が通る場合には極めて危険であったが、人の通行には差支えなく(中略)、しかも右の荷馬車も、村当局の重量制限を犯して時に通行する者があった程度であった』 ので、犯行時における橋の危険性は『原審の認定する程に切迫したものではなかったのではないかと考えられる。』 そして仮に『切迫した危険な状態にあったとしても、その危険を防止するためには、通行制限の強化その他適当な手段、方法を講ずる余地のないことはなく、本件におけるようにダイナマイトを使用してこれを爆破しなければ右危険を防止しえないものであったとは到底認められない』。 よって、『緊急避難を認める余地なく、従ってまた過剰防衛も成立しえない』 。 とね。 |
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な? あたしの言ったとーりっしょ? 最高裁は、吊橋の老朽化に@『現在の危難』を否定しとるけど、まぁ、仮に、危難の現在性が認められるとしたところで、ダイナマイト爆破した行為は、B『やむを得ずにした行為』にはならねーっつってるわけよ。 んで、まぁ補充性を否定したんだから、ソコは気ぃつかって、ちゃんと他にとりえる手段についても、ちゃんと言っとるわけだお。 な? な? そーいうことだおね? |
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そうね・・・。 ところで、さっきから、どうして、そんな汚い言葉づかいをしているわけ? もう少し落ち着いて話せないの? |
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できるわけねぇーだろがっ!!! あたしは、昨日から飯食ってねぇーんだお! 焼肉ちゃんのために、MAXお腹空かせてんだお! しかも、ドッカのドケチ金持ちが、勉強会でガンバらないとゴチってやんねぇーなんて無茶ぶりしたせーで、その空腹抱えて刑法の勉強してきたんだお!! お陰で朝から、やたら落ち着かねぇーわ、イライラするわ、もうテンションが、えらいことなってんだお!! ええぇぇーーいっ!! そんなこたぁ、どうでもええから、はよ勉強会の続きやるんだお! そして、あたしに焼肉ちゃんを食べさせるんだお! |
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まさに飢えた野獣そのものです。 | ||
ご飯食べてこなかったなんて自己責任じゃないのよ。 なんで、そのフラストレーションまで、私に転嫁してんのよ。 |
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おいおいおいおいおいおぉぉぉーいっ!! 無駄話すんなら、もう勉強会終われっつーのっ!! 終わりなの? 終わっちゃうの? |
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いつも自分は無駄話しかしないくせにっ! それじゃ、緊急避難の成立要件の最後の要件C『これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えな』い(法益権衡の原則)について説明するわね。 |
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法益権衡の原則なっ! 要は、生じた害≦避けようとした害ってことだお! |
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あ、あ、相変わらず一刀両断のザックリ説明の切れ味ですね・・・。 竹中さんのために丁寧に説明すると、法益権衡の原則とは、同等または大なる利益を保全するために、同等または小なる利益を犠牲にすることは許されるけれど、小なる利益を保全するために大なる利益を犠牲にすることは許されない、とする原則のことですね。 ザックリした説明だと、藤さんの理解になるかと。 |
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細けぇーこたぁいいんだお! | ||
はーい、それじゃ質問で理解できているか確認させてもらいまーす。 質問! 600円相当の自分の猟犬を救うために、150円相当の他人の番犬を傷つける行為には、緊急避難が成立するでしょうか? (大判昭和12年11月6日をベースとした質問) |
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余裕で成立するってぇーのっ! 犬は、刑法上、「物」扱いだかんねっ! 財産権の対象となる「物」なんだから、法益権衡の原則に照らしても600円が150円よりも価値のあることは一目瞭然、言うに及ばずだかんねっ! え? アレ言っとく? あたしの答えは、判例同旨ってかっ!? |
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まぁ、よく予習されてみえますこと。 じゃあ、コレならどうかしら? 質問! 150円相当の自分の番犬を救う為に、600円相当の他人の猟犬を傷つける行為の場合は、どうなるでしょうか? (上の質問の逆ver.) |
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(あ。藤先輩が、止まっているです・・・ 検討して回答するチャンスです! ) ・・・アレ? よ、よ、よくワカラナイです・・・。 緊急避難が成立・・・しないような気がするのですが・・・アレ? 成立する? いや、でも害の均衡が要件なんだから、やっぱり成立しない? |
