最判平成18年7月20日 | ||
ソレじゃ、久し振りの判例検討ってことで、ちょっと趣向を変えて、実際の判決文から事実関係を丁寧に読み取って、本件事案を理解するってことにしましょうか。 | ||
え? こマ?(=これマヂ?の略) |
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ソレは何語なのよ? 検討判例(最判平成18年7月20日)の最高裁判決では、先ず『原審の適法に確定した事実関係の概要』が述べられているから、事実関係を読み取ることは、そんなに大変なことではないわよ。 判決文を、そのまま引用掲載するから、どのような事実関係にあるのかを、先ず理解することにしましょうか。 |
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『(1)上告人(X)は,ブリ,ハマチ,カンパチ等の養殖,加工,販売等を業とする株式会社である。 (2)上告人は,A(以下「A」という。)との間で,平成12年6月30日,Aを譲渡担保権者,上告人を譲渡担保設定者とする次の内容の集合動産譲渡担保契約を締結し,占有改定の方法により目的物を引き渡した。 ア 譲渡担保の目的は,串間漁場(宮崎県串間市沖合,漁業権公示番号区第53号),黒瀬漁場(同第54号)ほかの漁場のいけす内に存する上告人所有の養殖魚の全部とする。 イ 被担保債権は,養魚用配合飼料の売買取引によりAが上告人に対して現在及び将来有する売掛債権等一切の債権とし,極度額を25億円とする。 ウ Aは,上告人が上記目的物を無償で使用し,飼育生産管理し,通常の営業のために第三者に適正な価格で譲渡することを許諾する。 エ 上記ウにより第三者に譲渡された養殖魚は譲渡担保の目的から除外される。 上告人は,上記ウに基づき目的物を搬出したときは,速やかに新たな養殖魚をいけすに搬入し,補充しなければならず,上告人が補充した養殖魚は,当然に譲渡担保の目的を構成する。 (3)上告人は,B(以下「B」という。)との間で,平成12年12月7日,Bを譲渡担保権者,上告人を譲渡担保設定者とする次の内容の集合動産譲渡担保契約を締結し,占有改定の方法により目的物を引き渡した。 ア 譲渡担保の目的は,黒瀬漁場のいけす内の養殖魚全部とする。 イ 被担保債権は,Bが上告人に対して現在及び将来有する一切の債権とし,極度額を10億円(元本)とする。 ウ Bは,上告人が目的物をその当然の用法に従い無償で使用することを許諾し,上告人は善良なる管理者の注意義務をもって管理する。 エ Bが目的物につき担保権を実行する場合には,上告人に対し,保管替え又は処分のために目的物の現実の引渡しを求めることができる。 (4)上告人は,C(以下「C」という。)との間で,平成15年2月14日,Cを譲渡担保権者,上告人を譲渡担保設定者とする次の内容の集合動産譲渡担保契約を締結し,占有改定の方法により目的物を引渡した。 ア 譲渡担保の目的は,串間漁場,黒瀬漁場ほかの漁場のいけす内に存する上告人所有の養殖魚の全部とする。 イ 被担保債権は,上告人とC間の商取引及び金融取引に基づく債権とし,極度額を30億円とする。 ウ 上告人は,善管注意義務をもって目的物を通常の営業方法に従い販売する。 その代金はCの承諾を得て上告人の運転資金に供することができる。 (5)上告人は,被上告人との間で,平成15年4月30日,〔1〕上告人の所有する養殖魚(以下「原魚」という。)の被上告人への売却,〔2〕被上告人から上告人への原魚の預託,〔3〕買戻しの各要素から成る次の内容の契約(以下「本件契約1」という。)を締結した。 ア 原魚の売却 上告人は,被上告人に対し,次のとおり,その所有する原魚を預託用原魚として売却し,被上告人はこれを買い取る。 (ア)売却の目的物は,黒瀬漁場内の特定の21基のいけす内のブリ13万5212尾とする。 (イ)売買単価は,1kg当たり620円とする。 (ウ)売買代金は,上告人の被上告人に対する同日までの債務に充当(対当額により相殺)するものとする。 (エ)預託用原魚の所有権は,同日,上告人から被上告人に移転するものとし,各対象いけすに被上告人が所有者であること及び後記預託期間を表示した明りょうな標識を設置するものとする。 イ 原魚の預託 被上告人は,上記のとおり買い取った預託用原魚の飼育管理を,次のとおり,上告人に委託し,上告人はこれを受託する。 (ア)預託期間は,同日から平成16年4月30日までとする。 (イ)上告人が被上告人から預託された原魚を飼育する際に発生する経費は,上告人が被上告人から下記のとおりこれを買い戻すときに精算する。 ウ 買戻し 上告人は,上記のとおり預託された原魚を,次のとおり,被上告人から買い戻し,これにフィレ加工を行い,被上告人に販売する。被上告人はこれをDに販売する。 (ア)買戻期間は,平成15年10月1日から平成16年4月30日までとする。 (イ)買戻代金は,上記アにより売り渡した預託用原魚の金額に経費を加算して算出した金額とする。 (ウ)買戻代金の支払は,上告人から被上告人への加工販売代金との精算をもって行う。 エ その他の約定 (ア)本件契約1の期間は,平成15年4月30日から平成16年4月30日までとし,期間満了日に被上告人所有の預託用原魚が残留する場合,契約を継続する。 (イ)上告人につき,破産等の申立てがあったときは,被上告人は,契約期間中であっても,本件契約1を解除することができる。 (ウ)上告人が支払不能の場合,被上告人は原魚を第三者に売却する権利を有するものとする。 (6)上告人は,被上告人との間で,平成15年4月30日,上告人の所有する養殖ハマチを,次のとおり,被上告人に売却する旨の契約(以下「本件契約2」という。)を締結した。 ア 目的物は,上告人の所有する養殖ハマチ計27万2566尾とし,販売単価は1kg当たり650円とする。 イ 被上告人は,第三者への売却を目的として,同年7月31日までにすべての目的物をいけすから移動するものとする。上告人はすべての目的物が移動するまで被上告人に代わり飼育を行うものとする。 (7)原判決別紙物件目録1記載の養殖魚(以下「本件物件1」という。)は本件契約1の目的物,同目録2記載の養殖魚(以下「本件物件2」という。)は本件契約2の目的物となったものであるが,本件物件1及び2(以下,併せて「本件各物件」という。)は,A,B及びCの上記各譲渡担保(以下「本件各譲渡担保」という。)の目的物ともなったものである。 (8)上告人は,平成15年7月30日,東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てをし,同年8月4日,同開始決定がされた。』 |
