最高裁平成16年1月20日第三小法廷決定 | ||
先に、配役を説明するわね。 私が、ホストクラブに入れあげちゃってホストクラブでのお金が払えなくなった女性役ね。 そして、サルは、そのホストクラブのホスト役。 遊んだお金を払えない私に対して、殴る蹴るの暴行働くわ、支払いを脅して迫ってくるわ、挙句の果てには、私に多額の生命保険までかけてくれちゃってるわけ。 |
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・・・また、そんな役? (ん!? ってことは、光ちゃんに・・・ニシシシシシ) じゃあ、早速やろうか。 おいおい、お前いつになったら遊んだ金払うんだよぉ! |
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そ、そ、そんなに怒鳴られても・・・ お金ないし・・・ ひぃっ! もう殴らないでっ!! |
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もうお前いい加減にしてくれよぉ。 あぁーもーいいわ! お前もう死ね! 死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ! 死んで、お前の入ってる生命保険の金で払えっ! |
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え・・・ でも・・・ |
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もうそれしか返す方法ねぇーんだから、グダグダ言わずにオレの言うとおりにすりゃいーんだよ、このグズっ! カスっ! ボケっ! ホラ、この車を運転して海に飛び込んで死ねっ! |
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・・・・。 (で、で、でもやっぱり死にたくないよ・・・あ・・・車で海に入っても、その後、車から脱出できれば逃げれるかも・・・もうそれしか私が助かる方法はないし・・・で、で、でも出来なかったら・・・) |
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なに考えてんだよ! いいからお前は言われたとおりにしてればいいんだよ! バカっ! アホっ! マヌケっ! こっちも寒ぃんだから、早くやれっての!! |
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あ・・・ え、で、でも・・・ |
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とっとと車に乗れよ! 守銭奴っ! ドケチっ! 金満豚っ! 車乗ったら、ちゃんと海に飛び込むまでアクセル踏んどけよ! おら、早くやれっ! |
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どっぼぉーーんっ! (車に乗って海中に飛び込む) |
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よしよし。 言ったとおりにしたな。 |
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ぶふぅぅぅーっ! た、た、助かったぁ〜! (車ごと海中に飛び込んだが、その後、車からの脱出に成功。 死亡を装って、ホストの男性から身を隠した) |
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・・・っと、ここまでが事案の再現だよね。いやぁ、お疲れ、お疲れ。 | ||
ちょっとっ! ナニ、変な脚色加えてくれちゃってんのよ! |
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ちょ、ちょ・・・ だって、見てきたわけじゃないんだから、完全な再現なんて出来るわけないよぉ。ワカラナイところは、ある程度アドリブいるよー。 |
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そんなこと言ってるんじゃないわよ! ナニよ、あの「死ね」の大連呼は! 大体、遊興費が払えない女性に対して、守銭奴とか、金満豚なんて罵声は、どっから出てくるのよ! あんた、役にあてつけて私に向かって言ったでしょ!! 大体出てくる悪口が多す・・・ |
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光ちゃぁーん。 アドリブの台詞まで、いちいちナニ言ったかまでは全部覚えてないよぉ。 いいから、いいから。 早く判例の勉強に入ろっ! |
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うー・・・なんかムカつくぅー。 まぁ、そ、それじゃ、事案のポイントから、まとめるね。 このホストの男性(被告人)は、被害者の女性に対して、車に乗って海に飛び込んで死ぬように命令しているけれど、実際に死の危険を招く車での海中への飛び込み行為は、被害者自身が行っているわよね。 そうなると、被告人は、被害者に自殺するように仕向けただけとも言えるから、自殺関与未遂罪(刑法202条、203条)になるとも考えられそうじゃない? |
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あぁ〜。言われてみると、そんな気がする・・・ これ、最高裁はどんな判断下してんの? |
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先に最高裁の判断見てから検討することにしちゃう? 最高裁は、次のように判旨しているわ。 『被告人は〜(中略)〜本件犯行当時、被害者をして、被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたものということができる。 被告人は、以上のような精神状態に陥っていた被害者に対して、本件当日、漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するように命じ、被害者をして、自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから、被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は、殺人罪の実行行為に当たるというべきである。 最高裁は、被告人の行為は、殺人罪の実行行為にあたると認定して、被告人が、被害者の行為を利用した間接正犯であるとしたのよ。 |
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確かに、あんだけ執拗に車で海に飛び込むよう仕向けて追い詰めているもんね。 | ||
被害者を殺して保険金を得ようとする正犯意思も認められるし、車ごと海に飛び込むことには、危険性があるといえるわ。 ましてや、事件の現場となった海は、事件当時は真冬の冷たい海で、さらには深夜で辺りは真っ暗だったのよ。 そして、そのような危険な行為をとる他ないと被害者が思い至るまでに追い込んだことには、実行行為性を認めるべきと言えるわよね。 確かに、車で海中に飛び込んだ行為自体は、被害者自身がとっているわ。 でも、被害者は事件当時、被告人の言いなり状態になっていて、被告人からの暴行強迫等から、そのような手段をとる他はないという精神状態に追い込まれて止むを得なくとった行為なのよね。 そうであるならば、自らの自由な意思決定による死(自殺)を選択したとはいえないから、被害者の自殺であったとすることは妥当とは思えないから、自殺関与罪にはならないわね。 そう考えると本件事案は、間接正犯の基準である 「他人の行為を自己の犯罪実現のための道具として使用した」といえる場合にあたるといえるわ。 |
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被害者の行為を利用した殺人未遂罪(刑法199条、203条)成立ってことだね。 | ||
判例再現の行為を利用した私への罵詈雑言も成立してるけどね! | ||
うわぁ。 まだ根にもってるのぉ? |
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あんたこそ、私に隙あらば仕掛けてくるのは、なんか根にもってることあるの? | ||
あるわけないじゃない。 あたし、光ちゃんには感謝と愛情の思いしか抱いていないんだから! |
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え? え? そうなの? なんか面と向かって言われると、恥ずかしくなっちゃう・・・ |
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ウキキキっ! (コイツ、チョロいっすわぁ!) |