構成要件要素D因果関係 不真正不作為犯の成立要件 |
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この前は、ゴメンね。ナカちゃん。 サルは性格悪いからヤダよね? |
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でも私、藤先輩好きです。 私、一人っ子だから、あんなお姉さんいたらなって、いつも思ってます。 |
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あんなお姉さんがいいの!? あんなお姉さん居たら世紀末じゃないの!! |
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藤先輩は、私にないもの一杯もってます! 明るさとか、面白さとか、社交性とか・・・ |
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意地汚さとか、図々しさとか、意地悪さとか、悪賢さとか、強欲さとか・・・確かに、ナカちゃんにはないモノで一杯だよね。 | ||
ソレは私もいらないです! |
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そんなお姉さんは、やっぱりいらないよね。 | ||
違うです! 違うです! 今のいらないです、は明智先輩の言われたモノに対してです。 お姉さんの話じゃないです! |
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ナニナニ? なんの話? 姉さんの話って、誰の姉さん? |
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いらないお姉さんの話。 | ||
変わった話題だね? 光ちゃんは、姉さんいないから、ナカたんに姉さんがいるの? |
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私は一人っ子です。 | ||
じゃあ、いるもいらないも、そもそも、いないじゃん。 なんで、いない姉さんをいらないって話になるの? |
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うーーんと・・・ まぁ、こんなお姉さんだったら、いらないよねーって話してた・・・ってところかな? |
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ふ〜ん。 あたしも姉さんはいないからなぁ。 あ、でも小(チイ=サルの妹)から見たら、あたしは姉さんなわけか。 あいつは、あたしみたいな姉がいて恵まれているよなぁ。 |
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あ・・・そっか。 チイちゃんがいたんだ。 そう思うと、チイちゃんは不憫だよね・・・ |
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藤先輩の妹さんは羨ましいです。 藤先輩みたいなお姉さんがみえて羨ましいです。 |
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チイも光ちゃんに負けず劣らずのビビりだったからなぁ。 いつも悲鳴ばっかあげてたなぁ。 |
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あんたの目線で人を語るのは、やめてよね! あんたの中では、私は「ビビり」ってことになってるけど、アレはあんたが私を驚かせることに執念燃やしていた結果だからね! チイちゃんだって、私と2人のときに悲鳴あげたことなんかないわよ! はい、おしゃべりはココまでっ! サルが来て揃ったんだから、今日の勉強会始めるわね! 今日は、不真正不作為犯の成立要件について勉強するからね! |
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ソレはいいけど、なんでそんなに怒ってるんだお・・・ 怖ぇーお・・・ |
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うるさいわよ! 不真正不作為犯については、前回の勉強会で説明したとおり刑法に明示的に定められていないものだから、どのように、その成立を認めるかが問題となるわ。 不真正不作為犯の成立要件には次のものがあるとされるわ。 @結果回避可能性 A作為可能性(容易性) B作為義務 C同価値性 D積極的利用意思 上記の中から、不真正不作為犯の成立に必要な要件を一緒に考えて絞っていくことにしましょ。 |
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絞った成立要件を言ってくれれば早いじゃん! そうしてよ!! |
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一緒に考えた方が、より理解できるんじゃないかな? って思ってね。 @結果回避可能性 については、これは必要だけど、因果関係で論じる(前回勉強した『PあればQなし』、十中八九と言えるか、で検討)から、敢えて、不真正不作為犯の成立要件の中で検討することはないと思うわ。 したがって、この成立要件の中からは外していいと思うわね。 |
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だったら、始めから抜いとけば?って思うのは、あたしだけかな? | ||
