東京高判昭和57年11月29日判決
それじゃ、配役をいうわね。

私がナレーター。
被告人を、ナカちゃん。
被告人の弟を、サル。

って配役でいくわね。

ナレーター
被告人には弟がいましたが、弟とは不仲でした。
また、弟には酒乱の癖があり、粗暴なところも多々ありました。

そんなある日。
被告人が、家でお酒を飲んでいたところ、突然、酒に酔った弟が、あろうことか鎌を持って暴れこんできたのです!
この野郎ぉ〜。
兄貴はいねぇのかよっ!!
ぶち殺してやっから出てこいやぁっ! 

被告人の弟

被告人 
ひぃぃぃぃっ!です!
乱暴者の弟が、酒に酔って家まで来たです! 
  あん?
兄貴いねぇーのかよ・・・。
あぁ〜ん? ドコだぁ?

被告人の弟

被告人 
飲酒状態ですが、このまま家に居ては見付かってしまうです!
仕方ないので、家の前に駐車してある車の中に逃げ込むです! 
  あ、車で逃げる気か?
この野郎!
逃がすとでも思ってんのか

被告人の弟

ナレーター
被告人は、車の中に逃げ込んだだけだったのですが、被告人の弟は、自らも車に乗り込み、被告人を追いかけようとしてきたのです。
このままでは危ない、と判断した被告人は、酒気帯び状態ではありましたが、車を運転して警察署まで逃げることにしました。

被告人 
ひぃぃぃぃぃっ! です!
警察署までは、約6kmあるです!
とにかく警察署まで逃げ込んで、あの弟をなんとかしてもらうです! 

ナレーター
被告人は、その後、酒気帯び状態のまま運転を続け、約6km離れた警察署に助けを求めました
しかし、被告人の酒気帯び状態は、道交法の定める基準値を上回る値であったことから、酒気帯び運転の罪で起訴されることとなってしまったのです。
違うです、違うです!
聞いて欲しいです!

あのとき、酒気帯びの状態でも車で警察署に逃げ込んでなかったら、私は、あの乱暴者の弟に殺されていたかも知れないです!
こうでもしなかったら助からなかったんですから、私の酒気帯び運転には、緊急避難が成立するはずです!

被告人  
     






はい、お疲れ様ぁ。  
鎌まで用意したのに、振るう機会がないとは・・・。
マヂ不本意の一言に尽きるお。
ひいぃぃぃぃぃぃっ!!
あ、あ、明智先輩っ!!
藤先輩の持っている鎌、よく見たら本物ですっ!!
あたしの実家、農家だかんね。
そりゃ、鎌くらい持っとるよね、フツー。
実家が農家だからって、学校に鎌を持ってくる人はいないです!!
園芸器具なんですから、そんなに大騒ぎされなくってもいいかと。

本件の一審では、被告人の運転行為については、緊急避難・過剰避難、いずれの成立も否定されているんですよね。
でも、追いつかれたらナニされるかワカラナカッタと思うです。
このような状況下においては、飲酒運転ではありますが、車で警察署に逃げ込むことは、被告人の方にとっては唯一の手段・方法だったのではないでしょうか
  鎌で、ちょっと切るだけだお。
  ひぃぃぃぃぃぃっ!!
サル!
いい加減にしなさいよ! あんたっ!!

本件の争点は、今、ナカちゃんが言ってくれたところになるわね。
被告人が酒気帯び状態で、車を運転して、警察署に逃げ込むことが、被告人にとっては唯一の手段・方法だったのではないか
ということよね。

そうであると言えるならば、補充性の要件を満たすと言えるわ。
そして、そうでないと言うのであれば、補充性の要件を欠くことから、緊急避難は成立しないことになるものね。
あうあうあうあうあう。
私としては、緊急避難が成立して欲しいです・・・。
それじゃ、判決文ね。

被告人が、警察署に到着するまでの間は、被告人の生命、身体に対する危険の現に切迫した客観的状況が継続していたものと認められ、被告人が自ら右危難を招いたものということもできず、右危難を避けるためには身を隠していた自動車を運転して逃げ出すほかに途はなく、被告人が自宅の前から酒気帯び運転の行為に出たことは、まことにやむを得ない方法であって、かかる行為に出たことは条理上肯定しうるところ、その行為から生じた害は、避けようとした害の程度を超えないものであったと認められる。

