『サル探偵の事件簿』~File2~ 「ラストサムライ」 |
||
朝靄の晴れた月曜日の通勤路は騒然としていた・・・ いつもは早朝から出社するサラリーマンの群れでごった返す道なのだが 今朝の騒ぎは異様な雰囲気を醸し出していた それもそのはず 路上には、いつもの朝の通勤風景を異質なものにするに十分な存在があったからだ 腹部を刺され、アスファルト一面を朱に染めた男の死体である |
||
まだガイシャ(被害者)の身元を掴む物は見付かってないの? | 捜査一課敏腕刑事・光 |
|
所轄警察官・竹中 |
あ、明智刑事! お疲れ様です! |
|
あら、また現場一番ノリは、貴女なの? | ||
ハイです! 死体発見の110番通報を受けて、すぐに臨場したです! 所轄の警察官の竹中です! |
||
自己紹介は大丈夫よ。 もう私も貴女は憶えたから。 宜しくね、竹中巡査。 |
||
こ、光栄です! 明智刑事みたいなデカ・・・失礼、刑事になるのが私の夢なんです! |
||
そうなの。 それじゃ、いつか一緒に捜査できるといいわね。 |
||
ハ・・・ハイです!! |
||
先輩。お話し中失礼します。 ガイシャですが、財布に携帯・・・定期入れまで持ち去られています。 |
光の後輩刑事・柴田 |
|
そう・・・。 それじゃ身元確認からってことになりそうね。 ただ、ガイシャの格好は普段着だし、この辺りに住んでいる人じゃないかしらね。 この格好だと遠出するっていうより、ちょっとそこまでって感じだしね。 |
||
警視庁鑑識・小 |
明智刑事。 死亡推定時刻だけど、昨日の午後11時から今日の午前1時の間ってとこだよぉ。 |
|
昨日・・・日曜日の夜が犯行時間ってことになるわけね・・・。 | ||
あ、明智刑事! ガイシャの奥さんを名乗る人が来たです! |
||
あら、もうガイシャの関係者が来てるわけ? やっぱり、ガイシャは近所に住む人だったみたいね。 それじゃ、すぐに会わせてもらうわ。 あの方・・・で、いいのかしら? |
||
そうです、先輩。 早速行きましょう! (ダダダダ) |
||
そうね。 (ダダダダ) |
||
「自称」天才名探偵・サル |
(ヒョッコリ) しめしめ。 あの怖い2人は居なくなったみたいだお。 今のうち、今のうちっと。 |
|
ん? | ||
ジャカジャカジャーーンっ!! 東に溺死の死体があれば、行って死因を特定してやり! 西に刺殺の死体があれば、行って凶器を発見してやり! 南に監禁された人がおれば、行ってすぐさま助け出してやり! 北に詐欺する者がいれば、とんでもないことはやめろといい! 日照りの時はクーラーをつけて、寒さの夏は省エネで助かるね、といい みんなに天才名探偵と呼ばれ称賛され、尊敬される・・・ そういうものに、あたしはなりたひ!! |
||
サルの助手・黒田 |
ソレなら探偵は、既になっていますよ!! | |
え? マヂ? やっぱ、あるよねぇ? そうだよねぇ? |
||
わわわっ! また来たよぉ。 |
||
先ずは、宮沢賢治に土下座して来て下さい・・・。 | ||
ん? 『ちょっとナニ言ってるのか、よくワカラナイ』んだけど。 ふむふむ・・・。 腹に刺し傷のある死体かぁ・・・。 |
||
探偵・・・コレは通り魔的犯行ではないでしょうか? | ||
まぁ、まだ探偵助手のクロちゃんの目には、そう写っちゃうのかな? あたしには、もうこのヤマ(事件)解決しちゃってんだけど、生憎と、あたしの答えは違うね。 |
||
・・・と、おっしゃいますと。 | ||
これは「自殺」だお! | ||
ええええええぇぇっ!? | ||
うんうん。 素人目には、腹に刺し傷があって死んでいる姿を見れば、殺人事件って思う気持ちは、あたしにもよぉーくワカル。 多分、この犯行現場を目にした人の多くは、その線でこの事件の解決を図ろうとするだろうね。 しかし、残念ながらその線は死路(シロ)だと思うよ・・・何故ならば全ての状況証拠が、あたしに語り掛けているんだよ。 コレは「自殺」だとね! |
||
・・・ど、ど、どこをどう見たら自殺に見えるって言うですか!? | ||
