構成要件要素・D故意 方法の錯誤 | ||||||||||||||
それじゃ、前回後回しにした故意における事実の錯誤の中でも、少し複雑な方法の錯誤について勉強するわね。 | ||||||||||||||
事実の錯誤の諸類型
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方法の錯誤(打撃の錯誤とも言われる)は、前回使った、この表ではAのところの話だったよね。 サルが、拳銃で私を狙って撃ったところ、予想外にもナカちゃんに命中してしまった・・・みたいな事案を例として挙げたと思うんだけど、撃ち間違いには、色々なパターンが想定されるわよね。 今回は、その色々なパターンについて検討することで、方法の錯誤を学ぼうってことなの。 |
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こくこく(相槌) |
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故意についての勉強会なんですね。頑張ります。 | ||||||||||||||
んみゅ? なんでクロちゃんが居るんだお? |
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そんな言い方されなくっても、いいじゃないですか・・・。 | ||||||||||||||
ゴメン、ゴメン。 変な意味じゃなくって、いつも刑法の勉強会には、クロちゃんいないのに、なんで今日に限っているのかな? って思って聞いただけなんだけどね。 |
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私がお願いして来て頂いたんです。 | ||||||||||||||
そうなんだ。 でも、またなんで? |
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これ以上、藤先輩に犯罪を重ねさせないために、今回は、藤先輩の役は黒田先輩にお願いしようと思って・・・。 | ||||||||||||||
え? | ||||||||||||||
いやいや、抜本的にはなんの解決にもなってないよ、それ。 まぁ、別に現実の犯罪が起きているわけじゃないから、抑止もナニもないから、いいんだけどさ。 |
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ちょっとお話が見えないのですが、私は犯罪者役として呼ばれたってことなんですか? | ||||||||||||||
あ・・・ そうなっちゃうです・・・。 |
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・・・。 (そうなっちゃうもナニも、そうしかならないじゃないの。 このチビッ子、ホントはバカなんじゃないの?) |
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違うんです! 違うんです! 私なりに、どうしたらいいかってスッゴイ悩んで、悩んで、悩んで気が付いたら・・・ |
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クロちゃんなら犯罪者に仕立ててもいいって結論に達したってことだね? | ||||||||||||||
竹中さん・・・ | ||||||||||||||
違うんです! 違うんです! なんで、こんなことになったのか、私もうまく説明できないんですけど、とにかく違うんです! |
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別に、分かり易くなればいいかな、って登場人物を、身近な人に置き換えているだけなんだから、配役に、そんな気を遣う必要はないわよ? 犯行に及ぶのは、いつも通りサルで構わないと思うしね。 |
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っていうか、光ちゃんが例えで、いっつも、あたしを犯人役にするから、こんなことになっとるんだから、光ちゃんが犯人役になれば丸く収まるんじゃね? | ||||||||||||||
ナニ言ってるのよ! 私が、犯罪者役なんて配役は、おかしいでしょ? そんなリアリティに欠ける設定じゃ混乱しちゃって、分かる問題さえ分からなくなるわよ。 犯罪犯す役は、あんたでいいのよ。 |
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・・・・。 (このクソ女ぁ。 マヂで、いつかヌッ殺してやんよ! お前の期待通りの殺人鬼になんぞ、ゴラァ!) |
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藤さんがお嫌なのでしたら、私が犯人役を引き受けるってことで構いませんよ? | ||||||||||||||
黒田先輩、ごめんなさい。 ごめんなさい。 私、ホントに、そんなつもりはなかったんです。 許して下さい! 私が犯人役になるから許して下さい! |
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つかさちゃんやナカちゃんが、犯人役なんてやらなくっていいわよ! サルっていう適役がいるんだから。 つかさちゃんは、せっかく来てくれたんだから、今日は一緒に検討していって欲しいな。 |
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あ、あ、ありがとう。 ひ、ひか・・・光ちゃん。 |
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じゃあ、ヨロシクな! ピカピカピカチュウちゃん。 |
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わざとらしく聞き間違えたふりして、変なあだ名で呼ばないでくださぁ〜い。 それじゃ、ちょっと脱線しちゃったけれど、今日の論点である方法の錯誤について勉強するわね。 じゃあ、前回の復習から行くわよ。 サルが、拳銃で私を殺そうと思って狙いをつけて引き金を引いたの。 ところが、拳銃の弾は外れて、予想外にも、ナカちゃんに命中してしまい、ナカちゃんを死亡させる結果となってしまったの。 さぁ、この場合、サルに故意を認めてよかったかしら? あ、因みに、この事案においてサルは、私以外の相手に対しては未必の故意(=もしかしたら死ぬかも、という気持ち)はないという前提で考えてね。 未必の故意があるというのであれば、錯誤を論じる必要はなくなっちゃうからね。 |
