構成要件要素 C因果関係 | ||
今日学ぶのは、因果関係が争点となった判例ね。 因果関係の判断枠組みを、実際の判例を検討することで理解しましょ、っていうことね。 特に、前回の勉強で最後に学んだ、「危険の現実化」という最近の判例の判断枠組みとされている考え方については、やっぱり、私の質問なんかじゃなくって、判例から直接に学ぶべきだと思うからね。 刑法判例百選を見てもらえれば、ワカルと思うんだけど、因果関係関連の判例は数が多いのよね。 そこで今回は、事案を簡潔に、そして、判例引用も少な目に数を沢山見て多くの事例の集積から、因果関係の存否は、どのように考えるべきなのかを学ぼうと思うわ。 |
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あたしとしては、判例引用が短いなら、なんでもいいよ。 | ||
なんかイヤな言い方するわね。 まぁ、今日は一つの判例だけをじっくり検討するより、沢山の事案を見た方が、よりワカリヤスイかな、と思っているから・・・なんだけど。 |
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先日は、また御迷惑かけてしまったようで申し訳ありませんでした。 | ||
先日の御迷惑って、気絶した件? 別に、そんなことなら気にしなくっていいよ。 |
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そうそう。 でも今日は大丈夫そうね? |
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いえ。気絶した日でも、目が覚めた後は、気絶前より調子いいくらいなので、御心配いりません。 | ||
・・・。 (ソレ、どんな体質なんだお・・・。 外部電源から内部電源に切り替え作業でもしてんのかお?) |
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ただ気絶前後の記憶が、ちょっと曖昧になってしまうのです。 せっかく勉強した因果関係の理解が、今一つになってしまったのが、返す返すも残念でなりません。 |
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次からはフリーズする前に、バックアップとっとけば、いんじゃね? | ||
私、そんな機能ないです! バックアップって、私を電化製品みたいな言い方しないで下さい! |
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ウキっ! (いやいや・・・ 考えたらナカたん、喋り方もなんか変に特徴的だし、気絶も電源落ちって考えれば、説明つくよ? あたしが、ナカたんにつけたロボ・ナカたんって、案外図星なのかもよ?) |
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違います! ロボットなんかじゃないです! |
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サ、サ、サトリの妖怪(WikiPedia参照)じゃぁあぁぁぁぁぁぁっ!! | ||
はいはい。 ソコの方、下らないこと騒いでないで判例検討に入りますよ? 高速道路進入事件 からね。 (最高裁平成15年7月16日決定 百選T 11事件) まずは事件の事案を説明するわね。 XらがAに執拗に長時間の暴行を加えたところ、Aが逃げたため、一旦Xらは追跡したけど、程なく諦めたの。 ところが、Aは、尚もXらが追跡しているかも知れないと思い、暴行現場から800m程離れた高速道路内に逃げ込んで、走行車線を横切ろうとして自動車に轢かれて死亡した、という事案なのね。 最高裁の判断は次のものよ。 『被害者が逃走しようとして高速道路に進入したことは、それ自体極めて危険な行為であるというほかないが、被害者(A)は、被告人ら(Xら)から長時間激しくかつ執ような暴行を受け、被告人らに対し極度の恐怖感を抱き、必死に逃走を図る過程で、とっさにそのような行動を選択したものと認められ、その行動が、被告人らの暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえない。 そうすると、被害者が高速道路に進入して死亡したのは、被告人らの暴行に起因するものと評価することができるから、被告人らの暴行と被害者の死亡との間に因果関係を肯定した原判決は、正当として是認することができる。』 |
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ヒドい事件だね・・・ 確かに普通、逃げるからと言って、高速道路に逃げこむかなぁとは思うけれど、極度の恐怖感ってことは、一種の錯乱状態だったのかもって思うと納得するとこあるかなぁ・・・ |