聞いちゃうんだ? ソレ聞いちゃうんだ? 無能や。 無能だわぁ。 無能すぎるわぁーー!! ホント無能の最上級だわ、マヂで。 モノを知らないという無知を、そこまで臆面もなく曝け出して恥ずかしいって気持ちさえないわけ? 『厚顔無恥』って言葉は、お前の為にこそあるんだろうね、うんうん。 日本と言えば、フジヤマ・ゲイシャ・テンプラ・チョンマゲ・ニンジャ・・・そして「ハラキリ」だお! このオッサンの腹部の刺し傷は、ハラキリという自殺を示すものと考えるのが、ごくごく一般的な日本人の素直な発想ってもんだお! |
||
た、た、確かにっ!! | ||
どこのアメリカ映画ですか・・・。 すっごい間違った日本文化への誤解を感じるです!! チョンマゲやニンジャなんて、今の日本には存在してないです! 割腹自殺をする人が普通にいるなんて、とんだ偏見です!! |
||
黙れ、黙れ、この無能の極み地方公務員がっ!! マヂで『無能がありあまる』って一言に尽きるわっ!! そりゃ国の借金も1044兆円にもなるわ! 国民の皆さまの税金が、お前みたいな無能に垂れ流されていんだからさ! お前みたいな無能かつ軟弱な輩には、そういう先入観があるんやろね。 しかし、そんな価値観に警鐘を打ち鳴らし、古式ゆかしき日本文化を体現せんとする死にざまっ! 彼こそが真の日本男児! 敢えて切腹という様式美を求めんとする姿に、あたしは「侍」の姿を見たお!! |
||
リアル『ラストサムライ』ですねっ!! | ||
まさにっ!! いたんだね・・・まだ、この日ノ本にも侍は・・・。 |
||
そう言われて改めて見てみると、倒れ込む背中にまで哀愁を覚えてしまいますね。 | ||
ちょっと待って下さいです! なんで自殺だって言うのなら、こんな場所で死んでいるんですか!! ここは人の往来もある通勤路です! 割腹自殺をするのなら、自宅を場所に選ぶんじゃないですか? |
||
む、む、無能ぉぉぉぉぉっ!!! ナニナニ? お前の無能は、聴力にまで及んでいるわけ? 今年のインフルエンザは胃腸にくるって聞いたけど、お前の無能ってウイルスは耳にまで拡大感染しちゃってるわけ? あたしの耳には痛いくらいに聴こえてくる彼の慟哭にも似たメッセージが、聴こえないの!? この場所での自殺には、彼のメッセージが痛烈なまでに込められているってのに・・・。 |
||
と、おっしゃいますと・・・。 | ||
ここは通勤路という道の途上・・・。 おそらく、彼の戦場である仕事場と、彼の心の安息を得られる自宅との間の場所だと思うんだよ。 敢えて、その中間地点での死という選択をとることで、道半ばで行く・・・ということを示しているんだろうね。 最早、職場という戦場の最前線に赴く力はない・・・。 さりとて、家族に合わせる顔もない・・・。 矢尽き、刀折れるまで戦い、心身共に満身創痍となった己の姿を曝け出すことで、自分と同じような境遇に居るサラリーマン達に、お前達はこんなことにはなるな、という悲哀を。 そして 『俺の屍を越えていけっ!』 という最後の言葉を伝えたかったんだろうね・・・。 |
||
そ、そ、そんな深遠な意味が、この自殺には込められていたのですか!? でも、聞こえますっ!! 確かに私の耳にも、そのメッセージが聞こえてきますぅぅぅっ!! |
||
十中八九・・・間違いないだろうね。 正直、あたしも、かつて御目にかかったことがないよ。 ここまで雄弁に語りかけてくる男の背中には・・・ね。 |
||
あのね・・・。 ガイシャの人の背中を見てくれているのならワカルと思うんだけど、ココを見て欲しいよぉ。 ほら、このガイシャの人、背中にゲソ痕(靴跡)があるんだよ? |
||
そうです、そうです! 背中にゲソ痕があったです! どういう経緯でつけられたものかは、まだ捜査中ですが、もし犯人によるものだとするならば・・・。 生前に蹴りつけられたのか・・・はたまた死後に踏みつけられたのか・・・いずれにせよガイシャに対する強い恨みを感じるです! |
||
ええぇーーいっ! こんな足跡、こうしてくれるわぁぁぁっ!! (サササササッ!) |
||
ナ、ナ、ナニをするですかっ!! | ||
うわぁぁぁぁっ!! そ、それは重要な証拠かも知れないのにっ!! なんで勝手に消しちゃったのぉぉっ!? |
||
