行政上の義務履行確保 | ||
ソレじゃ、行政裁量についての勉強会を一通り終えたというわけで、今回からは、しばらく行政上の義務履行確保の手段、その司法的執行の可否、それから即時強制の法的統制について、回を跨いで学んでいくことにするわね。 | ||
うわぁっ!! またぞろ聞き慣れない言葉が、わんさか出てきたお! |
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まぁまぁ。 ちゃんと基本的なことから説明していくつもりだから。 先ずは、おさらい・・・からにしましょうか。 行政ではなく、私人の場合の義務履行確保から話すことにするわね。 例えば、サルとナカちゃんとの間で、ある契約(例えば売買契約)を締結したとするわ。 サルを買主、ナカちゃんを売主ってことで、下の図を見て欲しいんだけど。 売買契約を結んだ当事者同士は、売買契約が双務契約であることから、互いに契約によって義務を負うわけよね。 |
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契約 |
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オネーちゃんは物を買ったんだから、その物に対しての代金支払義務を。 ナカちゃんは、その物をオネーちゃんに引き渡す引渡し義務を・・・それぞれ負うってことだよね。 |
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そうよね。 ところが、ナカちゃんはサルに売買の目的物を引き渡したっていうのに、サルが、その売買代金の支払いをしない(義務を履行しない)・・・。 ということが有り得るわけよね。 このような場合、すなわち、私人間における義務が履行されない場合、どのような形で、その義務の履行をさせることが出来るのか? ってことよね。 |
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ぶん殴ってでも金を払わせちゃるお! | ||
なんでそうなるですか! ふ、ふ、藤先輩が、お金を支払ってない方です! そ、ソレに、そんなことは認められないはずです! 自力救済は禁止されているんですから、このような場合は、裁判所に訴えて、債務名義をとることで、私は藤先輩の支払義務を履行させるという手段をとるです! |
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そうよね。 自力救済については勉強したっていうのに、ナニを言い出してくれるのよ、一体。 自力救済については学んだじゃないのよ。 |
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図で、青い⇒のような直接の義務履行の手段(所謂、自力救済)が認められない理由は、そのような自力救済は、出来る人と出来ない人とが居る、という不公平。 また社会秩序維持の観点からも好ましくないからよね。 |
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ですです。 例えば、藤先輩の取引相手が柴田さんなら直接義務を履行させられそうですけれど、私じゃ、できっこないです。 だから、自力救済は禁止されて、裁判所による強制執行手続きを経ることが求められているんです! |
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そういうことよね。 まぁ、ここまでは、おさらいだから軽く触れるだけのつもりだったのに、サルが分けのワカラナイことを言い出すもんだから、随分時間とられちゃったじゃないのよ。 さて。 それでは、今日の勉強会のテーマ。 私人間ではなく、行政上の義務が履行されないとき、どのような形で、その義務を履行させるのか、ってことが問題になるわ。 この手段としては @行政的執行 A司法的執行 の2つの方法が考えられるわ。 先に図で示しておくと、両者は次のようなものと抑えておいて欲しいわ。 今日の勉強会では、A司法的執行について学ぶことにするわね。 |
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行政法の勉強会なのに、@行政的執行を後回しにするとは。 | ||
司法的執行の方が、論点が少ないからね。 先に終わらせておこうかな、って思ってね。 それじゃ、先ずは言葉の定義から。 司法的執行とは、行政上の義務が履行されないときに、民事上の強制執行手続き(裁判所)を利用して義務の実現を目指すものをいうわ。 |
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つまりソレって、行政上の義務なのに、私人間の義務と同じ手段(=裁判所の強制執行手続き)で義務の履行を確保するってことだよね。 | ||
そういうことね。 では、どのような場合に、この司法的執行が利用できるのか? ってことよね。 ただ、この問題を考える上で、ちょっと逆の視点から考えてみることにしましょうか。 |
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逆の視点? |
