最判昭和46年1月26日
例によって事案は少し簡略化するわね。
特に、この事案なんて、相続人だけで11人も居るという事案だから、簡略化しないと事案再現もナニも無理だからね。
大丈夫よ。争点は変わらないようにした上での簡略化だからね。
それじゃ、判例検討の配役から。

相続の対象となった不動産に関係して・・・
相続人A
を、サル

相続人Bを、チイちゃん
相続人Bにお金を貸していた債権者を、ナカちゃん
私は、事案についてのナレーターを。
事案の流れではなく、法律問題についての説明を、ここでもつかさちゃんに御願いするわね。
相続についてのべんきょうは、まだしていませんからね。
ワカリました! 説明についてはお任せ下さい!
つかさちゃん、頼もしいっ!
それじゃ、始めまるわね。  

ナレーター
2人の子供(サルとチイちゃん)の父親が死亡して、2人の子供が、父親の相続人となりました。

法律説明
このような場合、現行法では2人の子供は、被相続人である父親の財産を2分の1ずつ相続することになります(民法900条4号)。
相続人が2人以上居る場合、例えば父親の所有していた土地を、仮に相続人の1人が単独で相続したかのようにして、登記手続をしたとしても、登記所では、単独の登記申請は受理されません

2人以上の相続人がいる場合においては、その相続人間で協議をし、その協議の上で、いずれか1人の相続人が単独で相続するということが決まれば、例えば、土地であれば、それは、その相続人の単独所有ということとなります。
コレを遺産の分割といいます(民法906条以下)。

この場合、単独所有することが決まった相続人は、その土地について単独名義の登記をするには、相続人間で遺産分割においての合意があったことを示す遺産分割協議書が必要となります。
あるいは他の相続人が相続を放棄民法939条した旨の書類の提出が、単独名義の登記には必要とされます。

相続人A
気のせいかな・・・。
なんか同じ説明なような気がするけど・・・。

まぁ、いっか。
それは、ともかくだお。
姉のあたしが、父ちゃんの不動産は、全部貰い受けて当然だお
妹のチイの取り分なんて、あるわきゃねぇーんだお!
文句抜かそうもんなら、伝家の宝刀木下頭突きをお見舞いしてやればいいんだお!

よーし、そうと決まれば、遺産分割協議を、とっとと済ませて、遺産分割協議書を登記所に持っていって、単独所有にしちゃうお!

ナレーター
相続人Aは、遺産分割協議の結果、死亡した被相続人である父の不動産を、全て単独所有することが決まりました。
しかし、その旨の登記については、まだしていないままでした。

相続人B
困ったなぁ・・・。
実は、チイは、ナカちゃんに借金があるんだよなぁ。
でも、オネーちゃんには相談しにくいしなぁ。 
頼みにしていた、お父さんの相続も、全部オネーちゃんが持っていっちゃったしなぁ。ホント困ったなぁ。
聞いたです!
チイちゃんのお父さんがお亡くなりになったみたいです!
ということは、チイちゃんには法定相続分として、お父さんの不動産について2分の1が相続されているはずです!
全然貸したお金を返してくれないし、私は、チイちゃんの相続した不動産を差押えて、強制執行するです!

Bの債権者

法律説明
裁判所は強制執行開始を決定すると、裁判所の嘱託によって、差押えの登記がなされることとなります(民事執行法48条)。

本件の場合では、本来であれば、亡くなった被相続人である父親から、相続人である藤さんとチイちゃんへの相続登記がなされていないので、まず裁判所の嘱託によって、藤さんとチイちゃんとが、各2分の1ずつを所有する旨の共有の登記がなされ、ついで、そのうちのチイちゃんの持分について、竹中さんのための差押えの登記がなされるはずでした。

しかし、竹中さんの強制執行の申立ては、藤さんの遺産分割協議による単独登記の前になされてしまったのです。

相続人A
ほえ?
なんか用かお?
 
別に、あなたには用はないです!
私は、あなたの妹さんの債権者ですが、妹さんがお金を返して下さらないので、この度、妹さんの相続分について差押えをしただけです!
コレを見て下さいです!
裁判所による差押えの登記です!

Bの債権者

相続人A
あぁ、それじゃ空振りだね。
だって、チイの取り分なんて無いもん!
父ちゃんの不動産は、全部、姉のあたしが単独所有することになったから、チイの相続分なんて差押えようがないからね。
ちょっと待つです!
あなたが単独所有したなんて、そんな登記はされてないです!
登記もないのに、差押えの登記を持っている第三者である私に、あなたは不動産の所有権を主張できると思っているですか? です! 

