構成要件要素 D因果関係 | ||
今日は前回やり残した因果関係が争点となった判例を、引き続き検討するね。 因果関係の判断枠組みを、実際の判例から理解するというコンセプトは同じです。 「危険の現実化」という最近の判例の判断枠組みとされている考え方について、少しは見えてきたと思うので、今日の勉強は、前回のおさらいと復習を兼ねているものと思ってくれればいいわ。 |
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こくこく(相槌) |
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それじゃ、今日のひとつ目の判例いくわね。 トランク監禁追突事件 ね。 (最高裁平成18年3月27日決定 百選T 14事件) 事案を言うわね。 Xは、Aを自動車後部のトランクに押し込んで脱出不能にして、その車を発進走行させた後、路上で停車していたの。 そしたら、その停車していた車に、後方から前方不注意の脇見運転の車が時速約60qで衝突したため、トランクの中にいたAは死亡してしまった、という話ね。 最高裁の決定は、次のとおりよ。 『以上の事実関係の下においては、被害者(=A)の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても、道路上で停車中の普通乗用自動車後部のトランク内に被害者を監禁した本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる。 したがって、本件において逮捕監禁致死罪の成立を認めた原判断は正当である。』 |
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危険の現実化の判断枠組みだとは思うのですが、コレは、第一類型ですか、第二類型なんですか? | ||
第三者の過失行為という事情が介在しているから、第二類型でしょ? | ||
私は、第一類型の事案だと思うわ。 第一類型の事案は、犯人の実行行為によって結果が発生する直接的な原因が作り出された場合よね。 この場合、犯人の実行行為の危険性が結果へと現実化したと端的に言える以上、その後に結果発生を若干促進する程度の影響を有するにとどまる行為が介入したとしても、そして、それが通常ありえないようなものであっても、実行行為と結果との間の因果関係は否定されないわ。 本件では、車のトランクに監禁するという行為の危険性が、結果発生につながったと評価して、第一類型で捉えるべきではないかしら? 前回の判例検討の際に、第二類型においては「誘発」というキーワードを用いることが出来るって話をしたと思うんだけど、本件のような事案において、第三者の脇見運転が、犯人の行為によって「誘発」されたとすることには、ちょっと無理があるわ。 そもそも自動車のトランクなんて、人が入ることを想定していないから、追突の際に中にいる人を防護するような構造になっていないのよね。 そんな場所に人を入れて路上に出ているという行為が危険な行為であると言えるわ。 だったら、実行行為の危険性が、結果へ現実化したと認めることができると思うわ。 確かに、この事件が起きた場所は車道の幅が7.5m、片側一車線で見通しのよい直線道路ではあったわ。 ただ、事故の起きた時間は、午前3時半頃。事故の場所は、大阪の岸和田だったのよ? 夜半遅い時間帯で、さして注意も必要のない道路であったことを考慮すれば、路上に停車している車への脇見運転による追突だって、相当性の範囲内と考えてもいいんじゃないのかしら。 |
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ちょ、ちょ! さり気に「大阪の岸和田」っていうのを考慮要素に加えてんじゃねぇお! おま、関西ディスってんじゃねぇお! |
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え? そんな風に聞こえた? |
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聞こえた、聞こえた! 今の発言には、全関西が泣いたわ! |
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なんで、そんなに関西に思い入れ強いのよ? あんたの実家、広島じゃない。 |
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・・・。 (確かに。 しかも考えたら、あたしの愛する広島カープの選手は、毎度毎度憎き阪神に強奪されとる・・・なんか腹立ってきたお!) |
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大阪の岸和田の治安については知りませんが、路上における交通事故自体は、けっして珍しいものというわけではないですね。 | ||
