最高裁昭和40年3月4日第一小法廷判決 | ||
例によって事実関係は簡略化することにするわね。 それじゃ、判例検討の配役から。 紛争の起きた土地に関係して・・・ 自己所有建物を移築・補修工事していた人を、サル。 土地の所有権を主張し、工事を妨害しようとした人を、チイちゃん。 私は、ナレーターってことで行くわね。 |
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建物所有者 |
狭いながらも楽しい我が家ぁ~。 ルンルン、あたしの家を、この土地に移築して、補修してぇ~と。 早く住めるようになぁ~れっと。 |
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ちょっとナニしてるのっ! その土地は、チイの所有する土地だよっ! ナニ、勝手に家なんか建てているのっ! 早く工事をやめて、そんな家は、チイの土地から撤去してよっ! |
土地所有者 |
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建物所有者 |
工事の邪魔するのは、やめてくれないかなぁ。 そんなことされたら、家が建てられないじゃないの。 |
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だから、チイの土地なんだから家なんか建てないでって言ってるんだよ! 工事の邪魔をするのは、当たり前じゃないの! どうして工事をやめないの!? |
土地所有者 |
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建物所有者 |
もうっ! 工事の妨害するのは、やめてくれないかなぁ? 仕方ない。言っても聞いてくれないなら法律の助けを借りますか。 あたしは、現実問題として土地を占有しているわけだよね。 んで、あんたは、あたしの占有を妨害しているわけだよね。 というわけで、コレだお! 民法第199条。 『(占有保全の訴え) 第199条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。』 はい、邪魔するのは、やめてくださぁーい。 |
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ナレーター |
建物工事を妨害された建物所有者は、妨害予防を求めて、占有保持の訴え(民法199条)を提起しました。 | |
やめて欲しいのはチイのほうだよっ! それなら、チイは反訴として、所有権に基づく土地の明渡しを求めて訴えるよ! |
土地所有者 |
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建物所有者 |
プッ。情弱乙。 あんた、コレ知らないわけ? 民法第202条2項。 『(本権の訴えとの関係) 第202条 2項 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。』 あんたに所有権があるからって言って、あたしの占有権に対して、そんな抗弁は出来ないんだよ! |
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・・・でも・・・抗弁じゃないもん・・・反訴だもん・・・。 | 土地所有者 |
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はい、ソコまでねー。 | ||
論点自体は同じですが、事案については随分と、はしょられたんですね。 今の事案の流れですと、藤さんが、なんの関係もなくチイちゃんの土地に建物を建てようとされてみえるかのように見えてしまいました・・・。 |
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裁判所の認定した事実だと、本件のサルには土地の所有権はないからね。 それじゃ、本件の争点を言うわね。 本件の争点は。 202条との関係において、占有の訴えに対しての本権に基づく反訴が許されるのか? っていうことね。 |
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えーっと、大変申し訳ないのですが、正直、論点以前に、言っていることが、よくワカリマセン。 もう少し前提となる理解についての説明を御願いしたいと思う次第であります。 |
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あ、そうだったわね。 ちょっと、条文も見ずに、この話をしちゃおうとしていたわね。 ゴメンね。 えーっと、ナカちゃん、六法で民法202条を見てくれるかしら。 |
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民法第202条。 『(本権の訴えとの関係) 第202条 1項 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。 2項 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。』 |
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まず、202条1項ね。 占有訴権と、物権的請求権は、相容れるものではないわ。 だから、いずれの訴えを提起することも自由っていうことになるわけね。 次に、202条2項。 占有権とは、「占有」という事実状態を保護するものだったわよね。 極端な話、占有権は、泥棒にだってあるわけ。 だって、「占有」という事実状態は、泥棒にもあるわけでしょ。 でも、そうなると、泥棒が私の物を持っているのがワカッタとしたら、私は、その物についての所有権があるわけだから、「返しなさいよ!」って言って、無理矢理取り返したとするわよね。 そしたら、その泥棒が、占有訴権を提起したとした場合・・・。 私は「私には所有権があるんだから、泥棒がナニ言ってるのよ!」という抗弁は認められない、ということを202条2項は定めているわけ。 |
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はっ!? マヂで!? ナニそれ、泥棒があたしの物を持っているなら、あたしだって当然取り返してくるでしょうよっ!! ナニ、人の物を泥棒しといて、占有訴権とか言ってくれちゃってるわけ? |
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そうよね。 サルの言いたいことはよくワカルわ。 でも、法が占有権を権利として認めている以上、その占有を侵害することは、占有侵害となるわけなの。 そして、占有訴権が認められているのは、法が、自力救済を禁止していることに、その理由が求められるわ。 いくら自分の物だからと言って、相手から勝手に取り戻すような行為が横行することを法は認めていないわけ。 |
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なるほど、なるほどぉ。 (へぇ~。 ってことは、泥棒した者勝ちってこと? ) |
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まあまあ、それじゃ今の理解を前提に、最高裁の判断を見てみましょうか。 民法202条2項は『占有の訴において本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり、従って、占有の訴に対し防禦方法として本権の主張をなすことは許されないけれども、これに対し本権に基づく反訴を提起することは、右法条の禁ずるところではない。 そして、本件反訴請求を本権たる占有の訴における請求と対比すれば、牽連性がないとはいえない。 それゆえ、本件反訴を適法と認めてこれを審理認容した原審に所論の違法はない。』 と、しているわね。 |
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むむむっ!? つまり、どういうこと? |
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因みに、この事件の控訴審判決の主文は、次のものとなっているわ。 (※ 当事者の表示は、配役名に変更しています) 『チイちゃんは土地に対するサルの占有を妨害してはならない。 サルは、チイちゃんに対し土地の上にある建物を収去して右土地を明渡せ。』 ってね。 |
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あれ? ・・・あたしの言い分は通っているけれど、チイの言い分も通っている。 ・・・っていうか、コレ、結局、あたしとしては工事は妨害されないけれど、建物壊して、土地をチイに返さないといけないってことじゃないの? |
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藤先輩は一体ナニを期待されていたですか・・・。 | ||
占有権認めてもらっても、コレじゃあなぁ・・・。 | ||
でも逆に考えてみてよ。 さっきの泥棒に物を盗られた場合、泥棒の占有訴権には勝てないけれど、所有権に基づく返還請求権を行使しての反訴が許されるということは、結局は、泥棒から盗まれた物を取り返せるってことでしょ? あくまでも、202条2項は、自力救済を禁じる趣旨のものであって、泥棒を保護するために機能するものではないわけ。 |
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はいはい、そうですよね、ええ、ええ、そうでしょうとも。 (ったくぅ。一瞬でも、泥棒したら返さなくっていいかと勘違いさせてくれちゃって・・・。説明が悪いんじゃないの? ) |
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ふ・・・ふ・・藤先輩は、法律の前に、もっと大切なものを学んで欲しいです・・・。 |