最判昭和47年12月5日
〜更正処分理由付記不備事件〜
まずは配役ね。

私はナレーターを。
サルは税務署長、国税局(=行政側)。
ナカちゃんは、更正処分を受けた法人。
でいきましょうか。

ナレーター
法人税について青色申告の承認を受けた法人(=ナカちゃん)が、この事件の原告です。
この法人は、昭和34年末をもって解散し、清算手続き中でしたが、その解散年度の法人税等を確定申告していました。
解散すると言っても、確定申告はするです!
法人税の申告はしっかりしないといけないです!

法人(原告)

税務署長(行政)
んん?
この申告には、申告漏れがあるなぁ。
仕方ない。増額更正処分をするかな。税金は、しっかり納めてもらわないといかんからなぁ。
 
  あうあうあう。
税務署から更正通知書が届いたです。

法人(原告)

ナレーター
税務署長から、法人に対して、申告漏れがあったとして更正処分の通知が送付されました。
ところが、この更正通知書の理由欄には、付記理由として
営業譲渡補償金計上漏れ1155万円
とする記載しかありませんでした
な、な、なんですか!
この記載は!
こんな理由付記では、わかるわけがないです!
国税局長に、審査請求をするです!

法人(原告)

国税局長(行政)
え? なに?
理由付記に不備がある?
わかりましたよ。
それじゃ、更正の一部を取り消しますね。でも、だからって言って全部を取り消すわけじゃないですよ?
理由については、この裁決理由の中で述べますから、それでいいでしょ?
課税根拠は、カクカクシカジカってことです。
これで、理由については納得いきましたよね? 
なんですか!
その後から言ったんだから、いいでしょ? みたいな言い分は!
そんな言い分通るはずないです!

法人(原告)

国税局長(行政)
いやいやいや。
理由が欠けていることだけが問題なんだから、その理由が、こうやってワカッタんだから、もういいでしょ?
大人しく更正処分に従って、税金支払いなさいよ。  
自分達の手続き的違法を棚上げしといて許せないです!
そんな違法な更正になんて納得できないです!
私は、更正の取消しを求めて訴えるです!

法人(原告)
   






そこまでかな。
お疲れ様ぁ。 
 
  珍しいね。
クロちゃんが行政側の配役じゃなくって、あたしなんて。
今回の行政側は、理由付記に不備っていう瑕疵があるでしょ?
つかさちゃんは、しっかりしているから、そんな不備はしないかなぁって思ったから。  
私、そんなしっかりしているわけじゃないです。
料理なんかもレトルト物ばかりですし、教科書類も読んだら、そのままってことも多いですよ?
その点、あたしは食事はバッチリ自炊! レトルトもんは高いくせに量が足りないかんね!
教科書だって、大学に放置しているから、クロちゃんみたいな心配は無縁だね!
あんた・・・ナニ、勉強していませんアピールしてくれてんのよ。
それは、しっかり者以前の問題よ?  
  藤先輩は、いつになったら勉強する習慣を身に付けられるのでしょう。
おいおいおい。
料理しているっていう女子力アピールは、完全スルーかお。
ご飯を一度に5合単位で食べる、女の子の女子力なんて、一般男性には通用しないわよ!

ちょっと話が頓挫しちゃったけれど、まずは事案のポイントをまとめるわね。 

今日の勉強会のテーマは、行政行為の瑕疵の治癒・転換だったわよね。
この判例は、そのうち行政行為の瑕疵の治癒について検討する判例なの。

行政行為の瑕疵の治癒について、その意義をまとめると・・・。
行政行為のなされた時点においては、適法要件が欠けていたような場合において、その後に、その瑕疵(=欠けていた適法要件が追完され、瑕疵がなくなった場合に、その行政行為の効力を維持することが、行政行為の瑕疵の治癒ってことになるわ。

行政行為の効力を維持するわけだから、行政効率や、法的安定性の観点からは望ましいと言えるわよね。

他方、最初にも言ったと思うけれど、そのようなことを認めることは例外的な場合に限られるというのが大前提になるのよね。

行政法の一般原則である法治主義という考え方があったわよね(行政法3参照)。
行政は法に従って、行わなければならないという基本原則
この法治主義(=法律による行政の原理からは、行政過程の適正が要求されるわ。法律に則ってこその行政行為なんだから、瑕疵が治癒されたから、それでいいってわけにはいかないわけよね。