・・・。 (でも、今の広島には丸がおる! バリさんもミコライオも残ってくれとる! 廣瀬も今年はやってくれると信じとる! 横山竜士と一岡竜司のダブルドラゴンもおる! い、い、イケるでぇっ! 優勝あるでぇっ!?) (更新:2014年・春) |
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横浜だって頑張ってるです! キューバから最高の選手を獲得して、一挙に浮上するです! |
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・・・っ! (このチビっ子、あたしの考えてること読んでね?) |
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チビっ子言うのはヤメて欲しいです! | ||
サ、サ、サトリの妖怪(WikiPedia参照)じゃぁあぁぁぁぁぁぁっ!! Part2! | ||
どこから野球談議に脱線したのよ・・・ 次の判例検討するわよ? 大阪南港事件 ね。 (最高裁平成2年11月20日決定 百選T 15事件) まずは事件の説明からね。 XがAに暴行を加え、Aの脳に損傷を与えた瀕死の状態で、大阪南港資材置場に放置して立ち去ったの。 ところが、その後、資材置場に放置された瀕死のAに、Yがさらに暴行を加えたために、脳の損傷が拡大し、Aは死亡した・・・という事案ね。 この事案に対して最高裁は、次のような判断を示しているわ。 『このように犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係は肯定することができ、本件において傷害致死罪の成立を認めた原判断は、正当である。』 |
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ちょちょ・・・ 資材置き場に瀕死の人がおったら、ソレをさらにブチ殺す人が現れるなんて、大阪南港怖すぎるお・・・ |
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本件では、本人(=X)ないし、その一味の者がやったことが裁判においては立証できなかったの。 だから、第三者の存在を前提として判断しているのよね。 「疑わしきは被告人の利益に」という大原則がある以上、 この判断自体は正当なものよ。 この事案は、第一類型だってことがワカルかな? 第三者の行為介入があるから、第二類型なんて判断しちゃダメよ? 確認の意味で、もう1度、危険の現実化の判断枠組みの第一類型を見るわね。 第一類型の事案は、犯人の実行行為によって結果が発生する直接的な原因が作り出された場合よね。 この場合、犯人の実行行為の危険性が結果へと現実化したと言える以上、その後に結果発生を若干促進する程度の影響を有するにとどまる行為が介入したとしても、そして、それが通常ありえないようなものであっても、実行行為と結果との間の因果関係は否定されないわ。 このことは、本決定の調査官解説においても述べられているわ。 『本件のような類型では、異常な介在事情について予見可能性があろうとなかろうと、結局は因果関係は肯定されるのであって、相当性を決定づける要因は、専ら被告人の行為の影響力にあるように思われる』とね。 つまり、Xの暴行によって死因となった傷害が既に生じている以上、Xの暴行の危険性が、Aの死亡という結果へ現実化したといえ、両者の間の因果関係は肯定されるのよ。 Yの暴行は、Aの死期を若干早める程度の影響を有するに過ぎないわけなので、その行為の介入によって、因果関係が否定されるわけではないの。 つまり、本件をリーディングケースとするような事例が問題に出た際には、「誘発」というキーワードは使わないという理解になるわね。 |
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こくこく(相槌) | ||
なんか、大分わかってきた気がするよ。 | ||
じゃあ、最後に確認の意味で判例の事案を言うから、第一類型か、第二類型か考えてみてくれる? そして、因果関係について判断してみて。 それじゃ、高速道路上停車事件 ね。 (最高裁平成16年10月19日決定) Xは、早朝、高速道路を乗用車の助手席に女性を乗せて走行していたの。その走行中に、大型トレーラーを運転していたAの運転に腹を立てて、Aに車を停めるように求めたのね。 その後、Xは、Aを運転席から引き摺り下ろして暴行を加え、同乗の女性に謝罪までさせたの。 ただ、このXとAのやり取りをしている場所は、高速道路なのよね。 この暴行の間に、後続車両同士が、停車しているAの車のせいで追突事故を起こしてしまったの。 Xは、そこで暴行を止めて本件現場から走り去っているわ。 でも、Aはその後すぐに現場を立ち去ろうにも、エンジンキーが見付からずに、Xが走り去ってからも7、8分後まで、その場に車を停車させ続けたの。 その結果、さらに他の後続車が、今度はAの車に衝突して、その車の運転者及び同乗者の3名が死亡するという惨事が起きてしまったの。 さぁ、この事案は、第一類型だと思う? 第二類型だと思う? そして、Xの行為と本件現場での自動車事故による死亡との間に因果関係は肯定されると思う? |
