検討会(事例検討編) | ||
ソレじゃ、藤さん。 ポケモン散歩をしながらで結構ですので、今日の事例の検討をしましょうか。 |
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・・・。 (まぁ、仕方ないか・・・ クロちゃんにはスマホを借りてっかんなぁ。) |
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先ずはピックアップする行為からですよね。 藤さんは、どの行為を抜き出しますか? |
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そだね・・・。 豊胸手術でチイをショック死させてまった行為かな? |
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そうですよね。 行為自体は、その行為を抜き出すことになりますよね。 では、検討される罪責は、どうされますか? |
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うーん、あたしはチイを殺しちゃってんだから殺人罪?(刑法199条) | ||
えーっと、確かに人を殺してしまっているわけですから、殺人罪の検討から思考は辿ることにはなりますけど・・・。 本件事例においては、加害者の藤さんには、殺人の故意がないことは問題文上、明らかですよね。 ですから、傷害致死罪(刑法205条)の検討から始めてしまって構わないことになるのではないかと。 |
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あぁ、そかそか。 犯罪の成立には、客観的構成要件と主観的構成要件とがあるんだったね。 殺人の故意がない以上、主観的構成要件が充足されないってことになるわけだし、そのことは問題上、明らかなんだから・・・ってことで、検討不要ってことになるわけか。 はいはいはい。 (おぉっと、隠れているポケモンに「ヒトカゲ」がおるやないの! コッチかな? コッチだよね!? ) |
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あ・・・藤さん、いきなり曲がって行かれないで下さい。 | ||
そだそだ。 そう言えば、ちょっと気になったんだけど、事例のあたしは、医師免許をもってないのに、医者だって騙しているわけだよね? そのことだって刑法に触れるんやないの? つまり・・・チイを騙して、手術をして、その手術代金をせしめようとしてんだから検討せんといかんのやないの? |
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ええ、まぁ、確かにその視点も有り得るところですよね。 ですが、今回の事例検討に先立って、光ちゃんはこう言ってましたよね。 『※ 医師法違反については考慮不要』 って。 |
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・・・そう言えば、そんなこと言ってたような。 | ||
事例の藤さんは、無免許医業の罪を犯しています。 このこと自体には争いがないところです。 ですが、検討に先立ち、考慮不要とされているわけですから、考慮する必要はないということです。 というか、考慮不要と問題にある以上、考慮してはいけないってことになりますね。 問題文を読んでいないんですか? って悪い印象を与えかねないですからね。 まぁ、一応概説しておきますと・・・。 医師法 第17条 『医師でなければ、医業をなしてはならない。』 と、ありまして・・・。 医師法 第31条 『1項 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 1号 第17条の規定に違反した者』 という特別法(医師法)に抵触することから無免許医業の罪(営業犯・医師法31条1項、17条)に問われることは間違いないですよね。 |
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へぇ〜、そういうことかぁ。 あたしは、てっきり詐欺罪(刑法246条)とかの検討も必要かと思ったお。 |
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またまたぁ。 藤さんに限って、そんなことはないですよね? |
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タマタマ? いる? いや、「隠れているポケモン」には表示されてないんだけど? |
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「またまた」って言ったんですよ。 問題文は、回答の上での誘導になっていたり、検討不要の論点を示していたりと重要な情報が一杯ですから、見落としのないようにしたいですよね。 |
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見落としか・・・。 確かに「隠れているポケモン」に見落としがあったりしたら、えらいことだかんね・・・。 ラプラスとか、カビゴンとかに気付かないままなんてことになったら一大事だもんね! |
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・・・いえ、ちっとも「確かに」という話になっていませんけどね。 そうそう。 罪責の検討において、過失致死罪(刑法210条)、業務上過失致死罪(刑法211条1項)という罪責にあたるのではないのか? という気持ちにもなるところですよね。 |
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あぁ、そっかぁ。 確かに、あたしは手術侵襲で、チイをショック死させてっけど、ソレが過失にあたるんやないの? ってことかぁ。 うんうん、確かにソレは考えられるとこだお。 |
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ただ、ここで考えて貰いたいのは、過失とはナニか? ってことなんですよね。 |