だから、法律による行政の原理からも、瑕疵の治癒は安易には認められない、というのが原則論ってことになるの。
そして、瑕疵が軽微であって、かつ、第三者の既存の利益が存在しているような場合に限って、例外的に認められるもの、という位置づけで抑えて欲しいわね。

という視点から本件判決を見てもらいたいと思っているわ。
最高裁の判断は、次のものね。

処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的として更正に附記理由の記載を命じた前記法人税法の規定の趣旨にかんがみ、本件更正の附記理由には不備の違法があるものというべきである。

 したがつて、これと同旨に出た原審の判断は相当であり、原判決に所論の違法はない。

 論旨は、右と異なる見解に立脚して原判決を非難するものであり、すべて採用することができない。

 所論は、かりに本件更正の附記理由に不備があるとしても、その瑕疵は、本件審査裁決に理由が附記されたことによつて治癒されたものと解すべきであり、これを認めなかつた原判決は違法であるというのである。

 
しかし更正に理由附記を命じた規定の趣旨が前示のとおりであることに徴して考えるならば、処分庁と異なる機関の行為により附記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方としても、審査裁決によつてはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない
 
 そして、更正が附記理由不備のゆえに訴訟で取り消されるときは、更正期間の制限によりあらたな更正をする余地のないことがあるなど処分の相手方の利害に影響を及ぼすのであるから、審査裁決に理由が附記されたか
らといつて、更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない。

 それゆえ、更正における附記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではないと解すべきである。

 これと同旨の原審の判断は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。


としているわね。
瑕疵の治癒って論点での検討判例だったので、てっきり、私が敗訴するのかと思っていたら、瑕疵の治癒は認められなかったのですね。
  成程ねぇ〜。
だからこその、行政側に、あたしって配役だったわけね。
瑕疵の治癒については、法律による行政の原理からも、安易には認められない、というのが原則論って説明したわよね。

だからこそ、瑕疵の治癒は、瑕疵が軽微であって、かつ、第三者の既存の利益が存在しているような場合に限って、例外的に認められるものなの。

本件では、この要件は満たされていないといえるわ。

確かに、瑕疵の内容は、理由が欠けていることだけとも言えるわ。
でも、理由付記の趣旨は、判決でも述べられているように、『処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的』とするものである以上、行政側(=税務署長)が主張するような『かりに本件更正の附記理由に不備があるとしても、その瑕疵は、本件審査裁決に理由が附記されたことによつて治癒されたと考えることは認められない、というのが最高裁の立場なのね。
その理由としては、理由付記の趣旨との整合もあるけれど、『処分の相手方としても、審査裁決によつてはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れないという点が大きいわよね。
  後から理由を言っているんだから、いいじゃないって思ったんだけどなぁ。
言っておくけれど、この裁判では、1審も、2審も、原告側の主張が認容されているんだからね。  
あたし、自分がウッカリ者なせいか、間違えても笑って許して欲しいって思っちゃうんだよねぇ。 
そんな自分のことさえ満足に出来ないって言うんじゃ、あんた法曹に向いてないんじゃないの?  
  うーん、やっぱり女優かアイドルが天職だったよね?
  ・・・。
(ナニを言っているんですか。)
  聞こえたおっ!!!
ゴスンっ! 
 ゴスンっ!
  い、い、痛いですぅっ!
私、何も言っていないですっ! 
どうして頭突きしたんですか!?
  なんか、あたしの第六感が、チビっ子の悪口を察知したんだお!
当たり?
当たり?
やっぱり悪口言ってた?
い、い、言ってないです。
ヒックヒック・・・因みに、藤先輩の察知された私の悪口っていうのは、どんな内容だったんですか?
『藤先輩なんて、どうせ女優になっても最優秀助演女優賞どまりで、アカデミー主演女優賞なんて冗談じゃないです!』
じゃね?
・・・・っ!!
(ミリ単位でも、かすりさえしていない空耳ですっ!!)

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