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狙った相手は明智先輩で、死亡したのは私です。 藤先輩の殺意は、明智先輩にはあったわけですが、私に対してはなかったことになります。 だから、この場合は、殺意をもって拳銃まで撃ったものの実際には殺せなかった明智先輩に対して、殺人未遂罪。私に対しては殺意はなかったのに誤って殺してしまったのですから、過失致死罪。 ・・・ではなくっ!! 法定の範囲で符合しているか否かで判断する法定的符合説の立場に立って考えるべきだと思うです! 法定的符合説では、事実と認識とが、法定的に符合している限り、故意が認められます。 したがって、「人」を狙う意思で、「人」を死亡させたことは殺人罪の構成要件に符合する以上、明智先輩ではなくって、予想外の私に命中していても、私の死亡という結果に対して、藤先輩には故意の殺人罪(刑法199条)が成立すると言えるです! |
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うひゃ。 ナカたんが、すっごい完璧に理論武装をしてきとるお。 |
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ナカちゃん、やるじゃない! 昨日の勉強会の内容を、しっかり復習して来てくれたみたいで嬉しいわ。 でも、次の問題は少し難しいわよ? サルが、私を殺そうと思って拳銃で私を狙って撃ったの。 拳銃の弾は、見事私に命中して、私は死亡してしまいました。 ところが、弾の威力が強すぎて、弾は私を貫通して、その背後にいたナカちゃんにも命中。 ナカちゃんも死亡してしまいました! 一石二鳥ならぬ、一発二殺人という結果を招いてしまったわけなんだけど、サルにとっては予期せぬ結果としか言えないわよね。 これは、本来意図していた客体のみならず、意図せぬ客体にまで結果が生じた場合に、その結果に対して故意を認めていいのか、という問題なんだけど、どう考える? |
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私と明智先輩の両方を殺したのであれば、藤先輩には、両者に対して、故意を認めて殺人罪が成立すると考えていいと思うです。 | ||||||||||||||
最高裁昭和53年7月28日第三小法廷判決(百選T 40事件)をベースにされた質問ですね。 確か、あの事案は・・・ 巡査から拳銃を強取しようとした被告人が、建設用釘打ち機を改造した手製の銃で、巡査の方を狙って狙撃したものの、改造銃から放たれた鋲(びょう)は、巡査の方を貫通して、たまたま通行した別の方にも命中したというものでしたよね。 本判決での最高裁の判断は・・・ 『犯罪の故意があるとするためには、罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが、犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において一致することをもって足りるものと解すべきである』 として、まず法定的符合説の見解を示していますよね。 そして、 『人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上、犯人の認識しなかった人に対して、その結果が発生した場合にも、右の結果について殺人の故意があるものというべきである。』 として、狙った客体のみならず、意図せぬ客体に対する結果についても故意を認めていますね。 このLC(リーディングケース)となる判例の考え方に立てば、今の光ちゃんの質問に対する答えとしては、藤さんは、光ちゃん、竹中さん、その両者に生じた結果に対して故意が認められるということになりますね。 |
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うひゃ。 クロちゃんは、クロちゃんで、えげつないくらいの回答してくれちゃってるよ。 |
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流石、つかさちゃん! でも、つかさちゃんのレベルなら、出来れば、故意の個数についても一言、言及して欲しかったなぁ。 法定的符合説の中でも、故意の個数についての考慮によって、説が分かれているわよね。 行為と因果関係のある範囲内で発生した全ての結果について、故意犯の成立を認めるとする「数故意犯説」。 そして、故意の個数により制限を加える「一故意犯説」よね。 人を殺そうとする故意があったとしても、その故意は、あくまでも1人の相手に対する故意であるのだから、1人の相手に向けられた故意は認められるものの、行為者の認識した結果以上の故意は認めることはできないとする一故意犯説は、責任主義の立場からは説得的と言えるわよね。 ただ、判例は、今、つかさちゃんが紹介してくれた、私の質問のLC判例を見てもわかるように、明確に数故意犯説の立場を示しているのよね。 数故意犯説によると、一つの故意(質問の事案ならば、1人の「人」に対する殺人の故意)しかなくっても、複数の故意犯が認められることとなるわ。 |
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刑法は得意かと思っていたのに、なんか今日は全然議論に参加できないお・・・。 | ||||||||||||||
あ、ゴメンね。 ちょっと説明が早すぎたわね。 ただ、一故意犯説、数故意犯説、そのいずれが優れていると一概に言うことは難しいのよね。 それぞれ説得的な面もあれば、それぞれ説明が苦しくなる面もあるのよね。 そうね、それじゃあ、次の場面を、一故意犯説で説明してみてくれる? サルが私を殺そうと思って拳銃で私を撃ったんだけれど、私を狙った弾は、私に命中はしたものの、その当たった場所が肩のあたりで、弾は私を貫通して、予想外にナカちゃんに命中して、その結果、私は重傷、ナカちゃんは死亡という結果になってしまったの。 一故意犯説なら、サルの罪責はどうなると思う? |