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うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! | ||
まぁ、サルが騒ぐのも理解できるところだから、今回は大目に見てあげるわ。 私達も、勉強で判例を読む機会が多いとは言っても、原判決文にあたって読むことは多くはないし、またなかなかその時間も取れないからね。 というわけで、今回は、ちょっと趣向を変えて、原判決文から事案の概要を把握してみようって思ってね。 上記(1)~(8)の事実関係の概要から整理しておきたいのは、次の点になるかしらね。 ① XとAの間の契約の内容とは ② XとBの間の契約の内容とは ③ XとCの間の契約の内容とは ④ XとABC間の各契約は、どのような関係に立つか ⑤ XとYの間で結ばれた契約はどのようなものか (※ XY間の契約は2つあるので、それぞれの内容について整理) 先ず、ここまでを整理してみることにしましょうか。 |
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あ・・・アレやろう。 Xや、ABCに、あたしや、チイを振ろう。 なんか、イメージが全然湧かない・・・。 |
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テストでは、登場人物はアルファベットや、甲乙表記になるから慣れておくといいかな、って思うんだけど・・・ソレじゃ、そうする? | ||
うんうん。 |
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それじゃ、Xはサル。 Yは、ナカちゃん。 Aを、つかさちゃん。 Bを、私。 Cを、チイちゃんってことにしましょうか。 |
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あ・・・あたし、BかCがいいんだけど・・・。 | ||
じゃあ、オネーちゃん、チイと交代しようよ。 チイがXになるよぉ。 オネーちゃんがCね。 (※ つまり、結果としては・・・ Xは、チイ。 Yは、ナカ。 Aは、つかさ。 Bは、光。 Cは、サル。 という割振りになります。) |
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うんうん。 (よしよぉぉぉしっ!! Xは色々面倒っぽいかんね! こんな配役はゴメンだお!)。 ソレじゃ、それぞれが、今、光ちゃんが言った整理すべき点について言うことにしようか。 先ずは整理点①からだね。 Xは・・・チイだから・・・。 えーっと、先ず、チイはナニをやっている人なの? |
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人っていうか、Xは法人だけどね。 チイ(X)は、ブリ・ハマチ・カンパチ等の養殖、加工、販売等をしている株式会社だよぉ(事実(1)から)。 |
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そうですね。 そして、私がAですね。 私(A)とチイちゃん(X)との間で締結された契約は、集合動産譲渡担保契約になりますね。 もう少し詳しく言うならば、その中身は極度額を設定した根譲渡担保ということになるでしょうか(事実(2)から)。 |
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ふむふむ。 そんで、次は整理点②の光ちゃんのBの契約だね。 チイ(X)と光ちゃん(B)との間の契約は? |
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私(B)の契約も、集合動産譲渡担保契約ね(事実(3)から)。 細かい事実認定をすると、目的物となる漁場がつかさちゃん(A)とは異なるんだけれど、まぁ、そのあたりは省略しておくわね。 (※ 本件では漁場は、串間漁場と黒瀬漁場とがあるため) |
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ふむふむ。 整理点③は、あたし(C)とチイ(X)の契約か。 コレも集合動産譲渡担保契約だね(事実(4)から)。 (・・・で、いいんだよね?) |
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そうなるわね。 それじゃ、整理点④・・・XとABC間の各契約は、どのような関係に立つか、についても、ついでに答えてよ。 |
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いや、ソレは全ての契約の当事者であるチイ(X)の仕事でしょ。 ホラ、チイ、答えんしゃい。 |
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簡単だよぉ。 チイ(X)とつかさおねーちゃん(A)との契約締結は、平成12年6月30日。 これに対して、光おねーちゃん(B)との契約締結は、平成12年12月7日、オネーちゃん(C)との契約締結は、平成15年2月14日なんだよね。 つまり、ABCは、それぞれ契約締結日の先後があるから、先順位と、後順位の集合動産譲渡担保契約者って関係に立つね(事実(2)~(4)から)。 |