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・・・第一・・・いや、第二・・・ いやいや、よく考えろ、あたしっ! 燃えろ、あたしの中の小宇宙! セブンセンシズにまで達しろっ!! っ!!!! |
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ナニ言ってるのよ? 考えてくれてるの? |
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ヴァルゴのシャカっ! 今なら、オマエさえ、あたしは倒せるよ! この事案のポイントは、Aが暴行の後も7、8分にわたって、その事故現場となった場所にとどまっていることだよね! 確かに、Xの高速道路に車を停車させる行為自体、危険を有する行為だとはいえるけれど、それだけでは、Aの車への追突による死亡事故は起きていない以上、このAの行為を評価しないと、Xの行為と、死亡事故との間の因果関係は肯定できないからね! となると、この事案は、Aの行為は、Xの行為によって引き起こされた・・・いや、「誘発」されたものと評価して因果関係を認める第二類型の事案だね! そして、当該判断枠組みから、このような行為が介入することがあり得るのかが問われるけれど、いきなり予期せぬ暴行があったら、鍵を見失うことも考えられるところだし、その鍵を見失ったことは、犯人の行為によって「誘発」されたものといえるよね。 したがって、犯人の実行行為と結果との間に因果関係が認められるといえるよ! |
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ぱちぱちぱち (拍手) |
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スゴい、スゴい! サル、危険の現実化の判断枠組み、理解できているわよ! 一生懸命判例検討した甲斐あったなぁ、って感慨深くなっちゃう! 本決定では、次のように判示しているのよね。 (※ X、Yは管理人編集、改行も同。) 『Xの本件過失行為は、それ自体において後続車の追突等による人身事故につながる重大な危険性を有していたというべきである。 そして、本件事故は、被告人(=X)の上記過失行為の後、Aが、自らエンジンキーをズボンのポケットに入れたことを失念し周囲を探すなどして、X車が本件現場を走り去ってから7、8分後まで、危険な本件現場に自車を停止させ続けたことなど、少なからぬ他人の行動等が介在して発生したものであるが、それらはXの上記過失行為及びこれと密接に関連してされた一連の暴行等に誘発されたものであったといえる。 そうすると、Xの過失行為と被害者らの死傷との間には因果関係があるというべきである』と、して、Xに業務上過失致死傷罪の成立を認めているわ。 サルが指摘してくれたように、本件事案は第二類型の判断枠組みで捉えるべきよね。「誘発」というキーワードも、第三者の行為介入を説得的にしているわ。 サルが、ここまで理解してくれて、教えてる私も、なんだかスッゴイ嬉しいわ! |
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どうしたの? サルも、もっと喜んでよ? 事案を事例化して整理することが、判例検討する上で大事なんだけど、今のサルなら、その整理も出来ていると思うわよ? |
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行為時の特殊事情があったのか? 行為後の介在事情があったのか? 行為後の介在事情があったとするなら 直接原因は、犯人の行為なのか、それとも介在事情なのか? そして、介在事情が直接原因であったとするならば その介在事情は通常の範囲内なのか、それとも異常なものなのか? これらの判断によって、因果関係を考えるのよね。 今の問題だと、サルは、行為後(Xの暴行後)の介在事情(第三者が鍵を失くすという介在事情)があるという前提に立ち、その介在事情が直接原因(A車への後続車の追突による死亡)と考えて、第二類型と判断したのよね。 そして、その介在事情が、通常の範囲内のものであり、そして、Xの行為によって誘発されたものであるとして、因果関係を肯定したってことなの。 サル、スゴいよ! わーい、わーい。 |
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・・・・・・。 | ||
どうしたのよ? ナニ、さっきから黙ってんの? |
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燃え尽きちまったぜ・・・ 真っ白にな・・・ |
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ジョー・・・!! | ||
誰、それ? |