大判昭和19年12月22日
(前回、みんなを待たせた反省を活かして、今回は登場人物だけ事前にチェックしてきたんだよね。
 あたし、こういうとこだけは抜け目ないんだよね。
 二シシシシシ。)

それじゃ、配役言うねー。

被告になった本人役を、ナカたん
本人役の人の叔父さん役を、光ちゃん
その叔父さんと取引した銀行役を、つかさちゃん

あ、あたし?
あたしは、ナレーターやるね。
ナレーター ・・・えーっと、たしか・・・。

光ちゃんは、ナカたんの叔父さんで・・・。
ナカたんが未成年だった頃から、ずっと実印を預かって、約15年にわたって代理行為をしてきた人・・・だったよね。

ナカちゃんの叔父
おたくの銀行から借入れをしたいんだけど、融資をしてもらえないかね?  
債務状況を見る限り、借入れが相当かさんでいるようですので、担保がないようですと、連帯保証人でも付けて頂けないと、当行としても融資には、応じかねます。
銀行 

ナカちゃんの叔父
連帯保証人かぁ。
甥(=ナカちゃん)には、他の銀行からの融資とかで、もう何度も頼んでいるからなぁ。また頼むというのもなぁ。いやはや、どうしたものだ、弱ったなぁ。 

ナカちゃんの叔父
ん? 待てよ?
・・・わしの手元には、甥が未成年の頃から預かってきた、あいつの実印があるじゃないか。
まぁ、考えたら、最近も何度も、わしは、あいつの代理人として連帯保証契約をやっとるわけだし、今回も、この実印を利用して、わしが、あいつの名前を借用書の連帯保証人欄に書いて、印鑑ついとけば万事OKじゃないのか? 
  あ、連帯保証人になる方は見付かりましたか?
銀行 

ナカちゃんの叔父
わしの甥が、連帯保証人になってくれることになったんでな。
それじゃ、連帯保証契約を交わして・・・と、融資をしてもらうよ? 
まぁ、当行としても、連帯保証人さえ頂ければ、安心ですからね。
あ、それじゃ、貸し金です。
お確かめ下さい。

銀行 
ナレーター しかし、叔父さんは銀行への返済をしなかったため、銀行は、連帯保証人の本人(=ナカたん)に、連帯保証契約に基づき、保証債務の履行請求をしました。

銀行
あなたの叔父さんが、借金の返済をして下さらないので、連帯保証人のあなたに返済を求めることにしました。
当行の貸し金を返済して下さい。 
な、な、なんのことです!?
私は知らないです!
おたくの銀行との間の連帯保証なんて聞いてないです!

甥(=本人)

銀行
あなたの叔父さんが、あなたの代理人として、連帯保証契約を締結されたのです。
これが、そのときの連帯保証契約書になります。 
叔父さんを、おたくとの契約に際して、代理人にした覚えはないです!
私には、そんなお金を返す義務はないです!

甥(=本人)

銀行
あなたがそう仰られても、叔父さんはあなたの実印を持ってみえましたからね。
それは当行としても、叔父さんは代理権を授与された、あなたの代理人だと思うのは当然でしょう?
まぁ、そんなわけですから、あなたが無権代理だと言われるのなら、当行は表見代理を主張するまでです。 
  あうあうあうあう。
甥(=本人)
   





 
終わった?  
  明智先輩がヒドいと思うです!
こういう役は、サルって相場が決まってるのに、なんで私がやるのよ!
(ヤバイ、ヤバイ!
 空気が悪いよ!? ここは、うまくなだめないと。)

いやぁ、表見代理の成立には、相手方の信頼が必要になるからさぁ。
そこは、やっぱり、見るからにいかがわしいあたしじゃ、務まらないんだよねぇ。
相手方が、あぁ、この人が代理人か、って信用するに足る人じゃないと、やっぱりダメだからさぁ。光ちゃんが適任だと判断したんだよね。
まぁ、そりゃあんたなんか来たら、信用するもナニもあったもんじゃないからね。
(くぅぅぅぅ。
 この金満豚がっ!
 ナニ抜かすかっ!!)

そうそう。
ホント、そうなんだよね。 
 
  私なら、藤さんなら何を置いても信用してしまいそうですけどね。 
つかさちゃんは、夏休みにでもレーシック手術受けてきた方がいいわよ?
もしくは、眼鏡の度を調整してきたら?
(その言葉、鏡の自分に言っとけ。 この金満豚がっ!!)

いやぁ、光ちゃん手厳しいなぁ。
あ、それじゃ、そろそろ判例検討しようか。 
争点を整理してくれるかな?
つかさちゃん。 
はい!

