最判昭和38年2月22日 | ||
例によって事案は少し簡略化するわね。 まぁ、争点は変わらないようにした上での簡略化だから、心配はいらないと思うけど。 それじゃ、判例検討の配役から。 相続の対象となった土地に関係して・・・ 相続人Aを、サル。 相続人Bを、チイちゃん。 相続人Aから土地を買い受けた人を、ナカちゃん。 私は、事案についてのナレーターを。 事案の流れではなく、法律問題についての説明を、つかさちゃんに御願いしたいって思うわ。 |
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光ちゃんっ! |
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ちょっと最近、判例検討の際に、つかさちゃんの出番が少ないなぁって気がしててね。 法律問題の説明は、やっぱり、つかさちゃんが適任よね。 |
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ありがとうございます! 期待を裏切らないよう頑張りますね! |
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勉強会の参加メンバーも増えて、ちょっと、つかさちゃんが割りを食っているなぁって感じてはいたのよね。ゴメンね。 それじゃ、始めましょうか。 |
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ナレーター |
2人の子供(サルとチイちゃん)の父親が死亡して、2人の子供が、父親の相続人となりました。 | |
法律説明 |
このような場合、現行法では2人の子供は、被相続人である父親の財産を2分の1ずつ相続することになります(民法900条4号)。 相続人が2人以上居る場合、例えば父親の所有していた土地を、仮に相続人の1人が単独で相続したかのようにして、登記手続をしたとしても、登記所では、単独の登記申請は受理されません。 2人以上の相続人がいる場合においては、その相続人間で協議をし、その協議の上で、いずれか1人の相続人が単独で相続するということが決まれば、例えば、土地であれば、それは、その相続人の単独所有ということとなります。 コレを遺産の分割といいます(民法906条以下)。 この場合、単独所有することが決まった相続人は、その土地について単独名義の登記をするには、相続人間で遺産分割においての合意があったことを示す遺産分割協議書が必要となります。 あるいは、他の相続人が相続を放棄(民法939条)した旨の書類の提出が、単独名義の登記には必要とされます。 |
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相続人A |
父ちゃんが死んで、父ちゃんの土地が相続財産となったわけか。 しかし、あたしとチイとで2分の1ずつってのは、美味しくないなぁ。 ・・・うーん、でも、あの土地を、あたしの単独名義にするには、遺産分割協議書か、チイの相続放棄の書類がいるのかぁ・・・。 |
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相続人A |
んっ!? ってことは、チイが相続放棄した旨の書類さえ用意しちゃえば、いいってことじゃないの? ヤバス! 天才降臨だお!! |
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相続人A |
ってなわけで、作ってしまいますた。 偽造書類!! コレで、チイは相続放棄ってことになるんやねぇ。 あらら。チビっ子カワイソス。 ハイハイ、とっとと、あたしの単独名義にしちゃおっと。 |
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ナレーター |
相続人Aは、相続人Bの合意を得ることなく無断で、Bの相続放棄の書類を偽造し、父親所有の土地について、A単独名義での登記をしてしまいました。 | |
相続人A |
ねぇねぇ。 あたしの土地を買わない? |
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買うです! 買うです! |
土地を買った人 |
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相続人A |
じゃあ、売ってあげるよ。 | |
登記も、ちゃんとお持ちです! それなら安心です! 私も土地を買うのですから、土地について移転登記も御願いするです! |
土地を買った人 |
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相続人A |
うんうん。 ちゃんと移転登記もするからね。 (土地の移転登記終了) |
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あれ・・・おかしいよ・・・。 チイは、お父さんの土地を、法定相続分として2分の1相続(土地の所有権を取得)したはずなのに、登記名義がないよ? オネーちゃん、知らない? |
相続人B |
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相続人A |
さてねぇ。 あ、そう言えば、チイにお客さん来てたよ? |
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誰だろ? | 相続人B |
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土地を買った人 |
土地を買った者です! 私には、土地の登記名義があるです! あの土地は、私の物です! |
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えぇーー。 チイは、相続放棄なんてしてないよ! ソレは、オネーちゃんが勝手に書類を偽造したんだよ! あの土地は、死んだお父さんが、チイに半分残してくれた土地なんだから、チイの物なんだよ! |
相続人B |
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土地を買った人 |
177条の対抗要件主義に照らせば、そんな主張は通らないです! あなたには、登記がないのですから、177条の定めから、登記がない以上、第三者である私には対抗できないです! |
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はい、ソコまでねー。 かつてのような生前相続のない現行法の下では、相続と登記の問題は、今回の事案のような共同相続をめぐって生ずることが多いのよね。 事案が、少し複雑だから簡略化しちゃったけれど、争点は同じね。 |