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事案説明では、はしょってしまったけれど、この被害者は、まず公園で6人がかりで2時間以上激しい暴行を受けて、その後、さらに被告人らの部屋に連れて行かれて、そこでもさらに激しい暴行を受けているのよね。 しかも、逃げたときは靴下のまま、ということからも、必死で逃げ出していることがうかがえるわね。 でも、1審では、暴行行為と死亡結果との因果関係を否定しているのよね。逃げるにしたって、他に選ぶべき手段はあったはずなのに、高速道路に進入するなんて、通常の予想の範囲外という評価をしたのね。 但し、最高裁は、被害者の心理的切迫を評価してるのよね。 確かに、通常の予想なら有り得ない被害者の行動と言えるかも知れない。 ただ、状況が状況ということよね。 数人がかりによる激しい暴行が何時間も続いていて、さらに、また捕まったら、さらなる暴行が・・・という切迫した心理状況下でなら、普段なら考えもつかないような行動も、通常あり得るものと考えたわけね。 |
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怖かったんだと思います。 私も怖がりで、怖いことあると気絶しちゃうので、気持ちは分ります。 |
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恐怖に囚われている人の行動なんて、普段の日常生活の中では想像しても、なかなか分からないものよね。 この最高裁の判断枠組みは、前回学んだ「危険の現実化」によるものとされているわ。 ちなみに、この事案は2つ目の類型だよね。 つまり、結果が発生する直接的な原因となったのが、犯人の実行行為後に介入した行為であった場合にあたるわ。 この場合は、そのような行為が介入することがあり得るのかが、そして、それが犯人の行為によって「誘発」されたものか等の考慮によって判断され、それが肯定されるときは、犯人の実行行為と結果との間に因果関係が認められることとなるわけ。 本判決では、「危険の現実化」に類する言葉自体は用いられていないんだけど、『その行動が、被告人らの暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえない。 そうすると、被害者が高速道路に進入して死亡したのは、被告人らの暴行に起因するものと評価することができる』と述べていることから、被害者のそのような行為の介入が通常といえること、そして、被害者の行為が、被告人らの行為によって「誘発」されたものといえるとしているわよね。 したがって、被告人らの実行行為に認められる危険は、被害者の死へと現実化していると評価できることから、因果関係が肯定されることとなるわけね。 |
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今日は判例を沢山見るって言ってんのに、こんなに丁寧に判例検討してて出来るの? 出来るの? | ||
ひとつ目だったし、危険の現実化の判断枠組みを判例から具体的に勉強する意味でも、少し丁寧にした方がいいかな、って思ったのよ。 どうして、そういう言い方するのよ・・・もう・・・ 次の検討判例は、米兵ひき逃げ事件 ね。 (最高裁昭和42年10月24日決定 百選T 12事件) まず、事案の説明するね。 普通自動車を運転していたXは、過失で自転車を運転していたAを撥ねてしまったの。その際にAの身体は、車の上に乗ってしまったのね。 ところが、Xは気付かずに、そのまま自動車を走らせていたんだけど、4km程行ったところで、助手席に乗っていたYが、Aの存在に気付いたので、助手席から手を伸ばして、自動車の屋根からAを路上に、逆さまに引き摺り下ろしたの。 Aは、頭部の打撲が致命傷となって死亡したんだけど、この致命傷が、車に撥ねられたときのものなのか、車の屋根から引き摺り下ろされたときのものなのかは鑑定しても不明だった、という事案ね。 |
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ヒドすぐる・・・ 滅茶苦茶な話だよ、これ。 |
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刑法の事案なんて、みんなヒドい話ばかりよ? 最高裁の判断は、次のものね。 『同乗者(=Y)が進行中の自動車の屋根の上から被害者(=A)をさかさまに引きずり降ろし、アスファルト舗装道路上に転落させるというがごときことは、経験上、普通、予想しえられるところではなく、ことに、本件においては、被害者の死因となった頭部の傷害が最初の被告人(=X)の自動車との衝突の際に生じたものか、同乗者が被害者を自動車の屋根から引きずりおろし路上に転落させた際に生じたものか確定しがたいというのであって、このような場合に被告人の前記過失行為から被害者の前記死の結果の発生することが、われわれの経験則上当然予想しえられるところであるとは到底いえない。 したがって、原判決が右のような判断のもとに被告人の業務上過失致死の罪責を肯定したのは、刑法上の因果関係の判断をあやまった結果、法令の適用をあやまったものというべきである。』 として、因果関係を否定しているのよね。 |
