裁量濫用型審査A | ||
ソレじゃ前回の続きからね。 前回、少し判例と共に紹介した二段階審査論という考え方を、今日の勉強会では、ジックリ理解することにしましょう。 |
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もう前振りからしてゲンナリしている、あたしがいるわけで。 | ||
サルは次回で理解するって言ってたじゃないのよ! その次回が今回なんでしょうが! さてさて。 この二段階審査論を行っているとされる判例をみる前に、この考え方の大枠を理解して、その上で、実際の判決文において、この考え方がどのようになされているのか、ということを見ていくことにしようと思うわ。 |
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成程。 丁寧な見方ですね。 |
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二段階審査論においては、 大前提として、裁量の存在(意義)を認めた上で @その裁量基準の合理性 Aその裁量基準の適用、不適用判断の合理性 という審査をとるわ。 この@とAの考察方法が、二段階審査と呼ばれる考え方になるわけね。 |
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メモメモです! | ||
それじゃ、この大枠を抑えた上で、判例を見ていくことにするわね。 今日の勉強会での判例は、この判例一つだから、このまま検討をすることにするわ。 検討判例は、三菱タクシー事件にするわ。 (最判平成11年7月19日 百選6版 81事件) えーっと、配役からかな。 大阪市を中心にしてタクシー事業を営んでいた原告を、チイちゃん。 行政は御馴染みの、つかさちゃん。 ナレーターは私が務めるわね。 |
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ナレーター |
チイちゃんは、大阪市を中心としてタクシー事業を営んでいました。 折りしも平成元年4月からの消費税法適用を受けて、チイちゃんらと同じ地域でタクシー事業を営んでいた他社は、消費税分を料金に上乗せするため、道路運送法9条1項に基づく運賃値上げ認可申請をして、認可されていました。 道路運送法 第9条 『1項 一般旅客自動車運送事業を経営する者は、旅客の運賃その他運輸に関する料金を定め、運輸大臣の認可を受けなければならない。 2項 運輸大臣は、前項の認可をしようとするときは、次の基準によつて、これをしなければならない。 1号 能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ適正な利潤を含むものであること。 2号 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと。 3号 旅客の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ、旅客が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであること。 4号 他の一般旅客運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること。 3項(以下略)』 |
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チイの会社の地域の他のタクシー会社は、消費税分を料金に上乗せしているみたいだけど、チイは、そんなことはしないよぉ。 運賃は据え置きで、お客様にこれからも乗ってもらいたいんだよぉ。 |
タクシー会社 |
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ナレーター |
その後も、同業他社の運賃値上げの認可申請は相次ぎ、平均11%程の運賃値上げがなされることとなりました。 | |
う・・・うーん。 据え置き運賃で営業を続けてきたけれど、やっぱり据え置き運賃のままだと営業も厳しいよぉ。 他の業者も平均11%の運賃値上げをしているんだし、チイの会社も少しくらいなら運賃値上げしてもいいと思うよ。 よーし、消費税分を料金に反映することにして、今の料金に3%の運賃値上げをすることにするよ。 運賃値上げは、認可制度をとっているから、この運賃値上げを、近畿運輸局長に申請することにしないとね。 (平成3年3月29日認可申請) |
タクシー会社 |
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行政 |
成程。 運賃値上げの認可申請ですか。 消費税導入は平成元年だというのに、平成3年の今になって、ようやく消費税分を転嫁するための運賃値上げですか。 |
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うえぇーー。 行政指導が長いよぉ〜。 もう! 受理するのに、1ヶ月もかけるなんて待たせ過ぎだよぉ! (平成3年4月30日申請受理) |
タクシー会社 |
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行政 |
ちょっと、いいでしょうか。 受理した運賃値上げの申請なのですが、この値上げ運賃額が、運送法9条2項1号の基準に適合しているか否かを判断するにあたって、資料の提出を求めたいのですが。 |
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受理に1ヶ月もかけておいて、まだ文句があるのぉ? なんで、そんな資料提出の必要があるっていうの? チイの会社だって忙しいんだから、そんな資料なくたって判断できるって思うんだけどなぁ。 消費税が導入されたんだから、賃料だって値上げするんだよぉ。 ワカルでしょ? |