えーーい、黙れ、黙れっ!! 無能なお前らには、能力が無いだけやなくって、人の心さえ無いのかっ! 嘆かわしいっ! まっこと嘆かわしいっ!! 死者の身体を土足で踏み躙るなんて無法を、あたしは許してはおけないんだよ!! こんな誇り高き侍の背中に、汚い足跡を残しておくなんて、お前らが許しても、このあたしが許しちゃおかないんだおっ!! |
||
さ、流石、人情家の藤探偵っ!! 優し過ぎますっ!! |
||
いや・・・ソレ、犯人のゲソ痕かも知れないのに、証拠隠滅です・・・。 どうしてくれるんですか・・・。 |
||
い、一応、写真には収めてあるから、最悪の事態だけは免れているよぉ・・・。 | ||
でも、このゲソ痕の存在だけでも、このガイシャの死が「自殺」ではないことの証拠になるのではないでしょうか。 | ||
ん? なんで? なんで? 天才名探偵のあたしには、ちっともワカラナイんだけど、無能のチビッ子は、どうして、そんな推理が出てくるわけ? |
||
・・・無能のチビッ子ってのが誰のことを言っているのかは、この際置いておきますが、背中に第三者の足跡があるというのは、ナニを意味しているのかを考えるべきだと思うです。 | ||
ハイハイ、無能、無能。 いやもうホント、そのしょうもない主張を聞いただけでも、お前の無能が痛いくらい伝わってきちゃうよね。 もうね、逆に清々しいよね、うんうん。 ある意味王様だおね、無能の王っすわ。 キングオブキングスっすわ。 無能王国の無能国民の支持率100%の圧倒的無能っぷりっすわ! その足跡が何時付いたのか・・・なんてことはワカラナイやないの。 オッサンが、その背中の足跡をすっごい気に行ってて、超大事にしてたもんで、ずっとその服にゲソ痕が残ったままやったかも知れないやないの。 なんで、そのゲソ痕が昨日ついたもので、かつ、犯人が付けたものだって思えたわけ? |
||
背中に靴跡付けたままにしている人なんて、普通いないです!! | ||
『常識を疑え!』 そういう固定観念に囚われているからこそ、お前らは無能なんだお!! もうアレだね。 骨の髄どころか染色体レベルにまで無能が刷り込まれてまってるんだね。 おお、可哀想に。 今、あたしが消し去ったのは靴跡やないんだお! そういうお前の腐った常識というガッチガチに凝り固まった考え方なんだお!! いい? もうお前を縛り付けていた靴跡という常識は存在しないんだお! さぁ、その常識という色眼鏡を外して、ここからは事件ともっと真剣に向き合うんだお!! |
||
事件と向き合おうにも、向き合うべき重要な証拠が一つ減っちゃってるよぉ。 | ||
大体、事件と一番真剣に向き合っていない人に、そんなこと言われたくないです! | ||
しかし、流石は名探偵です! 私のような素人には、殺人事件に見えてしまう、この事件ですが、どうやら探偵の推理道理ってことのようですね。 ということは、やはりお見立て通り、この事件は、自殺ということになるわけですね? |
||
違うよ! 違うよ! だってほらほら、ガイシャのこの両手を見て欲しいんだよぉ! ホラ、ココ・・・それからココ、ココとココにも。 |
||
いや、あたしくらいの天才探偵ともなれば、そんなもん言われんでも最初っから知ってるけど、ソレがナニ? | ||
あ、気付いてたんだ。 じゃあ、ワカッていると思うけれど、このガイシャの手にある傷は、一般に防御創って呼ばれる傷なんだよぉ。 ナイフのような刃物から身を守る際に、被害者の上肢に残る傷をいうんだけど、自殺者自身によって出来る逡巡創(ためらい傷)とは傷の出来方が違うから区別が可能なんだよぉ。 防御創のある自殺死体っていうのは、矛盾しているんじゃないのかなぁ? |
||
ふふふ・・・くくくっくっくっく・・・・ あぁぁーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!! |
||
な、なんで急に笑い出したですか? | ||
あぁぁーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!! あぁぁーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!! あぁぁーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!! あぁぁーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!! あぁぁーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!! あぁぁーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!! あぁぁーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!! |
||
こ、これは何時まで続くですか? | ||
もう帰ってもらいたいよぉ。 なんで明智刑事は戻って来てくれないのぉ? |
||
黙れ! 黙れ、バカっ! ・・・(よし。考えまとまった。時間稼ぎ終了だお。) その手に残る防御創は、彼が歴戦の侍であることを物語る、古傷ってやつだお。 『男は敷居を跨げば七人の敵あり』って昔っから言うだろがっ!! 敵が七人もおれば、いかな猛者とはいえ、手負いになることもあるお! だが、そんな傷は彼の名誉まで傷つけることは出来ないお! なにせ『傷は男の勲章』だお! あたしの目には、ありありと映るようだよ・・・。 次から次へと襲い掛かってくる刺客の姿が・・・。 しかし、それを右に左と打倒して行く彼の雄姿が・・・。 |
||
もう世界観が滅茶苦茶です・・・。 ソコは何処の無法地帯なんですか・・・。 そもそも『七人の敵』というのは比喩であって、本当に刃物を持って襲い掛かってくる相手がいて・・・ソレが現実に防御創を負うような事態があったというのであれば、それこそ事件じゃ・・・ |
||
ん~っふっふっふっふ。 『今泉くんっ!!』 (ベシッ!) |
||
な、な、ナニをするですかっ!! | ||
ん~ふっふっふふふふふ。 えぇ~、侍たるものぉ~傷の一つや二つは付き物ですぅ~。 そんなことは説明するまでもなく当たり前のことですぅ~はぁい。 今泉くん・・・あまり下らないことを言うんじゃありませぇ~ん? ふっふっふっふ。 |
||
そ、その変なしゃべり方は一体誰の真似なんですか!! ソレに今泉くんって誰なんですかっ!! 私には、竹中という名前があるですっ!! いた、痛いですっ!! い、いつまでオデコをペシペシ叩いているですかっ!! や、やめるです!! |
||
ん~っふっふふふ。 静かにしなさい~。 『えぇぇ~、古畑任三郎でした。』 |
||
えーーん、えーーーんっ!! お巡りさん、助けてぇーーーっ!! |
||
やれやれ・・・。 お巡りさんは自分たちだって言うのに。 一体、誰に助けを求めているんだお? |
||
あらあらあら・・・。 傷害罪の現行犯ってところかしらねぇ。 見てたわよぉ? |
||
うわっ!! ヤバス・・・無能の総本山が戻ってきちゃったみたいだお!! |
||
あ、明智刑事っ!! | ||
貴方たちはもう帰ってくれていいわ。 犯人は、もう確保したからね。 |
||
ふぇっ!? も、もう犯人がっ!? |
||
えええぇぇっ!? 犯人確保って・・・やっぱり殺人事件だったんだね!? |
||
この部外者にナニを吹き込まれていたのかは、今の反応で、おおよその察しがついたけれど、まぁ、腹に刺し傷のある死体なんだから普通、殺人事件でしょうよ。 ガイシャの奥さんに聞いたところ、ガイシャは地域の自治会長をされていたそうね。 昨夜は夜から午後10時過ぎまで続いた自治会の懇親会があったそうで、ソチラに御出席されていたそうね。 |
||
この現場ですが、懇親会のあった駅前の居酒屋さんと、被害者の御自宅との間になります。 居酒屋での懇親会に御出席された他の自治会役員の方の証言によれば、被害者は午後10時過ぎ、お店をほろ酔いで帰られたそうです。 また、居酒屋の御主人からは、被害者の座っていた座敷の座布団のあたりに携帯電話と財布が落ちていたという情報を入手しました。 取りに戻って来られる可能性を考慮して、お店で預かる形にしていたそうです。 被害者の店を出てからの足取りですが、居酒屋と、この犯行現場までを結ぶ道の途中にコンビニエンスストアの店舗があります。 実は昨夜は、近隣住民から、その店の付近で深夜に喧噪を聞いたという通報もありましたので、そのコンビニエンスストアの防犯カメラを確認させて頂いたのですが。 犯行予想時刻前に、そのコンビニエンスストアの店の前で口論をしている被害者と、不良グループの姿が映っていました。 |
