最高裁昭和58年9月21日第一小法廷決定 〜お遍路事件〜 |
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先に、配役を言うわね。 今回は、私が被告人役をやるわ! 私がやる被告人は、サルの義理のお父さん。 つまり、サルは被告人の義理の娘ってことね。 |
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・・・ん!? いつもあたしが被告人役なのに珍しいなぁ。 光ちゃん、いいよ、いいよ。 いつも通り、あたしが被告人役で。なんかヤな予感しかしないし。 |
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いっつもサルばかりに被告人役やらせるのも悪いかなぁ、って思っただけよ。 配役で時間とりたくないから、さっさと始めましょ。 |
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・・・笑顔が逆に怖いお。 って、うわ、始めよった! |
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おいっ! チンタラ歩いてるんじゃねぇ! お前の母ちゃんは連れ子のお前置いて、どっか行きやがったんだ! ダラダラしてると、また殴るぞ! |
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だってぇ。 12歳の私には、四国八十八か所霊場巡りの旅は、しんどいよぉ。 |
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ナニがだってだ! 生意気に口答えしてんじゃねぇ! また殴られてぇーのか!? あぁっ! |
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お! また寺があるじゃねぇか。 オイ! お前またいつものように、あの寺から金盗って来いっ! |
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いやだよぉ。 そんなことしたくないもん。 もう、こんなことさせないでよぉ。 |
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てめぇっ! 誰に口答えしてんだっ! いいから、親の言うとおりにしてりゃいいんだっ! この野郎っ!! (ぐりぐりっ!) |
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ひぃぃぃぃっ! タバコの火を顔に押し付けないでぇーーっ! アツい、アツいよぉぉ! |
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まぁだ逆らうって言うなら、こうだっ! こうっ!! (げしげしっ!) |
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ぎゃぁぁぁっ!! ドライバーで顔こするのは痛いからやめてよぉーーーっ! えーーん、えーーん! |
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わかったかっ! わかったなら、とっととやってこい。グズグズしてんじゃねぇ! |
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ひっくひっく・・・ 罰が当たりませんように・・・ (ガサガサ・・・) |
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早くしろよ! お父さんはお待ちかねだぞ! |
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はい・・・ お父さん、これ、寺から盗んできたよ・・・ |
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・・・ハイ。お疲れぇ。 いやぁ、サルぅ。 迫真の演技だったわねぇ。 |
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まさか、煙草とかドライバーまで持ってくるとは思わなかったよ・・・ 判例を再現するのに、そんな小道具絶対いらないよ! |
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やるからには中途半端はダメかな、って思ってね。 | ||
光ちゃん、アレでしょ! 絶対、これってさっきの判例再現のときの、あたしの悪口の仕返しでしょ! |
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違う、違うー。 ホラ、判例検討するわよ。 いつまでも自分の迫真の演技に酔いしれてるんじゃないの! |
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ドッチがだお・・・ ってか、光ちゃん、喫煙しないのになんでタバコなんて持ってんだお・・・ |
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はいはい、細かいことは気にしない、気にしない。 それじゃ、事案のポイントまとめるね。 この被告人の義理の娘は、12歳。 是非弁別の能力は備わっていたといえることは、同女が被告人の寺からの盗みを命じられても、それに逆らう素振りをしていることからもうかがえるわ。 ただ、そうなると、間接正犯の判断基準の一つである、Aの「他人の行為を道具として利用」という道具性の認定が難しくなるわけよね。 実際、本件においても被告人は、是非弁別のある同女に盗みを命じたことは認めるが、同女に是非弁別能力があった以上、それは絶対的な強制とは言えず、同女は主体的に盗みをしたのだから、被告人のしたことは窃盗の教唆だと主張したのよ。 確かに、道具性の認定ができなければ、間接正犯の成立を認めることはできないわよね。 |
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えぇーー。 あの状況下で逆らえるわけないじゃん。 逆らったら、顔面に煙草の火ぃ押し付けてくるんだよ? |
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そう。 まさに、今のサルの気持ちを最高裁も評価しているのよ。 最高裁の判断は、次のとおりよ。 『被告人は〜(中略)〜日頃被告人の言動に逆らう素振りを見せる都度顔面にタバコの火を押し付けたりドライバーで顔をこすったりするなどの暴行を加えて自己の意のままに従わせていた同女に対し、本件各窃盗を命じてこれを行わせたというのであり、これによれば、被告人が、自己の日頃の言動に意思を抑圧されている同女を利用して右各窃盗を行ったと認められるのであるから、〜(中略)〜同女が是非弁別の判断能力を有する者であったとしても、被告人については本件各窃盗の間接正犯が成立すると認めるべきである。』 最高裁は、被告人に対して、窃盗罪の間接正犯の成立を認めているんだけど、この事案で問題になるのは、同女が是非弁別のある未成年者だったことよね。 確かに、被告人が主張するように同女への被告人の強制が絶対的なものでないとするならば、窃盗行為に同女の主体性があることになるわ。 でも、この事案では、サルがいうように同女の意思は、被告人の暴行等によって抑圧されていたといえるわ。 そして、本件事案の同女は、まだ12歳の刑事未成年者よね。そうなると責任年齢に満たないことから、是非弁別についても未だ未成熟といえるわ。 確かに、被告人が主張するように、同女は逆らう素振りを見せるなどの事情があった以上、被告人の強制は絶対的なものではなかったともいえるわ。でも、日頃からの被告人による暴行によって一定程度以上の意思の抑圧があったことは間違いないわよね。 それならば、12歳という是非弁別についても半ば未成熟であることと、一定程度以上の意思の抑圧により半ば強制されていたという2つの事実から、道具性を肯定できるといえないかしら。 |
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異議なしっ! | ||
なんか綺麗にまとまったわね。 やっぱり判例検討の前の、判例再現がしっかり出来たお陰かな。 |
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機嫌がいいから、そう思えるだけなんじゃないの? | ||
あら? なにか御不満? |
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ないない。 不満なんてあるわけない! (恨み晴らさでおくべきかぁ〜!) |