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ああ・・・また私は殺されてしまったです。 藤先輩には、私に対しては殺人罪が成立するです! ・・・。 でも一故意犯説ってことだと、故意は明智先輩に対する1つだったのですから、法定的符合説から、人を殺すという構成要件枠内の範囲で、私に対する殺人罪が成立したとしても、そこで故意がなくなってしまっているです! ・・・となると、どうなるんでしょう? |
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うーん、どうなるんだろうねぇ。 ただ、故意が1つだって言うのなら、ナカたんへの殺人罪が成立している以上、光ちゃんへの殺人未遂罪の成立は、故意がないんだから無理筋になるよね。 となると、ナカたんに殺人罪、光ちゃんには過失傷害罪ってことになるんじゃないの? |
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おかしいです! おかしいです! 藤先輩は、明智先輩を殺すつもりで拳銃を撃っているのに、明智先輩に重傷を負わせておいて、それを過失傷害で済ませるつもりなんですか! 過失じゃないじゃないですか! 殺すつもりで撃ったんじゃないですか! |
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そうね。ちょっと納得いかない気持ちになるのはわかるけれど、一故意犯説だと、藤さんの説明された帰結になるわね。 狙われた光ちゃんからすれば、重傷負わされて、え? 殺すつもりで撃っておいて過失傷害罪なの?って気持ちになるかも知れないけれど、一故意犯説だと、この事案では、こういう結論になるのよね。 |
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一故意犯説は、責任主義の観点からは説得的かつ明確であると言えるんだけれど、今の事案のような場合には苦しくなるのよね。 ただ、それなら数故意犯説でいいじゃない、って単純な話でもないのよね。 次は、こんな問題を考えてみてくれるかな? 例えば、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺のような場面を想定してくれるかな。 パレードで往来には大勢の、それこそホントに大勢の群衆が集まっていたの。 ソコに、ヒットマンのサルが、拳銃でパレードの主役の御姫様役の私を狙って、拳銃を撃ったのよ。拳銃は、往来の群衆の間を抜けて、私に当たるはずだったんだけれど、結局誰にも当たらず外れてしまったの。 この場合、サルにどんな罪責が成立すると思う? 今度は、数故意犯説の立場で考えてみてくれる? |
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数故意犯説なら、行為と因果関係のある範囲内で発生した全ての結果について、故意犯の成立が認められるです! だから、藤先輩には、往来に居た人全員に対する殺人未遂罪が成立するです! |
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え? ソレは流石に、やり過ぎじゃね? ソレって、一体全体どれくらいの人間相手に、殺人未遂罪を成立させるつもりなのよ。 っていうか、さり気に自分が主役のパレードって、それも御姫様って、どんだけドイタいんだよって思うのは、あたしだけかな? |
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はい、サル残念っ!! あんた、ぜっんぜん数故意犯説がわかっていないのねっ!! 痛々しくって見てらんないわよっ!! ナカちゃんの考え方は、正しいわ。 流石、ナカちゃんっ! よく勉強しているから、理解の深さが違うのかしらね? 数故意犯説からは、行為と因果関係のある範囲内で発生した全ての結果について故意犯の成立が認められる以上、確かに、往来の人には何らの実害も発生していないんだけれど、ありえた被害者の数だけ殺人未遂罪を肯定するという結論になるのよね。 でもまぁ、サルの思うところは、数故意犯説の課題と言えるわけなんだけどね。 |
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でも私は納得できます。 数故意犯説が、私にはシックリくるです。 |
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なんか晴れ晴れしい顔しとるお。 まぁ、最近難しい顔ばっかしとったから、これはこれでええことかな。 |
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方法の錯誤については、これくらいでいいかな。 あ、考えたら、法定的符合説と、具体的符合説との対立についての説明がなかったわね。 ・・・じゃあ、ここは各自で抑えておいて下さい。 ってことにしちゃおっかな。 本来なら、それぞれの事案を考える際に、この両者の考え方を説明して、それぞれの立場で答えるって説明を予定していたんだけど、ちょっと失念しちゃってたみたいね。ゴメンね。 |
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私や、藤さんはソレで構わないですけど、竹中さんには少し可哀想ではないでしょうか? | ||||||||||||||
まぁ、確かにソレはあるかもねぇ。 あたしや、クロちゃんはいいけど、ナカたんには酷かもねぇ。 (お、メガネ! たまには、いいこと言うじゃないの! 具体的符合説なんて、あたし知らないから説明してくんなきゃダメだよね、やっぱ。) |
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私も刑法総論は学部で勉強しているから、大丈夫です。 講義で勉強する際に、しっかり勉強することにします。 |
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んみゅ?! | ||||||||||||||
じゃあ、誰も問題ないってことで万事解決ね。 (いつも、そうやって知ったかしてるからよ! 反省しなさいっ!) |
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ですね。 | ||||||||||||||
DEATHねっ!! |