最判昭和52年12月20日判決 〜神戸税関事件〜 |
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配役の発表いくわね。 私はナレーターを。 全国税関労働組合神戸支部の役員を、サル。 神戸税関官房主事を、ナカちゃん。 神戸税関長を、つかさちゃん。 って配役でいくわね。 |
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組合員諸君っ! 我らの仲間が、懲戒処分を受けたが、これは不当なものである! 組合としては、断固抗議するものである! 早速、官房主事室に行って、抗議することにするぞ! |
組合役員ら |
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官房主事 |
な、なんです!? |
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職員に対する懲戒処分は、許し難き処分であーるっ! そのような所業は、我々は断固として認めるわけにはいかない! コラ! 聞いているのかっ!? |
組合役員ら |
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官房主事 |
もう少し穏当な発言をするです! そのような罵詈雑言はよくないです! |
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黙れっ!! 自分達のやったことを棚上げして罵詈雑言とは、よく言うものだ! お前らのやった処分こそ非難されるものであって、我らの言葉が非難される謂れはないわっ! |
組合役員ら |
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官房主事 |
あ、勤務時間です! 抗議を止めて、業務に戻るです! |
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組合の集会の自由を妨げるような発言は慎んでもらいたいっ! そもそも、忙しい時期に、こんな少ない人数で働かせること自体、言語道断っ! お陰で、我々は長時間労働を余儀なくされ、まさに馬車馬状態! |
組合役員ら |
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官房主事 |
勤務時間です! 抗議を止めるです! コレは職務命令です! |
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うるさい、うるさいっ! 懲戒処分はする、超過勤務命令は出す、さらには、必要な審査を勝手に簡略化する・・・。 そんなことをして、職場で働く我々が、安心して働けるとでも思っているのかっ!! |
組合役員ら |
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税務署 | 職務命令を無視して、業務処理を停滞させるとは、公務員に有るまじき、ゆゆしき行為です。 見過ごすわけにはいきませんね。 あなた方の行為は、国公法98条1項に定める職務専念義務違反です。 したがって、懲戒免職処分と致します。 |
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ちょ、ちょ、ちょっ! 免職処分って、いくらなんでも処分が重たすぎるよっ! そんな処分は認められないよ! 取消訴訟を提起するからな! |
組合役員ら |
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大分、事案を簡略化しちゃっているけれど、概ね、こんな流れかしらね。 | ||
藤さんを、懲戒免職処分なんて私には、到底できない処分です。 | ||
つかさちゃん? これ、事案再現だからね。 なんか、ナカちゃんのような感情移入発言しちゃっているけれど、大丈夫よね? |
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いや、でも免職って処分は重た過ぎるよね。 これ、効果裁量があるってことが認められたとしても、ちょっとやり過ぎだって話になるんじゃないの? |
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私も藤先輩に責められたのは怖かったですけれど、免職処分というのは、厳しいように思えました。 | ||
そうね。 その気持ちはワカルわ。 事実、この事件の一審、二審は、ともに免職処分は過酷に過ぎるとして、組合役員らの請求(懲戒処分取消の訴え)を認容しているからね。 では、その事実を前提として・・・。 事案のポイント整理をするわね。 最高裁は、この事案において、法令上のどの部分について、どのような理由で、裁量を認めたのか? ということを、この判例からは読み取って欲しいわ。 じゃ、見てみましょうか。 |
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なんかドキドキする・・・。 頼むよ? 最高裁っ! |
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最高裁の判断は、次のものね。 『公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。 ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。 したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。 それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。 もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。 したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。』 『本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、他にこれを認めるに足る事情も見当たらない以上、本件処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできないものといわなければならない。』 としているわね。 |
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マ、マ、マヂでか!? | ||
ということは、組合役員らの請求は棄却されたということですか? | ||
そうですね。 二審判決破棄、一審判決取消。 という結果になりました。 いわゆる逆転敗訴です。 |
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裁量があるって言っても、これやり過ぎだと思う・・・。 いくらなんでも重たいよぉ。 |
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裁量があるといってもやり過ぎ・・・。 うんうん。その考え方自体は大事な視線なのよね。 裁量権の逸脱・濫用という論点があるからね。 (※ また後で学びます) でも、その論点はここでの議論ではないわ。 事実、この判例でも、その問題については 『その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべき』 として、 『本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、他にこれを認めるに足る事情も見当たらない以上、本件処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできない』 としているわけだからね。 ただ、『著しく妥当を欠く』という縛りは、処分を受ける側からすればハードルが高いと言えるわよね。 |
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厳し過ぎるよねぇ。 | ||
えーっと、少し争点から、話題がズレてしまっているようですが。 ここでは、裁判所が効果裁量を、どのように認定しているのか、という点に絞って検討しますが。 まず、処分の性質を検討していますよね。 判決文から引用しますと、 『公務員に対する懲戒処分は』『その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁』 であるという部分です。 そして、 『国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。』 として、「法律の文言」を。 そして、次に 『その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない』 という「判断の性質」を挙げて、この2つを理由として、行政に裁量を認めているんですよね。 そして、その裁量は 『懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができる』 として、効果裁量であるとしているんです。 |
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そうね。 マクリーン事件同様に、行政に裁量を認める理由としては、やっぱり2つくらいは挙げて欲しいところよね。 この判決では、 「法律の文言」と「判断の性質」を理由にして行政に裁量を認めているわ。 そして、裁量があるとして、その裁量は、要件裁量なのか、効果裁量なのか。 また、その裁量の範囲は広いのか、狭いのか。 という認定をしっかりしていけるといいわね。 |
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難しいなぁ・・・。 | ||
裁量の有無の見極めは非常に難しいところですからね。 | ||
いわゆる『できる』規定だけで、裁量の根拠とすることは厳しいからね。 『できる』とする法律の文言が、権限を根拠付けるものということもあるわけだから。 まぁ、だからこそ、2つくらい理由は挙げて欲しいって言っているわけなんだけど。 ただ、そうなると、「判断の性質」をチェックする必要があるわけなんだけど、ここが難しいのよね。 裁量の有無の見極めが難しいと言われるところよね。 |
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が、が、頑張るです! | ||
が、が、頑張れです! | ||
あんたもよっ! ナニ、他人事にしちゃってるのよ! |
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ウキっ! |