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そう。 つまり、行政上の強制執行の規定が『ある』場合に、民事上の強制執行、つまり司法的執行を利用できるのか? って問題ね。 |
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・・・いや、でも行政上の強制徴収の規定があるのなら、その規定に従って、行政が直接義務履行させれば、ええやないの。 | ||
まぁまぁ。 この問題を考えるLC(リーディングケース)となる判例は 農業共済保険料強制徴収事件ね。 (最判昭和41年2月23日 百選T5版 111事件) この事件では、農業災害補償制度の下、組合員である農家の方が、その共済掛金を支払わなかったことが問題になったのよね。 ただ、そのような場合においては、行政には、そのような農家に対して強制徴収を可能とする農業災害補償法87条の2という規定があったのよね。 ちょっと条文を確認しておきましょうか。 『農業災害補償法 第87条の2 1項 農業共済組合は、農作物共済に係る第86条の共済掛金又は前条第1項若しくは第3項の規定による賦課金(以下本条において共済掛金等という。)を滞納する者がある場合には、督促状により、期限を指定して、これを督促しなければならない。 2項 農業共済組合は、前項の規定による督促をした場合において、その督促を受けた者が督促状で指定する期限までに滞納に係る共済掛金等及びこれに係る第7項の延滞金を完納しないときは、市町村に対し、その徴収を請求することができる。 3項 市町村は、前項の規定による請求があつた場合には、地方税の滞納処分の例によりこれを処分する。この場合には、農業共済組合は、その徴収金額の百分の四に相当する金額を当該市町村に交付しなければならない。』 と、定められているわ。 つまり、共済掛金を支払わない農家に対しては、行政は自ら強制徴収することができるわけよね。 でも、本件では、このような事態に際して、県が、当該組合に代位して、この滞納組合員(農家)に対して民事訴訟を提起(つまり司法的執行)することが出来るかが争われたの。 この問題について、最高裁は次のような判断を下し、行政上の強制徴収の規定がある場合には、民事上の強制執行は出来ない、という判断を示したわ。 判決文を確認しておきましょうか。 『法律上、独自の強制徴収手段が与えられたのは、農業災害に関する共済事業の公共性に鑑み、必要な財源確保のためには、簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によらしめることが最も適切かつ妥当としたからである。 その手段を使わないで、民訴法上の強制手段によることは、法律の趣旨に反し、公共性の強い農業共済組合の権能行使の適性を欠く』 とね。 |
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でもでも、どうして行政は、農業災害補償法87条の2によって、強制徴収できる手段があるのに、わざわざ裁判所を経る手段(司法的執行)をとろうとしたのかなぁ? 行政だって、この条文を知っていたんだよねぇ? |
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うーん、明確な答えを私が持っているわけではないけれど、一般論として、行政の仕事の中でも特に、しんどいのは執行なのよね。 例えば、路上喫煙を禁止する条例なんかは全国にあるわけだけど、この取締りには大変な労力を要するものよね。 だから、この事案においても心情的に避けたい執行を裁判所に任せようとしたのではないかしら? |
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ところが、どっこい。 そうは問屋が卸さないよ! って司法の判断を受けちゃったってわけね。 |
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まぁ、そういうことになるのかな。 この司法の判断に対しては、学説からの批判もあるところなんだけどね。 それじゃもう少し続けるわよ? 次は、ストレートな問題として、行政上の強制執行の規定が「ない」場合に民事上の強制執行ができるのか? という問題ね。 この問題は、次の3つの場面に分けて考える必要があるわ。 @金銭支払義務の場合 A金銭支払義務以外の財産上の請求の場合 B金銭支払義務以外で財産上の請求として構成できない場合 の3パターンね。 |
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3本立ての予告・・・。 『サザエさん』の次回予告を彷彿とさせんお。 よし! 『来週もまた見てくださいねぇー』ってことで、ここで終わっておくお! |
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そんなわけないでしょうが。 はいはい。 サクサク行くわよ? 先ずは@金銭支払義務の場合。 金銭支払義務を課したものの国税徴収法を準用する規定はない。 このような場合、行政上の強制徴収は出来ないことから、民事上の徴収を利用することが出来るわ。 |