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そうね。 ソレじゃ最後に、ナカちゃん(Y)ね。 整理点⑤のXとYの間で結ばれた契約はどのようなものか、について答えてもらえる? |
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えーっと、随分と細かく契約内容があるのですが、ブリとハマチとで2つの契約が交わされているです。 ブリについては、チイちゃん(X)の所有する養殖魚(以下、「原魚」)の売買と、飼育預託等に関する契約(「本件契約1」)を、ハマチについては、売買契約(「本件契約2」)を締結しているです! |
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そうね。 ここまでの事実認定を図にすると、下の図になるわ。 |
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X:養殖業者。串間漁場と黒瀬漁場の原魚を譲渡担保等の目的物に供する。 A:25億をXに貸付け、譲渡担保権者となる(①平成12年6月30日)。 占有改定受けている(対抗要件具備)。 B:10億をXに貸付け、譲渡担保権者となる(②平成12年12月7日)。 占有改定受けている(対抗要件具備)。 C:30億をXに貸付け、譲渡担保権者となる(③平成15年2月14日)。 占有改定受けている(対抗要件具備)。 Y:Xとの間で、本件契約1及び本件契約2を締結(④平成15年4月30日)。 |
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うわ・・・めっちゃ複雑な権利関係じゃないの・・・。 | ||
そうね。 実際の試験問題等では、事実から、その事実が法的に、どのような意味をもつものなのかを認定して、登場人物相互の関係を図に落とし込んで検討するってことになるからね。 まぁ、ここまで詳細な事実関係の読み取りは不要だとは思うけれど、普段から慣れておくことは大事だと思うわ。 原審の認定した事実によれば、事実(7)、(8)からX(チイちゃんの会社)は倒産してしまったわけね。 次に検討すべき点としては、 ①この裁判(最高裁)で原告となったナカちゃん(Y)が、チイちゃん(X)に対して訴訟を提起したわけなんだけど、ナカちゃんのチイちゃんに対する請求の内容は、どのようなものか。 そして、その請求は、法律上の根拠として何に基づく請求だったのか ②被告となったチイちゃん(X)は、どのような反論をしたのか ③原審(高裁)は、ナカちゃんとチイちゃん(YとX)の契約を、どのようなものと判断したのか ④その上で、原審は、ナカちゃん(Y)の訴えに対して、どのような判断を下したのか ということね。 ①については、ナカちゃん(Y)は、本件契約1および2は、売買契約であることから、本件契約によって、本件各物件の所有権を取得したとして、所有権に基づく本件物件の引渡しを請求したのね(事実(6)から)。 |
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私は、さっき整理点⑤で、本件各契約を売買契約だと思ったわけですから、その主張になると思うです! | ||
そうよね。 それじゃ次に②について述べるわね。 ところが、この①のナカちゃん(Y)の主張に対して、被告のチイちゃん(X)は、本件契約1及び2は、譲渡担保契約と解すべきである、と主張したのよね(事実(7)から)。 そして、本件各契約に先立って、A、B、Cが、本件各物件を含む養殖魚については、それぞれ譲渡担保の設定を受け、対抗要件を備えている以上、ナカちゃん(Y)は、即時取得の要件を満たさない限り、本件各物件の所有権を取得することは有り得ない、と反論してきたのね。 |
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おおう。 チイ、おま、なんてこと言い出すんだお。 |
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チイじゃないよぉ。 事案のXだよぉ。 |
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XYそれぞれの主張内容を確認したところで、検討点③、④について、まとめるわね。 この両者の主張に対して、原審(福岡高等裁判所宮崎支部)は、次のような判断を示したわ。 『3 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容した。 (1)本件各契約は,上告人(X=チイちゃん)を売主,被上告人(Y=ナカちゃん)を買主とする売買契約を本体とする契約であり,これを譲渡担保契約と認めることはできない。 (2)商品の集合動産譲渡担保契約において,譲渡担保設定者は,独自の判断において,目的物たる商品を通常の営業の範囲内において第三者に売却する権限を留保していると解すべきであり,上告人とA及びCとの間の各譲渡担保契約においても,この事理を確認した条項が定められているところである。 このような集合動産譲渡担保契約においては,譲渡担保設定者に,目的物の売却によりその所有権を第三者に確定的に移転取得させることができるという物権的地位がとどめられていると解さざるを得ない。 そうだとすると,被上告人は,上告人が有する上記物権的地位に基づき,本件各物件の所有権を承継取得したというべきである。本件各物件につきA,B及びCのために本件各譲渡担保が設定されているとしても,被上告人の所有権に基づく引渡請求を妨げる抗弁となるものではない。 したがって,被上告人の請求は理由がある。』 |