本件の争点は、叔父さんの行為に表見代理が成立するか?
ということです。

表見代理を定めた、それぞれの条文を確認すると・・・

代理権授与の表示による表見代理民法109条
代理権踰越(ユエツ)の表見代理民法110条
代理権消滅後表見代理民法112条

類型の場面を想定したものとなっています。

叔父さんは、代理権授与の表示はしていないわけですから、民法109条は置いておきまして・・・
110条112条の成立を検討するに。

110条は、現在代理人である人の、代理権外の行為を定めたものです。
叔父さんは、現在代理人ではないので、この類型にはあたりません

112条は、過去に授与した代理権の範囲内での無権代理行為を定めたものです。
叔父さんは、その代理権の範囲外の行為をしているので、この類型にもあたりません

そうすると、個別の条文を適用して、表見代理の成立を認めることは出来ないこととなります。

しかし、表見代理の制度趣旨は、外観法理ですよね。
①虚偽の外観、②外観作出の帰責性、③相手方の信頼、という要件が充足されるのであれば、
取引安全、相手方の信頼の保護、という見地から表見代理を認めて、その信頼を保護すべきではないか、ということになりませんか?
争点って言ってるじゃないの!
 「点」だよ? 「点」!!
 何、その長い「点」は! 最早ソレは「点」じゃなくって「線」じゃないの!? 争線なんて言葉、あたしは知らないよ?)

えーっと、つまり争点は、既に代理権が消滅してる叔父さんが、従前の代理権の範囲外の法律行為をしちゃったことが問題なわけだよね。

それで、このような場合に、表見代理が成立するのか? ってことだよね?
  そうなりますね。
最高裁の判断は、次の内容だね。
判例百選読めばいいからコレは楽勝なんだ・・・んみゅっ!?)

(こ、こ、これは・・・
 最高裁じゃねぇお。大審院だお・・・。
 よ、よ、読めない・・・ど、ど、どうしよう・・・)

(よし・・・
 ココは、召喚獣・金満豚に頼むしかないっ!!)

あぁ、じゃあ、判決文は、光ちゃんに読んでもらおうかな?
今、最高裁の・・・とか言ってなかった?
この判例は、大審院判例よ? 大審院連合部判決なんだから、最高裁の・・・なんて言わないでよ、ナカちゃんが誤解しちゃったら、どうするのよ!

どうせ、判決文読めないから、私に振ったんでしょ?
図星でしょ?
まぁ、いっか。読んであげるわよ。
 若干書き下し文なので、間違いがあるかも知れませんが、御容赦下さい。)

代理権の消滅後、従前の代理人が代理人と称して従前の代理権の範囲に属せざる法律行為を為したる場合に於(オイ)ては、素(モト)より上記の規定(=112条を適用することを得ず。

 (シカ)れども、今若(モ)し其の相手方に於て、過失なくして代理権の消滅を知らざるものなるときは、自称代理人に従前の代理権が今仍(イマナオ)存続することを信ずると共に、斯(カカ)る代理権ある以上、当該の事項に付(ツイ)ても亦(マタ)代理権を有するものと信ずることあるべく、�其の相手方が斯(カ)く信ずるに付(ツキ)正当の理由を有する場合に於ては、上記の規定を適用すべき場合と比較し、相手方の保護に関して其の取扱を異にすべき理由を発見せず。

 之加(コレニクワエテ)民法110条は、或(アル)代理権を有する代理人が、権限外の行為を為したる場合に於ても、其の相手方に於て正当の理由を有する限り、其の相手方を保護するが故に、上記両条の法意より推論するときは、当該代理人の従前の代理権の消滅に付(ツキ)、善意無過失の相手方が、上記代理人の現に為したる行為に付、其の権限ありと信ずべき正当の理由を有する場合に於ても亦、均(ヒト)しく相手方を保護するを正当とせざるべからず。

として、

(コレ)を要するに、代理権の消滅後、従前の代理人が仍(ナオ)代理人と称して従前の代理権の範囲に属せざる行為を為したる場合に於ても、若し右代理権の消滅に付善意無過失の相手方に於て諸般の事情に稽(カンガ)え、自称代理人の行為に付、其の権限ありと信ずべき正当の理由を有するに於ては、前掲両規定の精神に則り、之を類推適用して当該の代理人と相手方との間に為したる行為に付、本人をして其の責に任せしむるを相当とすべし

として、まず、代理権『消滅後』の代理行為であるという点を捉えて、112条代理権消滅後の表見代理の法意を類推し、次に、従前の代理権の『範囲外』の代理行為であるという点を捉えて、110条代理権外の表見代理の法意を類推しているのよね。
  明智先輩、難しい漢字をスラスラ読まれるんですね。
スゴイです!
(くぅぅぅぅ。
 判例百選は、なんで書き下し文にしてくれないのかなぁ。
 こんな難しいの読めるわけないじゃないの!
 最後は、知ったかして判決文読んで、華麗に終わろうと思っていたのに、当てが外れちゃったよぉ、もぉっ!) 

あれ?
そう言えばナカたんは、いいの?
叔父さんの行為に表見代理が成立しちゃったら、ナカたんが叔父さんの借金の連帯保証人として、返済せんといかんのだけど、そのことには問題ないの?
  あぁ、そうでした。
明智叔父さんはヒドい人です!
わざわざ、私を悪者に仕立てようとしないでよね!
いつも、あたしに損な配役押し付けてくれちゃってるからね!
たまには、仕返ししとかないといけないでしょ?

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