D積極的利用意思については、大審院判例においては用いられていたけど、その後の判例では用いられなくなったのよね。 この点については、また、後の判例検討の際に話そうと思ってるけど、現在は不要と考えるのが一般的よね。 |
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だったら最初っから抜いとけっての!! | ||
悩ましいのは、B同価値性なのよね。 不作為に、作為との同価値性を必要とするということを、この成立要件相互の関係の中で、どう考えるのか・・・って問題があるのよね。 |
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クソ難しいお・・・ 一緒に考えるもナニも、1人でブツブツ言ってるだけじゃねぇかお・・・ ねぇ? ナカたん? |
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わ、わ、私は一緒に考えてるつもりです・・・ 今日のために、不作為犯についても、私なりに理解してきたつもりです! |
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私も、理解不足なとこあるから確認しながら、話しているんだから、1人でブツブツ言ってるなんて言われると、悲しくなっちゃうじゃないの・・・ さっき私が挙げた不真正不作為犯の成立要件を、どう考えるべきか、という理解については、幾つかあると思うんだけど、私が個人的に、コッチって思っている理解を説明することにするわね。 B作為義務 + A作為可能性(容易性) = C同価値性 と理解すべきだと思うわ。 ただ、この理解は、今の私の理解だから、サルやナカちゃんが勉強する中で、私と違うように理解するってことはあっていいと思うわ。 というわけで、私の理解している不真正不作為犯の成立要件を、まとめるとこうなるわね。 私は、不真正不作為犯の作為とのC同価値性を、具体的には B作為義務 と A作為可能性 を根拠に基礎づけるって理解してるわ。 つまり、作為義務があり、作為可能性があるのであれば、期待された特定の行為をすべきといえ、その行為をしなかったことは、不作為といえる(作為により実現される構成要件を不作為によって実現したといえる)と理解しているわ。 |
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ちょっと、なんか例に出して、要件をあてはめてみてよ・・・ なんか、よくワカラナイんだけど・・・ |
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私もお願いしたいです。 | ||
じゃあ、前回例えに出した溺れている我が子を目の前にしたお父さんの話で説明するわね。 今、私がまとめた不真正不作為犯の成立要件にあてはめると。 お父さんには、保護者として自分の子供を助ける義務、つまりB作為義務があるわよね。 そして、このお父さんが水に対して極度の恐怖症を抱えているとか、カナヅチで全く泳げないという事情がないのであれば、A作為可能性があるといえるわ。 それならば、溺れる我が子を救護すべきであるといえ、その救護という期待された特定の行為をしなかったことに、作為とのC同価値性を認めて、不真正不作為犯が成立する、ということになるわね。 あ、A作為可能性については、そもそも出来ないことは要求できないからね。 コレは、『法は不可能を強いない』とする法格言から導かれるものよね。 |
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例えを聞くと、やっぱりワカリやすいかなぁ。 作為義務がぁ、とか、作為可能性がぁ、とか話されても、今いちピンとこないんだよねぇ。 |
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いきなり例えを出しても、話の前提を欠いているじゃない! ナニを例えろって言うのよ! いつも、そうやって難癖ばかりつけるんだから・・・ ここで、次に検討すべきは、不真正不作為犯の成立要件に挙げたB作為義務の根拠よね。 例で挙げた、溺れる子供のお父さんは、保護者という地位から、このB作為義務が認められるんだけど・・・ じゃあ、他にどのような場合にB作為義務があるとされるのか、という根拠が問題になるわよね。 |
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お母さんの場合もB作為義務が認められると言えるね。 | ||
ナニ当たり前のことを、さも理解してますって顔して言ってんのよ! お父さんも、お母さんも子供の保護者なんだから当然じゃないの。 |
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道義的になすべきであると言えればいいのではないでしょうか? | ||
道義的な責任だけを根拠とすることは、ちょっと問題よね。 この不真正不作為犯の作為義務の根拠を、どう理解するか、という問題には、当初とられた考え方である形式的三分説、先行行為一元説、具体的依存性説、排他的支配領域性説、と様々な考え方があるところだけど、今の通説的理解は、多元説とされているわ。 平成22年の新司法試験の論述試験では、不作為犯が問われたんだけど、その採点実感においては、『不真正不作為犯の作為義務の根拠は、多元的に理解するのが一般的』というコメントで、多元説によって、作為義務の根拠を解すべきとされていたしね。 というわけで、私も、多元説で、不真正不作為犯の作為義務の根拠を理解するのがいいと思うわ。 |
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多元説・・・ねぇ。 なんか、一杯根拠が出てきそうな名称だね・・・ |