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え? 過失でしょ? ウッカリとかじゃないの? あたしも『まさかの大失敗』って言うとるんだし、故意ではなかったってことで過失犯ってことは有り得るわけだよね。 |
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刑法の過失犯にいう『過失』というのは、ちょっとその説明だと正確ではないですよね。 刑法が過失犯として処罰するのは、結果惹起に対する心的態度において、刑事責任を問うだけのものがあるからですよね(責任主義)。 つまり、過失犯とは、一定の生活状況の下で、犯罪的な結果の惹起を回避するために、採るべき措置をとらなかったことにより、結果が惹起した場合に、回避措置を採らなかった心的態度を法的に非難するものです。 でも、今回の藤さんは、誤って患者のチイちゃんの手術を行ったわけではなく、自身が無免許医師であることを知りながら、それでも敢えて手術行為を行っているわけですよね。 つまり、藤さんは自身の行為についての認識・認容があったということになります。 そして、ここでいう行為とは、患者のチイちゃんに外科的手術を行うことですよね。 そうなりますと、事例の藤さんには、チイちゃんを傷つける行為についての認識・認容があった、つまり故意が認められることになります。 そうであるならば、先ずは故意犯としての傷害致死罪の成立を検討し、同罪が不成立であるといえるのならば、その後に過失致死罪という流れになるものと思われます。 まぁ、今回の事例では、傷害致死罪の成立が認められると思いますので、検討もそこまでで十分だとは思いますが。 |
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・・・。 (やべ・・・聞いてなかった。 ま、いっか。 ヒトカゲ、ゲットでけたし。) |
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次に、事例の藤さんは、美容整形手術(医療行為の一種)をしているので、正当行為(刑法35条)ということも考えられますが、生憎と医師免許を持っていないので、医療行為として正当化されることはないですよね。 ここは、アッサリ認定していいところだと思います。 |
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まぁ、そだおね。 | ||
で・・・。 本問の一番の論点は、患者チイちゃんの同意のある点になりますよね。 いわゆる「被害者の同意」という論点になるわけですが。 この「被害者の同意」が、違法性ないし、構成要件該当性を否定することになるのか? という検討が求められているわけですよね。 もっとも、この論点については、刑法総論の勉強会でも学習済みですから、ここで改めて話すこともないですよね? |
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・・・。 (やったっけ? なんか全く記憶にないお・・・どういうことだお?) |
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もちろん、この「被害者の同意」についても考え方は様々です。 @同意があれば全て正当化する(ないし構成要件不該当) A生命にかかわる重大な傷害以外は正当化する B同意があっても、社会的に相当な場合のみ正当化する C同意があっても、全て違法な傷害行為とする といった考え方が挙げられますよね。 通説・判例は、Bの考え方(同意があっても、社会的に相当な場合のみ正当化する)を採っていますね。 私も、このBの考え方を採っているわけですが・・・。 |
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・・・。 (うーん、ポッポばっかだなぁ。 この辺り基本、ポッポとかコラッタばっかだもんなぁ。 ヒトカゲ、せっかく捕まえたけど、まだまだ足りないなぁ・・・強い個体もいないしなぁ。) |
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えーっと、藤さん、聞いて下さってますか? Bの同意があっても、社会的に相当な場合のみ正当化する、という立場ですと、例えば、ヤクザの指つめ行為なんかは社会的に相当とはいえないから、違法阻却されない、という帰結を導けることになるわけですよね。 |
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うんうん。 そうそう。 |
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もっとも、行為無価値、結果無価値、行為無価値・結果無価値二元論というそれぞれの立場からの検討によって帰結が異なることも考えられますよね。 最近、主流となっている行為無価値・結果無価値二元論からは 違法性とは『社会的相当性を逸脱した法益侵害』 という定義がなされますが。 行為無価値では「社会的相当性を逸脱」しているか否か 結果無価値では「法益侵害」の有無 という点を、それぞれ問題にすることになるわけですからね。 チイちゃん達が、いずれの立場からの起案をしてくるのかはワカリませんが、光ちゃんなら、きっとどの立場の起案についても見てくれますよね。 |
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あ・・・。 ねぇねぇ、クロちゃん、終わった? |
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そうですね。 検討としては、よろしかったでしょうか? |
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うんうん。 あのね、クロちゃん。 |
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なんでしょうか? |
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スマホの充電が切れちゃったみたいだお。 | ||
・・・あ・・・そ、そうですか。 |