最判平成8年10月31日 
それじゃ、最判平成8年10月31日百選Ⅰ 6版76事件 7版73事件)の検討を始めるわね。

まずは、事案の再現から。いつものように配役するわ。

問題となった建物と関係して・・・

共有者の1人である姉サル
共有者の1人であるサルの夫つかさちゃん
共有者の1人であるサルの妹チイちゃん
サルとつかさちゃんとの間の子供3人を、サルの得意の分身でこなしてもらおうかしら。
裁判所は、ナカちゃんね。
は、ナレーターを務めるわ。 

ナレーター
本件物件は、3筆の土地と、その土地の全体にまたがって建てられた1棟の建物からなっていました。
この本件物件は、3人の共有者の所有となっていました。
3人の共有者とは、姉と、その夫。そして、妹の3人でした。
3人は、共同して本件物件を買ったことにより、共有になっていたのです。

まぁ、3人の共有なんだし、持分は、それぞれ3分の1ずつでいいよね。 
  ですね。
姉の夫
オネーちゃん、チイは、この家に住んで薬局屋さんをやろうと思うよ! 

ふーん、まぁ、あたしらは別に住居があるんだし、チイはチイで、やりたいことやればいんじゃない? 
  そうだよね!
チイ、ガンバるねっ!


ナレーター
その後、姉(=サル)の夫(=つかさちゃんが)が死亡します。
姉と夫との間には、3人の子供がいました。
であるつかさちゃんの持分は、相続により、配偶者であるサルと、子供達3人とに、それぞれ相続されました。

この相続により、本件物件の各共有者の持分は、次のとおりとなりました。
サル   :18分の9
チイちゃん:当初のままの3分の1(=18分の6)
サルとつかさちゃんの子供達:1人それぞれ18分の1(×3人)

 相続計算については割愛、算出結果のみ表示) 

うーん、チイは薬局やっとるし、あの物件に住んでいるわけなんだけど、あたしは、別に住居があるわけだし、あの家に住まなければならない理由もないんだよね。
どう思う? 子供達? 
オカーさんの言うとおりだお!(×3)
姉の子供ら

うんうん。そうだよね。
というわけで、チイっ!
オネーちゃんは、共有者として、分割請求をするお!(256条) 
ええ?
で、で、でも、分割しようにも、建物なんて分割できないよ!


じゃあ、どうしろって言うんだお! 
オネーちゃん達は、他に住む家があるから、いいだろうけど、チイは、この家(本件物件)に住んでいるんだよ?
それに、薬局屋さんもやっているわけだし、無茶言わないでよ! 

はいはい、わかりましたぁ。
それじゃ、協議したけど調わなかったってことだから、裁判所に分割等を求める訴えを提起しまーす。 


裁判所
一審です!  
分割協議が調わなかったので、258条2項の定めに従い、この土地建物を競売にかけて、そのお金を分割するってことで、どうでしょう? 裁判長! 

裁判所
258条2項の規定があるです!
協議が調わないときは競売を命じるです!
そんなの困るよ!
だって競売にかけられたら、チイは、この家を出て行かなければならなくなるよ!

そんなの知らないよ!
258条には、裁判所による共有物の分割は、現物分割競売しかないんだもん。
チイが、現物分割が無理だって言うのなら、競売ってことになるのは当たり前じゃないの!

ですよね? 裁判長? 


 裁判所
け、け、競売を命じるです!
えーんっ!!
困るよ、困るよっ!!
控訴しないとっ!!
あのね、あのねっ!! それじゃチイは価格賠償をするよ!
それで、いいでしょ?


裁判所
二審です!

価格賠償ですか? です!
ということは、本件物件をチイちゃんの単独所有とした上で、藤先輩らに対して、持分価格に応じた賠償をするということですね? です!
それなら認めるです!

チイちゃんの主張を容れるです!
ちょ、ちょっ!!
遺産分割でもない共有物の裁判による分割で、そんなのありなの

現物分割にあたって、持分価格を超える現物を取得した場合には、その取得した共有者に超過分の対価を支払わせて過不足を調整するって判例最大判昭和62年4月22日)は聞いたことあるけれど、そんな話は聞いたこともないよ!
258条2項の定めのとおりにやってよっ!!

もういいっ!! あたしは上告するよ!!

  えーーーんっ!!
もうやめてよぉ。
オネーちゃぁ~んっ!!

   





 
はーい、お疲れ様でしたぁ。
私、せっかくの藤さんとの夫婦役だったというのに「ですね」しか言ってません・・・。
クロちゃんの旦那さんの役は、登場しただけで、すぐ死亡しちゃう役だったからね。 
判決が気になるです!
早く聴きたいですっ!
まぁまぁ、先に本件の争点の確認だけさせてもらうわね。
まぁ、概ねワカッテいるとは思うけれど、本件の争点は次のものよね。