 しかしながら、橋を渡って市街地に入った後は、被告人の弟の運転する車の追跡の有無を確かめることは困難ではあるが不可能ではなく、適当な場所で運転をやめ、電話連絡等の方法で警察の助けを求めることが不可能ではなかったと考えられる。

 この点で被告人の一連の避難行為が一部過剰なものを含むことは否定できないところであるが、前記一連の行為状況に鑑みれば、本件行為をかく然たる一線をもって前後に分断し、各行為の刑責の有無を決するのは相当とは考えられないのであって、全体として刑責の有無を決すべきものである。

 このような見地から被告人の行為を全体として見ると、自己の生命、身体に対する現在の危難を避けるためやむを得ず行ったものではあるが、その程度を超えたものと認めるのが相当である。


としているわね。
なんか聞くと、すっげぇ冷静だね・・・。
必死になって逃げている人に対して、途中で車止めて、後ろ確認できたんじゃね? とか、電話で警察呼べば良かったんじゃね? とか。
そうですね。
補充性の要件を否定する際には、その他のとり得るべき方法・手段を示す必要がありますからね。

東京高裁
被告人が、警察署に到着するまでの間は、被告人の生命、身体に対する危険の現に切迫した客観的状況が継続していたものと認められ
として、『現在の危難』については肯定しており、また、被告人が家の前の駐車していた車に乗り込んで逃げ出した行為については、
危難を避けるためには身を隠していた自動車を運転して逃げ出すほかに途はなく、被告人が自宅の前から酒気帯び運転の行為に出たことは、まことにやむを得ない方法
であったとして、補充性要件(現実に行われた避難行為以外に危難を回避するより侵害性の少ない行為が存在しないこと)肯定しているんですよね。
また、法益権衡の原則についても、
その行為から生じた害は、避けようとした害の程度を超えないものであったと認められる。
として肯定していますね。
つまり、ここまでの行為については緊急避難が成立しているわけです。

ただ、藤さんが指摘されているように、市街地まで車が到達した後の運転行為については、補充性要件(現実に行われた避難行為以外に危難を回避するより侵害性の少ない行為が存在しないこと)否定しているんです。
ということは、市街地以降の運転行為については緊急避難の成立は否定されることになりますよね。

ただ、被告人の運転行為が、
かく然たる一線をもって前後に分断し、各行為の刑責の有無を決するのは相当とは考えられないのであって、全体として刑責の有無を決すべきもの
であるといえることから、全体として。
その程度を超えたものと認めるのが相当
として、
過剰避難の成立を認めるという判断をとっているわけです。
後ろから鎌を持った乱暴者の弟が追いかけて来ているかも・・・って考えたら、車を止めることなんて考えられないです・・・。
お気持ちはお察ししますが、緊急避難の成立要件である補充性は、かなり厳しいですからね。
最初の勉強会でも、緊急避難は、成立のためのハードルが非常に高い、ということは説明されていたため、理解されているかと思いますけど。

ただ、本件の東京高裁は、被告人の運転行為について、酒気帯び運転の罪の成立は認めたものの、刑法37条1項但書き過剰避難成立を認めて、酒気帯び運転の罪については刑の免除を認めているんですよね。
つかさちゃん、ありがとうね。
解説、全部してくれちゃうなんて。
竹中さんが被告人役ですと、すごく訴えかけてこられるので、ついつい話してしまいますね。
本件が、過剰避難の成立が認められた事案で、よかったです。
あ、そだ!
せっかく、木下家から持って来た鎌もあることだし、みんなでナマハゲごっこやろうじゃまいか!
ナマハゲが持っているのは、アレ、出刃包丁だから。
鎌は、関係ないじゃないの。
え? そうなの?
いや、あたし、ナマハゲ見たことないから知らないし!
でもでも、ナマハゲの中には、きっと鎌を持ったナマハゲもいますよ。
管理人も秋田県には足を踏み入れたことないんだから、ナマハゲの話なんてしなければいいのに。
め、め、メタはダメですぅぅぅぅ。

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