タクシー会社 |
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行政 |
・・・提出を求めた資料が、一向に提出されないですね。 これでは判断のしようもないです。 仕方ない、この認可申請は却下する他ないですね。 (平成3年9月12日 申請却下処分) |
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えぇぇーーっ! 受理に1ヶ月もかけておいて、その上4ヶ月も経ってから却下なんて、ヒドいよぉ! チイの会社は、消費税を上乗せしない運賃で営業し続けているんだよ? 運輸局長が、さっさと仕事をしなかったせいで消費税分のお金をチイの会社は負担することになっちゃったじゃない! こんな却下処分は違法だよ! そして、仕事の遅れたせいで、チイの会社が負担することになった消費税相当額を損害賠償してくれなきゃダメだよぉ! |
タクシー会社 |
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うん、そこまででいいわ。 | ||
ふむふむ。 コレ、チイの会社の言い分もワカルんだけど、チイの会社も提出を求められた資料提出をしてないのはダメな気がするなぁ。 |
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なかなかいい着眼点だと思うわ。 因みに、一審では、近畿運輸局長のなした却下処分は違法であると認定されて、チイちゃんの会社の申請はもっと早く認可されるべきであったとして、チイちゃんが求めた消費税分の損害賠償についても認容するとする判決が下されているのよね。 この判断は、原審(高裁)でも維持されたわ。 |
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あらま。 そうなんだ。 |
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実際、他の業者の運賃値上げの認定において、その値上げ申請の際に提出されてきた既存の資料があれば、充分に審査できたでしょ? っていうのが原審までの判断では指摘されたのよね。 |
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成程、成程。 言われてみれば、チイの会社以外の業者では、値上げ申請が既にされていたわけだから、その際に他の事業者からの資料提出もあったわけだもんね。 |
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そういうことよね。 さて、それでは最高裁では、どのような判断をしたのか。 また、判例検討前に大枠をみた二段階審査論の考え方は、判決文の中で、どのようになされているのか、という点に着目して見ていくことにしましょうか。 |
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こくこく(相槌) | ||
『1 法は、タクシー事業を含む一般旅客自動車運送事業につき、4条ないし7条において、その事業の経営についての免許制を規定するとともに、9条1項において、一般旅客自動車運送事業者は、運賃を定め、又はこれを変更しようとするときは、運輸大臣の認可を受けなければならないとし、同条2項において、その認可基準を定めている(なお、一般乗用旅客自動車運送事業に係る運輸大臣の右権限は、法88条1項1号、道路運送法施行令1条2項により、地方運輸局長に委任されている。)。 そして、法9条2項1号は、運賃の設定及び変更の認可基準の一として前記基準を定めているが、その趣旨は、一般旅客自動車運送事業の有する公共性ないし公益性にかんがみ、安定した事業経営の確立を図るとともに、利用者に対するサービスの低下を防止することを目的としたものと解するのが相当である。 右のような同号の趣旨にかんがみると、運賃の値上げを内容とする運賃変更の認可申請がされた場合において、変更に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないときは、たとい右値上げにより一定の利潤を得ることができるとしても、同号の基準に適合しないものと解すべきである。 そして、同号の基準は抽象的、概括的なものであり、右基準に適合するか否かは、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない。』 として、先ず本件処分の要件裁量の存在を認めているわけね。 ここまでは、二段階審査論の前提となる裁量の有無の肯否の段階であって、まだ二段階審査論には踏み込んでいないからね。 さて、二段階審査論は、裁量の存在(意義)を認めた上で、 @その裁量基準の合理性 Aその裁量基準の適用、不適用判断の合理性 という審査方法だったわよね。 ということは、次に検討されるべきは、@その裁量基準の合理性を問うために、その裁量基準ということになるわ。 判決文の続きを見ていきましょうか。 |
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ふむふむ。 | ||