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いやぁ、チビっ子が法律を盾にして、言いたい放題だねぇ。 まさか、あたしの可愛い妹の土地を、奪いに来るなんて非道そのものだよね。 |
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違うよ! そもそも、オネーちゃんが、私の合意もないのに相続放棄の書類を偽造したのが一番悪いんだよ! むしろ、ナカちゃんは、騒動に巻き込まれた被害者だよ!! |
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成程ねぇ。 そういう見方もあるわけか・・・。 |
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そういう見方もある・・・ではなく、その見方しか普通は、しないです! | ||
まぁまぁ。サルが、おかしいのは今に始まったことじゃないし。 それじゃ、本件の争点ね。 今回の事案のように、共同相続した不動産について、共同相続人の1人が、無断で単独の所有権移転登記をし、第三者に、その不動産を譲渡し、所有権移転登記までしてしまった場合において、他の共同相続人は、第三者に対し、登記なくして、自己の(持分についての)所有権を主張(対抗)できるか? ってことが争点になるわけよね。 |
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どうだろうなぁ。 177条は対抗要件としての登記が必要って言ってるわけだしねぇ。 このチビっ子1号、2号の戦いは、チビっ子1号が有利なんじゃない? |
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誰が1号で、誰が2号なんですか! また、そんな変なアダナをつけて、許さないです!! |
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ん? 知りたいの? ナカたんが1号で、チイが2号だお。 合体すれば、おっきくなれるんじゃね? |
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合体して、悪の総本山の藤ゾルダーを倒したいですっ!! | ||
あ、サルを倒すのなら私も協力するからね! まぁ、それはさておき。 この事案において、最高裁は次のように述べているわ。 『相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。 けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである。 そして、この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない。 けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また甲は自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。』 とね。 |
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からのぉ~。 | ||
ナニを期待しているのか知らないけれど、続きはないわよ? 最高裁は、この事案においては登記不要説の立場を示しているのよね。 相続では、財産の清算や遺族の生活保障の必要についても配慮すべきであることや、現実問題として共同相続登記が行われることは少ないという事情から、判例は、対抗問題としては捉えないのよね。 |
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ここでは『無権利の法理』(『何人も自己のもつ以上の権利を他人に. 移転することはできない。』)という法原則が働いているとされていますね。 事案の藤さんの単独相続による所有権移転登記は、本来必要な、他の相続人の合意が偽造書類であった以上『無権利の登記』ということになりますよね。 そして、登記には公信力(権利の存在を推測できるような外形がある場合には、真実の権利が存在しないときにも、その外形を信頼して取引をした者に対し、真実の権利が存在したのと同様の効果を認める効力)がないわけですから、藤さんの元にある登記を信じた竹中さんの信頼は、保護されない、ということになります。 ということは、竹中さんが藤さんから取得した移転登記は、この『無権利の登記』ということになるわけです。 ただ、無権利の登記とは言っても、単独所有である旨の登記のうち、少なくとも藤さんの持分である2分の1部分については『実体関係に符号』しているわけですから、その限りにおいては、竹中さんが権利取得しているといえます。 したがって、チイちゃんが、177条の対抗問題とならず、登記なくして第三者である竹中さんに主張できるのは、チイちゃんの持分部分である土地の2分の1についてのみ、ということになるわけです。 |
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あらら・・・。 勝てると思ったチビっ子1号は勝てないわけか・・・。 |
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違うです、違うです! 私は、この事案においては外観法理が妥当する場面であることから、民法94条2項類推適用によって保護される可能性が残っているです! ですよね! 明智先輩っ!! |
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そうね。 ナカちゃんからしてみれば、不実の登記を信頼した結果、こんなことになってしまったわけなんだから、その考え方はあっていいと思うわ。 学説においても、本判決の立場は支持されているものだけれど、その上で、今のナカちゃんのような考え方で、第三者を保護しようという意見はあるからね。 |
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民法総則で、94条2項類推適用を学んだことが活きたです! | ||
オネーちゃんが悪いんだよぉ~。 チイと半分こする土地なのに、どうして、勝手に偽造書類なんて作っちゃったの? |
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事案の、あたしね! オネーちゃんは、そんなことやってないから。 まぁ、先の話はワカラナイから、絶対しないなんて約束はできないけどさ。 |
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おぉぉぉぉっい!! その程度の約束はできるでしょうよ!? あんた、ナニ、スルーできないようなことサラっと言ってくれてんのよ! |
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ウキッ! |