258条の規定は、裁判による共有物分割においては、現物分割を原則とし、現物分割が不可能、または、現物分割によって著しく価格減少のおそれがある場合には競売による分割を定めているわけよね。
これに対して、チイちゃんは価格賠償による分割を求めたわけなんだけど、遺産分割ではない共有物の裁判による分割でも、そのような方法は認められるのか、ってことが争点になるわね。
オネーちゃんは、別に家もあるんだし、なんでチイに意地悪するんだろ。
事案再現のあたしね。
・・・ってか、考えてみたら、この事案の姉妹もなかなかのものだね、姉妹で最高裁まで争ったわけだもんね・・・。
最高裁の判断はつぎのものね。

民法258条2項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規定している。

 ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。

 したがって、
右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない

 そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる(最大判昭和59年4月22日)のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。

 したがって、これと同旨の原審の前記の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の前記大法廷判決は、価格賠償をもって現物分割の場合の過不足を調整することができる旨を判示しているにとどまり、右の判断はこれに抵触するものではない。
 この点に関する論旨は採用することができない。

 次に、本件について全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情が存するか否かをみるに、本件不動産は、現物分割をすることが不可能であるところ、チイちゃんにとってはこれが生活の本拠であったものであり、他方、サルらは、それぞれ別に居住していて、必ずしも本件不動産を取得する必要はなく、本件不動産の分割方法として競売による分割を希望しているなど、前記一の事実関係等にかんがみると、本件不動産をチイちゃんの取得としたことが相当でないとはいえない。

 しかしながら、前記のとおり、全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されるのは、これにより共有者間の実質的公平が害されない場合に限られるのであって、そのためには、賠償金の支払義務を負担する者にその支払能力があることを要するところ、原審で実施された鑑定の結果によれば、上告人ら(=サルら)の持分の価格は合計550万円余であるが、原審は、チイちゃんにその支払能力があった事実を何ら確定していない。

 したがって、原審の認定した前記一の事実関係等をもってしては、いまだ本件について前記特段の事情の存在を認めることはできない。

 そうすると、本件について、前記特段の事情の存在を認定することなく、全面的価格賠償による共有物分割の方法を採用し、本件不動産をチイちゃんの単独所有とした上、チイちゃんに対して上告人ら(=サルら)の持分の価格の賠償を命じた原判決には、法令の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるというべきであり、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

 論旨は右の趣旨をいうものとして理由があるから、原判決中、共有物分割請求に関する部分は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。


としているわね。
ほほう。
最高裁め。
なかなか柔軟な対応をしてくれとるわ。
結構、結構。
また、おかしなキャラになっているです・・・。
最高裁は、裁判による共有物の分割について定めた民法258条
規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない
とし、
共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される
と判断したわけね。

そして、特段の事情の存在とは、具体的には
共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当である』こと
そして、
その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる』こと

点が、この特段の事情を認める要件となっているわけね。 
なるほど、なるほど。

については、
本件不動産は、現物分割をすることが不可能であるところ、チイちゃんにとってはこれが生活の本拠であったものであり、他方、サルらは、それぞれ別に居住していて、必ずしも本件不動産を取得する必要はなく、本件不動産の分割方法として競売による分割を希望している
ところ、チイは、実際に、本件物件で生活しとるのに対し、あたし達には別の住居があるわけだもんね。
しかも、あたしらの主張は、家を寄越せっていうんじゃなくって、競売にしていいから、持分を寄越せっていうもんなんだから、チイに本件物件の所有権を認めてもいいってことになるわけね。

については
原審は、チイちゃんにその支払能力があった事実を何ら確定していない
とあるから、肝心のチイの支払能力の有無がわからないってことね。
そうだよね、チイが本件物件の所有権を取得したのに、あたしらがチイから十分な賠償を得られないっていうんじゃ、確かにソレは不公平だもんね。
そういうことね。
最高裁は、258条趣旨から、条文解釈をし、当事者にとって妥当な結論を導いているわけよね。

共有の問題を扱った百選判例の中でも、個人的にお気に入りだから、今回検討判例にしちゃったわ。
まぁ、あたしとしても持分を、しっかりお金でもらえるなら損はないしね。
チイは、ちゃんと代償金をオネーちゃんに払うんだお? 
  幾ら払えばいいの?
  今、幾ら持っとるんだお?
  えーっとね・・・3びゃく・・・あ、4ひゃく3じゅう円あるよ・・・。
そっか。チイの支払能力は十分あるみたいだね。
オネーちゃんは安心したお。
じゃあ、オネーちゃんらの持分は、合わせると18分の12になるから、ザッと280円をオネーちゃんに払わないとダメだね。 
  そ、そうだね。
(ゴソゴソ)はい。280円。
確かに渡したからね!
  よしよぉーーしっ!
ちょっとっ!
・・・ソレ、なんのお金よ、一体。 
あたしからチイへの本件物件の所有権移転登記に対する、チイからあたしへの持分に対する代償金だお。
よし、代償金は受け取ったお。 
じゃあじゃあ、チイはコレで、安心して家に住めるんだよね!
  だおだお。
・・・その安心して住める家ってドコよ? 
あたしとチイの住んでいる部屋に決まっとるじゃまいか。
チイ。
今日から、チイが、あたし達の部屋の主だかんね。
よかったね。
  わーい、わーいっ!!
・・・やり取りを最初っから聞いていても、チイちゃんがナニに喜んでいるのか、サッパリ、ワカラナイです・・・。

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