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これ、危険の現実化じゃなくって、相当因果関係説つかって判断してね? | ||
いい指摘するわね。 この前の勉強が理解できている証拠よ? 確かに本決定は、相当因果関係説によるものと位置付けられているわね。そのことは、『経験則上当然予想しえられるところであるとは到底いえない』として、因果関係を否定していることからも読み取れるところよね。 ただ、昭和42年の判例ということで、かなり古いものだからね。 危険の現実化は、説明したように最近の判例の判断枠組みでとられているものだからね。 じゃあ、何故この判例を紹介したかと言うと、本決定は、『行為者の過失行為の後に第三者の故意行為が介入した場合について、相当因果関係説的な考え方によって因果関係を否定した最高裁判例として初めての、そして唯一の判例』(刑法判例百選T 12事件<解説>27頁)だからなのよ。 因果関係を否定した判例は少ないから要チェックよね。 実際、この判決が出るまでは、判例の立場は条件説ではないか、とされていたんだけど、本決定によって、条件説ではないと言われるようになったのよ。 確かに、本決定の判断枠組みは、条件説では説明できないところよね。 相当因果関係説では、その行為から、その結果に至ることが経験的に通常(=相当性)だといえる場合に刑法上の因果関係を肯定することとするわけだから、同乗者が車の屋根の被害者を、路上に引き摺り下ろすなんて行為を、普通予想できないというのであれば、判断ベースから除外することとなるわね。 もう一点、本決定で重要なのは、被害者の死因となった致命傷が、鑑定によっても、どの段階で生じたものなのか特定できなかったことよね。 そうなると『疑わしきは被告人の利益に』の大原則から、被告人の行為によって、死因となった致命傷が生じたのではない、という前提での判断(=同乗者の行為によって生じたという前提での判断)がなされることとなるからね。 |
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判例検討し過ぎだよぉ。 個別に、判例検討してるのと、あんまり変わらなくない? |
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私は、判例再現は得意じゃないので、明智先輩の説明聞いている判例検討の方が嬉しいです。 | ||
そうよねぇ。 ナカちゃんは嬉しいんだよねぇ? サルなんて、文句ばっかりだもんねぇ。 |
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いや、違う違う。 光ちゃんが、今日は沢山判例やるから短めにするって言ったからさ。 あたしも、そうなんだって期待しちゃったわけじゃない? それで、ちょっと、アレェ? 言ってることと、やってること違わない? って思ったんだよね。 |
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事案説明を簡潔に、判例の引用も少な目に・・・とは言ったけれど、検討についてまでは私は言及してませんけどね。 | ||
ん? | ||
でも、判例を沢山見るとは言ってしまったから、その言葉は、サルも期待しているだろうから、守らないといけないわねぇ・・・ 大変、大変。 ホント大変。 |
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ボスケテっ!! | ||
はいはい。ボスケテ、ボスケテ。 じゃあ、次の検討判例いくわね。 夜間潜水訓練事件 ね。 (最高裁平成4年12月17日決定 百選T 13事件) 事案は、サルの御期待に応えて簡潔に。 夜間潜水訓練中、指導員であるXが、後ろを確認せずに移動したところ、指導員を見失った訓練生がパニックを起こして、一旦は海面に浮上したものの、再度潜水し、岸まで海中移動しようとして、その途中で酸素がなくなり溺死した・・・という事案なの。 本決定で最高裁は次のように述べているわ。 『被告人(=指導員X)が、夜間潜水の講習指導中、受講生らの動向に注意することなく不用意に移動して受講生らのそばから離れ、同人らを見失うに至った行為は、それ自体が、指導者からの適切な指示、指導がなければ事態に適応した措置を講ずることができないおそれがあった被害者をして、海中で空気を使い果たし、ひいては適切な措置を講ずることもできないままに、溺死させる結果をひきおこしかねない危険性を持つものであり、被告人を見失った後の指導補助者及び被害者に適切を欠く行動があったことは否定できないが、それは被告人の右行為から誘発されたものであって、被告人の行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定するに妨げないというべきである。』 |
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短かっ! 事案説明短かっ! おま、ザックリすぎんだろ、常考っ!! 本決定で言及されとる指導補助者は、事案説明に出てきてもいないじゃないかお! |