||
因みに、その防犯カメラには、被害者の歩き去った方向に追いかけていく不良グループの姿と、暫く後に、その方向から慌ただしく戻って来て走り去る彼らも映っていたのよね。 このカメラの映像を手掛かりに、今、不良グループの1人の自宅を訪ねたところ、御家族と一緒に出頭しようとしていたのに出くわしたわ。 凶器となる刃物だけど、彼が自宅に持ち帰ったナイフを任意提出してくれたわね。 供述通りならば、おそらくガイシャの血痕が検出できるんじゃないかしら。 |
||
そうだ! 供述と言えば、被害者の背中にグループのメンバーの他の1人が背後から蹴りかかった、と彼は言っていましたから、ガイシャの背中のゲソ痕がメンバーの1人の靴跡と一致すると思われます。 ソチラも、鑑識で照合御願い致します! |
||
・・・被害者の人の背中についていた足跡は大事な証拠だったね。 | ||
・・・鑑識のチイちゃんが、しっかり写真保存しておいてくれたから良かったようなものの、一つ間違えたら、とんでもない事態になっていたです! | ||
普段から地域でも、深夜まで騒ぐ不良グループの存在は問題になっていたそうね。 被害者の男性は、自治会長という責任感に、お酒の勢いも借りて、彼らに注意するという行為に出たみたいだけど・・・それを面白く思わなかった彼らに、背後から蹴り付けられて・・・。 起き上がって、被害者と取っ組み合いになっている際に、グループのメンバーが持ち出したナイフが、思いがけず被害者の腹部に突き刺さってしまった・・・という話だったわね。 |
||
ですが、ガイシャの腕の防御創はかなりの数ですし・・・ちょっと供述を鵜呑みにもできないところですよね。 今後の取り調べにおいて、そのあたりはしっかり聞き出す必要が出て来そうです。 殺意の有無との関連もあるところですからね。 |
||
そうね。 そういうわけだから犯行現場の証拠は、極力しっかり抑えておくようにしておいてね。 ソレじゃ、彼らの身柄もそろそろ警視庁に着くころだろうし、私たちも取調室に急ぎましょうか。 |
||
流石、明智刑事だよぉ。 いつものように鮮やかな手際だよぉ。 |
||
ですです! 被害者の関係者の事情聴取に行ったと思っていたら、その足で事件解決までされてしまうなんて・・・。 相変わらず凄いです!! |
||
私だけの手柄じゃないわ。 柴田が、コンビニの防犯カメラのチェックをしようって提案してくれたお蔭よね。 |
||
いえ、先輩は私が提案するのを待っていただけでしたよね。 お店に行ったら、既に昨夜のビデオ映像は、すぐに閲覧できるように用意されていました。 あぁ、もう手配済みだったんだなぁって、先輩の手際の良さに驚かされましたから。 |
||
あら・・・御見通しだったのね。 でも、柴田が提案したことには間違いないんだから、もっと自信をもってくれていいと思うわ。 |
||
ありがとうございます! 私も、今後とも一層精進しますので、厳しく御指導下さい!! |
||
ウフフフ。 頼りにしているわ。 |
||
・・・やっぱり、そういうことだったか。 | ||
ふえ? ナニが「やっぱり」だったって言うですか? |
||
このヤマ・・・。 あたしの最初の見立て通りだったってことだよ。 |
||
え? 探偵は「自殺」という御見立てだったかと記憶していますが・・・。 |
||
札付きのならず者共を見ても、知らぬ存ぜぬを決め込めば、何事もなく家路につくだけだったろうに・・・。 被害者の正義心は、ソレを許さなかったんだね。 火中の栗を敢えて拾うが如き所業に出たのは、街の治安を憂えばこそ! しかも、相手は複数・・・並の肝の持ち主なら、まともに向き合うことさえ困難な行為だったはず。 しかし、そこは侍。 彼の胸に熱く燃え滾る士魂と言ってもよいサムライの心が、そんな不義を許さなかったんだよ! 彼は狼藉者共に、凛とした矜持を示したんだよ! 文字通り命の危険さえ顧みずにね!! 『武士道とは死ぬことと見つけたり』 という侍の境地が、そこにはあったんだよ! そんな彼が、覚悟もないクズの手にかかって死んだなんて誰が信じられると思うの? |