Bの債権者

相続人B
うわぁ。困ったなぁ。
まさか、差押えしてくるなんて、チイ、オネーちゃんに後から、どんな目に遭わされるかワカラないよ・・・。 
   





 
お疲れ様ぁ。
相続は、まだ勉強していないから、ちょっとワカラナイところあるかもね。
つかさちゃんの説明が重複しているのは、多分、その気遣いからだと思うわ。
ただ、随分と丁寧な法律説明までしてくれているなぁ、って思ったわ。
民事執行手続きについてまで言及してくれていたから、ちょっと驚いちゃった。正直、私あまり得意じゃないから、へぇーって思いで聴かせて貰っていたんだけどね。
学部の頃に、民事執行法を履修していたんですよね。
思い出しながら、説明させて頂きました。
御役に立てたみたいで嬉しいです。
つかさおねーちゃん、色々な法律を知っているんだ!
スゴい、スゴぉーいっ! 
チイも、もっと色々な法律を勉強したいよ!
うわぁ。
あたし、今やっている法律科目だけで食傷気味だってのに。
この小動物ときたら、この上、まだやりたいってか。
オネーちゃんだって、法学部じゃないけれど、大学では色々な勉強をしてきたんでしょ?
チイは飛び級のせいで、ちょっと勉強が足りないって思うんだよね。
だから、まだまだガンバらないと置いてかれちゃうよ、きっと。
そんな心配はいらないから。
チイは、あたしが進級できるかを心配してなよ!
あうあうあうあうあう。
チイちゃんのやる気を半分でいいから藤先輩に分けて上げて欲しいです!
ホント、そうよねぇ。
あ、それじゃ、本件の争点ね。

ナカちゃんが事案再現の中で既に言及してくれているんだけれど、本件のサルは、遺産分割協議の合意によって、本来の法定相続分である2分の1より多くの持分を得ているわけよね。
このような場合において、相続財産の不動産について、法定相続分の持分を超える持分を取得した相続人が、遺産分割後に、その不動産についての権利を取得した第三者に対して、登記なくして対抗することができるか
というのが本件の争点になるわ。
えへへへへ。
コレ、あたしが勝てるんじゃない?
ソレはどうかしらね。
この事案において、最高裁は次のように述べているわ。

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものであるから、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法177条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないものと解するのが相当である。

 論旨は、遺産分割の効力も相続放棄の効力と同様に解すべきであるという。

 しかし、
民法909条但書の規定によれば、遺産分割は第三者の権利を害することができないものとされ、その限度で分割の遡及効は制限されているのであつて、その点において、絶対的に遡及効を生ずる相続放棄とは、同一に論じえないものというべきである。

 遺産分割についての右規定の趣旨は、相続開始後遺産分割前に相続財産に対し第三者が利害関係を有するにいたることが少なくなく、分割により右第三者の地位を覆えすことは法律関係の安定を害するため、これを保護するよう要請されるというところにあるものと解され、他方、相続放棄については、これが相続開始後短期間にのみ可能であり、かつ、相続財産に対する処分行為があれば放棄は許されなくなるため、右のような第三者の出現を顧慮する余地は比較的乏しいものと考えられるのであつて、両者の効力に差別を設けることにも合理的理由が認められるのである。

 そして、さらに、遺産分割後においても、分割前の状態における共同相続の外観を信頼して、相続人の持分につき第三者が権利を取得することは、相続放棄の場合に比して、多く予想されるところであつて、このような第三者をも保護すべき要請は、分割前に利害関係を有するにいたつた第三者を保護すべき前示の要請と同様に認められるのであり、したがつて、分割後の第三者に対する関係においては、分割により新たな物権変動を生じたものと同視して、分割につき対抗要件を必要とするものと解する理由があるといわなくてはならない。

 なお、
民法909条但書にいう第三者は、相続開始後遺産分割前に生じた第三者を指し、遺産分割後に生じた第三者については同法177条が適用されるべきことは、右に説示したとおりであ』る。

とね。
ん? 
不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法177条の適用
があるってことで、
分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができない
ってことは、あたしは分割協議によって、本来の法定相続分とは異なる持分を得ることになったけれど、その旨の登記がないわけだから、チビっ子の差押えに対して、ソレは、あたしの土地なんだからヤメテよ! って言えないってことになるわけ?
本判決の考えだと、そういうことよね。
事案再現でも、法律解説でしたので、少し補足しますと
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものである
と冒頭で述べている部分ですが。