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こくこく(相槌) | ||
次にA金銭支払義務以外の財産上の請求の場合ね。 行政側に、土地・建物の所有権・使用権といった民事上の権原があれば、それに基づいて民事訴訟、そして民事執行法に基づく強制執行が可能ということになるわ。 |
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少し具体例を交えて補足説明しておきますと・・・。 例えば、市役所が置かれている公有地の一部を、光ちゃんの営業する喫茶店に利用させるという「目的外使用許可」を与えていたような場合に、後に、その土地を、市民会館として利用したいということになって、光ちゃんに使用許可の撤回をしたにも関わらず、光ちゃんが出て行かない、というような場合が、そうですよね。 この場合、撤去命令を定めた法律上の規定がない限り、「撤去するという代替的作為義務」がないため、行政代執行法による代執行は利用できない、ということとなります。 ですから、この場合、市は光ちゃんを被告として民事訴訟を提起して、強制執行を図る途を選ぶ、ということになるでしょうね。 |
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・・・す、すみません。 今、黒田先輩が説明してくれた中に出て来た代替的作為義務とか、行政代執行法とかが、ちょっとよくワカラナイです・・・。 |
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そうね。 今の説明は、次回の行政的執行の先取りになってしまっているからね。 大丈夫よ。 代替的作為義務や、行政代執行法については、次回の勉強会で勉強することにする予定だから、ここでは後回しってことにしてくれていいからね。 |
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あ・・・す、すみません。 補足説明のつもりが、余計な真似をしてしまいまして・・・。 |
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ううん、そんなことはないと思うわ。 次回の勉強会の後に、今の話を再度見れば理解が深まるでしょうし、具体例を交えた説明をしてくれて助かったわ。 |
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おーい、サクサク行くんやなかったのかや? 止まってんお? |
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いつもサルは余計なことしか言わない癖に! 相変わらず自分には甘くて、他人には厳しいんだから。 それじゃ、最後に B金銭支払義務以外で財産上の請求として構成できない場合ね。 この問題は、重要判例があるところだから、判例検討という形で抑えておくことにしましょうか。 |
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うげぇぇぇぇーーっ!! ここにきて判例検討とか・・・マヂ、KYっすわっ!! |
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はいはい、サクサクいくから無視しまぁーす。 検討判例は、宝塚市パチンコ条例事件になるわ。 (最判平成14年7月9日 百選T6版 115事件) |
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いやぁ、パチンコの話を聞くと、なんだか無性にテンションが上がってまうおね。 なんでかな。 きっと、あたしん中の博徒としての血が騒ぐんだろうねぇ。 よぉぉぉしっ! コレは今度のお休みは、木下家の家運を託して一発勝負に行くしかないお!! |
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オ、オ、オネーちゃん、やめてよぉ!! | ||
えぇーーいっ! 女子供には、この浪漫がワカラナイんだお!! 黙ってろっての!! |
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・・・何故だか行く前から、既に盛大な負けフラグが立っているような気がしてならないです。 | ||
止めときなさいよ。 ソレに「女子供にはワカラナイ」って、あんた女を捨ててるわけ? |
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別に、浪漫がワカルから行くわけでもないしね。 行きたいから行くんだお。 ソレ以上の理由は必要ないお。 チイ、心配いらないよ。 オネーちゃんを信じなさいっての! |
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じゃあじゃあ、チイも一緒に連れてって欲しいよぉ。 チイは、まだパチンコ屋さんに行ったことないし、どうせなら一緒に行きたいもん。 |
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・・・負け分が2倍になるだけのような気がしてならないです。 |