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ということは、私の主張が認められたんですね! | ||
あ・・・竹中さん、喜ぶのは早いです。 これは原審の判断なので・・・。 |
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そうね、この原審の判断に対し、最高裁は 『是認することができない』 と、しているのよね。 このような高裁の判断を、最高裁が覆しているような事案は、法律家の間でも意見の分かれる難しい問題といえるわ。 まぁ、だからこそ論点となるわけなんだけど・・・。 それじゃ、気になる、最高裁が、そのような判断をした理由がナニかってことよね。 ここからは、最高裁の判断の理由を見ていくことになるわ。 |
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ううう・・・・。 | ||
『4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)本件物件1について 前記確定事実によれば,本件契約1においては,上告人から被上告人への原魚の売却と同時に,被上告人から上告人への原魚の預託が行われるため,契約時に目的物に対する直接の占有は移転せず,上告人が原魚の飼育管理を継続して行うこととされていること,当初の原魚の売買代金は,被上告人の上告人に対する既存の債権に充当するものとされており,現実の代金の授受は行われないこと,原魚を現実の商品として第三者(D)に販売しようとする際には,いったん上告人が被上告人から買い戻した上,改めて上告人から被上告人に対し,加工品として販売するものとされており(上記1(5)ウ),実質的には,この加工販売代金との精算をもって,被上告人の上告人に対する既存の債権の回収が行われることになること,上告人が支払不能になった場合には,被上告人が原魚を第三者に売却することで,上記債権の回収が図られることになることが明らかである。 これらの点に照らせば,本件契約1は,その目的物を上記債権の担保とする目的で締結されたものにほかならない。 そうすると、本件契約1は,再売買が予定されている売買契約の形式を採るものであり,契約時に目的物の所有権が移転する旨の明示の合意(前記1(5)ア(エ))がされているものであるが,上記債権を担保するという目的を達成するのに必要な範囲内において目的物の所有権を移転する旨が合意されたにすぎないというべきであり,本件契約1の性質は,譲渡担保契約と解するのが相当である。 したがって,本件契約1が真正な売買契約であることを前提に,本件物件1の所有権に基づく引渡請求(取戻権の行使)を認めることはできない。 ところで,被上告人の主張が,本件契約1が譲渡担保契約であれば,譲渡担保の実行に基づく引渡しを請求する趣旨(別除権の行使)を含むものであるとしても,以下に述べるとおり,これを肯認する余地はない。 すなわち,本件物件1については,本件契約1に先立って,A,B及びCのために本件各譲渡担保が設定され,占有改定の方法による引渡しをもってその対抗要件が具備されているのであるから,これに劣後する譲渡担保が,被上告人のために重複して設定されたということになる。 このように重複して譲渡担保を設定すること自体は許されるとしても,劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合,配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり,先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず,その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない。 このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできないというべきである。 また,被上告人は,本件契約1により本件物件1につき占有改定による引渡しを受けた旨の主張をするにすぎないところ,占有改定による引渡しを受けたにとどまる者に即時取得を認めることはできないから,被上告人が即時取得により完全な譲渡担保を取得したということもできない。 よって,本件物件1の引渡しを求める被上告人の請求は理由がないというべきであり,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 (2)本件物件2について 本件契約2が譲渡担保契約であると解すべき根拠はないから,以下,これが真正な売買契約であることを前提に,被上告人が本件契約2に基づいて本件物件2の所有権を取得したといえるかどうか,検討する。 構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては,集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから,譲渡担保設定者には,その通常の営業の範囲内で,譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており,この権限内でされた処分の相手方は,当該動産について,譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができると解するのが相当である。 上告人とA及びCとの間の各譲渡担保契約の前記条項(前記1(2)ウ,エ,(4)ウ)は,以上の趣旨を確認的に規定したものと解される。 他方,対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合,当該処分は上記権限に基づかないものである以上,譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り,当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないというべきである。 