遺産分割の効力を定めた民法909条ですが、
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じる。
 ただし、第三者の権利を害することはできない。

としています。

この条文から、遺産分割がなされると、遡及効が生じることになることはお解かりかと思いますが、909条但書きは、その効力は、第三者の権利侵害のない範囲で認められるものであると定めています。

そうである以上、相続人である藤さんが法定相続分とは異なる持分を遺産分割協議によって取得したことは、第三者との関係では、新たな物権変動実質上異ならないものである』と評価した上で、そして、909条但書きから、遺産分割の効力たる遡及効は、第三者の権利侵害のない範囲でしか認められないわけなんですから『その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができない』としているわけなんです。

判例が、このような考え方をとる理由ですが、
遺産分割についての右規定の趣旨は、相続開始後遺産分割前に相続財産に対し第三者が利害関係を有するにいたることが少なくなく、分割により右第三者の地位を覆えすことは法律関係の安定を害するため、これを保護するよう要請される
と述べている部分ですね。

つまり、遺産分割によって第三者の地位を覆すことは、法律関係の安定を害することになるため、第三者保護の要請が働くからです。
じゃあナニ?
まぁた、チビっ子1号の勝ちってことになるわけ?
いつも、そうやって私に変なアダナばかりつけているからです!
私は、この判例を知っていましたけど、藤先輩が悔しがるのが見たいから黙っていたです!
うわっ! 黒いっ!! ドス黒いよ、このチビっ子っ!!
黒くなんかないです!
私も、どうせ勝たせるのならナカちゃんよね・・・って思って、この配役にしたんだけど・・・この結論を知らずに、勝つと思っていた・・・ということは、サルは案の定、今日の予習をしてこなかったわけね。
せっかく判例検討を、今回にまわしたのに、私の配慮は効果なしだったみたいね。
あっ! 明智先輩。
そう言えば、ちょっと質問があるんですが、いいですか?

この判決文では
遺産分割についての右規定の趣旨は、相続開始後遺産分割前に相続財産に対し第三者が利害関係を有するにいたることが少なくなく、分割により右第三者の地位を覆えすことは法律関係の安定を害するため、これを保護するよう要請されるというところにあるものと解され、他方、相続放棄については、これが相続開始後短期間にのみ可能であり、かつ、相続財産に対する処分行為があれば放棄は許されなくなるため、右のような第三者の出現を顧慮する余地は比較的乏しいものと考えられるのであつて、両者の効力に差別を設けることにも合理的理由が認められる
としていますよね。

コレは、つまり、遺産分割と相続放棄とでは、扱いが違うってことを言っていると思うんですが、具体的にはどう違うんですか?
いい質問ね。

まだ勉強していないけれど、相続には相続放棄って制度があるわ。

民法939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
というみなし規定を置いているの。

但し、相続遺産分割と、相続放棄とでは、決定的に異なるところがあるの。
ソレはナニかって言うと、期間制限の有無なのよね。

民法915条1項本文
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければいけない。
と定めているわ。

つまり、相続放棄には3ヶ月という期間制限があるのに対して、遺産分割には、この期間制限がないの。
さらに、両者の違いを付け加えるのなら、放棄の有無については家庭裁判所で調査できるけれど(民法938条)、遺産分割については、家庭裁判所が関与しないのよね。

そうなると、一定期間の期間制限もなく、家庭裁判所が関与しないことから調査もできない遺産分割については、相続放棄の場合と比べて、第三者保護の必要性が、より高いということになるのはワカルかしら。

この第三者保護の必要性の違いから、判例は、相続放棄の場合と、遺産分割の場合とでは取扱いを違うものとしているのよね。

例えば、共同相続した2人の相続人のうち、1人が相続放棄をしたのに、もう1人の相続人が登記をしないでいるうちに、相続放棄をした相続人が、自己の持分を第三者に売却してしまったという事案において、判例は、もう1人の相続人は自己の持分について登記なくして第三者に対抗できる、としているわ。
最判昭和42年1月20日
成程です!
メモメモです!
チイもメモメモだよ!
サルは、メモとらなくても大丈夫なの?
ん?
ああ。あたしは、後からチイのメモ、コピーするから大丈夫だお。
メモとることも勉強って気持ちはないわけ? 
今は、判例の考えを、自分の頭の中で熟考しているところなんだお。
余計なこと言われると集中できないお。
黙っていてくれないかお!
ソレはソレは。
大変失礼致しました! 
(このサルはぁ~っ!!)
  ウキッ! 

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