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コラっ! チビっ子っ!! 両方答えてんじゃねぇーお! 答えは一つに絞ってこいっつーのっ! しかも語尾上げしてんじゃねぇーお!! 法益権衡の原則があんだから緊急避難は成立しねぇー! どだっ!! |
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刑法第37条。 『(緊急避難) 第37条 1項 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。』 とあるわけだから、過剰避難として、任意的減免は認められるでしょうけどね。 |
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きょ、今日の藤さんは、いつになくパワフルですよね。 | ||
パワフルねぇ〜。 狼藉者でも、肯定的に捉えそうな表現よねぇ〜。 じゃあ、この質問はどう考える? 犬なら、今考えてくれたように600円相当、150円相当ってことで、価値を比較できるわよね。 じゃあ、もし、コレが人間だったら? あたしと、余命3ヶ月と医者から宣告された人。 この場合でも、両者の価値を比較してもいいと思う? |
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いいわきゃねぇーおっ! 命の価値を、秤にかけてんじゃねぇーおっ!! 下らねぇ質問をした罰として、あたしを焼肉屋に、とっとと招待しろっつーのっ!! |
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そう考えるべきだと私も思いますね。 ちょっと、光ちゃんの質問も意地が悪いですよね。 |
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そ、そうね・・・。 うーん、サルの態度があんまりだから、つい・・・ね。 緊急避難の成立要件については、これくらいかな。 サルの言動はともかくとして、いつになく予習して来てくれているのは、すっごく伝わってきたわ。 そして、いつもどれだけサボっているのか、ということもね。 うん、でも約束は約束だからね。 一生懸命の姿勢は、十分過ぎるくらいあったって認めるわ。 それじゃ、サルが楽しみにしてくれていた焼肉屋さんに行きましょうか。 |
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うひょひょひょひょひょひょひょひょひょひょっ!! キターーーーーっ!!! あ・・・・? |
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・・・・。 | ||
アレ? 藤さん? 藤さん? |
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明智先輩っ!! 大変です! 藤先輩が、燃え尽きてしまっているです! |
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・・・あら。 日頃、人の2倍どころか4,5倍食べる人が食事を抜いた上に、普段しない勉強を一生懸命して、さらに勉強会でもフルスロットルで大騒ぎしたせいね。 まぁ、焼肉屋に御招待するって約束だから、ウチの運転手呼んで、お店まで運ばせるからいいわ。お店に着いたら、お肉の焼ける匂いで目ぇ覚ますでしょうよ。 |
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光ちゃん、冷静・・・というか、少し冷たい印象さえ受けてしまう反応なんですね。 | ||
ホント、サルはバランス感覚ないなぁって思ってね。 私は、真面目に勉強会に参加さえしてくれれば、と思って言ったつもりだったんだけど、どうして、こんなことになっちゃうのかなぁ、って。 ナニも食事抜いてまで予習してくることないじゃないの、バカ! |
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でも、藤先輩、すっごく予習してきたと思うです。 私も見習わないとって思ったです! |
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身体壊すまで無茶する勉強じゃ意味はないと思うわ。 だからこそ、普段からコツコツと・・・ってことが大事だと思うの。 ナカちゃんは、普段から頑張っているんだから、サルみたいになっちゃダメだからね。 さてと、そのことはサルにも焼肉屋で言って上げないとね。 |
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・・・・。 (普段からコツコツ・・・。成程です。 明智先輩の言うとおりです。 ・・・ただ、明智先輩。 藤先輩に、そのことをお伝えする場所が焼肉屋では、絶対に聞く耳もたないです。特に今日の肉に飢えた藤先輩には・・・。 ) |
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藤さぁーーんっ!! 藤さぁーーーんっ!! 光ちゃんの家の運転手さんが迎えに来てくれましたよぉぉぉっ! 目を覚まして下さぁーーいっ!! |
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・・・・。 |