本件においては,本件物件2が本件各譲渡担保の目的である集合物から離脱したと解すべき事情はないから,被上告人が本件契約2により本件物件2の所有権を承継取得したかどうかを判断するためには,本件契約2による本件物件2の売却処分が上告人の通常の営業の範囲内のものかどうかを確定する必要があるというべきである。 この点を審理判断することなく,本件物件2の引渡請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 5 論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。 そして,被上告人の請求のうち,本件物件1の引渡しを求める部分については,これを棄却した第1審判決は正当であるから,同部分についての被上告人の控訴を棄却し,本件物件2の引渡しを求める部分については,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。』 と述べているわね。 |
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・・・ちょ・・・今更なんだけど、本判決の争点を言ってくんないかな? | ||
あ、そうね、争点について、まとめてなかったわね。 ソレじゃ、争点を述べて、争点に対する最高裁の判断を、まとめることにするわね。 |
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先にやってくれないとなぁ。 | ||
ゴメン、ゴメン。 本件の争点は、次の2点になるわ。 ①後順位譲渡担保権者は、先順位譲渡担保権者の利益に反して私的実行ができるのか? ②譲渡担保権者が『通常の営業の範囲』を超える売却処分をした場合、その譲受人は、所有権を承継取得することができるのか? の2点ね。 最高裁は、チイちゃん(X)とナカちゃん(Y)との間で結ばれた本件契約1、2を、それぞれ別の性質の契約として捉えているわ。 すなわち、本件契約1の性質は、譲渡担保契約。 本件契約2の性質は、売買契約とね。 そして、それぞれの契約ごとに、Yの主張の肯否について判断しているのね。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
先ず、本件契約1からね。 本件契約1については、売買契約ではなく譲渡担保契約として認定している以上、売買契約を前提としてナカちゃんが主張する所有権に基づく引渡請求は認められない、ということになるわよね。 そうだとすると、本件契約1は、チイちゃん(X)が主張するように本件契約1に先立つ(対抗要件を具備した)譲渡担保契約がABCとの間で既に交わされている以上、ナカちゃん(Y)の譲渡担保権は、後順位の譲渡担保権ってことになるわけよね。 最高裁は、このような重複する譲渡担保権の設定自体は認めているわ。 但し、その場合において、争点①の問題、すなわち、後順位譲渡担保権者が、先順位譲渡担保権者の利益に反して私的実行ができるのか、という問題については 『劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合,配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり,先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず,その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない。 このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできない』 として、本件物件の引渡しを認めなかったわけね。 |
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な、成程です・・・。 | ||
次に争点②ね。 争点②の譲渡担保権者が『通常の営業の範囲』を超える売却処分をした場合、その譲受人は、所有権を承継取得することができるのか、という問題に対しては 『対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合,当該処分は上記権限に基づかないものである以上,譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り,当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないというべきである。』 と述べているわね。 そして、 『本件においては,本件物件2が本件各譲渡担保の目的である集合物から離脱したと解すべき事情はない』 ことから、ナカちゃん(Y)の承継取得の肯否を判断するために、チイちゃん(X)のナカちゃん(Y)への売却が『通常の営業の範囲』内のものかどうかについて審理すべきだとして、この部分について破棄差戻しを命じているわけね。 とまぁ、以上が、最高裁が原審判決を否定した理由ということになるわね。 |
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ふぅぅぅぅぅ・・・お、終わり? | ||
丁寧な判例検討でしたね。 いつもと違いましたけど、コレはコレでいいですね。 |
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うんうん。 チイは楽しかったよぉ。 |
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そう? じゃあ、次回の判例検討も、こんな感じでやっちゃう? |
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こマ!? | ||
だから、ソレは何語なのよ! |