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生産的ではない発言は無視しまぁーす。 えーっと。ここでは、「危険の現実化」という判断枠組みを使うに当たって、「誘発」というキーワードをどのように使えばいいのかを勉強したいと思うわ。 この事案は、「危険の現実化」の第二類型にあたる事案よね。 つまり、結果が発生する直接的な原因となったのが、犯人の実行行為後に介入した行為であった場合ということになるんだけど。 この場合は、そのような行為が介入することがあり得るのかが、そして、それが犯人の行為によって「誘発」されたものか等の考慮によって判断され、それが肯定されるときは、犯人の実行行為と結果との間に因果関係が認められることとなるというのは、先の検討でも述べたと思うんだけど、今回は、本決定の中でも、この「誘発」というキーワードが使われているわよね。 それで、コレは私の経験則なんだけど・・・ 「誘発」というキーワードは、どうしても便利な言葉だから、このキーワードを覚えてしまうと、ついつい多用したくなっちゃうのよね。 ただ、「誘発」って言葉の意味を考えれば、なんでもかんでも「誘発」と言えなくもないじゃない。それこそ「風が吹けば桶屋が儲かる」的な感じで、アレもコレも誘発、誘発・・・となってしまいかねないのよね。 便利だし、判例の言い回しにも用いられていることで説得的なキーワードであるということで、つい使ってしまいがちな言葉ではあるんだけど、この「誘発」という言葉は、因果関係を考える上で、本件のような特殊な事案、つまり第二類型の場合のみに限定して用いるべきキーワードだと言えるわ。 本決定においても、行為の「危険性」と介在事情が行為から「誘発」されたものであるとことに言及しているわよね。 したがって、行為の「危険性」が結果に現実化したという評価をして、両者の間の因果関係を肯定しているのよ。 |
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こくこく(相槌) | ||
前回の説明だと、言葉だけで、今一つピンとこなかった危険の現実化という判断枠組みが、判例見てて、ちょっと見えてきた気がするかな。 | ||
そういう生産的な発言してよね。 文句ばっかりなんだから! |
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「誘発」ってキーワードの使い方を理解したいと思います。 | ||
とりあえず、使っとけばOK、OK。 | ||
あんたナニ、私の判例検討台無しにするような発言してんのよ! 極端なこと言ったら、なんでも「誘発」になっちゃうよ! って言ったじゃないの! だから、なんでもかんでも「誘発」では、逆効果になってしまうんだから、あくまでも犯人の行為と、密接な関連をもっている結果について用いることで、説得的になるって言ったのよ! |
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今の光ちゃんのまとめは、あたしのコメントが「誘発」したものだお。 | ||
まぁ、そうね。 | ||
今の同意も、あたしの発言が「誘発」したものだお。 | ||
そりゃ、そうでしょ。 | ||
そして、その同意もあたしの発言が「誘発」したも・・・ | ||
だぁかぁらぁっ! そういう風に使うと、なんでもかんでも「誘発」になるでしょ! って注意したんだから、やらないでよ! |
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基本、光ちゃんはカルシウム足りてないんだよなぁ。 やたら怒るからなぁ。 ブルジョワは高ぇモンばっか食っとるけど、栄養バランスは悪いんだろうなぁ。 |
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生憎と、ウチの料理は管理栄養士の方が献立してくれているので、そんな心配はございません! | ||
でも、光ちゃんは、そんな素敵メニューのうち、好きなもんばっか食って、嫌いなモノは残しているから、結果的に栄養が偏っていると見たっ! | ||
残念ですが、ウチの料理はシェフの方に、苦手なモノを事前に伝えているので、嫌いなモノは、そもそも食卓に上がりません! | ||
そんなに言うなら、その栄養バランス整った至高のメニューとやらを、あたしに食わせてみろやぁ! せめて魯山人風すき焼きでも食わせてみろぉ! |
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うるさいっ! あんたなんか、モヤシ食べてればいいのよ! |
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・・・・。 (売り言葉に買い言葉で、明智邸の豪華晩餐への招待を「誘発」しようと思ったけど、失敗みたいだお・・・。 ショボォーン。) |
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あうあうあう。 藤先輩が、脱線させてしまったので、今日の判例検討はココで終わりになっちゃいました・・・ (次回に続きます) |