『2 ところで、本件申請がされた当時、タクシー事業の運賃変更の認可について、「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃改定要否の検討基準及び運賃原価算定基準について」(昭和四八年七月二六日付け自旅第二七三号自動車局長から各陸運局長あて依命通達。以下「本件通達」という。)が定められており、各地方運輸局においては、本件通達に定められた方式に従った事務処理が行われていた。 その概要は、地方運輸局長は、同一運賃を適用する事業区域を定め、当該区域の事業者の中から不適当な者を除外して標準能率事業者を選定し、さらに、標準能率事業者の中からその実績加重平均収支率が標準能率事業者のそれを下回らないように原価計算対象事業者を選定し,右事業者について本件通達別紙(2)の「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃原価算定基準」(以下「運賃原価算定基準」という。)に従って適正利潤を含む運賃原価を人件費等の原価要素の分類に従って算定した上、その平均値を基に運賃の値上げ率を算定する(この算定方式を「平均原価方式」という。)、というものである。 本件通達の定める運賃原価算定基準に示された原価計算の方法は、法9条2項1号の基準に適合するか否かの具体的判断基準として合理性を有するといえる。』 として、ここでは2つの基準を認定しているわ。 1つ目の基準は 『「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃改定要否の検討基準及び運賃原価算定基準について」』 で、 2つ目の基準は 『「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃原価算定基準」』 ということになるわよね。 そして、この2つの基準の合理性については、 『具体的判断基準として合理性を有するといえる』 として、基準の合理性を認定しているわ(二段階審査論の@)。 |
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また随分アッサリと合理性を認定してんね。 | ||
そうね。 まぁ、論文の答案では、もう少し丁寧な認定を心掛けたいところだとは思うけれど。 ソレはソレとして、判決文の続きを見ていくわね。 『そして、タクシー事業は運賃原価を構成する要素がほぼ共通と考えられる上、その中でも人件費が原価の相当部分を占めるものであり、また、同じ地域では賃金水準や一般物価水準といった経済情勢はほぼ同じであると考えられるから、当該同一地域内では、同号にいう「能率的な経営の下における適正な原価」は各事業者にとってほぼ同じようなものになると考えられる。 したがって、平均原価方式に従って算定された額をもって当該同一地域内のタクシー事業者に対する運賃の設定又は変更の認可の基準とし、右の額を変更後の運賃の額とする運賃変更の認可申請については、特段の事情のない限り同号の基準に適合しているものと判断することも、地方運輸局長の前記裁量権の行使として是認し得るところである。』 として、合理的な基準を下に認可処分をすることの合理性を肯定しているわ。 つまり、基準が合理性を有するものであるならば、その基準を機械的に適用することは、一般的には適法といえる、としているわけね。 |
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そうですよね。 合理的な基準に則ってなされた「処分」(=機械的な処分)であるならば、確かに一般的には適法って言えそうですものね。 |
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そうよね。 でも、判決文は次のように続くわ。 『もっとも、タクシー事業者が平均原価方式により算定された額と異なる運賃額を内容とする運賃の設定又は変更の認可申請をし、右運賃額が同号の基準に適合することを明らかにするため道路運送法施行規則(平成七年運輸省令第一四号による改正前のもの)10条2項所定の原価計算書その他運賃の額の算出の基礎を記載した書類を提出した場合には、地方運輸局長は、当該申請について法9条2項1号の基準に適合しているか否かを右提出書類に基づいて個別に審査判断すべきであることはいうまでもない。』 とね。 |
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あ、そうかっ! 考えたら、同業他社の運賃値上げが平均11%だってのに、チイの会社では3%って言ってたんだっけ! |
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そうなのよね。 チイちゃんの会社が、平均額相当の運賃値上げであるならば、既に出されている同業他社の提出資料によって判断を下すということも考えられたでしょうけど、チイちゃんの会社は、3%の運賃値上げに留まる認可申請だったわけよね。 だからこそ、この申請については、基準を機械的に適用するのではなく、個別的な事情を考慮してなされるべきである、としているのよね。 |
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それなのに、チイの会社は求められた資料提出をせんかった・・・ってわけか。 アレ・・・コレヤバくない? |