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まぁまぁ。 根拠となるものは、聞けば、あ、それはそうだね、ってものばかりだから、特に難しく考えなくっていいわよ。 それじゃ、不真正不作為犯の作為義務の根拠を理解するにおいて、通説とされる多元説について説明するわね。 多元説とは、法令、契約、条理の他、先行行為、事実上の引受け、排他的支配領域性から、作為義務の発生根拠を認めるという考え方なのね。 従来用いられていた学説で、作為義務の根拠として挙げられていたものを、当該義務の存在を説得的にするために、種々のフィルターにすることで、その根拠となる事実を拾いやすくしているものだと思うわ。 判例も、この多元説で理解することができるわ。 それは、後の判例検討で確認しましょ。 |
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えーっと・・・ 法令、契約、条理があって・・・ その他に、先行行為、事実上の引受け、排他的支配領域性ねぇ。 ちょっと軽く、それぞれ説明して欲しいかな。 |
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法令は、例えば道交法の救護義務なんかがあるわよね。 契約には、保育園の保母さんの園児に対する義務は、これにあたるわよね。 先行行為っていうのは、これは例えば前回のホテルで13歳に覚せい剤を打った犯人みたいな場合よね。 法令、契約上の義務はないんだけど、少女に注射を打ったという先行行為を行ったことにより、その行為に対する作為義務が発生したといえるわけよね。 ここで、この犯人の場合を使って、一緒に説明しちゃうと、排他的支配領域性というのは、この犯人はホテルの部屋で13歳の少女と2人っきりだったわけよね。 ホテルの部屋なんて、通常、他の人が来る場所じゃないんだから、男は13歳の少女に対して、排他的支配領域性が認められることとなるわけ。このような状況下では、この犯人以外に少女を救助する人は存在しない以上、犯人に作為義務が生じることといえるわけね。 因みに、排他的支配という言葉を定義すると・・・ 「既に発生している因果の流れを自己の掌中におさめること」となるわね。この定義の意味するところは、今のホテルでの犯人の話で理解できるよね。 |
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条理も、多元説では挙げられていました。 私の言った道義的責任も、この条理として認められると思います。 |
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あ、ホントね。 条理を説明し忘れていたわね。 ただ、条理って言葉は、その範囲が広すぎるからね・・・。 柔軟な対応が出来るとも考えられるけれど、正直、条理によって義務を負うものと言えるなんて言われたら、そんなの何でも言えちゃうところだからね。 実際、条理に対しては、なんでも入るブラックボックスになってしまう、という批判もあるわ。 さっき、ナカちゃんは道義的にすべきと言えれば作為義務を認めていい、って言ったじゃない? 私は、それに対して、それだけではちょっと問題があるって言ったよね。 だからこその多元説なのよ。 法令や契約や先行行為、ときには排他的支配等のフィルターを通して、作為義務が発生する根拠となる事実を拾って・・・その上で、より犯人の作為義務を説得的なものとする意味で、条理による責任も指摘、ということにすればいいと思うわ。 多元説の利点は、一つの根拠を拠り所に作為義務を認めるのではなくって、色々指摘して、作為義務をより説得的に説明できるものとすることができる点よね。 |
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条理だけでは、ダメだってことですね? | ||
そうね。 多元説で、理解していることを示す意味でも、最低でも2つくらいは作為義務の発生根拠をあげれないとね。 ただ、個人的には条理を挙げるなら、条理以外で2つ欲しいかなぁ、とは思うけどね。 |
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多元説って名前聞いたときは、ちょっとビビったけど、確かに聞いてみれば、そりゃ作為義務が生じるね・・・ってモンばっかだったね。 | ||
不真正不作為犯が問われた際は、この作為義務の発生根拠を厚く書くことが大事になるから、多元説の理解は、しっかりしておいてね! 論述問題なら、事例の中の事実を、これらのフィルターを通して拾って、評価して、作為義務を認めることになるからね。 |
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そっか・・・ 期末試験あるんだっけ・・・ 答案の書き方なんか教えてもらってないのになぁ・・・ 大丈夫かなぁ・・・ |
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藤先輩、刑法なら大丈夫です! | ||
ありがと・・・ ん? 刑法なら・・・って、刑法以外なら大丈夫じゃないってこと? |
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・・・・・。 | ||
・・・・・。 | ||
まだまだ時間あるんだから、頑張ればいいだけのことじゃないの。 違う? |
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そうだよね! まだまだ時間あるんだから、平気だよね! |
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(勉強せんでも・・・。) | ||
あうあうあうあう。 (藤先輩から、前向きな空気が感じられないです!) |