||
と、ということは、探偵っ!! | ||
そう! 彼は、この街の秩序のために、自らの命を捧げたんだよ! 彼の死は、彼自身の受け容れた覚悟の結果なんだよ! つまり、彼の意志によるものと言っても過言ではないんだよ!! |
||
命を賭してまで、街の治安を・・・そして彼らの更生を願った・・・そういうことなんですか!? 探偵っ!!! |
||
いたんだよ・・・クロちゃん・・・。 自らの命をもって他人の行為を諫めようとする侍が、この空の下にはまだ・・・。 |
||
胸が・・・いえ、私、目頭まで熱くなってきた気がします!! | ||
自らの犠牲さえ厭わない・・・自己犠牲という献身的な生き方・・・。 他者との関わり合いを避ける風潮の強まる現代社会において、自治会長という職責に、ここまで命を懸けて臨む人がいたなんてね。 まだまだ捨てたもんじゃないよ、日本も。 |
||
はいはい。 下らない御喋りは、それくらいにして貰いましょうか。 コッチも色々忙しいんでね! それじゃ、あんた達にも来てもらうわよ? |
||
ほえ? ナニか、あたしらにも用があるっての? |
||
流石に、もう御目溢しってわけにも、いかないわね。 公務執行妨害罪だけじゃなく、証拠隠滅罪に傷害罪の現行犯まで揃っちゃってんだからねぇ。 |
||
え、冤罪だお!! 無辜の市民を捕まえようとは、とんだ腐れがいるお!!! 市民のみなさぁーーんっ!! ここに冤罪を平気で犯す悪徳刑事がいるおぉぉぉぉっ!! たっけて、たっけてぇーーっ!! |
||
ちょっ!! ナニを口から出任せ言ってんのよっ! 現行犯に冤罪もナニもないわよ!! 柴田、ソッチ廻りこんでっ! とっ捕まえて、二度と現場に顔出さないように、しっかりお灸を据えてやるんだからっ!! |
||
うっさい、うっさい!! このクソ無能共がっ!! あ、あ、あたしに触るなっ!! お前らの無能が感染するやないかおっ!!! やめれ、やめれぇっ!! |
||
先輩っ!! 抵抗するみたいなので発砲しても、よろしいでしょうか? |
||
ええわけないやないかお!! そんな判断さえできないなんて、どないなっとんだお!! 皺のないツルツル脳味噌でもしてんのかお!? この脳筋ゴリラの無能無双がっ!! その拳銃で、自分のド玉でも撃てばええんだお!! 死ね、死ね、このクソ無能がっ!! (ダダダダダダっ) |
||
あああ、藤探偵ぃぃぃぃっ!! (ダダダダダダっ) |
||
・・・撃ち殺してやりたい・・・。 その気持ちを押し殺さざるを得なかった・・・私は警察官という自分の立場がもどかしいです・・・。 |
||
逃げ足だけは認めざるを得ないみたい・・・ね。 一度ならず二度までも取り逃がしてしまうなんて。 ソレはソレとして、ダメじゃないの、竹中巡査。 部外者を現場に乱入させてしまうなんて・・・。 |
||
返す言葉もないです。 以降、このような失態を犯さぬよう厳重警備を誓うです!! |
||
うんうん。 私も、貴女のような熱意のある警察官と一緒に捜査したいって気持ちでいるからね。 その為にも、あんな部外者にいいように現場を荒らされていてはダメよ! |
||
ハイです! 次、見掛けたら然るべき対応をとるようにするです! |
||
そうね。 射撃訓練もきちんとこなしているんでしょ? 次回見掛けたら、威嚇射撃を装って眉間にお見舞いしちゃっていいからね! |
||
はいっ!? | ||
先輩、ソレは・・・。 | ||
で、ですよね! 柴田刑事! ソレは流石に・・・ |
||
いえ、あの者は眉間への一撃だけでは平気な顔をしていそうな気がしてしまいます。 念のため、心臓にもダブルタップをしておくべきかと思います! |
||
流石、柴田っ! 柴田の言う通りだわ! 竹中巡査? 聴いていたわよね? |
||
・・・だ、だ、ダメだ、こいつら。 早くなんとかしないと・・・です!! |
||
~File2~「ラストサムライ」 完 |