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そういうオチを気にした視点は要らないから。 でも、サルの読みの通りよね。 判決文は、次に続くわ。 『3 前記事実関係等によれば、被上告人らの本件申請に係る運賃の額は、本件申請の直前に近畿運輸局長が同業他社に対してした認可に係る運賃の額(右運賃の額は本件通達の定める平均原価方式に従って算定されたものと推認される。)を下回るものであったが、同局長は、本件申請に係る運賃の額が右認可に係る運賃の額に達しないものであることのみを理由として直ちに本件却下決定をしたのではなく、本件申請に対する許否の判断に当たり、被上告人らの提出する原価計算書その他の書類に基づき、本件申請に係る運賃の変更が法9条2項1号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に準拠して個別に審査しようとしたものと解される。 前示のとおり、運賃原価算定基準に示された原価計算の方法は、同号の基準に適合するか否かの具体的判断基準として、合理性を有するものであるから、同局長において本件申請に係る運賃の変更が同号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に準拠して個別に審査しようとしたことは、相当な措置であったというべきである。 しかるに、前記事実関係等によれば、同局長が右審査のために被上告人らに対して右原価計算書に記載された原価計算の算定根拠等について説明を求めたにもかかわらず、被上告人らは、運賃変更の理由は消費税の転嫁である旨の陳述をしたのみで、右原価計算の算定根拠等を明らかにしなかったというのであるから、同局長において被上告人らの提出した書類によっては被上告人らの採用した原価計算の合理性について審査判断することができなかったものということができる。 そうであるとすれば、本件申請について、同号の基準に適合するか否かを判断するに足りるだけの資料の提出がないとして、本件却下決定をした同局長の判断に、その裁量権を逸脱し、又はこれを濫用した違法はないというべきである。』 とね。 |
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そかそか。 法に照らして、チイの会社の運賃が妥当か否かを個別に審査しようとしたんだけど、その判断に必要な資料が出されなかったんじゃ判断のしようがないってことでの却下なわけか。 |
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そうね。 本件では、@裁量基準の合理性は認められるものの、この基準を機械的に適用することにおいては、個別的な事情があることから、法の趣旨に照らして、審査判断の必要があったわけよね。 つまり、二段階審査論の Aその裁量基準の適用、不適用判断の合理性 という点で、本件では個別事情があるから機械的な適用は不適当である、という判断が働いたということになるわ。 |
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成程。 まとめると、このような理解でいいのでしょうか? |
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そうね。 少し、つかさちゃんの図に言葉を加えると・・・ 機械的な利用の場合には、さっきも言ったように、合理的な基準に則ってなされているのだから、一般的には適法といえるわけよね。 ただ、その機械的な利用に対しては、そのような利用でいいのか? 個別的な事情を考慮すべきではないか? といった主張が有り得るわけよね。 そして事実、本件のように個別的な事情がある場合には、その個別的な事情を考慮してなされるべきであり、機械的な利用は妥当ではない、という(@)判断に基づいての検討がなされているわけよね。 また、本件では直接関係していないけれど、合理的な裁量基準があるのに、行政が敢えて、その基準を機械的に利用しないで処分を下すというのであれば、その「利用しない」という判断について説明責任を負う(A)ことになるわ。 その場合は、平等取扱い、信頼保護、自己拘束の法理等の観点からの検討が求められることになるわね。 |
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・・・ふむ。 なんか穏やかな川の流れに身を任せていたら、急に流れが速くなって滝壷にぶち込まれたような説明がきた気がすんな、おい。 |
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いえ、でも補足して頂けてよかったです。 | ||
そうよね。 私も、サルの説明で足りているよね・・・って一度は思ったんだけれど、やっぱり、この判例も見ておくべきかなって思ってね。 |
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・・・文句言うくらいなら、ハナから光ちゃんがやりゃええんだお、とマヂレス。 | ||
だから文句じゃないって言ってるじゃない。 | ||
裁量は難しいし、論点も多いところですからね。 私は判例をしっかり読む機会を得られたって素直に嬉しいですけれど。 |
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うんうん。 チイも楽しかったよぉ。 |
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むぅぅぅぅ。 なんかケチつけられたみたいで面白くないお! |
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はいはい。 ソレじゃ、ネージュ・ブロンシュで御馳走するから。 機嫌直してよね。 |
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ウホホホイっ!! その言葉をずっと待ってますたっ!! |
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・・・ずっと不満を口にしていると思ったら。 まぁ、いいわ。 サルの担当してくれた勉強会も、しっかり検討してくれていたものね。 ソレじゃ行きましょうか! |
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(ごね得っ!! ごね得っ!!) | ||
・・・。 (・・・ダメだ、コイツ・・・ 早く何とかしないと・・・です。) |